第33話 リディアン襲撃

ノイズの襲撃を受けたリディアン。多くの生徒が逃げ惑う中、弾だけはこの襲撃を訝しんでいた。


 


(……おかしい。何が狙いだ?)


 


エクストリームゾーンから出て来ながら、この襲撃に抱いた疑問を考える。装者達を引き付ける為のスカイタワー襲撃は分かる。その時に出てきたバトルフィールドは疑問だが、それぐらいだろう。しかし、これが自然発生では無くフィーネの手によるものなら、リディアン襲撃は一体何の目的があってのことなのか。


 


(しかし、数が多すぎる……)


 


だが、目的は後で落ち付ける時にでも考える。今は命の危機に瀕している地下シェルターへと逃げていくリディアンの生徒達を安全に移動させるためにノイズを少しでも多く倒すべきだ。と、ふと視界の端に、未来の姿があった。


 


「未来!大丈夫か!」


「あ、弾さん!」


 


弾の姿を見つけ、駆け寄ってくる未来。背後に聞こえてくる、エクストリームゾーンでノイズと戦えない自衛隊の面々が銃器を用いて戦う音を聞きながら、未来は弾に話しかける。


 


「あの、これって……」


「分からない。だが今は、やるべきことをやるだけだ。この子達は大丈夫か?」


「あ、はい」


 


自衛隊の男たちに保護されるように地下シェルターへと移動していく生徒達。ふと、未来のことを知っているのだろう、彼女の下に三人の少女が近付いてくる。


 


「ヒナ!」


「ね、ねぇ避難って……」


 


灰色の髪に紫色の瞳をした一番背の高い少女。金髪に黄色い目をした白い髪飾りを付けた少女。そして茶髪のツインテールの一番背の低い少女の三人は不安げな顔で未来を見る。


 


「な、何が起こってるの?」


「知り合いか?」


「は、はい。友達です」


「そうか……俺は馬神弾。今は時間が無いから手短に話す……今、ここにノイズが出現している」


「「「!」」」


 


いとも簡単に告げられた弾の言葉、しかし、この状況で真実を隠す意味はどこにもないだろう。そう考えての発言ではあるが、元々この三人は日常に生きていた非日常とはまるで縁のない人であり。


 


「そ、そんな……そんなまるでアニメみたいなことって……」


 


ツインテールの少女、板場弓美が顔を青くしながら呟く。目の前の現実を受けいられないと言った様子だ。他の二人も、現実離れしていると思っているのだろうか。驚きを露わにしてはいても完全には受け入れているようには見えない。


 


「……本当の事だよ」


「そんな……」


 


一番身長の高い少女、安藤創世も、漸く現実を受け入れてきたのか、呆然と声を漏らす。もう一人の金髪の少女、寺島詩織に至っては声も出ないという風にも見える。


 


「君達、早くシェルターに避難を!」


 


そこに、未来達がまだ避難していないことに気付いた男性が近付いてくる。確かに、ここに長居をしている暇はないだろう。そう理解して避難を促そうとした、その時だった。


 


「!」


 


嫌な気配を感じ取る。何か、大きなプレッシャーのようなものを感じ取った弾は次の瞬間に本能に従って声を上げていた。


 


「逃げろ!」


「え……?」


 


弾の声の意味を理解できずに聞き返す男性。しかし、その言葉の意味は、最悪の形で知ることとなる。割れる窓ガラスの音。そして、


 


「……ぁ」


 


男性の身体を貫く、ノイズ。貫かれた部分から炭素転換が広がっていき、男性の身体を生存に適しない状態へと変えていく。その姿を見て、弾は苦々しげな表情を見せる。いや、弾だからこそこの状況を受け止めてここまで持ち直せるのだろう。しかし、他の四人は弾とは違う。ノイズの手によって死んだ人など、一度も見たことが無いのだ。そして目の前で人が死んだ。その事実を目の当たりにし、言葉を失う。いや、思考を停止していたというべきか。だが、次第にそれが戻ってくると、一気に恐怖感が強くなる。そして、それは思考を超えて彼女達に本能的な反応をもたらす。


 


「い、いやあああああ!!」


 


弓美が叫ぶ。他の三人も言葉は失ったままだったが、彼女と同様に巨大な恐怖に包まれているのは明らかだ。


 


「……!」


 


