第41話  紅蓮の輝石に宿りし装者

空から光が消えた。聳え立つカ・ディンギルの最上部。そこから外へと投げ出された三人の少女。その身に纏うギアはほとんどが損傷しており、ヘッドフォンも大きなひびが入っている。その身体の節々に纏われた装甲にも同様にひびが刻まれており、インナースーツも所々が破け、その下の肌が露出している。


 


「……」


 


そんな少女達を、先程まで光を発し続けていたバトルフィールドが消えるのと同時に外に現れたフィーネはゆっくりと見下ろしていく。三人の少女達はその身体をカ・ディンギルにぶつけながら地面へと転がり、落ちていく。彼女達が地面に落下し、最後に派手な着地音を響かせたのを最後に、役目を果たしたかのように彼女達を守るように展開されていたギアが消えていく。もう戦う力も何も残っていない。それでも彼女達はその意思を失うことだけはできずに、顔を上げて空から降りてくるフィーネをその瞳に映す。


 


「これで準備は整った。お前達との戦いによって大量のコアが消費され、多くのカードが運用された事によって不足していたエネルギーも確保された。これで、神々の砲台は起動し、月を貫く!」


「くそ……身体が、もう動かねえ……!」


「ここまでなのか……!?」


「……」


 


悔しそうに声を漏らすクリスと翼。必死に指を動かそうとするが動かない。口を動かそうとするがか細い声しか出てこない。これでは、再びシンフォギアを運用する為のフォニックゲインを作り出すのは不可能に近い。そして響は、もう何も言葉を出す事は出来ず、涙を流しながらフィーネを見ていた。


 


大切なものを守るために得た筈のシンフォギア。しかしそれは、守れなかった。自分の居場所だったリディアンは崩壊し、自分の友達達も、二課の皆も姿が見えない。そして、弾もまた、彼女の手により犠牲になろうとしている。目的を達成すれば、彼女にとって弾は目障りな敵として存在するだけなのだから、事が済めばすぐに始末するだろう。


 


「そんな、響……」


 


辛うじて生きているという事実に安堵しつつも、同時に最悪の状況に陥っている事は二課の面々も悟っていた。彼女達の敗北が意味するのは、フィーネに対抗する全勢力の消滅だ。


 


「くそ……!?」


 


やりきれない様々な感情を込めた拳を強く握る弦十朗。それでも諦めたくない。そう思った彼の元に、彼等が使用していたモニターに一通の通信が入る。


 


「これは、通信!?相手は……嘘!?」


「……いや、確かにこれなら!!」


 


そこにあったのは一通のメール。その送り主は、その人物らしい、どこか不器用な言葉で一つの文章を書き記していた。これなら、戦える力を持たない装者達にもう一度輝きを取り戻させることが可能かもしれない。


 


「あ、あの!私にも協力させてください!」


「私達もお願いします!」


「ビッキーと、他の二人を助けられるんでしょ!?お願いします!」


「何でもやります!」


 


それを見て、未来達も協力を申し出る。今まで誰かのために戦ってきた彼女達が、その戦いを見た少女達の心に彼女達の感情が共鳴し、装者達のために、友達のための自分達の戦いへと向かう意志を作り出す。


 


「分かった。いくぞ、皆!準備を行う!時間はないぞ、全力で事を進める!」


「「「了解!!」」」


「「「「はい!!」」」」


 


そして彼女達は動き出す。誰かのため、護るという使命のために戦ってきた彼女達を、更なる高みへと至らせるために。誰かのためではなく、自分のための戦いを彼女達に教えるために。


 


「起動せよ、神々の砲台よ!!」


 


フィーネが両手を上げて高らかに叫ぶ。瞬間、神々の砲台の上部に赤、白、緑、紫、黄、青の六色のシンボルが二つずつ出現し、それらが順番に円に並んでいく。そして、緑色の牡羊座、赤色の牡牛座、黄色の双子座、緑色の蟹座、白色の獅子座、黄色の乙女座、青色の天秤座、青色の蠍座、赤色の射手座、紫色の山羊座、白色の水瓶座、紫色の魚座。黄道十二宮の星座が並び、陣を作り出していく。その中心に今までのバトルによってエクストリームゾーン、バトルフィールドから蓄積されていった膨大なエネルギーが集約されていき、それが一つの弾丸を作り出す。


 


