第31話 集いし三勇士

「……?」


 


クリスが使用しているアパート。そこに訪れた弾は、そこにいつもいるクリスの姿が無い事に気付く。彼女も常日頃、こんな所にいる訳ではないだろうからいないこと自体は別に可笑しいことではない。いないのなら仕方ないと今日も持ってきた食べ物を置いて二課へ向かおうとして玄関に足を向けた時だった。


 


「これは……」


 


玄関の近くの棚に、一つの手紙のようなものがあるのを見つける。今までなかったものが何故あるのか。それを開いた弾の視界に飛び込んできたのは、決着を付けに行ってくる。そう短く書かれた文章。それが意味することは一つしかないだろう。


 


「……クリス」


 


フィーネと自分の因縁に決着を付けること。そのこと自体は別に弾も異論はない。しかし、今の未知数の彼女に不用意に激突しに行くのはあまりにも無謀だ。


 


「……」


 


フィーネの居城の場所を知らない弾は、彼女がどこに行ったのかは分からない。しかし、彼女の身を案じれば自分も向かうべきだろう。何も情報が無くてもやるしかない。そう思い、アパートを飛び出した弾の前に現れたのは、二課の職員達だった。


 


「……?あんた達は……」


 


一瞬驚いた目を見せるが、すぐに弾は納得する。今にして思えば、街中でエクストリームゾーンへのゲートを開き、そこに行ったのだ。それを二課が知らない訳が無いだろう。となれば、あのバトルを見てクリスがフィーネの側から離反したことも当然知っている筈。


 


「……随分と人が悪いじゃないか。知っていて何も言わないとは」


「今回に関しては弾君も人の事は言えないと思うけどね」


「……ふっ、そうだな」


 


二課の職員達の中から現れた朔也の言葉を苦笑しながら受け止める弾。だがおそらく弦十朗達が働きかけたことでクリスのことはある意味弾任せになっていたのだろう。そして、クリスのことはまだ響や翼にも伝えられていない。少なくとも、以前のノイズの襲撃から判断した限りではそう考えるのが妥当だろう。


 


「大丈夫。彼女の方は司令達が向かっているよ」


「そうか……」


 


なら大丈夫。とは言い切れないだろう。少なくとも、フィーネが持っているその戦力がまだ計り知れないという所を見れば。


 


 



 


 


少しだけ時は遡る。深い森の中に建てられたフィーネの居城。静かな雰囲気を見せているその館の周囲には、様々な銃器を持つ男たちが息を殺して潜伏していた。そして、館の中に備え付けられた巨大なコンピュータに集中し、周りの見えていないその女性は、背後から銃器を突き付けられて初めて自分への敵意を知る。


 


「!米国の……」


 


彼女が驚いた瞬間。畳みかけるように窓が割れ、空から屈強な体付きの男たちが部屋の中に飛び込んでくる。そして、彼女に更なる反応を許さないと言わんばかりに間髪いれずに放たれた無数の弾丸が、彼女の全身を貫き、その茶髪が宙に舞う。


 


「……フィーネ。いや、桜井了子。手前勝手が過ぎたな。聖遺物に関する研究データは我々が活用させてもらおう。お前の働き、勲章ものだぞ」


 


その中で隊長格と思われる一人の屈強な男性が英語で話す。彼女の目の前に横たわる、フィーネが持つもう一つの姿、桜井了子を冷たく見下ろしながら。


 


「……尤も、脳も心臓も貫かれた以上は既に生きてはいないか」


 


掠める準備が出来れば用済みだ。変に活かしておけば反逆だの革命だのを引き起こされる可能性すらあるう。ならばどうするか。答えは単純、始末することだ。目的を成し遂げた男たちは、目的の研究データを得ようとした、その瞬間だった。


 


「……ふふふ……ははは……」


 


死んでいる筈の了子の体が震えた。震え、そして高笑いが響き渡る。


 


「何……だと……!?」


「何!?心臓と脳を貫かれれば人は死ぬのではないのか!?」


 


自分達の常識を覆す目の前の現象に、男達も戸惑うしかない。そんな男たちの目の前で笑い続ける、身体中に無数の穴を空けられたフィーネは既に筋肉も精神も機能していない筈なのに、ふらふらと立ち上がり、この世のものとは思えない形相を浮かばせる。


 


「なぁんちゃってぇ?ほんと、おかしくって腹痛いわぁ?」


「どういう……ことだ……!?」


「まるで意味が分からんぞ!?」


「見せてあげるわ!もっと面白いものを!」


 


瞬間、了子の胸元から放たれた赤い光が全身から発せられた金色の光と合わさっていく。次の瞬間、その全身に空いていた銃弾の穴が次々と埋まっていく。


 


「……耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えて、耐えた甲斐あったぁ!今こそ、私が動く時!」


 


そして次の瞬間、その全身を金色の鎧が包み込んでいく。髪は白く変色していき、その瞳もフィーネのものである金色のものへと変化していき、髪飾りが砕け散り、腰までその髪は伸びていく。


