第4話 爆乳さんバーガー屋へ行く
「……もしかして、これを飲んだせい!?」
「いや……」
「私はなんて恐ろしい飲み物を! これはヒーラーじゃなくて、デストロイヤーに改名します」
こんなフザけた妹とネーミングが被るのも嫌だが、頭の心配をされるのも勘弁願いたい。
「待ってくれ。わりと真面目な話なんだ。実は……」
俺は今日あったことを詩織に話した。
詩織は話を聞き終えて、開口一番こう言った。
「それ、本当にお兄ちゃんの知る爆乳さんなの?」
「えっ?」
無理もないが、爆乳さんの中身が女の子だってことを、詩織も信じられずにいるようだ。
「……俺だって信じられないけど、信じるしか――」
「ほら、普段ゲームをプレイしてる人とは別人だって可能性は?」
「あっ……」
俺は詩織の言いたいことを理解した。
「爆乳さん中の人複数説か……!」
「うんうん、そういうこと。ありえない話ではないでしょ?」
爆乳さんにも俺のように妹がいたとして。
その妹が爆乳さんのアカウントでゲームにログインし、俺をオフ会に誘った可能性だって、ありえない話ではない。
何せ、ゲーム内じゃ声も顔もわからないんだ。
成りすましに気づけないのも無理はない。
「となると、今日会った爆乳さんが俺の知っている爆乳さんと同一人物なのか、確認する必要があるな」
仮に別人だったとしたら、どういう意図があってのものか。
そこもはっきりしておきたい。
「それなら、ゲーム内で今日のことを訊けばすぐわかりそうだね」
「いや、ゲーム内はダメだ」
「えっ? どうしてダメなの?」
詩織の疑問に俺は即答する。
「爆乳さん中の人複数説が本当だったとして、今日会った子と俺の知る爆乳さんが協力体制にあったらどうだ?」
「……そっか、ゲーム内だとどうにでも誤魔化せるもんね」
モニターの前にいるのが一人だとは限らない。
二人で一緒にゲームをプレイしている可能性だってあるわけだ。
「だから確認するのは、次にオフ会する時だ」
「もう次のオフ会する予定立ててあるんだ」
「ああ。行く場所ももう決まってる」
「ふーん。で、どこ行くの?」
「世界中にある超有名な店だよ」
◆
それから3日後。
殺人級の日差しが容赦なく降り注ぐ、午後2時を過ぎた頃。
俺は爆乳さんと一緒に都内のハンバーガー屋に来ていた。
ハンバーガー屋といっても、ファーストフードチェーン店だが。
「これが、ハンバーガー……!」
ハンバーガーを両手に持ち、爆乳さんは初めてハンバーガーを見たかのようなリアクションを取る。
「爆乳さん。もしかして、ハンバーガー食べるの初めてなの?」
「ううん、そんなことはないよ。ただ……」
「ただ?」
「初めてのファーストフードに感動するお嬢様ごっこをしたかっただけ」
なんてマニアックな遊びなんだろう。
「こういう店に来るといつもそんな遊びを?」
「こんな恥ずかしい遊び、いつもはしないよ」
そう言う爆乳さんは少しだけ頬を赤らめていた。
なんだ、恥ずかしかったんかい。
「そもそも」
「そもそも?」
「こういうお店に友達と一緒に行くこと自体、もしかすると初めてかも」
「そうなんだ……」
それはまた、珍しい。
友達と行く機会なんて、いくらでもありそうなのに。
「あれ、爆乳さん」
「……?」
俺はフライドポテトを食べ終えて、ふと気づく。
爆乳さんはまだ、フライドポテトを1つも食べていなかったのだ。
「爆乳さんはハンバーガーを先に食べる派なんだね」
「うん。一番お腹が減ってる状態で、ハンバーガーを食べたいから。ポテトは後でちゃんと食べるよ」
「そっか。てっきりポテトが苦手なのかと思ったよ」
なるほど、そういう考えもあるのか。
俺はそんなこと考えたこともなかった。
それにしても……。
「爆乳さん。本当にこれでいいのかな」
「え……?」
「いや、これが本当に社会復帰の練習になってるのかなって」
今日ハンバーガー屋に行こうと決めたのは、爆乳さんだった。
つまりこれは爆乳さんが望んでいることなわけだが、俺にはこれが社会復帰の練習になるとは思えなかった。
「大丈夫。練習になってるよ。……ありがと」
その時の爆乳さんの声は、周囲の雑音に掻き消されそうなほど小さかったけど、なぜか胸の奥に響くような感じがした。
「練習になってるなら、いいんだけど……」
特に刺激もない、穏やかな時間が流れていく。
このままこうしてダラダラと過ごすのも悪くはないが……。
俺には今日、確かめなければいけないことがある。
「爆乳さん。ちょっと質問してもいいかな?」
「うん、いいよ」
俺は至って真面目な顔で、爆乳さんに質問する。
「クリスタルチンコのこと覚えてる?」
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