第9話 爆乳さんプールへ行く

「……ダメ?」

「いや、そんなことはないけど……」


 爆乳さんと一緒にプール。

 プールということは、俺たちは水着に着替えるわけだ。

 

 それは、つまり――。

 

 俺は爆乳さんの、水着姿を見ることになるんじゃないか!?


「良かった。じゃあ詳しいことは、また今夜連絡するね」

「えっ? あ、ああ……」


 こうして今日のオフ会は終了した。

 帰宅後はゲームにログインし、爆乳さんから連絡を貰った。

 

 プールへ行くのは、早くも明後日となった。





 そして明後日は、あっという間に訪れた。

 天気はプール日和の快晴で、空の青色は澄み渡っている。

 

「………………ふぅ」

 

 正直に言おう。俺はこの2日間、ずっとドキドキとしっぱなしだった。

 

 女の子と二人でプールへ行くから? それはもちろんある。

 だがそれ以上に、爆乳さんと一緒にプールへ来てしまっていいのかという、心配や不安も強かった。

 

 もし何か、事件や事故に巻き込まれるようなことがあったら。

 爆乳さんの保護者に、どう説明すればいいのやら。


 俺は今日、無事に一日を終えることができるのか。それが気がかりで、昨日の夜も中々眠ることができなかったのだ。

 

 

 そしてもちろん、今もドキドキしまくっている。

 

 

 俺は今、管理棟の前で爆乳さんが来るのを待っているのだ。

 女子は水着に着替えるのにも時間がかかるのか、かれこれ10分近くは待っているような気がする。

 

 もう来るなら、早く来てくれ……!

 これ以上待つのは、俺の心臓がヤバい。とにかくヤバい。

 

 ……いや待てよ。

 爆乳さんが来てしまったら、よけい心臓が――

 

「お待たせ。……ごめんね、時間がかかっちゃって」

「――――――」


 心臓が止まるかと思った。

 目の前には爆乳さん。爆乳さんは水色のビキニを着ていた。

 

 艷やかな黒髪と、水色のビキニによって引き立てられる、爆乳さんの綺麗な柔肌。

 小柄で華奢な体つきだけど、女の子であることを強く意識させられる、丸みを帯びたボディライン。

 

 普段とは異なる露出の多さに、俺は思わず目を背けてしまう。

 

「……漆黒さん?」

「はい」

「どうして目を背けるの?」

「いや、つい……」

「こっち、見て?」

「………………」


 このままでは挙動不審すぎて、周囲から注目を浴びてしまう。

 俺は意を決し、爆乳さんの方を見た。

 

「変じゃ、ないかな……?」

「……うん。とても似合ってるよ」


 そう言うのが、精一杯だった。

 顔が熱くて、頭もうまく働かない。

 

 とてもじゃないが、直視し続けるのは無理だった。

 俺は気を紛らすように、爆乳さんに向けて言った。

 

「さ、さあ! さっそくプールへ行こう!」

「……? ここがプールだよ」


 言葉足らずな俺も悪いが、爆乳さんも天然だった。




 

 俺たちはまず、全長50メートルのプールへと向かった。

 

 そこにはビーチボールで遊んでいる客もいれば、どちらが速く泳げるか競っている客、ただ水を掛け合って遊ぶ客なんかもいた。

 

 さっそく水に入る。

 ひんやりとした心地よい冷たさが、熱くなっていた体を冷ましてくれる。

 

 おかげで少し、落ち着きを取り戻せたような気がする。

 

「何して遊ぼうか、爆乳さん」

「泳ぐ練習がしたい」

「泳ぐ練習? 爆乳さん、泳げないんだね」

「うん。漆黒さんは?」

「得意ではないけど、一応泳げるかな」

「泳げるだけでも凄い……」


 しかし、泳ぐ練習か。

 小学校低学年の頃なんかは、たしか……。

 

「じゃあ、バタ足でもやってみる?」

「バタ足?」


 泳ぎの練習の基本といえば、バタ足だったはず。

 普通はビート板なんかを使ってやるが、俺のすることが無くなってしまうので、今回は無しでやることにしよう。


「俺が爆乳さんの両手を掴んで引いていくから、爆乳さんはバタ足をしてみようか。それで下半身が浮くという感覚を身につけよう」

「うん、わかった」


 自分で提案をしておきながら、直前になって今更気づく。

 爆乳さんの体に触れるの、これがもしかして初めてなんじゃ……。

 

「……漆黒さん?」

「え? ああ、何でもないよ」


 少しためらいながらも、俺は爆乳さんの両手を握る。

 

「……っ!!」

 

 手に触れた瞬間、俺はその滑らかな感触に大きな衝撃を受けた。

 

 これが本当に、俺と同じ人間の肌なのか……!?

 すべすべとしていて触ると気持ちいいというか、何というか、その、とにかくヤバい。癖になりそうだった。


「これで私は、どうすればいいかな?」

「とっ、とりあえず、うつ伏せの姿勢で身体の力を抜いてみようか。その後はバタ足をしてほしいんだけど、膝や足首に力が入らないように気をつけてね」


 バタ足の練習を始める。

 最初はその場から進まずに、爆乳さんがひたすらバタ足をするだけの練習をして、水中での動きに慣れてもらった。

 

「身体の動かし方がだいぶ良くなってきたね」

「じゃあ、次のステップに進める?」

「そうだね。次はゆっくりと手を引いていくから、その状態で今のようにバタ足をしてみようか」

「うん。絶対に、途中で手を離さないでね」


 それからは、実際にバタ足で前に進めるよう、俺が手を引きながら練習を続けたわけだが。

 

「手、離したらダメだからね」

「え? ああ……」

「本当にダメだからね」

「もちろん離さないよ」


 数分おきに、爆乳さんは手を離さないでねと言ってきた。

 よほど手を離されるのが怖いのだろう。

 

「絶対に、絶対に、手を離したらダメだからね」

「わかってるよ」

「絶対に、絶対に、絶対にだよ?」

「うん」

「絶対に、絶対に、ぜ――」

「振りかな?」


 それから俺は手を離した。

 後で爆乳さんにメチャクチャ怒られた。

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