 


「どういうことだってばよ……!?」


「これぞ、伝説の力!」


「伝説って?」


「ああ!これこそが力だ!異界王の力と一つとなり、私自身が異界王となることだ!」


 


その右手にソロモンの杖が出現する。それを無造作に振り抜くと、生じた旋風が男達を次々と吹き飛ばしていく。


 


「イワァァァアアアアアク!!」


「ぶるぁあああああああああ!!」


「ぎにゃあああああああああ!」


 


様々な悲鳴と共に叩きつけられる男達。それを無造作に見ながら、フィーネはあくどい笑みを浮かべていく。


 


「最後に一つだけ疑問に答えてあげるわ……何故、私が銃弾で死ななかったか。その理由は単純明快」


 


そしてソロモンの杖を男達に向け、勝ち誇った声で静かに宣言する。


 


「今の私はバトルスピリッツでしか死なないからよ。さぁ来なさい。貴方達全員、デッキぐらいは持っているでしょう?エクストリームゾーンを経由して溜めてきたエネルギーだけど、もっと直接的に蓄積させる方がよっぽど効率的に集められる。貴方達は、その糧となる!ゲートオープン!界放!!」


 


フィーネがそう宣言した次の瞬間。屋敷の上空に六つの赤、白、紫、緑、黄、青の光輪によって囲まれた光の球体が出現する。同じくして彼女の纏う鎧、ネフシュタンから放たれた無数の鞭が男達を全員縛り、それらを連れて窓から飛び出したフィーネは、その球体の中へと飛び込んでいくのだった。


 


「お楽しみは、これからよ!」


 


 



 


 


フィーネが消え、あらゆる命が消えた屋敷。フィーネが消えてから数十分後にクリスは明らかに異質な状況へと変わり果てたその屋敷の中に足を踏み入れていた。


 


「……これは、何が……?」


 


戦闘があったことはあちらこちらにある血痕や破壊された跡から分かる。フィーネとの因縁はあくまで自分自身の問題。それに弾達を巻きこむ訳にはいかないとして一人で来たのはよかったが、フィーネは存在していない。この戦闘の痕から予測しても、彼女がここに戻る事はないだろう。


 


「……やはりか」


「!」


 


背後から聞こえた男性の声に驚いたように振り返るクリス。その視界の先にいた人物は弦十朗。まさか彼はこの状況を自分が作り出したと考えているのだろうか。


 


「ち、違う!これをやったのはわたしじゃない!」


 


自分の無実を宣言するクリス。しかし、彼女の言葉を待たずに部屋に突入してきた銃器を手にしたサングラスとスーツを身に付けた男たちは、クリスには目もくれずに部屋全体に散らばり、調査を開始していく。


 


「誰も、お前がやったなどと疑っていない。君と弾君のバトルを見た者ならば全員な」


「なっ……!?」


 


クリスの目が驚いたように見開かれる。あのバトルが二課に知られていたなど、弾は一言も言っていなかった。彼の性格を考えれば、その事実はきっと自分に伝えられるというのに。だとするなら、考えられるのは一つ。


 


「……あいつにも言っていなかったのか」


「ああ。あのバトルを彼女が見ていなかったおかげで助かった。実質的に弾君が君を保護してくれている形になった事で、彼女からの危機から君を遠ざけることが出来た。そう、俺達や君の近くにいた存在から」


「え……?」


 


フィーネの正体。それは、弦十朗も薄々感づいていたのだ。了子しか知らない筈のシンフォギアの情報、それをフィーネが所持し、イチイバルというシンフォギアの製造という形でその情報を利用している。他にも、二人が同一人物であるならばイチイバルやネフシュタンの紛失もやりやすくなるといった所だろう。


 


「……弾もそれを知っていて私のことを……?」


「それは分からないがな。彼の事だ、きっと了子君のことは信用しているだろう。もしフィーネとして立ちはだかろうものなら、その時はその時で彼なりに向かい合うだろう……それより、君はどうする」


「……え?」


 


おそらくフィーネも自分の正体が二課に知られていることを知っているだろう。ならば、もう二課に彼女が戻ってくる事はない筈だ。そして、米国という後ろ盾ももう存在しない。つまり、後が無い彼女はすぐにでも行動を起こしてくる筈だ。ならばその時、クリスはどうするのか。


 


「ノイズとの戦いに俺達が参戦することはできない。だからこそ、ギアを纏える装者に任せるしかない。しかし、弾君も言っていただろうが、君が戦いたくないというのなら、それを無理強いすることはしない。戦うか、戦わないか。君が決めるんだ」


「……そんなの」


 


戦わなくてもいい。いや、本当なら戦いに巻き込むこと自体、弦十朗にとっては後ろめたいことなのだろう。だからこそ、クリスに戦いへの迷いが一瞬でも見えれば、すぐにでも彼女を戦いへ向かわせない。そうするつもりだった。しかし、クリスの意思は固い。一度、首を横に振ると、


