第29話 イチイバルVS射手座の十二宮Xレア

弾 ライフ:4 リザーブ:0 トラッシュ:7 手札:6


 


フィールド


 


【白羊樹神セフィロ・アリエス:緑+赤・スピリット


コスト6(軽減:緑3)+5→11:「系統:光導・遊精」:【激突】


コア4:Lv3:BP10000+3000→13000


シンボル:緑】+【鳳凰竜フェニック・キャノン】


 


【金牛龍神ドラゴニック・タウラス:赤・スピリット


コスト7(軽減:赤4):「系統:光導・古竜」:【激突】


コア3:Lv2:BP8000


シンボル:赤】


 


 


クリス ライフ:6 リザーブ:2 トラッシュ:0 手札:8 バースト:あり


 


フィールド


 


【天使スピエル:黄・スピリット


コスト0:「系統:天霊」:【強化】


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:黄】


 


【光楯の守護者イーディス:黄・スピリット


コスト3(軽減:黄2):「系統:天霊」:【強化】


コア3:Lv3:BP3000


シンボル:黄】


 


【イーズナ:黄(赤)・スピリット


コスト1(軽減:黄1・赤1):「系統:戯狩」


コア3:Lv3:BP3000


シンボル:黄(赤)】


 


【生還者天使クロエル:黄・スピリット


コスト3(軽減:黄2):「系統:護将・天霊」:【分散:2】


コア3:Lv2:BP3000


シンボル:黄】


 


 


十七ターンに差し掛かる弾とクリスのバトル。弾のフィールドには疲労状態の金牛龍神ドラゴニック・タウラスと回復状態の、鳳凰竜フェニック・キャノンと合体した白羊樹神セフィロ・アリエスが存在する。対するクリスのフィールドには、疲労状態の天使スピエルと生還者天使クロエルが存在しており、イーズナと光楯の守護者イーディスが回復状態で存在している。そして現在は弾のメインステップ。


 


「さぁ……ここからさ。ターンエンド」


(……何を狙ってるんだ……?)


 


ドラゴニック・タウラスを召喚し、そのままターンを終える弾。その様子を不審に思いながら、クリスは続く第十八ターンを開始する。


 


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップは何も無し。ターンエンドだ」


 


今度はクリスが動かない。ドラゴニック・タウラスの効果はクリスもフィーネが記録している映像から確認している。もし、自分のライフを削ってくれるなら、それだけ使えるコアが増えるのだ。ここは逆に利用させてもらうとしよう。


 


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ドラゴニック・タウラスをLv3にアップ」


 


【金牛龍神ドラゴニック・タウラス


コア3→5:Lv2→3:BP8000→10000】


 


牡牛座の力を最大限に発揮させるため、コアを追加してLv3へと上昇させる。ここまではクリスも予想していた通りだ。そして弾は、自分の一手が読まれていることを感じ取りながら、敢えて望まれたとおりに動き出す。


 


「バーストをセット。動かせてもらう」


「!」


「アタックステップ、金牛龍神ドラゴニック・タウラス、いけ!激突だ!」


「イーズナでブロック!」


 


ドラゴニック・タウラスが咆哮を上げ、前足で軽く地面を掻く。そして勢いを付け飛び出すと、イーズナを一撃で吹き飛ばす。


 


「ドラゴニック・タウラスのアタック時効果!」


 


Lv2・3アタック時効果により、相手のスピリットがブロックしたとき、そのスピリットとシンボルの数を比べ、そのスピリットより多いシンボル1つにつき、相手のライフのコア1個を相手のリザーブに置く。さらに、Lv3アタック時効果により、ドラゴニック・タウラスの効果でシンボルの数を比べるとき、系統:「神星」/「光導」を持つ自分のスピリット1体につき1つ、ドラゴニック・タウラスに赤のシンボルを追加する。今回、条件を満たすのはドラゴニック・タウラスとセフィロ・アリエスの二体。よって、ドラゴニック・タウラスに赤のシンボルが2つ追加されることとなる。


 


【金牛龍神ドラゴニック・タウラス


シンボル:赤+赤赤】


 


「シンボルの差は2!よって、相手のライフのコア2個をリザーブに置く!」


 


ドラゴニック・タウラスから三つの赤のシンボルが出現し、イーズナから黄色のシンボルが一つ出現する。シンボルとシンボルがぶつかり合って一つのシンボルが潰されていき、残った二つの赤のシンボルがクリスのライフを撃ち抜く。


 


「ぐぅう!!」


「さらに合体アタック!フェニック・キャノン、合体時効果!激突!」


「光楯の守護者イーディスでブロック!」


 


