第34話 終わりの名を持つ者

リディアンの中にある、二課へと続くエレベーター。それに乗せられた弾はフィーネ、そして彼女に人質として囚われている未来、創世、詩織、弓美らと共に地下へと向かっていた。しかし、エレベーターは二課のある階層では止まらず、そのままもっと下にある最下層、アビスへと移動する。


 


「ね、ねぇ何でリディアンにこんなものが……?」


「わ、分からないよ……それに、この状況、どうしたら……」


「多分、チャンスが来る筈だから、それまでは……」


「そうですね……」


 


四人はぼそぼそと囁くように会話する。フィーネには聞こえないように細心の注意を払ってはいるのだが、その会話をフィーネが聞いてない訳が無い。しかし、敢えて彼女は四人の会話が耳に入っていないように振る舞う。


 


「……」


 


そこで自分に何をさせようというのか。フィーネは自分の計画には弾が必要だと言っていた。そして、その為に弾をアビスへと連れて行こうとしている。何の目的で。それだけではない。フィーネが作り出したカ・ディンギルの所在まで未だ不明なのだ。一体、


 


(……カ・ディンギル?塔……?)


 


ふと、気付く。エレベーターの降下スピードから判別しても、ここはかなりの高さがあるということに。もし、今響達がいるスカイタワーが自分たちのミスリードであるとした場合、誰にも気付かれずに塔を作れる場所が一体どこにあるというのか。


 


「……フィーネ。まさか、カ・ディンギルというのは……」


「あら?もう気付いちゃったの?その時のお楽しみにしておきたかったのだけれど」


 


とうとう気付いてしまったか。そう言わんばかりのどこか寂しそうな笑みを見せるフィーネ。しかし、既に弾が気付いているのなら、もう隠し通している意味はないだろうとして、弾に真実を突き付けるべくその口を開く。


 


「察しの通りよ。カ・ディンギルを地上に建造できる訳が無い。でも……地下なら?それも、丁度御誂え向きのカモフラージュまであるのに、それを利用しない手はないわよね?」


「……二課、いや、アビスそのものがお前の用意したカ・ディンギルか……!」


 


そう。使い方によっては大きな危険を生み出す完全聖遺物であるデュランダルを隔離するために遥か地下にまで建造されたアビス。それ自体が塔の内部のような形状をしており、デュランダルを安置させる場所があった。全ては時が来た時にアビスを地上へと出現させる時に備えてのカ・ディンギル製造に繋がるわけだ。


 


「そう。そして私はデュランダルを引き金とし、他の十二の聖遺物を使って弾丸を放ち、悲願を叶えようとしていた」


「していた……!?まさか、お前!」


「お喋りはここまで。到着したわよ?アビスに」


 


カ・ディンギルの目的。その為に利用される聖遺物。そしてフィーネが求めている自分の役割。その全てを理解した弾も流石に驚いた表情を見せる。しかし、それと同時にエレベーターが軽く揺れ、動きを制止させたことを確認し、フィーネはアビスへと歩いていく。ここで弾が付いていかなければ四人の命は無い。明言はせずとも態度でそう示されている以上、弾は彼女についていくしかない。そして、アビスの最下層にはデュランダル、いや裁きの神剣が安置されているのを見ると、フィーネは薄気味悪い笑みを浮かべながらそれを手に取る。


 


「ここに立ちなさい」


 


命令に従うしかない。バトルに持ち込めればともかく、今の弾がゲートを開こうとすれば、それに気付いてフィーネは即座に四人を殺すだろう。普通の身体能力でもフィーネには遠く及ばない弾は、フィーネの言うとおりにデュランダルが置かれていた場所に立つ。すると次の瞬間。弾の足元が変化し、それは弾にも見覚えのある床になる。六角形をしたその形状は、


 


「これは、コアブリット!?」


「そう。やっぱり魔族時代に行っているらしい貴方も知っているのね。でも、その反応のおかげでより、私は強い確証を得られたわ」


「何……?」


 


次の瞬間。六角形の形をした床から六角形の光の壁が出現し、それが弾の身体を包んでいく。間違いない。これはあの時と同じだ。つまり、カ・ディンギルの本当の姿とは。


 