四人の前に立ち塞がる弾。その目の前に、割れた窓ガラスから中へと侵入してきたノイズ達が現れる。


 


「ああ、もう終わりだぁ……!死ぬなら、こんな呆気ないんじゃなくてアニメみたいなかっこいい散り様が……」


「まだ、諦めるのは早いんじゃないか?」


「そ、そうは言いますけど、ノイズがこんなにいるんですよ!?」


 


通路を埋め尽くすほどに現れたノイズ。確かに創世の言うとおり、絶望的な状況だ。だが、それは一般人視点から見ればの話。しかし弾は、一般人では無い。ブレイヴ使いだ。よって、彼が見ている視点は別の所にある。


 


(出来るならもっとノイズを巻きこみたかったが……彼女達の身を考えれば、そんなリスクは背負えない。ここはこいつらを叩き潰す!)


 


目の前のノイズを見ながらも弾は四人の少女にも視線を向けて自分の後ろにいることを確認する。そして、弾は後ろを向いて膝を曲げ、彼女達の目線と合わせると、


 


「安心してくれ。君達は俺が守る」


「ま、守るって、ど、どうやって!?」


「こいつに決まってるさ」


 


そう言いながら腰のケースからデッキを取り出す。それを見ながら、弓美、創世、詩織の三人は一応理屈では理解する。確かに、今の自分達が真正面からノイズに挑んでも勝てはしない。もし可能性があるとすれば、それはバトルスピリッツだけだろう。しかし。弾の素姓を知らない三人はそのバトルがどれだけリスクがあるのかと聞きたげな心配そうな視線を向ける。そんな三人の頭を一度軽く撫でると、


 


「俺を信じろ。いくぞ、ゲートオープン、界放」


 


静かに。だが力強い言葉でゲートを開く。開かれたゲートに吸い込まれていく四人の少女たち。エクストリームゾーンに辿り着いた四人は泡のようなものに閉じ込められ、一先ずの安全を確保される。そして、目の前でバトルを始めてしまった弾に、視線を向けるのだった。


 


「は、始まっちゃった……!」


「ど、どうすれば……」


「……大丈夫。弾さんなら、きっと」


「大丈夫な訳が無いよ……だって未来も知ってるでしょ!?ノイズのアタックでライフを削られれば、それだけで消滅しちゃう!そりゃ、これしかないって分かるけど……でもそんな、アニメみたいなパーフェクトデュエルが本当にできるの!?」


 


半ば錯乱した様子で未来の肩を掴み、がむしゃらに振り回す弓美。その衝撃に首が揺れ、目が回りそうな錯覚に陥るが、そんな弓美の肩を逆に掴み、未来も強い言葉を投げかける。


 


「大丈夫。だって、弾さんの目……見たでしょ?弾さんの目って……何か、安心するんだ。この人だったら任せられる。背負ってくれるって。そんな期待を抱かせてくれる」


 


無論、弾自身がその期待に必ずしも応えようとしているかどうかを聞かれれば時と場合、その期待の内容にはよるだろう。しかし、自分達の運命を託しても大丈夫。そんな気配を、弾は確かに纏っていた。


 


「けど……」


「ヒナ……言いたい事は分かるけど。でも……」


 


が、彼女達が本当に弾に信頼を寄せる為には、言葉だけでは足りないだろう。言葉だけで粋がっていても、それに見合う行動、力がなければそれは偽善者、綺麗事でしかないのだから。だからこそ、弾は自らの行動で自分の姿を四人に焼き付けさせる。


 


「スタートステップ、ドローステップ、メインステップ。ブレイドラをLv3で召喚」


 


【ブレイドラ:赤・スピリット


コスト0:「系統:翼竜」


コア3:Lv3:BP3000


シンボル:赤】


 


弾のフィールドに出現した赤いシンボルが砕かれ、その中から小さなオレンジ色の毛並みを持つ可愛らしいドラゴンが現れる。剣の翼を持つドラゴン、ブレイドラは登場と共に鳥のような可愛らしい鳴き声を発する。


 


「ターンエンド」


「あの人……弾さん?って赤のデッキを使うの?ヒナ、知ってる人みたいだけど……」


「うん、響を通じてね。確かに赤のデッキだったかな……ただ、私が見た限りだと緑と青との混色デッキを使ってたけど……」


 