フェニック・キャノンと合体したセフィロ・アリエスの背中の砲台がイーディスへと向けられる。間髪いれずに放たれた弾丸が、イーディスを炎で包み込み、瞬く間に消し去っていく。


 


「セフィロ・アリエス、Lv2・3バトル時効果!BPを比べ、相手のスピリットだけを破壊したとき、系統:「光導」/「星魂」を持つ自分のスピリット1体を回復させる!合体スピリットを回復させ、再び合体アタック!」


「っ、スピエル、ブロックだ!」


 


緑色の光を放ちながら回復したセフィロ・アリエスの連続アタックが襲い掛かる。激突によってブロックを強制されたクリスはスピエルでブロックを宣言する。杖を片手に果敢に飛び込んでくるスピエルだったが、セフィロ・アリエスは容赦なく背中の砲台でそれを撃墜させる。


 


「セフィロ・アリエスの効果!俺が回復させるのは、ドラゴニック・タウラスだ!」


「……!」


 


今度はドラゴニック・タウラスが回復され、雄叫びが上がる。十二宮Xレア同士の強力なシナジーによって生み出される調律は、正に敵を粉砕するという鉄の意思と鋼の強さを感じさせる。


 


「いけ、ドラゴニック・タウラス!」


「っ……フラッシュタイミング!エンジェルストライクを使用!このターンの間、相手のスピリット/アルティメット1体をBP-5000する!合体スピリットを指定!」


「!BPを下げるマジック……」


 


【白羊樹神セフィロ・アリエス


BP10000+3000-5000→8000】


 


「クロエルでブロック!」


 


【金牛龍神ドラゴニック・タウラス


シンボル:赤+赤赤】


 


二体の十二宮Xレアの力が重なり、シンボルが増加する。そして、クロエルとのシンボル差は二つ。二つの赤のシンボルがクリスへと襲い掛かり、そのライフを更に奪っていく。


 


「再びライフをリザーブ!」


「ぐふっ……!」


 


今まで敢えて仕掛けてこなかったのはこの贅沢なコンボを決める為か。普通なら時間を賭け過ぎていると一蹴するところかもしれないが、弾に関しては自分のバトルを貫く為に敢えて遠回りをすることも珍しくはない。もしかしたら、これもその一環と言えるのだろうか。


 


「……めるな」


「……?」


「私のデッキを、これ以上舐めるなぁ!!ライフ減少により、バースト発動!!砲天使カノン!!」


 


クリスのフィールドで表側表示となるバーストカード。そこから現れた、全身に機械的な青白い装甲を纏った一人の少女。その全身には無数の砲台が装着されており、青白い髪と瞳を見せながら無機質な表情でその砲台の銃口をセフィロ・アリエスとドラゴニック・タウラスへと向ける。


 


「!」


「自分のライフが3以下のとき、このターンの間、相手のスピリット/アルティメットすべてをBP-10000!加えて、この効果でBP0になったとき、そのスピリット/アルティメットを破壊する!」


 


【白羊樹神セフィロ・アリエス


BP10000+3000-5000-10000→0】


 


【金牛龍神ドラゴニック・タウラス


BP10000-10000→0】


 


カノンから放たれた無数の砲撃がドラゴニック・タウラスとセフィロ・アリエスを包み込む。砲撃に呑まれたセフィロ・アリエスはエンジェルストライクの効果も重なり、ドラゴニック・タウラスと共にBPが0となって破壊され、大爆発を引き起こす。


 


「鳳凰竜フェニック・キャノン、分離!」


 


【鳳凰竜フェニック・キャノン:赤・ブレイヴ


コスト5(軽減:赤2・白2):「系統:機竜・星魂」


コア1:Lv1:BP3000-10000→0


シンボル:なし】


 


爆発の中から現れるフェニック・キャノン。しかし、フェニック・キャノンはバースト効果終了後に分離された為、ターン中持続するカノンの効果で最初からBPが下がり、BP0となった状態で召喚されるもののカノンのバースト効果はすでに終了しているため、破壊される事はない。


 


「バースト効果使用後、カノンをバースト召喚!」


 


【砲天使カノン:黄・スピリット


コスト8(軽減:黄4):「系統:星将・天霊」


コア3:Lv3:BP10000


シンボル:黄】


 


一気に二体の十二宮Xレアを仕留め、バースト召喚まで決めて優位に立つクリス。彼女のフィールドを見ながら、弾も面白そうに口元に笑みを浮かべる。


 


「自分のスピリット破壊によりバースト発動!双光気弾!カードを2枚ドロー!」


 


だが、弾もただでは引かない。手札を補充し、破壊されたことで失ったカードアドバンテージをある程度リカバリーする。


 