 


「まだフィーネとの決着は付いていないんだ。少なくとも、それが終わるまで私は戦う事を止めない。それが終わった後に私は……私の選びたい道を進む。それが……私がこの戦いの先に見ているものだ」


「……そうか……っと、そうだ。ほれ」


「ん?」


 


クリスの手に渡されたのは、クリスが元々使用していた通信端末とは別の通信機。これを渡してどうしようというのか。


 


「通信機?」


「ああ。それがあれば交通費とか自販機での買い物とかで便利になるぞ」


「……」


 


何故これを自分に渡してくれるのか。裏でもあるのかと考えたが、ここはこれ以上弾に任せてばかりにせずに自分で何とかしろと遠回しに言われているのだと考えて納得することにする。


 


「カ・ディンギル」


「?」


「フィーネが言っていたんだ。それはもう完成しているって……それが何なのかは分からないけど」


「そのことを弾君には?」


「言っていない。このことだって今思い出したんだ。フィーネのことを考えていた時に偶然。確か、意味は塔だった筈」


「……」


 


それが何なのか。既に完成しているとはどういうことなのか。いや、謎は置いておく。今やらなければならないのは、本人が何かをする前に止めること。もう後手に回りはしない。ここから先手を打ちに行く。


 


「どうせ、俺達とは一緒に来ないだろう?」


「……ふぅん、よく分かってるじゃん」


「まあな。気を付けろよ」


 


車を発進させていく弦十朗。同時に携帯を取り出し、二課と通信をする。


 


「俺だ」


「弦十朗」


 


弾の声が聞こえてくる。どうやら彼もクリスと同じように知ったようだ。しかし、彼はまだ知らない。了子の正体を。それを告げる前に弦十朗は二課にいる弾達にある質問をする。


 


「了子君は?」


「いや、俺達が来た時にはいなかった」


「そうか……回線を響君と翼にも開いてくれ」


「了解しました」


 


あおいの声が聞こえ、更に二つの回線が開かれる。


 


「風鳴です」


「立花です」


「よし繋がったか。重大な情報を手に入れた。フィーネの目的だが……それがカ・ディンギルにあることが分かった」


「カ・ディンギル?」


 


古代の言葉で塔と言われる言語。それが完成されている事実が伝えられると、響はある疑問を口にする。


 


「でも、おかしくないですか?そんなでっかい塔があるんだったら、目立つ筈ですけど」


「或いは、私達が常日頃から見慣れている何かを作り変えていたという線は?」


 


響と翼。どちらの言い分も尤もなことだ。とにかく、現状では情報が少ない。とはいえ、敵に繋がる唯一の手掛かり。それを逃す訳にはいかない。その情報を調べてもらうように指示を出そうとした、その瞬間だった。


 


「!どうした!?」


 


アラームが通信の先で鳴り響く。その音のパターンから読み取れるのは、ノイズの襲撃。あおいがモニターに表示されたマップを読み取っていく。


 


「これは……大型ノイズ三機が接近中!この進路方向は……東京スカイタワー!?」


「「!」」


 


ノイズの出現を聞いた響と翼がそれぞれ動き出している中、判明したノイズの目的地。東京スカイタワー。もし、カ・ディンギルが塔を意味するのならば、そして誰もその塔の建造に違和感を持っていなかったとするなら。その疑問を解決する要素を、この東京スカイタワーは持っていた。


 


(スカイタワーには二課が活動に使用している映像や交信を統括制御する役割が備わっている……これが狙いか?)


(何だ……?この違和感は)


 


しかし、そう素直に受け取ってもいいものだろうか。これは、ミスリードを狙った、罠ではないのだろうか。とはいえ、これが罠だとしてもノイズが現れた以上、そちらを対処するしかない。しかも今回は大型。三人がかりで漸く何とかなるぐらいの代物だろう。


 


「罠かもしれないが、行くしかない!念のため、弾君は二課で待機、ノイズの撃退は響君と翼、そして弾君の活躍によって此方側に付いた新たな協力者の三名で行う!」


「「増援?」」


 


そんなこと聞いてない。そう言わんばかりに二人の口から疑問の声が漏れる。おそらくその言葉を聞いていればその協力者も同じことを言うだろう。


 


「いいのか?あいつ、怒るかもしれないぞ?」


「かもな。だが、この状況ではそうするしかない。弾君、要請は君に任せていいか」


「わかった、やってみるよ」


「あ、あの弾さん?」


「大丈夫さ。俺は信じてるからな」


「は、はぁ」


「貴方がそう言うならそれなりの人だとは思うけど……」


 


どうにも半信半疑になるしかない。しかし、弾が信じているのならきっと大丈夫なのだろう。そんな妙な安心感を抱きながら、弾は携帯を取り出して以前彼女から貰った番号に電話を掛けるのだった。


 


 



 


 


「こ、これって……」


 


