第7話 メテオストーリー

 俺は今日あったことを簡単に説明する。

 説明を聞き終えた詩織は、開口一番こう言った。

 

「お兄ちゃん。馬鹿なの?」


 まさか妹に馬鹿呼ばわりされるとは。

 でもまあ、少しは仕方ない部分もあるかな。

 

「馬鹿みたいな方法だけど、神ちんちんによって爆乳さんが本物であることはわかったんだ」

「神ちんちん言うな」


 詩織は呆れた表情を浮かべてため息をつく。

 それから言った。

 

「何か心配になってきたから言うけど、犯罪だけはやめてよね」

「犯罪って……」

「その子は未成年の女の子なんでしょ?」


 未成年どころか、中学生くらいな可能性だってある。

 

「たぶんそうだけど、昼間に少し会うだけだよ。爆乳さんがトラブルに巻き込まれるようなことはさせないって」

「昼間に少し会うだけねぇ……」


 詩織は意味有りげに呟いた後、言葉を続ける。


「今後も交流を続けていくなら、ちゃんと爆乳さんの素性を知っておいた方がいいと思うけどなー。知らない間にトラブルに巻き込まれるのは、お兄ちゃんの方かもしれないよ?」


 爆乳さんの素性か……。

 

 詩織の言ってることは概ね正しい。

 もし爆乳さんが俺の予想通り不登校の女学生だったら。

 

 爆乳さんの保護者はきっと知らないだろう。

 ……爆乳さんが、俺みたいな男と会っていることを。

 

 だからここは、俺がちゃんと爆乳さんに問いただして、オフ会なんて止めさせるのが社会的に正しい行いなのかもしれない。

 

 でも――。

 

「心配してくれてありがとな、詩織。俺にもちゃんと考えがある。だからきっと、大丈夫だ」

「別にお兄ちゃんの心配はしてないし……」


 俺は俺の方法で、爆乳さんと向き合いたい。

 俺にはまだ、知らなきゃいけないことがたくさんある。

 



 

 夕食後。自室に戻った俺は、パソコンの電源を入れた。

 もちろん、オンラインゲームにログインするためである。

 

 

 今更ながら説明しよう。

 俺や爆乳さんたちがやっているゲームは、かれこれ10年以上もサービスが続いているPC専用の大人気MMORPGだ。

 

 

 そのゲームタイトルは、『メテオストーリー』。

 略称はメテストだったり、隕石だったり、人によって違う。

 

 

 西洋ファンタジーの世界観で、ある日隕石が落ちてきたことをきっかけに、世界中の生物が魔物化して人々を襲い始める。

 

 プレイヤーは魔物を退治し、魔物を生み出した元凶を倒すことを目的に旅をしていくというのが、大まかなストーリーだ。

 

 

 ……まあ、その元凶、まだ実装されていないんだけど。

 

 

 ともかく、プレイヤーたちは世界中の様々なダンジョンを探索し、モンスターを狩りして素材や金、経験値を得て、強くなっていく。

 

 そして定期的に実装される高難易度ダンジョンのボスモンスターを倒すことが、このゲームの代表的な楽しみ方と言えるだろう。

 

 

 何よりこのゲームの特徴的なシステムは、サブクラスシステムだ。

 

 プレイヤーは多彩なスキルを持つ最大20種類の職業から、1つの職業を選ぶことが可能。

 

 レベルが50になると、サブクラスとして更にもう1つの職業を選ぶことが可能になり、様々な職業の組み合わせで戦略の幅を広げることができるのだ。

 

 

 俺はメテオストーリーをもう4年以上も続けている。

 高校1年の夏休みに始めてからずっとだ。

 

 流石に大学受験前の3ヶ月間は仮引退していたけど、そのような例外を除けばほぼ毎日のようにログインしている。

 

 

 腹毛はらげさんとぴらふたんさんとの出会いは、ゲームを始めて1週間が過ぎた頃だった。

 

 

 ゲーム内でも人見知りを発揮した俺は、仲間を作れずに最初の1週間を過ごしていた。

 

 そんな中、匿名掲示板でメテストのギルドメンバーを募集しているスレッドを発見したのだ。


 そのギルドこそが、腹毛さんの設立したギルドだ。

 腹毛さんたちは快く俺を受け入れてくれて、俺は腹毛さんたちと楽しいネトゲライフを送れるようになった。

 

 腹毛さんとぴらふたんさんとの付き合いはそれからだ。

 

 他にもギルドメンバーは何人かいたが、この4年間で辞めてしまった人がほとんどだ。

 

 現在俺以外でまともに活動しているギルドメンバーは、腹毛さんとぴらふたんさん、そして爆乳さんの4人だけだったりする。

 

  

 爆乳ばくにゅう爆尻ばくじり

 約3ヶ月前、俺たちのギルドに加入した期待の新人。

 驚異的な速度でレベルを上げ、もう俺たちと一緒にボス巡りできるまで強くなった。

 

 その爆乳さんが、あんな女の子だったなんて……。



「……うん、今でも信じられないな」


 俺はゲームをしながらボソリと独り言を言う。

 俺は今、ゲーム内で腹毛さんたちと共にボス巡りをしていた。

 

 そのメンバーの中には、もちろん爆乳さんもいる。

 

 爆乳さんはリアルとは違い、その、何というか、いかにもネットの住人的な口調でチャットをしているのだ。

 

 俺はリアルとのギャップに、頭がクラクラしそうだった。

 

「ん……?」


 ボス巡りを終え、軽く雑談をしている時だった。

 俺に向けて、爆乳さんから内緒話が飛んできたのだ。


 

爆乳☆爆尻>>今日はありがとう。明後日もよろしくね

爆乳☆爆尻>>今から明後日の場所と日時について書くから、忘れないようにメモしておいてね


 

「今日はありがとう、か……」


 未だ信じ難いけど、爆乳さんは本当にあの子なんだ。

 そしてまた、俺はあの子に会いに行く。

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