「やるな……まさか、こっちが一掃されるとは思わなかった」


「散々蹂躙しておいてよく言うぜ……」


「だが、まだ奥の手があるんだろう?」


「……何?」


「君の力……君の歌が」


「……」


 


アルティメットのことを言っているのだろう。それぐらいはクリスにも分かる。だが、


 


「私は、歌なんて歌いたくはない」


「?何故?」


「私は自分の歌が嫌いだ……今はあんたのターンだろ」


「……ターンエンド」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!光の天使ダリエルをLv3で召喚!」


 


【光の天使ダリエル:黄・スピリット


コスト4(軽減:黄2):「系統:天霊」:【強化】


コア3:Lv3:BP5000


シンボル:黄】


 


旋律が形になったかのような白い装飾を身体に装着している長い黒髪の女性型スピリットが現れる。その手には音符を模した杖が握られているのが確認出来る。


 


「さらに、エンジェルエッグを召喚!」


 


【エンジェルエッグ:黄・ブレイヴ


コスト5(軽減:黄3):「系統:天霊」


シンボル:黄】


 


さらにクリスが呼び出したのは、黄色のブレイヴ。白い翼の生えた卵と言う奇妙な姿をしたそのブレイヴは、新たな天使を生み出す糧となる。


 


「カノンに直接合体!」


 


【砲天使カノン


コスト8+5→13


BP10000+3000→13000


シンボル:黄+黄】


 


エンジェルエッグがカノンの中に吸い込まれていき、カノンの背中から巨大な白い翼が生える。新たな翼を手にしたカノンが、エンジェルエッグの力を解き放つ。


 


「エンジェルエッグ、召喚時効果!手札の強化を持つ黄色のスピリット1体をノーコストで召喚する!光の天使ダリエルをLv3で召喚!」


 


【光の天使ダリエル:黄・スピリット


コア3:Lv3:BP5000


シンボル:黄】


 


一気に布陣を固めてくるクリス。守りを固めたクリスは、一度フェニック・キャノンしか存在しない弾のフィールドを見ると、


 


「アタックステップ!合体スピリットでアタック!」


 


カノンが翼を広げて急上昇し、弾へとその砲台を向ける。ダブルシンボルのこのアタックは防げないが、後続のアタックはここで止めるべきだ。そう考えた弾は一枚のマジックを使用する。


 


「フラッシュタイミング、トライアングルトラップを使用。相手のコスト4以下のスピリット3体を疲労させる!生還者天使クロエル、そして2体の光の天使ダリエルを指定!」


 


三角形の光の陣が出現し、三体の天使を呑み込んでいく。一気にスピリットを疲労させられ、攻撃も防御もままならない状態となったクリス。このままライフ2個のままターンを渡すのは少々心もとないと考え、クリスもまた手札からマジックを使用する。


 


「フラッシュタイミング!エンジェルストライクを使用!フェニック・キャノンのBPを-5000!2強化追加でBP-7000だ!」


 


【鳳凰竜フェニック・キャノン


BP3000-(5000+1000×2)→0】


 


「エンジェルストライクの効果でBP0となったスピリット/アルティメットは破壊される!」


 


二枚目のエンジェルストライクによってBPが0となるフェニック・キャノン。その身体が消し飛ぶと共に、二体のダリエルの手に持つ杖が黄色い光を帯びていく。


 


「これは……」


「光の天使ダリエル、Lv2・3効果!自分のアタックステップ時、相手スピリットがターンで初めてBP0になったとき、ボイドからコア1個を自分のライフに置く!2体の効果を発揮して2コア追加だ!」


 


クリスに復活するコアの輝き。再びライフを回復させて自分の生命線を太くしながら、今アタックしているカノンへと目を向ける。


 


「そして、まだアタックは続いている!」


「ダブルシンボル……ライフで受ける!」


 


カノンの砲撃が弾へと襲い掛かる。ダブルシンボルのアタックがその身を砕いていきながら、弾はこのターンを凌ぎきる。


 


「……ターンエンドだ」


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。次はこちらから行かせてもらうぞ!」


「!」


「駆け上がれ!神の名を持つ赤き龍!太陽神龍ライジング・アポロドラゴン、Lv3で召喚!」


 


【太陽神龍ライジング・アポロドラゴン:赤・スピリット


コスト7(軽減:赤3):「系統:神星・星竜」


コア5:Lv3:BP11000


シンボル:赤】


 