そこにいたのは、巨大なエイのような姿をした三機のノイズ達がスカイタワーの周りを旋回している姿だった。現場に到着した響と翼は、人を襲ったりといった特有の行動を見せないそのノイズを見ながら、その狙いを注意深く探り始める。


 


「どうするべきか……相手に頭上を取られている時点で立ち回りにくいのは明白だ。しかも、あの手のノイズは大体母艦の役割を担っている……」


「つまり、あの中に大量のノイズがいるってことですか……?」


 


こちらは空を飛べない。どうにかして空中に行ければエクストリームゾーンへと引き込めるのだが。一応、大型ノイズの中の小型ノイズ達が降ってくる様子は見れないが、それもいつまでか。そう考えていた時だった。突然大型ノイズの背中で爆発が引き起こされ、その衝撃によって一体のノイズが地面に墜落してきたのは。


 


「「!?」」


 


第三者の攻撃。しかし、弾や弦十朗が言っていた協力者の言葉を思い出す。そして二人が後ろを振り向くと、そこにはギアを纏ったクリスの姿があった。


 


「……お前は」


「クリスちゃん!」


 


警戒した表情を見せる翼と、喜びを露わとする響。翼からすれば、その張本人に一時再起不能になるまでに叩きのめされた上にその存在は敵の手の者であったのだ。この状況だけ見れば彼女が協力者であろうが、本当にそうだという確証が得れない以上、警戒を解除することは出来ない。


 


「何でここに?」


「……ちっ、弾の奴にお願いされたから仕方なく来てやっただけだ!いいか、言っておくけどな、助っ人のつもりで来たんじゃねえ!」


「彼女が協力者だ。弾君の計らいでこの戦線において此方側で戦ってくれることとなった」


「うぐっ」


「……本当に彼女が?」


 


通信を通してあっさりとばらされる事実にクリスの表情が僅かに赤くなる。その事実を聞いた響の表情がさらに喜びに溢れ、翼もまた、疑惑が完全には消えていないのか、少しだけ怪しむような素振りを見せる。


 


「そうだ。彼女が第二号聖遺物、イチイバルのシンフォギアを纏う戦士、雪音クリスだ!」


 


どうやら事実のようだ。翼としては複雑だろうし、クリスとしても複雑な感情はあるだろう。しかし響にはそれはあまり関係ないようで、喜びながらクリスに抱き付いていく。


 


「うぇえ!?」


「クリスちゃん!ありがとう!絶対分かり合えるって信じてた!」


「こ、この馬鹿!私の話を聞いてねえのかよ!離せ!離せってば!」


 


響を何とか引き剥がそうとするクリス。今の彼女はどちらかというと羞恥の感情の方が大きいのだろう。翼も、彼女について思う所はあったがそれは一先ず置いておき、目の前の戦闘に意識を向けることにする。


 


「とにかく今は、連携してノイズを……!?」


 


二人の意識も戦闘に向けさせようとする。しかし、次の瞬間に三人を囲むように巨大なエイ型ノイズ二体が空から降下し、地面に落ちていたノイズが起き上がって飛び上がってくる。


 


「「「!!」」」


『ゲートオープン、界放』


 


さらに間髪いれずにノイズから雑音混じりの音声が響く。そして次の瞬間、スカイタワーの上空に六色の光輪によって囲まれた巨大な光の球体が出現する。


 


「え!?」


「ノイズがゲートを開いたのか!?」


「何だよあれ……あれもエクストリームゾーンなのか!?」


「……」


 


映像を通してスカイタワーの上空に出現したそれを見た弾の表情が固まる。何故それがここにある。そう言わんばかりの様子を見せる彼の視界に映る映像の中で三人の装者は、その空間に引き込まれていったかのようにその全身を光の粒子に包ませて球体へと消えていく。そして、ノイズ達も同じようにそのフィールドの中へと吸い込まれていくのだった。


 


「っ……こ、ここは?」


 


そこにあった空は、赤紫色をしていた。青空の人口のバトルフィールドや青を基調とした空のエクストリームゾーンとは違う。地面や台などの設備はエクストリームゾーンと似ている。対峙するノイズは三体が一体に集約された人型の個体となり、既に構えている。対峙する響は、自分が戦うのかと思って目の前のボードを見てある事に気付く。ボードが、三つ分連結したかのような形になっていることに。そして、その全てに一つずつデッキが置かれ、自分達のライフが8つになっていることにも。


 


「あ、あれ?これって……」


「まさか、タッグバトル……いや、この場合は……何だ?」


「な、何なんだよこのノイズは……」


 


フィーネが呼び出した、これまでとは異質なノイズ。そのノイズが仕掛けようとしているのは、タッグバトルルールによる、3VS1の特殊バトルだということは何とか三人にも理解出来た。


 


「タッグバトルか……」


 


特殊なバトルフィールドに驚きは確かに見せたが、すぐに平常に戻った弾はその映像を注意深く見る。


 