「さて、これで激突王、いやブレイヴ使いを定位置へと付けた。後は……エネルギーを補充するだけ。本来ならば装者との戦いで残りのエネルギーを回収するつもりだったが……少しでも稼げるときに稼いでおくのが良いか」


 


しかし、カ・ディンギルの姿については言及しないまま、フィーネは指を鳴らす。すると、ここから離れた場所、スカイタワー付近に落ちていたコアブリットが突然起動し、空を飛んでリディアンへと飛来する。それは、天井を、二課を突き破って天井部分が空洞となっているアビスの中へと入り、フィーネの目の前でその動きを制止し、地面に着陸する。


 


「な、何これ……」


「の、乗り物なの?でも、こんなの見たことが……」


「チャンスをやろう」


「えっ?」


「きゃっ!?」


「皆!」


 


無造作に振るわれた鞭から投げ出される四人。地面を軽く転がっていくが、フィーネも怪我をさせないように注意していたのだろう。彼女達に損傷は見えない。だが、それはフィーネにとっては彼女達は割れ物のように慎重に扱う必要があったからそうしたに過ぎない。


 


「コアブリットに乗り込め。そして私とバトルをするがいい。勝てばお前達も、馬神弾も解放してやろう」


「!君達がそんなバトルを受ける必要はない!このバトルは俺がやる!」


「ふん、お前にも分かっているだろう?そこにいる限り、お前はゲートを開けない。さぁどうする?言っておくが、受けぬなら死が待っているだけだぞ?」


 


神々の神剣を向けながら、フィーネは威圧的に四人に語りかける。と、その瞬間にフィーネの右目が薄くだが赤い光を帯びる。


 


「!?目が……」


「お前達も知らぬ遠い時に時代の流れに逆らえずに朽ちた、第二王子以前のソードアイズの右目を奪っただけだ。だが……それによってこの神剣が使えるのは、神の代行者となった男が証明している。ソードブレイヴ!」


 


フィーネの手にある剣が光を放つ。次の瞬間、デュランダルが一枚のカードとなり、裁きの神剣リ・ジェネシスとなってフィーネの手に収まる。


 


「さぁどうする?やるか、やらないか。今すぐ絶望に染まるか、限りなく低き希望に縋るか。選ぶのはお前達次第だ」


「ど、どうなってるの……?剣がカードに……」


「……私がやる」


「ヒナ!?」


「あ、危ないですよ!?」


 


手を震えさせながら、未来は一歩前に出る。三人も慌てて未来を止めようとするが、足が動かない。しかし、未来にはまだ希望があった。響達と言う希望が。だからこそ、こんなところで負けるわけにはいかない。自分達を守ってくれた弾の為にも、今度は自分が勇気を奮い立たせて立ち上がる時なのだ。


 


「いいだろう。ならば乗り込むがいい。コアブリットに」


 


フィーネに促されるようにコアブリットに乗り込む。使い方は分からないが、流石のフィーネもそこまでは求めないだろう。気持ちを落ち着けるように深呼吸をしながら、心配そうに駆け寄ってくる三人に視線を向ける。


 


「ヒナ……」


「大丈夫。きっと……やり遂げて見せるから」


「……頑張って!アニメだと、こういう展開のときはきっと勝てるから!」


「うん」


「無理はしないでくださいね……?」


「分かってる」


「いくぞ、ゲートオープン、界放!!」


 


フィーネがそう宣言すると、リディアンの上空にバトルフィールドが出現する。同時にコアブリットの開閉部分が閉まり、未来の身体が全身を包む赤い装飾を施された黒いスーツのバトルフォームに包まれていく。そして、コアブリットが稼働し、勢いよく空へと飛び出した。


 


「きゃああああああ!?」


 


未来の身体にかけられる負荷は相当なものだ。フィーネが機体をコントロールしているからまだ良いものの、もしこれを未来が使おうものなら、ユース以上の大惨事を引き起こすのは目に見えているだろう。


 


「あ、うぅ……」


 


そのままバトルフィールドへと突入した未来は、生死の危機すら感じ取りながら必死にハンドルを握って変形していくコアブリットの中で早く終わってくれないかを願い続ける。そして、コアブリットがバトルフィールドの台にセッティングされ、漸く落ち付くと、力が抜けたかのように自分がハンドルとして握っていたプレイボードに倒れかかる。