弾の目の前。フィールドの上空で真っ赤に燃える太陽が出現し、大地を熱していく。その熱は地中の中に眠るその龍を呼び起こし、激しい風圧が吹き荒れると共に地面が砕け散る。砕けた地面から出現する、太陽のように赤く燃える紅蓮の身体。膝、両肩、胸、頭に埋め込まれた光り輝く翠色の宝石。金色の装甲が全身を包み、空へと金色の翼を広げ、太陽神龍は太陽の炎を払い、降臨する。


 


「太陽神龍だと!?」


「武槍鳥スピニード・ハヤトを召喚!」


 


【武槍鳥スピニード・ハヤト:緑・ブレイヴ


コスト5(軽減:緑2・赤2):「系統:爪鳥」


コア1:Lv1:BP5000


シンボル:緑】


 


続けて、茶色い翼を広げる巨大な鷲が出現する。その翼には翠色の装飾に包まれた爪が確認でき爪はそれぞれが刃となっている。その顔や頭は翠色の兜で覆われ、尾は剣、槍、刀、刺す叉などの武器となって枝分かれしている。


 


「太陽神龍ライジング・アポロドラゴンに武槍鳥スピニード・ハヤトを合体!!」


 


【太陽神龍ライジング・アポロドラゴン:赤+緑


コスト7+5→12


コア5→6:BP11000+5000→16000


シンボル:赤+緑】


 


スピニード・ハヤトが空へ舞い上がる。その下から翼を広げ、飛翔した太陽神龍がスピニード・ハヤトと並列になるように飛び、太陽神龍の背中とスピニード・ハヤトの身体が重なった瞬間、フィールド全域を染め上げる激しい緑の閃光が溢れる。太陽神龍の金色の装甲にはさらに緑の装甲が追加され、胸、両肩、両腕を新たに緑の装甲が覆っていく。その身体は茶色に近い赤色へと染まり、身体の緑の宝石は全てが明るい緑色に光り輝く。その翼はスピニード・ハヤトの翼がドラゴンの翼のサイズにまで巨大化したものとなり、無数の武器となった尾羽が空へと向けられる。


 


「アタックステップ!スピニード・ハヤトの効果!黄色を指定!」


 


弾のアーマーの赤いラインが緑色に輝く。さらにアタックステップで宣言された黄色。それが、クリスに地獄を与えることとなる。


 


「飛翔しろ、合体スピリット!合体スピリットに指定アタック!」


 


太陽神龍がカノンへと飛び掛かる。その魔の手から逃れる為に空へと飛翔し、そのままの状態で太陽神龍の方へ向き直ると、無数の砲撃を放って弾幕を展開する。その弾幕を一度も直撃させずに高速で移動し、カノンへと接近した太陽神龍は、無数の尻尾がカノンの砲台を次々と縛って銃口を固定させ、さらに機動力を奪い取る。さらに間髪いれずに口から放たれた高熱のブレスがカノンを無理矢理砲台から引き剥がし、地面へと叩きつけて破壊してしまう。


 


「っ、カノン!!くそ、エンジェルエッグは分離させる!」


 


【エンジェルエッグ


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:黄】


 


「ライジング・アポロドラゴン、合体時効果!BPを比べ相手スピリットだけを破壊したとき、相手のスピリット/ブレイヴ/ネクサス、どれか1つを破壊する!ダリエルを指定!」


 


ライジング・アポロドラゴンの尻尾が振るわれ、一本の槍がダリエルを貫く。ダリエルが爆散するが、まだまだアタックステップは終わらない。


 


「くそ、だがこれでアタックは……」


「武槍鳥スピニード・ハヤト、合体時効果!自分のアタックステップ開始時に色を指定することで、このターンの間、このスピリットは指定した色のスピリットにブロックされたとき、回復する!」


「何!?」


 


弾が指定したのは黄色。そして砲天使カノンもまた黄色。よって、スピニード・ハヤトの効果によって回復することが可能となる。


 


「二度目のアタック!生還者天使クロエルに指定アタック!」


 


ライジング・アポロドラゴンの尻尾が再び振るわれ、そこから放たれたトライデントがクロエルの体をいとも簡単に貫く。


 


「ライジング・アポロドラゴンの効果だ!エンジェルエッグを破壊!さらにスピニード・ハヤトの効果で回復!最後だ、光の天使ダリエルに指定アタック!」


 


さらに連続で放たれる槍。それは残ったスピリット、ブレイヴを容赦なく貫き、一撃で次々と打ち砕いていく。


 


「嘘だろ……!?こいつ、また私のフィールドを一掃して……!」


「合体アタック!」


「!!ら、ライフで受ける!!」


 


ライジングが拳を振り上げてクリスへ迫る。切羽詰まった声でライフで受ける宣言をしたクリスへ容赦なく叩き込まれた一撃が、ダリエルで回復した分のライフを一気に奪い取っていく。