タッグバトルルールは、手札、デッキ、カードのトラッシュのみが独立しており、ライフ、リザーブ、コアのトラッシュ、フィールドは各陣営で共有のものとなり、自分フィールドはそのまま自軍フィールドとしても扱われる。ただし、リフレッシュステップで回復するカードはターンプレイヤーのコントロールするカードのみとなっている。また、マジックは自分か味方のフィールドを選んで効果を使用でき、初期ライフは8個でスタートする。その代わり、他のチームメンバーと同じ色のカードをデッキに入れないという縛りがあるが、響、翼、クリスの各デッキの色はかぶっていないため問題はない。


 


そしてターンは、ノイズ→響→ノイズ→翼→ノイズ→クリスの順番で行われることとなる。


 


『スタートステップ、ドローステップ、メインステップ。ジグザール鋼鉄草原を配置』


 


【ジグザール鋼鉄草原:白・ネクサス


コスト4(軽減:白2)


コア0:Lv1


シンボル:白】


 


ノイズの背後に鋼鉄の草木が生えた巨大な草原が出現する。光を次々と反射していくその鋼鉄の草原は、ある種の魅力を感じさせる。


 


『バーストをセット。ターンエンド』


「翼さん、クリスちゃん!ここは私に!」


「……ああ、頼む」


「別にどっちだっていいっての」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!メインステップ!ピナコチャザウルスを召喚!」


 


【ピナコチャザウルス:赤(緑)・スピリット


コスト1(軽減:赤1):「系統:地竜」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:赤(緑)】


 


まず響が召喚したのは、アンキロサウルスにも似た小型の恐竜型スピリット、ピナコチャザウルス。手始めに呼び出す低コストスピリットとしてはまずまずだろう。


 


(……緑)


(赤か……)


「さらにブロンソードザウルスを召喚!」


 


【ブロンソードザウルス:赤・スピリット


コスト3(軽減:赤2):「系統:地竜」:【連鎖:条件緑シンボル


コア1:Lv1:BP2000


シンボル:赤】


 


巨大な剣が尻尾となっている新たな恐竜型スピリットが呼び出される。このスピリットをこの状況で呼ぶことが出来たのは、とても大きな意味があると言えるだろう。


 


「ブロンソードザウルス、召喚時効果!相手のネクサス1つを破壊する!ジグザール鋼鉄草原を破壊!」


 


ブロンソードザウルスの振り抜いた尻尾の剣から放たれた斬撃が鋼鉄の草原を切り裂く。その斬撃を受けた鋼鉄の草原は消えるように消滅していき、ノイズのフィールドはがら空きとなる。


 


「よし、厄介な動きをされる前にネクサスを対処できたのは大きいぞ、立花」


「はい!さらに緑のシンボルとして扱うピナコチャザウルスが存在することで連鎖発揮!ボイドからコア1個をブロンソードザウルスに!」


 


【ブロンソードザウルス


コア1→2】


 


ネクサスの除去とコアブースト。この二つを同時にこなせたのは大きい。今回のバトルでは三人が連携してバトルを構築していく必要がある。その面で言えばコアは多すぎて困る事は絶対にない。


 


「ここは……ターンエンド!」


(バーストを警戒してターンを終えたか……ま、長期戦は必至だろうしな)


 


敢えて攻撃せずにターンを終えた響の行動は間違っていないだろう。それに、仮にアタックしてしまえば次の響のターンが来るまで疲労したスピリットは回復できないのだ。その点で言えば此方はアタックに慎重にならざるを得ない。


 


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。エゾノ・アウルを召喚』


 


【エゾノ・アウル:白・スピリット


コスト3(軽減:白1):「系統:機獣」


コア1:Lv1:BP2000


シンボル:白】


 


機械のエゾフクロウがノイズのフィールドに召喚される。その二枚の翼にはそれぞれ回転するプロペラの姿が確認出来る。


 


『アタックステップ』


「「「!」」」


『エゾノ・アウルでアタック』


 


エゾノ・アウルが飛翔し、急降下するように迫ってくる。そのBPは2000。ブロンソードザウルスでブロックすれば相討ちにできる。しかしここは、


 


「「「ライフで受ける!!」」」


 


コアが欲しい。その意志はシンクロしたのか、三人とも選択したのはライフで受けるという選択肢。エゾノ・アウルの巻き起こした風が八個あるライフの一つを砕く。


 


『ターンエンド』


「次は私が行かせてもらう!スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!鼬の暗殺者ウィゼーブ、碧海の剣聖マーマリアンを召喚!」


 


【鼬の暗殺者ウィゼーブ:青・スピリット


コスト0:「系統:獣頭」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:青】


 


【碧海の剣聖マーマリアン:青・スピリット


コスト3(軽減:青1・緑1):「系統:剣使・異合・創手」


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:青】


 


翼が呼び出したのは、黒い装束に身を包んだイタチの暗殺者、ウィゼーブ。さらに響のピナコチャザウルスが持つ緑のシンボルを併用することで最大軽減で青い鎧にその身を包んだ緑の髪を持つ金魚、マーマリアンが召喚される。