尤も、未来自身弾のバトルは以前自分が戦ったあの時と、フィーネと初遭遇したときに見せられた弾とノイズのバトルの映像の二つでしか確認していない。あれを見た限りでは、弾のデッキは赤、緑、青の三色がベースになっていると思われてもおかしくはないだろう。


 


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、メインステップ。エメアントマン2体を召喚』


 


【エメアントマン:緑・スピリット


コスト1:「軽減:怪虫・殻人」


コア1:Lv1:BP2000


シンボル:緑】


 


【エメアントマン


コア1:Lv1:BP2000


シンボル:緑】


 


ノイズのフィールドに出現した二つの緑のシンボルが砕かれ、二体のスピリットが出現する。土を削り、掘る機能も兼ねた螺旋を描いた形状の紫色の槍を握るアリ型スピリット、エメアントマン。四本の足で地に立ち、前の二本の足で槍を握って上半身を起こした状態でフィールドに立つ。


 


「アントマンか……」


 


緑のスピリットを使うノイズのデッキ。アントマンが持つ破壊時効果には後のことを踏まえると厄介なことになり得る。そこを念頭に置いた上でプレイするべきだろうと弾は考える。


 


『バーストをセット。ターンエンド』


「動かないね……」


「うん……やっぱり、最初のターンだからかな」


 


お互いにまずはフィールドを整えていく。バトルの定石だ。とはいえ、エメアントマンに関しては除去されてもお釣りが来る性能を持っているが。


 


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、メインステップ。ソウルホースをLv2で召喚」


 


【ソウルホース:紫(赤)・スピリット


コスト1(軽減:紫1・赤1):「系統:魔影」


コア2:Lv2:BP2000


シンボル:紫(赤)】


 


弾がブレイドラに並んで召喚したのは、この弾のデッキの中で軽減シンボルを稼いでくれる小型スピリットの一体、ソウルホース。紫のスピリットでありながら赤の色とシンボルとして扱う効果を使い、この弾のバトルを支えてくれることだろう。


 


「紫のカード?」


「えっと……ヒナ?」


「うん……もしかしたら、以前見た時とはデッキが違うのかも」


 


四本の足が赤い炎に包まれ、その炎によって宙に浮かぶ紫の毛並みを持つ馬型スピリット、ソウルホース。そのBPはエメアントマンと互角でしかないが、この状況では弾もソウルホースにアタックを強要することはないので些細な問題だろう。


 


「アタックステップ。ブレイドラ、いけ!」


 


弾の指示を受け、ブレイドラが再び鳴き声を上げる。そして走り出したブレイドラがフィールドを突っ切ってノイズのフィールドへと侵入していく。


 


『ライフで受ける』


 


エメアントマン達が槍を構えて迎撃態勢を見せる。しかし、ノイズがライフで受ける選択肢を取った為にエメアントマン達が槍を降ろし、戦意を消す。そのエメアントマンの頭にブレイドラは飛び乗ると、頭を踏み台にして空へと飛び出し、ノイズに向けて口から赤い炎を発射し、ライフを奪い取る。


 


『自分にライフ減少後、バースト発動。妖華吸血爪。デッキからカードを2枚ドローする』


「紫のバーストか……」


 


ノイズの仕掛けたバーストが起動し、手札が二枚増える。ブレイドラやソウルホースを焼くようなカードではないことは唯一の幸運と言うべきだろうか。


 


「ターンエンド」


 


先制攻撃を決めるが、弾は警戒を緩めない。そんな弾の様子を知ってか知らずか、ノイズはただ与えられた役割を遂行するかのようにデッキに手を伸ばす。


 


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。槍兵アントマンを召喚』


 


【槍兵アントマン:緑・スピリット


コスト1:「系統:怪虫・殻人」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:緑】


 


ノイズのフィールドに更に現れる新たなアントマン。しかし、他のアントマンとは違うのはその身体は細く、堅い殻に覆われており、目も赤く大きなものとなっている。さらにその手に握る槍も、螺旋を描いたものではなく、攻撃に特化した鋭い形状へと変化している。


 


『槍兵アントマンを転召』


「!」


 


槍兵アントマンを中心として緑色の陣が地面に出現する。その中心で槍兵アントマンの姿が無数の緑の光の粒子となる形で消滅し、その光の粒子が新たな生命体を形作っていく。


 