「お前は新たな時代を二度、告げた。この時代で新たな時代を再び告げる弾丸となるがいい!!その名の通りな!!激突王よ、その姿を月へ激突させるがいい!!」


 


そして、神々の砲台が放たれる。瞬間、大気を振動させ、その衝撃は周囲を呑み込んでいく。そして天高く昇ったその弾丸は、一直線に月へと伸びていく。決まった。フィーネはそう確信し、高笑いを響かせていく。


 


「はははははは!!あはははははは!!はーはっははははは!!!」


「くそ!くそ!くそぉおお!!!」


「フィーネェェエエエエエ!!!」


「弾さぁぁぁぁあああああん!!」


 


三人の少女の叫び。それは最早無意味でしかない。悔しさを叫んだところで状況が好転するものか。怒りを叩き付けたところで問題が解決するものか。消え逝こうとする男の名前を叫んだところで、その男が戻ってくるものか。


 


「さぁ、待ち焦がれた瞬間だ……その目に焼き付けるがいい……!」


 


そして弾丸は、大気圏を超えてその先へと向かう。一点、月へと向けて。しかし、そこでその弾丸に、ある異変が生じる。


 


「!?」


 


瞬間。神々の砲台から何か、プラズマ音のようなものが微かに響いてくる。完璧な筈の設計。だがここで予想外の異変が起こったのか。そうフィーネが思わず悪い予感を感じ取った次の瞬間、放たれた弾丸は僅かにその軌道を変更し、月の中心ではなく端へと命中することで月の一部を抉り、その大きな破片を分離させるだけの被害を生み出した。


 


「何!?」


 


何故、軌道が逸れた。思わず声を上げる。自分の計算は完璧だった。計画も穴は無かった。邪魔者ももういない筈だ。ならば、どうやって。いや、それよりも溜まったエネルギーがほとんど消失されてしまったことはあまりに痛すぎる。こうなれば仕方ない。装者達を睨みつけると、フィーネは再び彼女達をバトルフィールドへと連行し、無理矢理にでもエネルギーを溜めるのだ。その後でもう一度カ・ディンギルを調整し直す。そして、代わりの引き金として装者達をそこに埋め込むしかない。


 


「外れた……?」


「ここで、神々の砲台の不調か……?」


「……まさか」


 


フィーネの動揺と、神々の砲台が月に完全に命中しなかったという事実に疑問を抱く装者達。しかし、その中で響は、ある事に気付く。フィーネの野望を止めようとしている人がまだもう一人いることを。そしてその人物は、神々の砲台に一番近い所にいることを。その事実に、響の表情が段々明るくなっていく。


 


「くそ、再び貴様たちを―――」


「ゲートオープン!界放!!」


 


瞬間、力強い男の声が響く。その声と共に神々の砲台の上部にバトルフィールドが出現していき、神々の砲台から射出されたコアブリットが、その中へと突入していく。


 


「この声は!」


「は、はは……あいつ、やりやがった!!」


「やった……!」


「っ、まさかあの状況を脱したというのか!?」


 


そんなことはありえない。そんな奇跡のような事が起こることなど。そこまで考えたフィーネは、まさかの可能性に思い当たり、その表情を大きく歪める。


 


「神々の砲台の出力安定のために組み込んだ紅蓮の輝石。それが……!?」


 


まさか、こんなところで輝石の覇者の魂が邪魔に来るとは。その事実に悔しそうに唇を噛み締めながらも、ここからどうやって計画の軌道修正を行うのかを高速で考えていく。そして得た結論は、再びエネルギーを溜めること。そのために、自分を止めるためにバトルフィールドに現れたそいつを、全力で叩き潰す。勝つか、負けるかは分からない。しかし、それでもやるしかない。フィーネは、対戦相手が待つバトルフィールドへと、その身を飛ばすのだった、


 


 



 


 


時は少し遡る。フィーネがアルティメット・ガイ・アスラの攻撃によって三人の装者を撃破し、バトルフィールドが消滅。それによってモニターが消えたことで外を確認できなくなった弾は、外に出れない自分の周囲に張り巡らされたバリアと、目の前に落ちているフィーネと弦十朗のバトルによって出現したバトルフィールドから射出されたボロボロのコアブリットと損傷の確認できないもう一基のコアブリットを目にしながら、拳を強く握り締める。


 


「……」


 


自分が戦いたい。戦う前から敗北するのは嫌だ。しかし、そうは思ってもこのままではどうにもならない。奇跡でも起こらない限りは。そう弾が思ったときだった。


 