 


「さらにネクサス、海帝国の秘宝を配置!立花、ブロンソードザウルスのコアを1つ使わせてもらう!Lv2だ!」


 


【ブロンソードザウルス


コア2→1】


 


【海帝国の秘宝:青・ネクサス


コスト4(軽減:青2)


コア1:Lv2


シンボル:青青】


 


三人の背後に巨大な赤い水晶が出現する。さらにその水晶を三体の青い鉱物の龍が絡み合い、一つの秘宝としての姿を見せる。


 


「おお!翼さんのネクサス!」


(確かこの効果は……)


「ダイブ・アームズを召喚!不足コストはウィゼーブから確保する!」


 


【ダイブ・アームズ:青・ブレイヴ


コスト3(軽減:青2):「系統:造兵」


シンボル:なし】


 


ウィゼーブが不足コスト確保の為に消滅する。そして現れるのは、潜水服に似た強固な装甲に身を包んだゴーレム型のブレイヴ。


 


「ブレイヴ!ということは……」


「碧海の剣聖マーマリアンに直接合体!」


 


【碧海の剣聖マーマリアン


コスト3+3→6:【連鎖:条件緑シンボル


BP3000+4000→7000】


 


ダイブ・アームズの両腕に装着されていたパーツが外れ、新たな篭手としてマーマリアンの腕に装着される。残ったダイブ・アームズの体は消滅し、マーマリアンはトライデントのように三つに割れた剣を構える。


 


(一気に手札四枚消費か。随分と派手にやるもんだ……)


「アタックステップ!」


「……ん?」


 


先程、響はこちらの戦況を整えてから攻めることを選択していた。そのことに異論はない。しかし翼は、敢えて攻撃を仕掛けようというのか。


 


「お、おいちょっ……」


「いけ、合体スピリット!合体時効果発揮!アタック時、デッキから2枚ドローし、その後手札1枚を破棄する!だが、海帝国の秘宝、Lv2の効果により自分の青のスピリット/アルティメットの効果で破棄する自分の手札の枚数を-1枚する!よって、私が破棄するカードは0枚!」


 


損失した手札をドローによって補っていく。さらにマーマリアンの連鎖を発揮させていく。


 


「続けて連鎖発揮!緑のシンボルがあることでボイドからコア1個をこのスピリットに置く!」


 


【碧海の剣聖マーマリアン


コア1→2:Lv1→2:BP3000→5000+4000→9000】


 


ドローとコアブーストを両立させる。しかし、このアタックによって現象を引き起こすのはマーマリアンだけではない。


 


『エゾノ・アウル、相手のアタックステップ時効果。相手のスピリットがアタックしたとき、このスピリットは回復する。エゾノ・アウルでブロック』


 


回復したエゾノ・アウルがマーマリアンの前に立ちはだかる。だが、エゾノ・アウルの効果はこれだけではない。


 


『エゾノ・アウル、ブロック時効果。自分のバーストをセットしているとき、ボイドからコア1個をこのスピリットに置く』


 


【エゾノ・アウル


コア1→2:Lv1→2:BP2000→4000】


 


エゾノ・アウルにコアが追加され、Lvが上がる。しかし、それでもマーマリアンには遠く及ばない。剣を振り上げたマーマリアンの一撃によってエゾノ・アウルは両断される。


 


「や、やった!これでがら……」


『相手による自分のスピリット破壊後、バースト発動。重巡機ピーコックルーザー』


「「「!」」」


 


エゾノ・アウルの破壊が引き金となって起動するバースト。その力によってノイズのデッキの上から三枚のカードが表側となっていく。


 


「自分のデッキを上から3枚オープンできる。その中の系統:「機獣」を持つスピリットカード/アルティメットカードすべてを召喚できる」


 


バスター・フェンリルキャノン、機獣要塞ナウマンガルド、砲凰竜フェニック・キャノンの三枚がオープンされる。その中の召喚条件を満たしているカードは、バスター・フェンリルキャノン、機獣要塞ナウマンガルドの二枚。


 


『バスター・フェンリルキャノン、機獣要塞ナウマンガルドを召喚』


 


【バスター・フェンリルキャノン:白・スピリット


コスト5(軽減:白3):「系統:機獣」


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:白】


 


【機獣要塞ナウマンガルド:白・スピリット


コスト8(軽減:白3):「系統:機獣」


コア1:Lv1:BP7000


シンボル:白白】


 


白銀の装甲を持ち、背中に砲台を背負ったフェンリルが現れる。それだけでもかなり大きいが、その隣に現れたのはバスター・フェンリルキャノンが小型と思えるほどに巨大な、正に動く要塞とも言えるほどの巨体を持つ、全身を鋼鉄で包み込んだ巨大な像。銃の形をした牙を持ち、その背中には無数の砲台が姿を見せている。


 


「馬鹿な、一気に二体も召喚しただと……!?」


『召喚しない、または、残ったカードは破棄する。この効果発揮後、このスピリットカードを召喚する』


 