『女王アントレーヌ、召喚』


 


【女王アントレーヌ:緑・スピリット


コスト5(軽減:4):「系統:怪虫・殻人」:【転召:コスト1以上/トラッシュ】


コア1:Lv1:BP4000


シンボル:緑】


 


集いし光の粒子は新たな蟻を生み出していく。紫を基調としたその蟻は、他のアントマンと比べても明らかに大きく、立派な羽が群れのボス、女王としての気質を醸し出している。さらにその手には金色の杖が握られているのが見える。


 


「やはり転召を使ってきたか……」


『女王アントレーヌ、Lv1・2召喚時効果。ボイドからコア2個を自分のリザーブに置く。カード名にアントマンと入っているスピリットで転召したとき、置くコアを4個にする』


 


アントレーヌが転召のために犠牲にしたのは、槍兵アントマン。よって、アントレーヌの効果を最大限に活かせる4コアブーストが実現することとなる。


 


「い、一気に4コアも!?」


『エメアントマン、女王アントレーヌをLv2にアップ』


 


【エメアントマン


コア1→3:Lv1→2:BP2000→3000】


 


【女王アントレーヌ


コア1→3:Lv1→2:BP4000→7000】


 


ボイドから増えたコアを使い、エメアントマンと女王アントレーヌが強化される。三体の緑のスピリットを従えた今、戦況は圧倒的にノイズの方が有利になっていると言ってもいいだろう。


 


『アタックステップ。Lv2のエメアントマンでアタック』


 


そして遂にアタックが宣言され、Lv2になっているアントマンが槍を軽く回しながら構えると、弾へ向かって突撃していく。


 


「ま、まずい!ブロックしないと!」


「ライフを削られたら……!」


 


心臓に向けて銃を突き付けられ、そこから弾丸が放たれた。今の彼女たちの心境を言い表すとしたらこの言葉が適切なのだろう。そんな三人の不安を余所に、弾が選択したのは。


 


「ライフで受ける!」


「「「!?」」」


 


カードバトラーとしての正しい選択だった。何故、ライフで受ける宣言をしたのか。エメアントマンの槍が振り上げられ、弾を守るように出現した緑色の半透明のバリアへと叩きつけられる。その一撃によってバリアは呆気なく破壊され、その衝撃が弾のアーマーに光る五つの光の内の一つを砕く。その後に起こるであろう悲劇を予感し、先程の景色を思い出してしまった三人が目を閉じる。


 


「……ふっ、これぐらい問題ないさ」


「……え?」


 


そんな三人の様子に気付いたのか、弾から声がかかる。何故生きている。そんな疑問の前に、彼女達は恐る恐ると言った様子で目を開けて目の前の現実を見る。するとそこには、ノイズの炭素転換を十二宮Xレアの力によって無力化させ、何時も通り平然と、不敵な笑みを浮かべながら立つ弾の姿があった。


 


「だから言ったでしょ?弾さんなら大丈夫だって」


 


未来の声が静かに三人の脳裏に響いていく。目の前でノイズが持つその特異性を克服しているその姿は確かに異質なようにも見えるかもしれない。しかし、それ以上に三人にとっては、今の弾は未来の言うとおり、自分達の命を託すことのできる救世主のようにも見えた。


 


『エメアントマンでアタック』


「こちらもライフで受ける!」


『ターンエンド』


 


二体目のエメアントマンも弾にその槍を叩き付ける。一気に二つのライフを奪い取るが、それによって弾のリザーブにもコアが増えることとなる。打たせて貯めるタイプの弾としては一気に二つのコアが使えるようになったことは理想的な流れだ。


 


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ブレイドラを召喚」


 


【ブレイドラ


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:赤】


 


手始めにブレイドラを呼び出す。しかし、そのブレイドラはリザーブにあるコアを使えば既にいるもう一体と同じようにLv3の状態で呼び出せるにも関わらず、弾は敢えてブレイドラをLv1の状態で呼び出した。それが示す意味はただ一つしかない。


 


「駆け上がれ!神の名を持つ赤き龍!太陽神龍ライジング・アポロドラゴン、召喚!不足コストはブレイドラより確保!」


 


【ブレイドラ


コア3→0】


 


【太陽神龍ライジング・アポロドラゴン:赤・スピリット


コスト7(軽減:赤3):「系統:神星・星竜」


コア1:Lv1:BP6000


シンボル:赤】


 