「まだ、諦めきれないかい?」


「……?」


 


ふと弾の耳元に、女性の声が聞こえてきた。聞き覚えのないその人物の声に一瞬だけ眉を寄せるも、その声には悪意のようなものは感じ取れない。寧ろ、自分を試そうという感情すら感じ取れる。ならば、率直に自分の想いを彼女に伝えよう。全ては、そこからだ。


 


「ああ。戦ってもいないのに負けるのは嫌だね。あんたならどうにかできるのか?」


「私なら……か。今の状態じゃ、無理かも」


「今は?」


 


後ろを振り向いた弾の視界に飛び込んできたのは、半透明の姿となって、亡霊のようになった一人の女性。赤い髪と目が印象的な女性だった。


 


「馬神弾、か。実際、会うのは初めてだろ?天羽奏だ」


「奏……ああ、聞いた事はある。どうしてこんな所に?俺の見ている幻ってわけじゃないだろ?」


「亡霊と話してるんだぞ?少しは危機感を持つのが普通じゃないのか?」


「経験があるからな。それに、俺自身亡霊のようなものかもしれないぞ?」


 


かつての経験を思い出しながら、奏に言葉を返していく。そんな弾の言葉を面白そうに聞きながら、奏は口元に笑みを浮かべていく。


 


「確かに、面白い奴だな。気に入ったよ、あんたのこと」


「そうか……それで、どうすれば神々の砲台を止められる。俺がここから出る方法があるのか?」


「結果的にそれに繋がる、という意味ならある。あれを見てくれ」


 


奏が一点を指差し、弾がそこを見る。神々の砲台の壁の中に埋め込まれた、紅蓮の石。フィーネが紅蓮の輝石と呼んでいたものがそこにはあった。


 


「あれは?」


「紅蓮の輝石……そう、了子先生は言っていた。このカ・ディンギル……いや、あんたには神々の砲台って言った方が分かりやすいかな。それを制御して、他にも微調整をするために使われたのがあの完全聖遺物に修復された輝石なんだ」


「……奏は、その輝石に宿っていたのか?」


「ああ。輝石の中で眠っていたんだ。私の魂があの絶唱の後、輝石の中にあるって気付かれてなくて助かったよ。おかげで……唯一の誤算になることができた」


「……そういうことか」


 


輝石がこの神々の砲台の微調整を行っているのなら、奏がそれを掻き乱せばいい。輝石と一体化している今の奏ならば、それが可能な筈だ。しかし、ここで問題になるのは、彼女が言っていた、今じゃ無理だという言葉。それを考えると、彼女が輝石のコントロールを得るには必要な事があるのだろう。


 


「だから、あんたには私と戦ってもらう。今のままじゃ、私は輝石を操る事ができない」


「俺が勝てば、そのまま輝石の力に隙が生まれて奏がそれを操れるというわけか」


「ああ。そして……もし私が勝ったら、あんたの身体を借りてフィーネと戦わせてもらう」


「俺の身体を?」


「負けるような奴が勝てるような相手じゃないだろう?」


「成程、その通りだ」


 


納得したように頷く弾。しかし、その言葉はこの戦いの結果次第では奏にも返ってくる言葉となる。しかし、この二人にそんなことは関係ない。神々の砲台が今か、今かと放たれようとしている中、二人は戦い始める。そのための舞台を奏は作り出す。


 


「ゲートオープン!界放!」


 


奏がそう声を上げた瞬間、紅蓮の輝石が強く光り輝き、二人を別の空間へと、その魂とデッキだけを飛ばしていく。


 


中央に二つの光が投げ出され、その光は一つの台のようなものの上に存在している。その周囲には次々と細い柱のようなものが空から落ちていき、十本が均等な間隔を空ける。全てがはまった瞬間、中央が音を立てて凹み、柱が加工されて砂時計のような形へと変化する。次にその柱と柱の間を埋めるように十枚の壁がはめこまれ、半円の形に壁の表面が凹む。


 


続けて柱の上部に三角形の光を放つクリスタルのようなものが装着され、中央の二つの光がその間隔を広げて向かい合うように壁の外側へと移動していく。そして台座の中央は二等辺三角形のパネルをちりばめたような形となり、それを固定するように周囲の壁からネジのようなものが伸びて台座へとねじ込まれる。


 