 


「……う、うわぁあ……すっごい怖そう」


「ヒナ……」


「何でこんなことを……」


「くくく……この程度でそんなに弱っていては、このバトルを最後まで続けることなど出来はしないぞ?先行はくれてやる。かかってくるがいい」


 


同じくバトルフィールドにネフシュタンを使って飛び込んできたフィーネ。その両肩の鞭が光と共に消え、デッキの中に吸い込まれていく。そしてこれから起こるバトルの光景はアビスにいる四人の目の前にモニターで中継され、四人がそのバトルを見ている中、バトルが行われることとなる。


 


「す、スタートステップ!ドローステップ!メインステップ!ネクサス、獣の氷窟を配置!」


 


【獣の氷窟:白・ネクサス


コスト4(軽減:白2)


コア0:Lv1


シンボル:白】


 


未来の背後に巨大な洞窟が出現する。その壁からは牙のような無数の氷の柱が生えており、それが全体を覆っている。


 


「ターンエンド!」


 


獣の氷窟は、Lv1・2効果によりお互いのアタックステップ時、BP4000以下のスピリットのアタックではお互いのライフは減らないという特徴がある。一先ずこのネクサスを出して相手の出方を見るべきだと判断したのだろう。


 


「所詮気休め程度のネクサス……スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、メインステップ。ネクサス、彷徨う天空寺院を配置!」


 


【彷徨う天空寺院:赤・ネクサス


コスト5(軽減:赤3)


コア0:Lv1


シンボル:赤赤】


 


フィーネの背後に出現する巨大な大陸。龍の姿を模したその大陸は、熱く燃えるマグマのエネルギーのようなものを秘めているのが確認出来る。


 


「ターンエンド」


「……スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!ザニーガンを召喚!」


 


【ザニーガン:白(赤)・スピリット


コスト1(軽減:白1):「系統:武装・空魚」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:白(赤)】


 


未来のフィールドに出現する赤を基調としたザリガニ型の戦闘機スピリット、ザニーガン。鋏の形をしたブースターを地面に向け、ゆっくりと降下して地面に着地して待機していく。


 


「さらに、ミブロック・パトロールを召喚!」


 


【ミブロック・パトロール:白・スピリット


コスト3(軽減:白1):「系統:機人」


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:白】


 


青と銀を基調とした、和風に近いデザインをした装甲に身を包んだ機人スピリットが出現する。その手には刀が握られており、頭の後ろには髷のようなものも確認出来る。


 


「獣の氷窟をLv2にアップ!」


 


【獣の氷窟


コア0→1:Lv1→2】


 


「バーストをセットしてターンエンド!」


 


フィールドに次々と戦力を集結させていく。フィーネがどんなデッキを使うのかは分からないが、こちらは打てる手を可能な限り打って備えるしかない。そんな、フィーネの強いプレッシャーに当てられている未来を面白そうに見ると、フィーネは次の自分のターンを宣言する。


 


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。カメレオプスを召喚!」


 


【カメレオプス:赤・スピリット


コスト3(軽減:赤2):「系統:爬獣・星魂」


コア1:Lv1:BP2000


シンボル:赤】


 


フィーネのフィールドに召喚される赤のカメレオン型スピリット、カメレオプス。その効果は、大型スピリットの召喚補助。このスピリットとネクサスを揃え、フィーネは自身の手札に眠るスピリットを呼び出す。


 


「カメレオプスの効果により、本来のコストが7以上のスピリットを召喚するとき、このスピリットに赤のシンボルを2つ追加する!」


 


【カメレオプス


シンボル:赤+赤赤】


 


「さらに自分が本来のコストが8以上のスピリットを召喚するとき、彷徨う天空寺院を疲労させることで、既に2コストまで支払ったものとして扱う。これにより、私がこれから呼び出すスピリットはコスト-2、さらに5つの赤のシンボルによりコスト-7!来るがいい!十剣聖スターブレード・ドラゴン!召喚!」


 


【十剣聖スターブレード・ドラゴン:赤・スピリット


コスト8(軽減:赤6):「系統:剣使・星竜」


コア1:Lv1:BP7000


シンボル:赤】


 