 


(あ、危な……ダリエルがいなきゃ完全に即死だったじゃないか……いや。寧ろこれって、ダリエルがいたから被害が増えたんじゃ……)


 


手札のシンフォニックバーストを見ながら、若干後悔するクリス。弾がダブルシンボルを作ってきたときのことを考えてライフを増やしたのだが、それが大きく裏目に出てきたようだ。


 


「……ターンエンドだ。そう言えば、歌が嫌いだって言っていたな」


「……それが何だよ」


「何で歌が嫌いなんだ?」


「……そんなの簡単さ。私の歌は壊すことしかできない。それだけだ。スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!天使プリマ、Lv3で召喚!」


 


【天使プリマ:黄・スピリット


コスト4(軽減:黄2):「系統:天霊」


コア3:Lv3:BP6000


シンボル:黄】


 


桃色の鎧のようなドレスを纏い、チューリップのような花の形をした杖を手に持つ女性型のスピリットが現れる。これで準備は整った。そう言わんばかりに、睨みつけるようにクリスは弾を見る。


 


「……そんなに見たけりゃ、見せてやるよ。だがな……こいつで全部ぶっ壊されても、私は一切保証しないからな!!」


「!気配が変わった……来る!」


 


弾の予感を裏付けるように、クリスの口から流れるのは歌。その歌が生み出した旋律は、クリスの手に眠るアルティメットに力を与える。


 


「来い、全てを融かし尽くす黄色の砲門!その射撃で、全てを撃ち抜け!!砲天使長ファイエル、Lv5で召喚!!」


 


【砲天使長ファイエル:黄・アルティメット


コスト6(軽減:黄3・極1):「系統:次代・天霊」


コア3:Lv5:BP18000


シンボル:極】


 


空に広げられる、巨大な白い翼。天使、いやその翼は機械の翼であり、そこから青いプラズマのようなものが漏れているのが見える。身に纏っている白を基調としたスーツも、その身体を護るものであり、その手には一本の銃身の長い銃が握られている。プラズマの色をした長いツインテールを靡かせながらその女性はクリスのフィールドに現れる。


 


「これが君のアルティメット……」


「私に……歌を歌わせたな……!そのこと、後悔するなよ!!アタックステップ!砲天使長ファイエルでアタック!Uトリガー、ロックオン!」


 


クリスの右手に出現したボウガンから素早く矢が放たれる。放たれた矢が弾のデッキを破壊し、トラッシュへとそのカードを落とす。


 


「砲竜バル・ガンナー、コスト4!」


「ヒット!自分のライフのコア1個をボイドに置くことで、相手のアルティメット1体をデッキの一番下に置くことができる!」


「だが、俺のフィールドにアルティメットはいないぞ!」


「分かってんだよ!だが、こんなところで終わると思うなよ!XUトリガー、ロックオン!!」


「!?」


 


さらにクリスの左手にボウガンが出現する。続けてその二本を一つに重ねると、それはクリスの身長ほどもある巨大なヘビィボウガンとなって、その銃身が弾のデッキへと向けられる。


 


「吹き飛べ!!」


 


そこから放たれた矢が弾のデッキをさらに吹き飛ばす。Uトリガー使用後、自分のライフが3以下のときにXUトリガーが発揮され、二度のトリガーが行われるのだ。


 


「サジッタフレイム、コスト5!」


「ヒット!トラッシュトラッシュのコア2個を自分のライフに置く!そして、相手のスピリット/アルティメットすべてをBP-10000!!」


 


【太陽神龍ライジング・アポロドラゴン


BP11000+5000-10000→6000】


 


ファイエルの構えた銃か放たれたプラズマレーザーが太陽神龍を貫く。一気にそのBPを下げたライジング・アポロドラゴンに対し、クリスは更に一撃を畳みかける。


 


「BPを下げるトリガーか……」


「さらにフラッシュタイミング!エレメンタルバーン を使用!さらに合体スピリットをBP-10000!!」


 


【太陽神龍ライジング・アポロドラゴン


BP11000+5000-10000-10000→0】


 


「続けて天使プリマのLv2・3効果!相手のスピリットがBP0になったとき、BP0になったスピリットすべてを破壊する!消えな、ライジング・アポロドラゴン!」


「スピニード・ハヤト、分離!」


 


【武槍鳥スピニード・ハヤト:緑・ブレイヴ


コスト5(軽減:緑2・赤2):「系統:爪鳥」


コア1:Lv1:BP5000


シンボル:緑】


 


エレメンタルバーンによって降り注ぐ光が遂に太陽神龍のBPを全て奪い取る。それにより、プリマの効果が起動してその身体が消滅し、残されたスピニードハヤトがフィールドに残る。