さらに台座の上に徐々に間隔が広げられるように宙を浮かぶリングが出現していき、最後に中央の床を開閉する為の鎖が周囲から伸びてパネルへと連結される。周囲を覆う青空の中、四つの柱が前方にあり、その中にプレイシートの置かれた台座が見える。対角線上に並ぶ二つの台の上に弾と奏は実体を持って現れる。


 


「ここは……」


「イセカイ界。バトルフィールドでもエクストリームゾーンでもない、別の世界のフィールドさ。そして、魂だけが飛ばされた私達のバトルは、現実とは時の流れが異なった状態で行われる。バトルの最中に砲台が撃たれる、なんてことは考えなくても大丈夫さ」


 


そこに現れた奏の身体にはシンフォギアが纏われている。おそらく、この空間に存在するのが魂だけだからこそ、シンフォギアを具現化できるのだろう。対峙する弾も、金色のアーマーを纏い、奏を迎え撃つ。


 


「そうか。なら安心だな……いくぞ。先行はもらう。スタートステップ、ドローステップ、メインステップ。ニジノコをLv3で召喚」


 


【ニジノコ:黄(白)・スピリット


コスト1:「系統:戯狩」


コア3:Lv3:BP3000


シンボル:黄(白)】


 


弾のフィールドに出現する、虹色の皮膚を持つツチノコを連想させる小さなドラゴン。いつものようにフィールドにシンボルが出現し、それが砕かれて中から現れるいつもの登場の仕方ではないことは少しだけ違和感を感じるが、バトルをする上ではあまり関係ないだろう。空中に立ったニジノコは小さな火の粉を鼻から吹き出しながら自分が元気だという証を見せる。


 


「ターンエンド」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!メインステップ!リューマン・クロウをLv2で召喚!」


 


【リューマン・クロウ:赤・スピリット


コスト0:「系統:竜人」:【スピリットソウル:赤】


コア2:Lv2:BP2000


シンボル:赤】


 


奏がまず呼び出したのは、コスト0の赤のスピリット、リューマン・クロウ。青い竜の身体を持つ人型のそのスピリットは、金色の爪を両手と両足に生やしているのが確認できる。


 


「さらにネクサス、千識の渓谷を配置!」


 


【千識の渓谷:赤・ネクサス


コスト4(軽減:赤2)


コア0:Lv1


シンボル:赤】


 


奏が続けて繰り出したのは赤のネクサス、千識の渓谷。しかし、そのカードがフィールドに置かれても、エクストリームゾーンやバトルフィールドのようにネクサスが実体化しない。イセカイ界。彼女がそう呼ぶこのフィールドでは他のフィールドとは異なった趣向によって成り立っているようだ。


 


「ターンエンドだ」


「ネクサスはこうなるのか。スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ブレイドラをLv2で召喚」


 


【ブレイドラ:赤・スピリット


コスト0:「系統:翼竜」


コア2:Lv2:BP2000


シンボル:赤】


 


ニジノコの隣に出現するオレンジの毛並みにその身を包んだ剣の翼をもつ翼竜。可愛らしい鳴き声を上げて出現したブレイドラとニジノコを一目見ると、弾はそのまま動かずにターンを終える。


 


「ターンエンド」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!エクス・ムゲンドラをLv2で召喚!ネクサス、千識の渓谷の効果で自分のメインステップ時、手札にある系統:「覇皇」/「古竜」を持つスピリットカードすべてに赤の軽減シンボルが1つ追加される!よってノーコストで召喚!」


 


【エクス・ムゲンドラ:赤・スピリット


コスト2(軽減:赤1+赤1):「系統:新生・古竜」:【スピリットソウル:赤】


コア2:Lv2:BP3000


シンボル:赤】


 


奏のフィールドに出現する、オレンジ色の鎧を纏った赤い小さなドラゴン。その皮膚は赤と白の毛並みによって成り立っており、登場と共にシャドーボクシングをしながら自身の闘志の強さを疲労している。


 


「続けてネクサス、千識の渓谷をLv2にアップ!」


 


【千識の渓谷


コア0→2:Lv1→2】


 


「アタックステップ!エクス・ムゲンドラでアタック!Lv2・3アタック時効果により、デッキから1枚ドロー!」


「ライフで受ける!」


 