天空から炎が降り注ぐ。その炎の中で心地よさそうに存在するのは、白銀の鎧を纏い、赤く燃えるような刀身を持つ二本の刃を握る赤きドラゴン。まだたったの4ターンだというのに、これ程のスピリットをバーストでも踏み倒しでもなく正規の方法で召喚した。その事実に未来も驚いたように目を見開く。


 


「嘘!?」


「いきなり大型スピリット!?」


「で、でもまだLvは1!そう派手には動けない筈……」


「全く、装者もレベルが低すぎるわ。シンフォギアは、聖遺物はもっと優れた力を持つ」


「……え?」


 


不敵な笑みを浮かべながら、だが残念な表情を見せながらもフィーネは自分の作り上げたシンフォギアについて語り始める。


 


「シンフォギアにはアームドギアと呼ばれる武装が存在する。私はそれを、ソードブレイヴを参考にして作り上げた。彼女達はそれをトリガーのためのもの程度にしか思ってないようだけど……当然、それだけじゃない。鎧たるシンフォギアがアルティメットを示すなら、彼女達の握る武器、アームドギアは何に当たるのかしら?」


「……え?それって……」


 


ここまで言われれば、シンフォギアのことを知らない未来でも分かる。シンフォギアがアルティメット。ならばそのシンフォギア装者の握る武器はそのままアルティメットの―――


 


「まぁ、作られた年代を考えれば十二宮Xレアや裁きの神剣らは仕方ないのだけれど……仮にもシンフォギアを操るなら、暴走などを引き起こさないために設けられた無数のプロテクトを自力で解除してこの境地に辿り着いて欲しかったのものね。さぁ見なさい!ブレイヴ使いよ!これが、武器となった聖遺物、アームドギアが見せる力!竜骨棍カノープス、召喚!」


 


【竜骨棍カノープス:青・ブレイヴ


コスト2(軽減:青1):「系統:剣刃」


シンボル:なし】


 


フィーネのフィールドに空から落ちてくる巨大な三節棍。その端には竜の口のようになっており、その存在は他のブレイヴとは何か異なる気配を感じさせる。


 


「何、これ……」


「アームドギアは装者の想い、感情などによってその形状が変化する性質がある。ガングニールが拳という形で現れ、イチイバルが銃という形に変化したように。これも同様。鞭という形状を取っていたネフシュタンの武装など、仮の姿でしかない。無論、このブレイヴの姿も真の姿では無いのだろう。いや、強いて言うならば……異界王が遺し、それを聖遺物として再生したこの鎧は、存在そのものがアームドギアといったところか。今の私ではこれしか具現できないが……いずれは裁きの神剣の力と合わせて様々なアームドギアを具現できることだろう」


「何なの……この人……」


「……」


 


フィーネの話を聞きながら、弾はカノープスに視線を移す。彼女が呼び出したそのブレイヴが、生半可な存在であるわけが無い。気を付けろ。口に出しても届かぬ言葉を、弾は心の中で呟く。


 


「お前には過ぎた力だが……試運転だ。この使い心地、お前で試してやろう!竜骨棍カノープスを十剣聖スターブレード・ドラゴンに直接合体!」


 


【十剣聖スターブレード・ドラゴン:赤+青


コスト8+2→10


BP7000+2000→9000】


 


スターブレード・ドラゴンがその手の剣を全て投げ捨て、地面に突き刺さったカノープスを引っこ抜く。そしてそれを構えるのと同時に青い光が全身から漲っていく。


 


「バーストをセットし、アタックステップ!合体スピリットでアタック!この瞬間、竜骨棍カノープスの合体時効果によりアタック中、合体スピリットは最高Lvとなる!」


「え!?」


 


【十剣聖スターブレード・ドラゴン


Lv1→4:BP7000→20000+2000→22000】


 


「嘘!?いきなりBP22000に!?」


「十剣聖スターブレード・ドラゴン、Lv2・3・4アタック時効果!BP+5000!」


 


【十剣聖スターブレード・ドラゴン


BP20000+2000+5000→27000】


 


