第5話 神ちんちん

「えっ? …………えっ?」


 爆乳さんは顔を真っ赤にし、可哀想になるくらい動揺していた。

 周りに聞かれていないか気になったのか、あたふたと周囲を見渡している。


「クリスタルチンコじゃわからないかな?」

「あっ、あの……!」

「なら神チンコでもいいんだけど……」

「ちょっ、ちょっと待って!」


 爆乳さんの言う通り、俺は待つことにする。

 

 だいたい十秒ほど待っただろうか。

 この間に爆乳さんは深呼吸をし、落ち着きを取り戻していた。


「……し、漆黒さん!」

「はい」

「そういうの、良くないと思う」

「そういうのとは?」

「そっ、その、チ……とか、言うの」

「ごめん……」


 ……何だかとても、悪いことをしてしまったような気がする。

 

 だが言い訳させてもらいたい。

 これは別に、爆乳さんを困らせたかったわけじゃない。

 

 目の前の少女が俺の知る爆乳さんなら、俺の質問に答えられたはずだからだ。

 

 でもこれで、はっきりした。

 目の前の少女は爆乳さんじゃない。

 本物の爆乳さんが、クリスタルチンコに動揺するわけがない。

 

 つまり目の前の少女は、偽――

 

「……お、覚えてるよ」

「え?」

「クリスタル……コのこと、覚えてるよ」


 覚えてる?

 クリスタルチンコのことを覚えているだと?

 

「爆乳さん。本当に覚えているの?」

「う、うん……」

「じゃあ、簡単に説明してもらっていいかな」

「説明? な、なんで説明する必要があるの……!?」


 少しだけ迷ったが、俺は本当のことを伝えようと思った。

 

「爆乳さんが本当に俺の知る爆乳さんなのか、確認がしたいんだ」

「そ、そういうことなら……」


 爆乳さんが説明し始める。

 

「たしか、ぴらふたんさんが教えてくれたんだったと思う」

「何を教えてくれたんだっけ?」

「禁止ワードを書き込む裏技」


 みなさん知っての通り、オンラインゲームやソーシャルゲームには禁止ワードが存在する。

 

 それは例えば、下品な言葉や誹謗中傷に使われるような言葉だ。

 

 おかげでパチンコもガチンコも書き込めないわけだが、あまり困るような場面はないからまあいいだろう。

 

 ともかく、俺たちや爆乳さんがプレイしてるゲームにも、例によって禁止ワードが設定されている。

 

 そして禁止ワードに設定されている言葉は、ゲーム内で使うことができない。それが絶対のルールのはずだった。

 

 だがぴらふたんさんが教えてくれた裏技は、その絶対のルールを打ち破ることが可能だった。

 

「その裏技とは?」

「禁止ワードの前にクリスタルや神を付けること」


 そうだ。それが裏技だ。

 神の力やクリスタルの力によって、どんなお下劣な言葉も書き込むことが可能になるのだ。

 

 どうしてこんなことが可能なのか、本当の理由は未だに知らない。

 

 運営も流石に認知しているだろうから、近いうちに対策されるのは間違いないだろう。

 

「……どう? これで私が爆乳さんだって、信じてくれた?」

「いや、まだ足りないかな」

「え……?」


 この裏技自体はそこそこ有名な裏技だ。

 本物の爆乳さんじゃなくても、知ることは可能だろう。

 

 だから俺が訊きたいのは、更に踏み込んだ質問だった。

 

「この裏技を知った時、俺や爆乳さん、腹毛はらげさんやぴらふさんは、実際に裏技を使って色んなことを書き込んだよね」

「う、うん……」

「爆乳さんはなんて書き込んでいたか、覚えてる?」


 俺は覚えてる。はっきりと覚えている。

 

「え、えっと……」

「えっと?」

「う…………」


 爆乳さんは目を伏せて口ごもり、答えようとしない。

 かと思いきや、爆乳さんは再び顔を上げ、俺の目を見据えた。

 

 ……爆乳さんと俺の目が合う。

 

 俺は一瞬息が止まりそうになるが、何とか平静を装って、爆乳さんが言葉を発するのを待った。

 

 そして、ついに。

 

「か……」

「か?」

「神……」

「神?」

「ち、ちんちん……!」


 神ちんちん。

 そうだ、爆乳さんは神ちんちんと書き込んでいた。

 

 ……なんてことだ。

 目の前の少女は、本当に本物の爆乳さんなんじゃないか。

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