【重巡機ピーコックルーザー:白・スピリット


コスト7(軽減:白3・極1):「系統:機獣」


コア1:Lv1:BP6000


シンボル:白】


 


さらにノイズのフィールドに出現する、青を基調とした装甲に包まれた巨大な鳥型の機械スピリット。一気に大量展開を許してしまい、翼は苦々しげな表情を見せる。


 


「くっ、ターンエンドだ」


「どうしてあそこでアタックするんだよ!?これじゃ逆効果じゃねえか!」


『スタートステップ』


「何だと?」


 


ノイズがターンを開始する。しかし、そんなことはどうでもいいと言わんばかりにクリスは翼に掴みかかろうとする。


 


『コアステップ』


「ふざけるな、あそこでアタックしなければ手札もコアも増えない!」


「相手が何か仕掛けてんのは明白だろうが!攻め急ぐことはないだろうが!」


「何れ踏まなければならない罠だ!」


「ちょっ、翼さんもクリスちゃんも……」


『ドローステップ』


 


どっちも正論な売り言葉に買い言葉。そもそも、成り行きで共同戦線を張る事になったというだけで二人の仲は決して良いという訳ではない。そもそも、ファーストコンタクトの時を考えれば悪い間柄になっていない方がおかしいレベルだろう。


 


『リフレッシュステップ』


「その胸と一緒で我慢も碌に出来ない奴のせいで敵に塩を送る事になっちまってんじゃねえか!そのこと分かってんのか!?」


「……何だと?大体」


「い、今はバトル中ですよ!?翼さんもクリスちゃんも、ほ、ほら落ち着いて!」


 


慌てて響が間に割って入る。このままだと本気で殴り合いに発展しそうだ。それでも尚二人は食い下がろうとするが、幸運なのかどうかはともかく、ただバトルをしているノイズが変化を起こしてくれたおかげでそちらに意識を向けることとなる。


 


『リーディング・オリックスをLv2で召喚』


 


【リーディング・オリックス:白・スピリット


コスト3(軽減:白2):「系統:機獣」:【スピリットソウル:白】


コア2:Lv2:BP4000


シンボル:白】


 


ノイズのフィールドに召喚される、鋼鉄の二本の角を持つ、銅を基調とした装甲と部品で体を構築した機獣。既に三体の機獣が並んでいるが、これだけではまだ足りないということか。


 


『ジグザール鋼鉄草原を配置。不足コストは重巡機ピーコックルーザーより確保』


 


【重巡機ピーコックルーザー


コア1→0】


 


【ジグザール鋼鉄草原


コア0:Lv1


シンボル:白】


 


「二枚目……手札にあったのか!」


 


ノイズの背後に再び出現する鋼鉄草原。戦況を整えるとノイズはさらに響達のライフを奪う為のアタックを仕掛けていく。


 


『アタックステップ。機獣要塞ナウマンガルドでアタック』


「「「ライフで受ける!」」」


 


ナウマンガルドの背中の砲台の照準が響たちへと向けられる。続けてノーチャージで放たれたレーザーやビームの弾幕が響達のライフを一気に二つ砕いていく。


 


「うぇっぷ……何か、心なしか何時もより衝撃が大きいような……」


(……確かに。この謎のフィールドの力なのか?)


『リーディング・オリックス、Lv2・3効果。自分のアタックステップ終了後、自分のフィールドに白以外のスピリット/アルティメット/ネクサスがないとき、ドローステップを行う』


 


自分のフィールドを白で統一することで更にドローステップで手札を増やす事が出来るリーディング・オリックス。その効果はネクサスと組み合わせることでさらに爆発的な戦力増強が狙えるようになる。


 


『ジグザール鋼鉄草原、Lv1・2自分のドローステップ時効果。ドローするかわりに、自分のデッキを上から1枚オープンできる』


 


ノイズのデッキの上のカードがオープンされる。オープンされたのは虚械帝インフェニット・ヴォルス。系統:「機獣」を持つカードであるため、ネクサスの更なる効果が発揮される。


 


『そのカードが系統:「機獣」を持つカードのとき、ボイドからコア1個を自分のリザーブに置く。オープンしたカードは手札に加える。ターンエンド』


 


手札とコアを増やしてターンを終える。そして続くターンプレイヤーはクリスへと移る。


 


「くそ、何で初めてのターンで既にこんな状況に……スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!天使スピエル、天使グレット、天使ダリウスを召喚!」


 


【天使スピエル:黄・スピリット


コスト0:「系統:天霊」:【強化】


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:黄】


 


【天使グレット:黄・スピリット


コスト3(軽減:黄2):「系統:天霊」


コア1:Lv1:BP2000


シンボル:黄】


 


【光の天使ダリエル:黄・スピリット


コスト4(軽減:黄2):「系統:天霊」:【強化】


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:黄】


 