弾の目の前。フィールドの上空で真っ赤に燃える太陽が出現し、大地を熱していく。その熱は地中の中に眠るその龍を呼び起こし、激しい風圧が吹き荒れると共に地面が砕け散る。砕けた地面から出現する、太陽のように赤く燃える紅蓮の身体。膝、両肩、胸、頭に埋め込まれた光り輝く翠色の宝石。金色の装甲が全身を包み、空へと金色の翼を広げ、太陽神龍は太陽の炎を払い、降臨する。


 


「来た!弾さんのエーススピリット!」


「太陽神龍……」


「さらにブレイヴ、砲竜バル・ガンナーを召喚。不足コストは、ブレイドラ、ソウルホースより確保」


 


【ブレイドラ


コア1→0】


 


【ソウルホース


コア2→1:Lv2→1:BP2000→1000】


 


【砲竜バル・ガンナー:赤・ブレイヴ


コスト4(軽減:赤2):「系統:地竜・星竜」


シンボル:赤】


 


背中に二台の砲門を背負った赤い小型のドラゴンの姿をしたブレイヴ、砲竜バル・ガンナーが召喚される。その召喚と同時にブレイドラが不足コスト確保の為に消滅する。


 


「砲竜バル・ガンナーを太陽神龍ライジング・アポロドラゴンに直接合体!」


 


【太陽神龍ライジング・アポロドラゴン


コスト7+4→11


BP6000+2000→8000


シンボル:赤+赤】


 


砲竜バル・ガンナーの身体と背中の砲台が分離する。そしてその身体が消滅し、バル・ガンナーの砲台がライジング・アポロドラゴンの背中に装着され、ライジング・アポロドラゴンが空を舞い、同時に弾の金色のアーマーの赤いラインが一際強く輝く。


 


「はぇー……赤のブレイヴ」


「似合いますね、彼に」


「あの、合体するとバトルフォームにも変化が現れるのってアニメらしくない?」


「……何か、流石に安心しすぎじゃない?」


 


幾ら自分達の常識をいとも簡単に打ち破り、エーススピリットとブレイヴを呼び出したからといってもまだバトルに勝ったわけではないのだ。弾からすれば最後まで油断など出来る訳が無いのだろうが、彼女達にとってはその真剣な姿そのものに安心感を得ているのだろう。尤も、それは未来も同じではあるのだが。


 


「アタックステップ。ぶち抜け、合体スピリット!Lv1のエメアントマンに指定アタック!さらに砲竜バル・ガンナー、合体時効果!このスピリットのアタック時、デッキから1枚ドローし、BP4000以下の相手スピリット1体を破壊する!もう1体のエメアントマンを破壊!」


 


バル・ガンナーの照準がエメアントマンへと向けられる。一瞬の溜めの後に放たれた炎の弾丸は、そのままエメアントマンを燃やし尽くしながら吹き飛ばしていく。


 


『エメアントマン、破壊時効果。ボイドからコア1個を自分のリザーブに置く』


 


とはいえ、相手もまたただではやられない。エメアントマンの効果であるコアブーストによってリザーブにコアを増やし、次のターン以降に備えていく。


 


「続けて、合体スピリットのメインのアタック!」


 


だが、まだアタックは終わってはいない。ライジング・アポロドラゴンが翼を広げ、一気に飛び出すともう一体のエメアントマンを勢いよく蹴り飛ばす。


 


『エメアントマン、破壊時効果。ボイドからコア1個を自分のリザーブに置く』


「ターンエンド」


 


ノイズのリザーブに増える合計二個のコア。これがどう響いてくるのかはまだ予想出来ないが、何れにせよ警戒を怠る訳にはいかない。


 


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。将軍アントマンを召喚』


 


【将軍アントマン:緑・スピリット


コスト7(軽減:緑5):「系統:殻人・怪虫」


コア3:Lv2:BP7000


シンボル:緑】


 


ノイズのフィールドに出現する、新たなアントマン。二本脚で立ち上がり、四本の手で刀を握る、四刀流を操る昆虫型スピリット。鎧のような黒い殻を纏い、赤い目を光らせたその存在は登場と共に甲高い金切り声を上げる。


 