意気込むようにライフで受ける宣言をした弾。エクス・ムゲンドラがその口から炎を放つが、それは弾の遥か上空を飛んでいき、突然その炎は虚空へと吸い込まれるように消えていく。そして、次の瞬間に弾に衝撃や痛みが襲い掛かる、等ということはなくただライフが1つ砕かれた音と共にライフが1つ消えるだけでこのアタックが終了する。


 


「……こうなるのか……」


「不満そうだな?」


 


肩透かしとも言うべきか。少しだけ落胆したかのように表情を暗くする弾に声をかける奏。弾も、折角の機会を用意してくれたことに対して感謝こそしながらも、無礼を承知だという事を考えながら自分の不満を述べていく。


 


「ああ。折角バトルフィールドに立っているんだ。ライフを打たれるあの瞬間を味わいたいね」


「……あんた、思った以上に変わってるんだな?」


「かもな。次はどうする?」


「どうするも何も、できる事がないさ。ターンエンド」


 


ライフを打たれる痛みがないのは大いに残念なことだが、ここはこういう特性のある場所なんだと割り切るしかないだろう。それに、イセカイ界での戦い自体が初めてとなる弾にとっては、これもまた新鮮なものであることには間違いない。ならば、存分に楽しませてもらおう。


 


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、メインステップ。ニジノコをLv2に、ブレイドラをLv1にダウン」


 


【ニジノコ:黄(白→紫)


コア3→2:Lv3→2:BP3000→2000


シンボル:黄(白→紫)】


 


【ブレイドラ


コア2→1:Lv2→1:BP2000→1000】


 


スピリット達のLvが下げられ、リザーブにコアが集められる。これは大型が来るか。そう奏が身構える中、弾は手札から一枚のカードをフィールドへと召喚する。


 


「ブレイヴ、騎士王蛇ペンドラゴンを召喚」


 


【騎士王蛇ペンドラゴン:紫・ブレイヴ


コスト5(軽減:紫2・赤2):「系統:妖蛇・星魂」


コア1:Lv1:BP4000


シンボル:なし】


 


弾が呼び出したのは、紫のブレイヴカード。緑色に光る目を持つ二本の剣が連結したような姿を持つ蛇のようなドラゴンが滑らかな動きで体を器用に曲げながら現れ、その光る目でエクス・ムゲンドラの姿を捉える。


 


「紫のブレイヴ……」


「ペンドラゴン、召喚時効果により、相手スピリット1体のコア2個を相手のリザーブに置く。エクス・ムゲンドラを指定」


 


【エクス・ムゲンドラ


コア2→0】


 


ペンドラゴンの口が開き、そこから紫色の二本のレーザーが放たれる。放たれたレーザーはエクス・ムゲンドラに命中し、その上に置いてあるコアを全てリザーブへと移動させ、コアを失ったその身体は消滅を迎えていく。


 


「この効果でそのスピリットのコアが0個になったとき、デッキから1枚ドローする。ターンエンド」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!千識の渓谷、Lv2効果で自分のドローステップ時、ドローの枚数を+1枚する!メインステップ!カグツチドラグーンをLv2で召喚!不足コストはネクサスから確保!」


 


【千識の渓谷


コア2→0】


 


【カグツチドラグーン:赤・スピリット


コスト4(軽減:赤2+赤1):「系統:古竜」:【激突】


コア3:Lv2:BP6000


シンボル:赤】


 


続けて奏が召喚したのは、赤く燃える翼を広げた一体のドラゴン。身体に装着された白い装甲、その下にある黄色い皮膚、そして額から生えた角など、自身の格を示すかのようにそのドラゴンは咆哮を張り上げる。


 


「アタックステップ!カグツチドラグーンでアタック!アタック時効果でデッキから1枚ドロー!さらにLv2効果!激突!」


「騎士王蛇ペンドラゴンでブロック!」


 


激突をブロックするためにシンボルを持たないペンドラゴンでブロックを宣言する弾。カグツチドラグーンがその足でペンドラゴンの首元を掴むと、そのまま握り潰しながら口から炎を浴びせ、徹底的にペンドラゴンを仕留めにかかる。


 


「ターンエンド」


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ソウルホースを召喚」


 


【ソウルホース:紫(赤)・スピリット


コスト1(軽減:紫1・赤1):「系統:魔影」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:紫】


 


まず弾が呼び出したのは、紫色の胴体を持つ一体の馬の姿をしたスピリット。その四本の足には炎のようなものが纏われており、その炎によってソウルホースは宙へと浮かび上がる。


 


「……いくぞ」


「!」


 