 


「まだアタックは続いている!」


「フラッシュタイミング、トライアングルトラップを使用!天使プリマを疲労させる!」


「二枚目……積んでいたのか!」


「このアタックはライフで受ける!」


 


ファイエルの構えた銃口から放たれた一発の弾丸が、弾のライフを奪う。これで残りライフは1。限界ぎりぎりの状況を迎えた事を少し楽しむように弾は口元に不敵な笑みを浮かべる。


 


「……ターンエンド」


「壊すことしかできない……そういうことか」


「ああそうさ。私の歌はもう、何かを壊すことしか出来ないのさ。誰かを傷つけ、奪い取り、そして壊す」


「……何故、君の歌は壊すことしか出来なくなったんだ?最初からそうだった訳じゃないだろ」


「……小さい頃に親に連れられて紛争地帯へ行った事があるのさ。まぁ、よくあるボランティア活動だ」


 


ここまではな。そう言葉を区切りながら、クリスはどこか哀愁を漂わせる表情で髪を掻く。過去を思い出すように、どこか辛い表情を浮かばせながら目を閉じ、静かに口を開く。


 


「そこで、両親が殺されて一人残った私も捕虜になっちまった」


「捕虜……だからこそ、君は争いを止めようとしているのか」


「っ、何で……」


 


どうして分かった。そう言おうとしたが、その前に弾もまた静かに、語りかけるように口を開く。


 


「俺が戦いや戦争の言葉を口にしたときに、君は過剰な反応をしていたからな。そして君は捕虜になったと言った。もしかしたら俺には想像も出来ないような辛い目にも遭ったのかもしれない。けど、その時に君は、きっとこう感じたんじゃないか?戦いが愚かな行為でしかないと」


「……」


 


無言。それは肯定の証だと感じ取った弾はさらに畳みかける。


 


「君は恨みで戦っていない。確かな目的を持って戦っていた君が、それほどの辛い目に遭っても戦う事を止めない理由は、自分のような人達が新たに現れないようにする為なんだろう?」


「……別に、そういうわけじゃ」


「誰かの為になりたい。そう思って君の両親が自分たちの姿を君に見せていたんだろう。だから、君も両親のように、誰かの為に何かをしようとして、今の戦いをしているんじゃないのか?」


「親は……関係ないだろ、多分……?」


 


どこか迷いながらクリスが言い返す。言われてみればそうかもしれないと考えているのだろう。尤も、自分の取っている手段はあまりにも威圧的であるが。


 


「君の親は、音楽で人々を喜ばせ、笑顔にすることをしていたんだろう?だったら、君の歌だってそうさ。誰かを傷つけ、壊すことは所詮物事の一面でしかないんだ。その裏では、きっと君の歌で笑顔を見せてくれる人だってきっといる。何かを壊す歌は、何かを護る歌でもあるんだ」


「私の歌が、護る……って、何で私の両親のことをお前が知ってるんだよ!?」


 


はっとなって慌てた様子で我に返るクリス。完全に弾に呑まれるところだった。おかげで、何気なく放りこんできた、問わねばならない情報を聞き逃す所であった。


 


「ああ、君の経歴等は情報の上では聞いた」


「っ……ああ、そうかよ!じゃあ私が戻ってきた先のことも知ってるんだろう!?」


「俺は情報や噂だけで全てを信じない。実際に見て、本人から聞いたことしか信じない」


「へっ、日本に戻った後はフィーネにスカウトされて、それで今に至ります!ああ、これでいいだろう!?大体、言葉だけ並べたって何にもならねえんだよ!それに、お前は言ったな!私の歌が護る歌だって!だったらお前の力は護る力なのかよ!?目の前の敵を叩き潰してるだけじゃねえか!」


 


弾を指差しながら叫ぶように言い返すクリス。その言葉を聞いた弾は、確かにそうだと言わんばかりに首を縦に頷く。そして、


 


「ああ。俺は目の前の敵を叩き潰す。例え、それが護りたい、救いたいと思っているものであっても、目の前に敵として立ちはだかるなら容赦はしない。だからこそ、俺は全力でぶつかって、バトルスピリッツを通じて相手を理解する。そして、俺の後ろにいる大切なものを護る。俺は英雄にも救世主にもなるつもりはない。ただ、自分のやりたいようにやるだけだ!」


「ぐ……!」


「スタートステップ!コアステップ、ドローステップ」


 


言い切った。そしてドローステップ。遂に来た。クリスのアルティメットを倒す、希望を託せる弾の切り札が。


 