『将軍アントマン、Lv1・2効果。系統:「殻人」を持つ自分のスピリット1体につき、このスピリットをBP+2000する』


 


【将軍アントマン


BP7000+2000×2→11000】


 


ノイズのフィールドに存在する系統:「殻人」を持つスピリットは将軍アントマンと女王アントレーヌの二体。よって、二体分のBP上昇が将軍アントマンに与えられ、太陽神龍を超えるBPを手にする。


 


『カラクリバッタを召喚』


 


【カラクリバッタ:緑・ブレイヴ


コスト4(軽減:緑2・白1):「系統:怪虫・樹魔」


シンボル:緑】


 


ノイズのフィールドに出現するブレイヴ、カラクリバッタ。木の身体を鋼鉄のパーツで固定させたバッタの形状をしたブレイヴの出現に弾もまた身構える。


 


『カラクリバッタを将軍アントマンに直接合体』


 


【将軍アントマン


コスト7+4→11


BP7000+2000×2+4000→15000


シンボル:緑+緑】


 


カラクリバッタの形状が分離する。そして、将軍アントマンの全身に更に木製の鎧が追加され、次なる装甲が将軍アントマンに更なる力を追加させる。


 


「……」


 


相手も合体スピリットを繰り出してきた。その事実を認識しながら、弾は将軍アントマンの動きを注意深く確認していく。


 


『アタックステップ。合体スピリットでアタック』


 


将軍アントマンが四本の刀を同時に構え、一瞬にして飛び出していく。弾のフィールドに存在するブロッカーはソウルホースのみ。しかし、このアタックをライフで受けてもまだ弾のライフは残るだろう。が、ノイズは自身の手札から一枚のマジックを取り出して更なる追撃を狙おうとする。


 


『フラッシュタイミング、マジック、タフネスリカバリーを使用。不足コストは女王アントレーヌより確保』


 


【女王アントレーヌ


コア3→2:Lv2→1:BP7000→4000】


 


『このターンの間、スピリット1体をBP+2000する。合体スピリットを指定』


 


【将軍アントマン


BP7000+2000×2+4000+2000→17000】


 


『その後、そのスピリットがBP10000以上のとき、そのスピリットを回復させる』


 


将軍アントマンの身体が緑色の光に包まれて回復する。そして将軍アントマンが振り上げた四本の刀を前に、弾はただ静かに口を開いた。これ以外の選択肢はないというかのように。


 


「ライフで受ける!」


 


ダブルシンボルの刃が弾の身体へと叩きつけられる。通常の一撃とは比べ物にならないそのダメージが弾の身体を襲う。しかし、その痛みは弾にとってはバトルで経験できる掛け替えのないものでしかない。その痛みに耐えきると、不敵な笑みを浮かべる。


 


『合体スピリットでアタック』


「ソウルホースでブロック」


 


更に行われる二度目の合体アタック。これはソウルホースでブロックするしかない。ソウルホースが一瞬だけ宙に浮くようにして勢いを付けると、将軍アントマンへと特攻していく。BPの差でソウルホースの敗北は免れない。しかし、相手が回復マジックを使った事により、弾は手札のマジックを使う機会を手にしている。それが、このターンを突破する鍵となる。


 


「フラッシュタイミング、サジッタフレイムを使用。不足コストはソウルホースより確保」


 


【ソウルホース


コア1→0】


 


ソウルホースが消滅し、将軍アントマンがソウルホースへ向けて振り上げた刃は虚空を斬る。同時に空から降り注いだ無数の炎の矢は女王アントレーヌの身体に次々と突き刺さっていき、その身体を焼き尽くしていく。


 


「BP合計5000まで相手スピリットを好きなだけ破壊する。女王アントレーヌを破壊する」


「し、凌ぎきった!」


「おお!」


 


【将軍アントマン


BP7000+2000×1+4000+2000→15000】


 


『エンドステップ。カラクリバッタ、合体時効果。このスピリットは回復する。ターンエンド』


 


弾の防御に四人の観客達も歓声を上げる。そしてノイズのターンが終わる直前に将軍アントマンの身体を再び緑色の光が包み込み、その身体を回復状態へと変化させる。そして、残りライフを1に減らされた弾の、執念場とも言うべきターンが訪れる。


 


「ここで決めさせてもらう。スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。砲竜バル・ガンナーを分離」


 