「またBPが……」


「さらに十剣聖スターブレード・ドラゴン、合体時効果!Lv3・4アタック時、BP7000以下の相手スピリット1体を破壊する!ザニーガンを破壊!」


 


スターブレード・ドラゴンの口から放たれた炎がザニーガンを包み込む。一瞬にしてザニーガンが消し飛ぶが、まだスターブレード・ドラゴンのアタックは終了していない。


 


「さらに!」


「まだ!?」


「十剣聖スターブレード・ドラゴン、アタック時効果!最もBPの高い相手スピリットを破壊する!消し飛ぶがいい!ミブロック・パトロール!!」


 


カノープスを振り抜き、ミブロック・パトロールを一撃で粉砕する。そしてスターブレード・ドラゴンが回転させたカノープスが、未来へと襲い掛かる。


 


「ら、ライフで受ける!?」


 


カノープスが未来へと叩きつけられる。未来を守るように出現した赤い半透明の球体のバリアを貫き、その衝撃が強烈な痛みとなって未来へと襲い掛かる。


 


「きゃあああああ!?」


「あら……人工のバトルフィールドに慣れちゃった貴女には少し痛すぎたかしら?本場は10倍は痛いという話もあるぐらいだし。でも、この程度で倒れるのは許さないわよ?」


 


ライフカウンターも兼ねている胸のプレートに表示されているコアの1つが消え、そこから白い煙が上がる。そしてその痛みに耐えきれず、崩れ落ちる未来。彼女を可哀想に見ながら、フィーネは静かにエンドステップを宣言しようとする。


 


「まだ……終わってない……!ライフ減少によりバースト発動……!」


 


痛みに耐えながらも、必死に未来は立ち上がり、バーストを起動させる。未だかつて経験したことのないその痛みを受け切りながらも、こっちに向かってきているであろう響達の姿を思い浮かべ、心を奮い立たせる。


 


「氷の覇王ミブロック・バラガン!!このスピリットをバースト召喚!」


 


【氷の覇王ミブロック・バラガン:白・スピリット


コスト7(軽減:白4):「系統:覇皇・機人」


コア3:Lv2:BP9000


シンボル:白】


 


未来のフィールドに吹き荒れる氷の嵐。それが一瞬にして吹き飛ばされると同時に現れる氷のように冷たい鋼鉄の鎧。翼のように大きく広げられた鋼鉄の羽に、左肩から盾のように巨大な鋼鉄の武装が取り付けられており、その鋼鉄の和服が静かに靡く。その右手には紅く光るレーザーの刃を出現させた刀が握られている。


 


「ふん、その程度些細なものだ。ターンエンド」


「来た!未来のキースピリット!」


「でも……この状況では……」


 


ミブロック・バラガンにはLv2・3のとき、相手のアタックステップ開始時に自分のスピリット1体を手札に戻すことで、そのコストまで相手のスピリットを好きなだけ手札に戻す効果がある。しかし、今のスターブレード・ドラゴンはコスト10。仮にカノープスがいなくともコストが足りず、戻せないのだ。それをどう対処するかが未来の運命を決める別れ道となる。


 


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!極星剣機ポーラ・キャリバーを召喚!」


 


【極星剣機ポーラ・キャリバー:白・ブレイヴ


コスト5(軽減:白2・赤2):「系統:動器」


シンボル:白】


 


二つのミサイルと一本の剣が戦闘機のようなフォルムのパーツによって一つにまとめられた小型戦闘機型のブレイヴが召喚される。白のブレイヴであり、その巨大な力を組み合わせ、未来はこの状況を対処しようとする。


 


「氷の覇王ミブロック・バラガンへ直接合体!」


 


【氷の覇王ミブロック・バラガン


コスト7+5→12


BP9000+6000→15000


シンボル:白+白】


 


ポーラ・キャリバーが剣とミサイルに分離し、ミサイルがミブロック・バラガンの背中に装着される。そしてミブロック・バラガンの左手にポーラ・キャリバーの刃が握られる。


 


「ほぉ?」


「バーストをセットしてアタックステップ!合体スピリットでアタック!」


「カメレオプスでブロック」


 


ミブロック・バラガンが二刀流となって襲い掛かる。そのアタックの前に立ち塞がったカメレオプスの身体が両断され、いとも簡単に砕け散っていく。


 