「リフレッシュステップ、メインステップ。いくぞクリス。これが……俺の切り札だ!」


「!!」


「龍神の弓、天馬の矢、戦いの嵐を鎮めよ!光龍騎神サジット・アポロドラゴン、Lv3で召喚!」


 


【光龍騎神サジット・アポロドラゴン:赤・スピリット


コスト8(軽減:赤4):「系統:光導・神星」


コア5:Lv3:BP13000


シンボル:赤】


 


弾の背後で太陽が出現する。プロミネンスの中を駆ける四本の足を持つ白き馬の下半身。赤、金、緑の三色によって彩られた鎧を纏って巨大なドラゴンの上半身を持つ存在。巨大な弓がその右手に握られ、背中には龍の翼が生えている。それが、太陽を強く蹴り、同時に炎を纏って弾の背後からフィールドへと現れ、紅く燃えるように輝く射手座の星座の光をその全身から放ちながら咆哮を上げ、炎を振り払う。


 


「き、来た……!!」


「その翼、奇跡の光を纏う!輝竜シャイン・ブレイザー、召喚!」


 


【輝竜シャイン・ブレイザー:赤・ブレイヴ


コスト5(軽減:赤2・青2):「系統:星竜・機竜」


コア1:Lv1:BP5000


シンボル:赤】


 


白く輝く翼をもつ機械竜が弾のフィールドへと現れる。


 


「ブレイヴ……!」


「輝竜シャイン・ブレイザーを光龍騎神サジット・アポロドラゴンに合体!!」


 


【光龍騎神サジット・アポロドラゴン


コスト8+5→13


コア5→6:BP13000+5000→18000


シンボル:赤+赤】


 


輝竜シャイン・ブレイザーの身体が消滅し、背中の翼だけとなる。さらにサジット・アポロドラゴンの翼もまた消滅し、シャイン・ブレイザーの翼が馬の背中に合体し、新たな翼として広げられる。


 


「く……!」


「アタックステップ!射抜け、合体スピリット!サジット・アポロドラゴン、合体時効果により、このスピリットのブレイヴ1つにつき、BP10000以下の相手スピリット1体を破壊する!天使プリマを破壊!」


 


サジット・アポロドラゴンから放たれた炎の矢が天使プリマを貫く。スピリットを失い、ブロッカーの消えたフィールドにサジット・アポロドラゴンが更に矢を叩き込もうと新たな矢をその手に生み出す。


 


「ダブル合体をしない……ということは、手札にあのカードがあるってことかよ!でも、これならどうだ!フラッシュタイミング!マジック、シンフォニックバーストを使用!!このアタックはライフで受ける!」


 


サジット・アポロドラゴンの矢がクリスのライフを撃ち貫く。ファイエルの効果で回復した分のコアが即座にリザーブへ置かれるが、元はトラッシュのコア。つまり、合計のコア数が変わっている訳ではない。


 


「シンフォニックバーストの効果でバトル終了時、自分のライフが2以下ならアタックステップを終了する!」


 


クリスのフィールドに歌声が響き渡り、シンフォニックバーストの効果が発揮される。それによってアタックステップが終了され、スピニード・ハヤトは動けずじまいとなる。


 


「ターンエンド。さぁ来い、クリス!」


「くそ、切り札出したからって調子乗りやがって……!でも、勝つのは私だ!私のアルティメットがお前のサジット・アポロドラゴンを倒してやる!!スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!二体目の天使プリマをLv3で召喚!」


 


【天使プリマ:黄・スピリット


コスト4(軽減:黄2):「系統:天霊」


コア3:Lv3:BP6000


シンボル:黄】


 


ドローしてきたのだろう、二体目の天使プリマが召喚される。これでスピニード・ハヤトを仕留める準備が出来たということだろう。


 


「アタックステップ!砲天使長ファイエルでアタック!Uトリガー、ロックオン!」


「牙皇ケルベロード……コスト5!」


「ヒット!だが効果は使用しない!XUトリガー、ロックオン!!」


 


再びその手に出現したヘビィボウガンから放たれた二つの弾丸が弾のデッキを二枚トラッシュへと落とす。一枚目はヒットしたがほとんど無意味。そして二つ目のトリガーが落としたカードは、


 


「ネコジャラン、コスト2!」


「ヒット!トラッシュトラッシュのコア2個を自分のライフに置き、相手スピリットすべてのBP-10000!」


 


【武槍鳥スピニード・ハヤト


BP5000-10000→0】


 


【光龍騎神サジット・アポロドラゴン


BP13000+5000-10000→8000】


 