ソウルホースを呼び出した後、弾は手札に眠る一枚のカードを手に取る。それを手にした瞬間、弾の纏う気配が険しいものへと変わり、奏も弾が何か大きなものを呼び出そうとしていることを瞬時に悟る。


 


「紫の十二宮Xレアよ!山羊座より来たれ、魔羯邪神シュタイン・ボルグ、召喚!不足コストは、ニジノコより確保!」


 


【ニジノコ:黄(紫→赤)


コア2→1:Lv2→1:BP2000→1000


シンボル:黄(紫→赤)】


 


【魔羯邪神シュタイン・ボルグ:紫・スピリット


コスト6(軽減:紫3):「系統:光導・冥主」


コア1:Lv1:BP5000


シンボル:紫】


 


瞬間、弾の目の前に紫色の光が出現する。そこから分裂するように空へと放たれた無数の星の光は、再び弾の目の前に集って山羊座を作り出し、星々が強い光を放つ。次の瞬間、禍々しい紫の力の渦がそこに出現し、そこからゆっくりと渦を纏いながら山羊の巨大な角と一本の杖、そしてそれを携える主が現れる。青い身体を持ち、悪魔のような翼を持つ、山羊の顔をしたその魔神は、渦を弾き飛ばしながらゆっくりと弾のフィールドに移動し、そこで胡坐を掻いて静かに待機する。


 


「へぇ……何か凄いのが出てきたっぽいな」


「魔羯邪神シュタイン・ボルグ、召喚時効果によりトラッシュのペンドラゴンを手札に加える!」


 


魔羯邪神シュタイン・ボルグ、召喚時効果。系統:「光導」/「星魂」を持つ自分のスピリット1体につき、自分のトラッシュにある紫のカード1枚を手札に戻す。召喚時効果を発揮したタイミングでは弾のフィールドに存在する系統:「光導」/「星魂」を持つスピリットはシュタインボルグ1体のみ。よって、トラッシュから戻される紫のカードは1枚だけとなる。


 


「まだいくぞ。騎士王蛇ペンドラゴンを召喚、不足コストはブレイドラより確保!」


 


【ブレイドラ


コア1→0】


 


【騎士王蛇ペンドラゴン


コスト5(軽減:紫2・赤2)


シンボル:なし】


 


「魔羯邪神シュタイン・ボルグに直接合体!」


 


【魔羯邪神シュタイン・ボルグ


コスト6+5→11


BP5000+4000→9000】


 


ブレイドラが不足コスト確保のために消滅して消えていく。そして回収され、再び召喚されたペンドラゴンが二本の剣となって分離し、その剣が杖を地面に突き刺すことで手放したシュタイン・ボルグの手に握られる。


 


「げ……」


 


ペンドラゴンがシュタイン・ボルグへと合体されたことにより、弾のバトルフォームの赤いラインが紫色に光り輝く。


 


「ペンドラゴン、召喚時効果により、カグツチドラグーンのコア2個をリザーブに置く!」


 


【カグツチドラグーン


コア3→1:Lv2→1:BP6000→3000】


 


ペンドラゴンが変化した二本の剣をシュタイン・ボルグが振り抜く。それによって生じた紫の斬撃がカグツチドラグーンに命中し、二つのコアをリザーブへと送る。


 


「アタックステップ!合体スピリットでアタック!騎士王蛇ペンドラゴン、合体時効果発揮!このスピリットのアタック時、相手の合体していないスピリットのコア1個を相手のリザーブに置く!カグツチドラグーンを指定!」


 


【カグツチドラグーン


1→0】


 


再び振り抜かれたペンドラゴンの刃から放たれた斬撃がカグツチドラグーンに残っていた最後のコアをリザーブへと送り込み、その身体を消滅させる。さらに、シュタイン・ボルグは自身の魔力をペンドラゴンの刃へと纏わせていく。


 


「さらにシュタイン・ボルグの効果!系統::「光導」/「星魂」を持つ自分のスピリットがアタックしたとき、相手のスピリットのコア1個を相手のリザーブに置く!リューマン・クロウを指定!」


 


【リューマン・クロウ


コア2→1:Lv2→1:BP2000→1000】


 


ペンドラゴンに纏わせたシュタイン・ボルグの攻撃がリューマン・クロウからもコアを剥いでいく。相手のフィールドを一気に掻き乱したシュタイン・ボルグは両手の剣を振り上げて奏へと攻めかかろうとする。