「スピリット破壊によりバースト発動。双光気弾。デッキからカードを2枚ドローする。フラッシュ効果は使わない」


「獣の氷窟、Lv2効果!相手のスピリット/マジックの効果で相手の手札が増えたとき、増えたカード1枚につき、自分はデッキから1枚ドローする!2枚ドローしてターンエンド!」


「まぁ普通なら恐怖に支配されて極端に守りに入るところをこうして攻めに転じるところは悪くない。適性さえどうにかすればお前も使えたかもしれないな……まぁ、もう遅すぎることだが。スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。まさかその程度で封じたつもりか?カノープス、分離!」


 


【竜骨棍カノープス


【スピリットソウル:青】


コア1:Lv1:BP2000


シンボル:なし】


 


カノープスがスターブレード・ドラゴンの手から投げられ、地面に突き刺さる。それと同時にスターブレード・ドラゴンの手に再び赤い剣が出現し、それを握り直す。


 


「くくく……やはりコストの高いカードは効率よくエネルギーを溜められる。スピリット然りアルティメット然り」


「……え……?」


「手札の龍の覇王ジーク・ヤマト・フリードを破棄!現れるがいい!世界作りし神の刃!裁きの神剣リ・ジェネシス!召喚!」


 


【裁きの神剣リ・ジェネシス:赤・ブレイヴ


コスト6(軽減:赤3):「系統:剣刃」


コア2:Lv1:BP6000


シンボル:赤赤】


 


白銀のその巨大な刀身には剣先から読み上げるとサバキノシンケンの合わせ文字が見える模様が刻まれていた。その圧倒的な巨大さを持つ剣が、天空から一筋の雷鳴と共に地面に突き刺さる。


 


「裁きの神剣よ、星の剣操りし竜と一つとなれ!裁きの神剣リ・ジェネシスを十剣聖スターブレード・ドラゴンに合体!!Lv2となれ!」


 


【十剣聖スターブレード・ドラゴン


コスト8+6→14


コア1→3:Lv1→2:BP7000→10000+10000→20000


シンボル:赤+赤赤】


 


スターブレード・ドラゴンの手の剣が再び投げ捨てられる。そして自身の身長を遥かに超える大剣と言っても差し支えのない裁きの神剣を握ると、それを勢いよく引き抜く。まるで、それを所持するスピリットにとってはまるで重さを感じさせない動きで軽く裁きの神剣を振ると、その力を全身に漲らせ、赤い光を解き放ちながら剣を未来へと向ける。


 


「!?」


 


瞬間、未来は本能的な恐怖と威圧感を同時に感じ取っていた。さらに、フィーネにも変化が現れていく。全身の金色のアーマーは黒く染まっていき、彼女の背後から赤黒い光の翼のようなものが出現していったのだ。


 


「嘘!?ダブルシンボルでBP+10000のブレイヴ!?」


「な、何なのこれ!?こんなのが、本当に有り得るの!?」


 


自分達の常識がいとも簡単に崩れていく。ノイズに人は勝てないという概念も、自分達の知るブレイヴという概念も、自分達の知るバトルと言う概念も。


 


「フィーネ……」


 


裁きの神剣。その威力に未来は耐えられるのか。もしこのバトルの目的が弾の予想通りであれば、フィーネも未来を殺すような真似はしないだろう。しかし、それでも彼女が大きく傷つくのは間違いない。


 


「バーストをセットしアタックステップ。さぁどうする?カノープスを手札に戻すか?」


「……ミブロック・バラガンの効果は……使わない……!」


「ほう?」


 


ポーラ・キャリバーと一つになった事でミブロック・バラガンのコストは12。これならばコスト10となっていたスターブレード・ドラゴンを手札に戻す事が可能だった。しかし、リ・ジェネシスと一つになったことでそのコストは14。スターブレード・ドラゴンを戻せない今、ここは用意していたもう一つの策に頼る事にする。


 


「合体スピリットでアタック!アタック時効果!BP+5000!」


 


【十剣聖スターブレード・ドラゴン


BP10000+10000+5000→25000】


 


「更なるアタック時効果!消し飛ぶがいい!氷の覇王!」


 