【砲竜バル・ガンナー


コア1:Lv1:BP2000


シンボル:赤】


 


ライジング・アポロドラゴンの背中のバル・ガンナーが外れ、その砲台の下にドラゴンの身体が再び出現する。スピリット状態に戻ったバル・ガンナーが小さな土煙を上げながら着地すると同時に、弾は次なる一手を用意する。


 


「ライジング・アポロドラゴンをLv3にアップし、アタックステップ」


 


【太陽神龍ライジング・アポロドラゴン


コア1→5:Lv1→3:BP6000→11000】


 


「……あれ?」


「あのままならBPが互角だったのに……」


「わざわざ分離を……?」


 


バル・ガンナーを壁として立たせておきたいという防御的な行動か。いや、そんな訳が無い。弾は寧ろ、本気で攻め込むためにバル・ガンナーを分離させたのだ。


 


「いけ、ライジング・アポロドラゴン!合体スピリットに指定アタック!」


 


ライジング・アポロドラゴンが咆哮を上げ、将軍アントマンへと飛び掛かる。しかし、そのBPは僅かに将軍アントマンの方が上であり、将軍アントマンはライジング・アポロドラゴンを迎撃するべくその刃を振り抜く。それを紙一重でライジングが避け、一旦距離を取るとそれを皮切りとして弾はこの戦いを勝利に導くマジックを繰り出す。


 


「フラッシュタイミング、マジック、バーニングサンを使用!牙皇ケルベロードをノーコストで召喚!」


 


【牙皇ケルベロード:青・ブレイヴ


コスト5(軽減:赤2・青2):「系統:異合・皇獣」


シンボル:青】


 


弾の手札のブレイヴカードが青い光に変換され、一度空へと打ち上げられる。そしてそのカードは弾のフィールドのライジング・アポロドラゴンのカードに重なり、同じくして弾の目の前から放たれた青い光の中に黒い身体に青い棘と赤い装飾を身体に生やした異合の獣、牙皇ケルベロードが出現、そのまま空中を駆け、背を向けたライジング・アポロドラゴンに衝突する。


 


「そしてライジング・アポロドラゴンに合体させ、回復する!」


 


【太陽神龍ライジング・アポロドラゴン:赤+青


コスト7+5→12


BP11000+5000→16000


シンボル:赤+青】


 


ライジングの翼がケルベロードのものである赤と黒の織り交ぜられた翼に変化する。同時に全身の球体が青く染まり、そこに黒い装飾が追加され、装甲も厚くなる。同じく弾のアーマーの赤いラインも青く染まっていく。


 


「こ、今度は青のブレイヴ!?」


 


バーニングサン。それは、自分の手札にあるブレイヴカードをカード名にアポロと入っている自分のスピリット1体に直接合体するようにコストを支払わずに召喚し、そのスピリットを回復させるマジック。その効果はカード名にアポロと入っているライジング・アポロドラゴンにも有効なのだ。


 


「BPが上回った!」


「行け、合体スピリット!」


 


BPを逆転させたライジング・アポロドラゴンが将軍アントマンへと接近する。その身体に四本の刀を振り上げた将軍アントマン。しかし、その刃はライジング・アポロドラゴンの身体を斬る事は出来ず、逆に刀身の方が折れ、甲高い金属音を鳴らしてしまう。そして、ライジング・アポロドラゴンの振り上げた拳が将軍アントマンの堅い殻を砕き、その身体を破壊する。


 


「ライジング・アポロドラゴン、Lv3合体時効果!このスピリットのアタック時、BPを比べ相手のスピリットだけを破壊したとき、相手のスピリット/ブレイヴ/ネクサス、どれか1つを破壊する!カラクリバッタを破壊!」


 


砕かれ、残骸だけとなって地面に転がるカラクリバッタ。しかし、分離して生存することも許さないと言わんばかりにライジング・アポロドラゴンの口が開き、そこから放たれた高熱のブレスがカラクリバッタを焼き尽くす。


 


「駆けろ、合体スピリット!牙皇ケルベロード、合体時効果!アタック時、デッキを上から5枚破棄することでターンに1度回復する!」


 


太陽龍ジーク・アポロドラゴン、金牛龍神ドラゴニック・タウラス、光龍騎神サジット・アポロドラゴン、魔羯邪神シュタイン・ボルグ、輝竜シャイン・ブレイザー。五枚のカードが破棄され、それによってライジング・アポロドラゴンは再び起き上がる。そして放たれたメインのアタックを前にノイズが行う選択肢は一つしか残されていない。