 


「ライフで受ける!」


 


シュタイン・ボルグが振り下ろした刃の威力が虚空に吸い込まれていき、奏のライフが一つ砕けて消えていく。さらに他のスピリットを動かしてくるか。そんな考えが奏の脳裏に過るが、弾はこれ以上の追撃を仕掛けない選択肢を取る。


 


「ターンエンド」


「やるね……こいつは思った以上に楽しめそうだ……スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!来い!グランド・ドラグキャッスル!Lv2で召喚!」


 


【グランド・ドラグキャッスル:赤・スピリット


コスト8(軽減:赤5):「系統:古竜」


コア2:Lv2:BP8000


シンボル:赤】


 


バトルフィールドの中央。そこに存在するゲートが開かれ、そこから巨大なドラゴンが姿を見せる。全身が要塞のようになっている、動くドラゴンの城。そう表現するのが一番適切であろう巨体が、十二宮Xレアを呼び出したことで士気が上がっている弾のフィールドのスピリット達を威嚇するかのように大気を震わせる咆哮を放つ。


 


「漸く仕掛けてきたか」


「こんなもん出されちゃ、こっちもこうせざるを得なくなっちまうだろ?バーストをセットして、アタックステップ!グランド・ドラグキャッスルで合体スピリットに指定アタック!アタック時効果でBP+3000!」


 


【グランド・ドラグキャッスル


BP8000+3000×1→11000】


 


グランド・ドラグキャッスル、アタック時効果。相手のフィールドで最もBPの高いスピリット1体を指定し、そのスピリットにアタックできる。現在、弾のフィールドで最もBPの高いスピリットは、BP9000となっているシュタイン・ボルグ。さらに、グランド・ドラグキャッスルはLv2・3アタック時効果により、系統:「古竜」を持つ自分のスピリット1体につき、BP+3000される。現在、奏のフィールドの系統:「古竜」を持つスピリットはグランド・ドラグキャッスルのみのため、そのBP上昇値も3000で収まっている。しかし、


 


「こいつで蹴散らせ!グランド・ドラグキャッスル!」


 


シュタイン・ボルグへと向けられる無数の砲門。そこから放たれた大量の弾丸と爆弾がペンドラゴンを両手に構えたシュタイン・ボルグの全身へと容赦なく叩きつけられ、その身体を一瞬で消し飛ばす。


 


「騎士王蛇ペンドラゴンを分離させる!」


 


【騎士王蛇ペンドラゴン


コア1:Lv1:BP4000


シンボル:なし】


 


爆煙の中からペンドラゴンの姿が現れる。しかし、ペンドラゴンだけではあまりにも非力だ。もしペンドラゴンの力を活かすというのなら、それが可能となるスピリットを呼ばなくてはならない。


 


「ターンエンド」


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。今度はこちらの番だ、奏!」


「!今度は何がおでましだ!?」


「駆け上がれ!神の名を持つ赤き龍!太陽神龍ライジング・アポロドラゴン、召喚!」


 


【太陽神龍ライジング・アポロドラゴン:赤・スピリット


コスト7(軽減:赤3):「系統:神星・星竜」


コア1:Lv1:BP6000


シンボル:赤】


 


グランド・ドラグキャッスルも出てきた中央のゲートが開かれ、そこから金色の翼を広げた龍が出現する。太陽のように赤い紅蓮の皮膚を持ち、身体の節々を緑色のクリスタルが埋め込まれた金色の防具によって覆われた龍が、額の緑色の結晶を光らせながらフィールドへと飛翔する。


 


「はは、こいつはやばそうだ……!」


「騎士王蛇ペンドラゴンを太陽神龍ライジング・アポロドラゴンに合体!」


 


【太陽神龍ライジング・アポロドラゴン:赤+紫


コスト7+5→12


コア1→2:BP6000+4000→10000】


 


ペンドラゴンが再び二本の剣となってライジング・アポロドラゴンの両手に握られる。それによってライジング・アポロドラゴンの全身から紫色の光が解き放たれ、弾のアーマーの赤いラインも再度紫色に輝く。


 


「アタックステップ!切り裂け、合体スピリット!グランド・ドラグキャッスルに指定アタック!」


 


ライジング・アポロドラゴンが咆哮を上げ、グランド・ドラグキャッスルへと飛び出していく。そしてこのアタックにより、ペンドラゴンの合体時効果が発揮される事となる。


 