スターブレード・ドラゴンが裁きの神剣を振り上げる。ミブロック・バラガンが両手に握ったその刃を交差させてスターブレード・ドラゴンの攻撃を受け止めようとするが、その防御ごとスターブレード・ドラゴンは破壊し、力任せに両断してしまう。


 


「ポーラ・キャリバー分離!」


 


【極星剣機ポーラ・キャリバー


コア2:Lv1:BP6000


シンボル:白】


 


ミブロック・バラガンから分離したミサイルと剣が戦闘機の外郭パーツと連結し、再び戦闘機の姿へと戻っていく。まだ終わらない。こちらにはまだ弾にも見せていない切り札がある。それを呼び出し、そのカードに全てを託す。


 


「ミブロック・バラガンの破壊により、バースト発動!!魁の覇王ミブロック・ブレイヴァー!!」


 


バースト発動時に白のスピリットが破壊されていた場合、ミブロック・ブレイヴァーは召喚することが可能となる。そして、ミブロック・ブレイヴァーの効果を最大限に活かす為に未来はミブロック・バラガンを残してポーラ・キャリバーを生存させる道を選択したのだ。


 


「バースト召喚!」


 


【魁の覇王ミブロック・ブレイヴァー:白・スピリット


コスト10(軽減:白3):「系統:覇皇・機人」


コア2:Lv2:BP9000


シンボル:白】


 


桃色の桜の花びらが突如としてフィールドに舞い上がる。その中で青く光る刀身の刀を手にしていたのは、白銀の強固な装甲にその身を包み込んだ巨大な武士型スピリット。ミブロック・ブレイヴァーが降臨する。


 


「ほう、バーストで呼び出したか。ならばこのアタックはどうする?」


「ライフで受ける!!」


 


スターブレード・ドラゴンが振り上げた裁きの神剣をその身で受ける宣言をした未来。その小さい身体に容赦なく叩きつけられた剣は、未来のライフを一気に三つ奪い取ると同時に、その身体を勢いよく吹き飛ばす。


 


「……ぁ……」


「「「!」」」


 


勢いよく床に叩きつけられ、肺の中の空気が全て外に出る。大きく咳込みながらも何とか立ち上がる未来を見ながら、フィーネはどこか狂気に塗れたような笑みをその表情に出す。


 


「くくく……よく耐えた。おかげで、もう少し臨めそうだ」


「まだ……終わってない……!絶対に、最後まで諦めない!」


「ならば足掻け!ターンエンド!」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!」


 


意気込んでデッキからドローしたカードを見る。しかし、駄目だった。この四枚のカードでは、この状況を打開できない。しかし、最後まで諦める訳にはいかなかった。皆の為に、弾が立てないからこそ、自分が立っているのだ。負ける。仮にそう分かっていたとしても、ここで投げ出す訳にはいかなかった。


 


「バーストをセット!そして極星剣機ポーラ・キャリバーを魁の覇王ミブロック・ブレイヴァーに合体!Lv3にアップ!」


 


【魁の覇王ミブロック・ブレイヴァー


コスト10+5→15


コア2→5:Lv2→3:BP9000→13000+6000→19000


シンボル:白+白】


 


再びポーラ・キャリバーが分離し、ミサイルがミブロック・ブレイヴァーの背中に背負われる。そしてその手に剣が握られ、ミブロック・バラガンと同様の二刀流を手にする。


 


「ターンエンド……!」


「ふん、万策尽きたか。スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ネクサス、侵されざる聖域を配置!」


 


【侵されざる聖域:白・ネクサス


コスト3(軽減:白2)


コア0:Lv1


シンボル:白】


 


「!!」


 


フィーネの背後に出現する小さな草原。それを守るように無数の白い植物が取り囲んだ形状のネクサス、それを見た未来の瞳が大きく揺らぐ。


 


「お前が狙っていたコンボは、確かに決まれば強力なものだ。魁の覇王ミブロック・ブレイヴァーがいる限り、私は一度もアタックしなければそのアタックステップ終了時にライフを1つ奪われる。かといってライフを惜しんでアタックをすれば、それを迎撃しポーラ・キャリバーの効果で私のカードをバウンスする。加えてそこにミブロック・バラガンを加えれば私のアタックステップでバウンスを行うことで私の手札が増え、ミブロック・ブレイヴァーの効果で私のバーストを破棄し、スピリット破壊をトリガーとするバーストの発動すらも許さない布陣が築かれる。が……お前のバトルは、私には通用することはない!」