 


『ライフで受ける』


 


ライジング・アポロドラゴンの口から放たれた炎が、ノイズのライフを奪い取る。そして、ライジング・アポロドラゴンにはまだ最後のアタックが用意されている。そのアタックを、弾は宣言した。


 


「合体アタック!」


『ライフで受ける』


 


そして、ライジング・アポロドラゴンの最後の攻撃は、ノイズの最後のライフを削り取り、弾を勝利へと導いてみせたのだった。


 


 



 


 


「あ、あの……ありがとうございました」


 


エクストリームゾーンから出てきた弾に四人が駆け寄ってくる。この窮地を、命を救ってくれた恩人に礼をする。弾は優しく笑いかけながらそれに応えると、彼女達に優しく言葉を告げていく。


 


「別にどうということはないよ。それより、早くシェルターに行った方が良い。俺が連れていくよ」


「あ、ありがとうございます」


「はぇえ……何かアニメみたいな展開になってきちゃった……」


「アニメじゃなくて現実なんだけどね……」


 


弓美に苦笑する三人。こんな状況ではあったが、いや、こんな状況だからこそ、こんな穏やかな一時の雰囲気が彼女達の心に安らぎをもたらすのだろう。とはいえ、何時までも弾に世話になる訳にもいかない。すぐに地下に行こうと未来が口を開く。


 


「じゃあ、早く地下に……」


「ええそうね。四人とも地下に行ってもらおうかしら。そっちの方が私にとってとても都合がよくなるから」


「「!」」


「「「?」」」


 


瞬間、聞こえてきたのは了子の声。その事に気付いた未来は了子も無事だったのかという意味で僅かに安心感を見せる。しかし、弾は違う。弾は既に彼女の正体を知っている。知っているからこそ、彼女の言っている言葉の意味を理解し、反射的に四人を庇おうと前に出ようとする。しかし、その前に四人の身体は、ネフシュタンの武装である長い鞭に絡み取られ、縛られてしまう。


 


「「「「きゃああああ!?」」」」


「!皆!」


「ふふ……もう少し遅かったらどうなっていたかしら」


「……何のつもりだ。桜井了子……いや、フィーネ!」


「……え?」


 


縛られたことによる僅かな痛みが腰や背中に縛られている腕を襲う。しかし、それぐらいは別に耐えられないものではない。既に非日常的な光景にある程度の耐性が出来てしまっている未来は、他の三人よりは冷静な思考で、弾が言っていた言葉の意味。桜井了子が敵の親玉であるフィーネであるという衝撃の真実に驚き、それが真実かどうかを確かめるべくこの鞭を展開している存在に目を向ける。そこにいたのは、


 


「彼女達は関係ないだろう!」


「ええそうね。関係なかったわ。でも……私の目的を確実に遂行する為には、貴方が必要なのよ。だから、人質を取らせてもらうわ」


 


弾のような上半身を守るのではなく、全身を包む金色のアーマー。その両肩からは四人を縛っている鞭が伸びており、それを右手で軽く持っている長い金髪の女性。その女性の声は、今は敢えてその声音、口調に戻しているのだろう。了子のものであった。


 


「まさか、卑怯なんて言わないわよね?これも戦術の一つなんだから」


「……何が狙いだ」


「いずれ分かるわ、いずれね……けど、それを貴方は結局知ることになる。だから、来てもらうわ。アビスへとね……」


「アビス、だと……?まさか……」


「あら、鋭いわね」


 


アビスには、フィーネが狙っていたデュランダルがある。今までは二課自体が様々な要因でデュランダルの使用を制限していたためにフィーネは自由に使う事が出来なかった。だからこそ、クリスを利用して奪い取り、自由に使えるようにしようとしていたのだ。しかし、もうこんな状況になればそんな問題は気にしなくてもいい。自分が取りに行けばいいのだから。まだ弦十朗達は自分の居城から急いでこちらに戻ってきている途中だ。変な邪魔が入る前に出来るだけ事を進めておき、準備を整えておきたい。


 


「さぁ、来るといいわ。貴女達にも見せてあげる。特等席で、じっくりと私の成すことをね……」


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