「ペンドラゴンの効果により、グランド・ドラグキャッスルのコアをリザーブへ!」


 


【グランド・ドラグキャッスル


コア2→1:Lv2→1:BP8000→6000】


 


ライジング・アポロドラゴンの振り抜いた刃がグランド・ドラグキャッスルの力を削ぎ落す。しかし、まだこれぐらいなら逆転は可能だ。そう考え、奏は伏せられたバーストを起動させる。


 


「そのアタック、もらった!バースト発動!ドラゴニックウォール!グランド・ドラグキャッスルにBP+5000!」


 


【グランド・ドラグキャッスル


BP6000+5000→11000】


 


グランド・ドラグキャッスルの全身を炎のオーラが包みこみ、BPを上昇させてライジング・アポロドラゴンを超える。接近してきたライジング・アポロドラゴンを無数の砲門から放たれた弾幕で一度引き離すと、畳みかけるようにその巨体を活かした体当たりをぶつけようとする。


 


「フラッシュタイミング!」


「!」


「マジック、ブレイヴドローを使用!不足コストは合体スピリットとソウルホースより確保!」


 


【ソウルホース


コア1→0】


 


【太陽神龍ライジング・アポロドラゴン


コア2→1】


 


「合体スピリットにBP+2000!」


 


【太陽神龍ライジング・アポロドラゴン


BP6000+4000+2000→12000】


 


しかし、弾もまた負けてはいない。ライジング・アポロドラゴンにブレイヴドローのBP+を咥え、そのBPはドラグ・キャッスルを超える。そして自身へ向けて放たれた体当たりを、ライジング・アポロドラゴンは真上へ急上昇することで避けると、そのまま真下に向かって急降下。落下に近い速度で叩き出される威力を込めた二振りの刃をその身体に叩き付け、一撃で大爆発を引き起こさせた。


 


「っ……グランド・ドラグキャッスル!」


「ターンエンド」


 


太陽神龍ライジング・アポロドラゴン。成程、弾が呼び出したそのスピリットはあまりにも強大な壁だ。さて、どうやってこれを超えるべきか。そう考えながら奏はターンを進めていく。


 


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!2体目のカグツチドラグーンをLv2で召喚!」


 


【カグツチドラグーン


コア3:Lv2:BP6000


シンボル:赤】


 


「そしてリューマン・クロウと千識の渓谷をLv2にアップ!」


 


【リューマン・クロウ


コア1→3:Lv1→2:BP1000→2000】


 


【千識の渓谷


コア0→2:Lv1→2】


 


二体目のカグツチドラグーンが現れ、リューマン・クロウと千識の渓谷にもコアを移してLvを上げていく。今の手札でライジング・アポロドラゴンを倒す策は用意できないが、用意できないのならばそれが可能となるカードを引き込み続ければいい。そう結論付け、奏はアタックステップへ入る。


 


「アタックステップ!カグツチドラグーンでアタック!アタック時効果で1枚ドロー!さらにLv2アタック時効果、激突!」


 


カグツチドラグーンが炎の翼をはばたかせ、弾のフィールドで回復状態で残っている唯一のスピリット、ニジノコへとその炎を浴びせていく。炎に包まれ、一瞬で燃え尽きたニジノコを見ながら、奏はにやりと口元に笑みを浮かべながら次の一手を選択する。


 


「リューマン・クロウでアタック!」


「!ライフで受ける!」


 


リューマン・クロウの爪が振り上げられ、虚空へと振り抜かれる。振り抜かれた爪から生じた威力もまた虚空に吸い込まれて消え、弾のプレイボードの上に置かれているライフのコアを一つ砕き、リザーブに新たなコアを出現させる。


 


「ターンエンド」


 


まだまだ勝負はこれからだ。そう言わんばかりに挑発的な声音でターンを終了する奏。弾もまた、奏とのバトルに心を躍らせていた。フィーネとの戦いで外が揺れている。こんな心を躍らせている暇などあるものかと一蹴されるかもしれない。だが、だからこそだ。こんな状況であるからこそ、弾はバトルを楽しんでいた。自分のためにバトルを楽しみ、そして誰かのためにバトルで勝つ。これから、相手はどんな一手を打つのだろうか。自分はどんな一手が打てるだろうか。様々なことを考えながら、弾は次の自分のターンを宣言するのだった。


 


「スタートステップ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る