 


未来は自分の手札に視線を移す。ライフが1となったことでバーストとして使えなくなった絶甲氷盾。相手のアタックを凌ぐための幻影氷結晶。この状況では完全に腐ったカードとなった次元断の三枚。これでは、今のスターブレード・ドラゴンを止める事は不可能だった。


 


「合体スピリットより裁きの神剣を分離!そしてカノープスを合体!」


 


【裁きの神剣リ・ジェネシス


コア1:Lv1:BP6000


シンボル:赤赤】


 


【十剣聖スターブレード・ドラゴン:赤+青


コスト8+2→10


コア3→2→3:BP7000+2000→9000】


 


裁きの神剣が地面に突き立てられ、その横にあるカノープスを再び引き抜くスターブレード・ドラゴン。これで全ての準備は整った。そう言わんばかりにフィーネは歓喜に溢れた叫びを上げる。


 


「アタックステップ!やれ、合体スピリット!アタック時効果!カノープスによりLv4へ!そして自身のアタック時効果によりBP+5000!」


 


【十剣聖スターブレード・ドラゴン


Lv2→4:BP10000→20000+2000+5000→27000】


 


「アタック時効果により、合体スピリットを破壊する!」


 


ミブロック・ブレイヴァーへとカノープスを叩き付けるスターブレード・ドラゴン。それをポーラ・キャリバーで受け止めると、力任せにその身体を吹き飛ばし、背中のミサイルをスターブレード・ドラゴンへと放つ。しかしそれを前にしたスターブレード・ドラゴンはカノープスを投げ、ミサイルを貫いて破壊、さらにもう一基のミサイルにはその口から放たれた炎弾をぶつけることによって破壊する。そして落下したカノープスを勢いよく蹴り飛ばしてミブロック・ブレイヴァーへと叩き付け、それを防御するべく両腕を交差させたミブロック・ブレイヴァーの頭を掴み、力任せに床に叩き付け、そこに口から高熱のブレスを放ち、その身体を破壊する。


 


【極星剣機ポーラ・キャリバー


コア1:Lv1:BP6000


シンボル:白】


 


ポーラ・キャリバーが分離する。しかし、ブレイヴの生存すらも許さないと言わんばかりのスターブレード・ドラゴンの更なる効果が発揮される。


 


「Lv3・4合体時効果により、BP7000以下のポーラ・キャリバーも消し飛べ!!」


 


スターブレード・ドラゴンの口から放たれた炎弾が、身体を再構築している所のポーラ・キャリバーに命中。一瞬にして燃え尽きる。


 


「相手のアタックによりバースト発動!光速三段突!」


「ふん、やはりそれだったか。だが……無意味なのはお前も分かっているだろう。無駄と分かって足掻くか!!侵されざる聖域の効果により、白のマジックは受け付けない!」


 


光の剣が現れ、本来ならば相手スピリットをデッキの一番下にバウンスするという強力な効果を発しようとする。しかし、侵されざる聖域、Lv1・2効果によりコスト8以上の自分のスピリットすべてに、装甲:紫/緑/白/黄/青が与えられている今、その光の剣は白のマジックを遮断するスターブレード・ドラゴンの身体を貫く事は無かった。


 


「フラッシュタイミング!幻影氷結晶!」


「諦めが悪い!装甲:白!」


 


スターブレード・ドラゴンの前に立ち塞がる氷の壁。しかし、それに触れた瞬間、スターブレード・ドラゴンの身体から放たれた白い光が氷の壁を打ち砕き、未来の用意した全ての防御を突破して目の前に現れる。そして振り上げられたカノープスが、未来の最後のライフを奪い取るために振り下ろされた。


 


「……」


 


最後のライフが砕かれた未来の身体が静かに崩れ落ちる。一言も声を発さずに。声も出せなくなった未来が最後に思った事。それは、


 


(ごめんね……響)


 


まだこの場に来れていない、大切な友人の姿だった。

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