槍を持つ黒い帽子と衣服を纏った灰色の髪の天使、スピエル。右手にボウガンを装着した、茶髪に赤い目をした白黒のスーツと装甲を纏った白い翼を生やした女性、グレット。その手に音符を模した杖を持つ旋律が形になったかのような白い装飾を身体に装着している長い黒髪の女性型スピリットが現れる。


 


「ウィングアローを召喚!不足コストは海帝国の秘宝と合体スピリットより確保!」


 


【海帝国の秘宝


コア1→0】


 


【碧海の剣聖マーマリアン


コア2→1:Lv2→1:BP5000→3000+4000→7000】


 


【ウィングアロー:黄・ブレイヴ


コスト5(軽減:黄3・赤1):「系統:翼船」


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:なし】


 


弓と盾が合体し、それに翼が生えたような形状の、船のようにも見えるブレイヴが召喚される。召喚されたウィングアローから光る矢が出現し、その矛先が相手フィールドへと向けられる。


 


「ウィングアロー、召喚時効果!このターンの間、相手のスピリット1体をBP-3000する!2強化追加でBP-5000!ナウマンガルドを指定!」


 


【機獣要塞ナウマンガルド


BP7000-(3000+1000×2)→2000】


 


ウィングアローから放たれた矢がナウマンガルドに突き刺さり、そのBPを下げる。しかし、まだ終わらない。


 


「ウィングアローをダリエルに合体!Lv2へ!」


 


【光の天使ダリエル


コスト4+5→9


コア1→2:Lv1→2:BP3000→4000+3000→7000】


 


ウィングアローに備え付けられていた弓が分離し、それが杖を捨てたダリエルの手に収まっていく。新たな得物を手にしたダリエルは他の天使と共にノイズのフィールドへと攻め込む。


 


「アタックステップ!射抜け、合体スピリット!ウィングアロー、合体時効果で、リーディング・オリックスをBP-3000!こっちも2強化追加でBP-5000だ!」


 


【リーディング・オリックス


BP4000-(3000+1000×2)→0】


 


ダリエルが放つ矢がリーディング・オリックスの体を貫く。BPが0となったリーディング・オリックスの体が爆発し、フィールドから消えていく。


 


「この効果でBP0になったスピリットは破壊される!さらにダリエルのLv2・3効果!相手スピリットがターンで初めてBP0になったとき、ボイドから1個、自分のライフを回復させる!」


『ライフで受ける』


 


ダリエルの放った矢がノイズのライフに初めての傷を付ける。ここまできたらもうガンガン攻めきるしかない。


 


「さらに天使グレットでアタック!アタック時効果でナウマンガルドをBP-3000!これも2強化追加でBP-5000!」


 


【機獣要塞ナウマンガルド


BP7000-(3000+1000×2)-(3000+1000×2)→0】


 


グレットの右手から放たれた矢がナウマンガルドを貫く。二本の矢を突き立てられ、遂にBPが0となったナウマンガルドの身体が光を帯びていき、爆発する。


 


「この効果で相手スピリットがBP0になったときも、そのスピリットは破壊される!」


「や、やった!これで一気に二体のスピリットを……」


『機獣要塞ナウマンガルドの効果。相手によってこのスピリットが破壊されたとき、自分はデッキから3枚ドローし、ボイドからコア3個を自分のリザーブに置く』


「……え?」


 


響の口から呆けた声が漏れる。やっと破壊したと思ったらとんでもない置き土産を遺していき、ノイズの手札は三枚、さらに使えるコアまで三個も増えるという結果になってしまった。


 


『バスター・フェンリルキャノンでブロック。ブロック時効果、自分の白のスピリット1体につき、このスピリットをBP+2000する』


 


【バスター・フェンリルキャノン


BP3000+2000×1→5000】


 


バスター・フェンリルキャノンの銃口から放たれたレーザーがグレットを貫く。ブロックされたことでライフを削れず、しかも相手に次の攻め手を与える結果となってしまった事にはクリスも冷や汗を流すしかない。


 


「ちっ、ターンエンドだ」


「貴様どういうつもりだ」


「あぁ?何だよ……何見てんだよ」


 


先程までクリスのターンだったからだろう。敢えて何も言わないでいたが、ターンが終わった今となっては我慢する必要もないという事だろう。一方のクリスは自分に敵意にも似た感情を向ける翼を睨み返して応じる。


 


「何故ナウマンガルドを破壊した!それも、そんなに手札を消費してまで!補充する策もどうせないだろう!」


「誰のせいで無駄に使う羽目になったと思ってやがる!それにダブルシンボルが棒立ちしている状況を考えれば十分マシじゃねえか!」


「そのせいで相手のコアと手札が増えている!」


「元は誰のせいで早出しされたカードだよ!」


「……あ、あはは……」


 


もう笑うしかないだろう。弾や弦十朗が信じて送り出した三人なのに、その内の二人が仲違いをしている。無論、どちらの気持ちも理解できなくはないのだが、ぶつかり合わずに分かり合える筈なのに。そんな、不安を抱きながらもバトルはさらに進んでいくのだった。

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