ファイエルの放った弾幕に呑まれ、二体のBPが下がる。さらに天使プリマの効果が重なり、スピニード・ハヤトが破壊される。ブロッカーを失った弾に迫るファイエル。同時に、クリスは目を見開いて威圧的な笑みを浮かべる。


 


「さぁ出せよ!どうせ、手札に握ってるんだろ!?バーニングサンを!」


「……何だ、ばれていたのか」


「スピニード・ハヤトを合体しない時点で分かりきってるんだよ!あんたの自慢のスピリット、私の歌が壊してやる!」


「もう壊れないさ。俺も……俺の信じたカード達も!フラッシュタイミング!バーニングサンを使用!手札のブレイヴ、トレス・ベルーガをノーコストで召喚し、サジット・アポロドラゴンに合体!そして回復!」


 


【トレス・ベルーガ:青・ブレイヴ


コスト5(軽減:青2・赤2):「系統:異合」


シンボル:青】


 


弾が発動したマジックにより、弾の手札のブレイヴ、トレス・ベルーガが光と共に弾の手から離れ、三つの首を持つ青き獣がフィールドに現れる。獣はサジット・アポロドラゴンの後ろから光を纏って衝突し、瞬間、激しい閃光と共にその全身を金色の鎧へと変え、背中の翼を更に強く、大きく広げさせる。


 


【光龍騎神サジット・アポロドラゴン:赤+青


コスト8+5+5→18


BP13000+5000+6000-10000→14000


シンボル:赤+赤+青】


 


加えて、弾の身体を激しい闘気が駆け巡ったかのように変化が起こり、そのアーマーが黒く染まっていく。そして変貌を遂げた弾は、サジット・アポロドラゴンに指示を出す。


 


「ダブル合体スピリットでブロック!」


「そうするしかないよな!だが、ファイエルの方がBPは上!私の勝ちだ!」


「これで終わりだと思うな!」


「!」


 


弾の手には新たな一枚が握られていた。この負けられない勝負。それに勝つ為の逆転のカードがその手に。


 


「フラッシュタイミング、ネクサスコラプスを使用!ダブル合体スピリットにBP+5000!」


 


【光龍騎神サジット・アポロドラゴン


BP13000+5000+6000+5000-10000→19000】


 


「な!?BP19000だと!?」


 


ファイエルの銃がサジット・アポロドラゴンへと向けられ、一発のプラズマの弾丸が放たれる。常人では目視することすら困難な速度で放たれたその弾丸を前に、素早く矢を構えたサジット・アポロドラゴンは難なく弾丸を相殺し、続けてファイエルへと飛び出しながらその手の弓を剣へと変形、さらにその剣に炎を纏わせ、ファイエルを両断する。


 


「う、嘘だ……ファイエルが、私のイチイバルが……!?」


「言っただろ。俺は壊れないと。君の何かを壊す戦いは、もう終わりだ」


「ま、まだ終わってなんかない!いや、終わってたまるか!ここで終わったら、私は……!天使プリマでアタック!!」


 


既にサジット・アポロドラゴンは疲労している。天使プリマのアタックはアタックステップ終了系のマジックでは防げないし、宣言した今、緑の疲労マジックも意味を成さない。


 


「ここで終われないんだよ!私の中で、必死に積み上げてきたものを、壊すなあああああああ!!」


「フラッシュタイミング!」


「!!!!」


「デルタバリア!不足コストはダブル合体スピリットより確保!」


 


【光龍騎神サジット・アポロドラゴン


コア6→2:Lv3→1:BP13000→6000+5000+6000+5000-10000→12000】


 


「このターン、相手のスピリット/マジックの効果と、コスト4以上の相手のスピリットのアタックでは、自分のライフは0にならない!」


「……そんな……」


 


弾の前に出現した白い三角形のバリアがプリマのアタックを遮る。このターンでクリスが出来る行動はもうない。その場に崩れ落ちながら、クリスは呟くように、言葉を口にする。


 


「ターン、エンド……」


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ダブル合体スピリットをLv3にアップ」


 


【光龍騎神サジット・アポロドラゴン


コア2→5:Lv1→3:BP6000→13000+5000+6000→24000】


 


「……俺は君を壊す」


「……」


「でも、俺が壊すのはフィーネの所にいたクリスだ」


「……え……?」


 


顔を上げる。弾は、先程と変わらない、ただ冷静に、自分を貫くようにデルタバリアを使ったときのような、何かを悟った表情をしていた。


 


「これから君は、ネフシュタンの使い手、クリスじゃない。雪音クリスという一人の少女になるだけだ」


「!」


「それでも君が、戦う事を諦めないのなら、誰かを自分の力で護り、自分の歌で何かを壊すんじゃなく、救いたいという感情があるなら、一緒に来て欲しい。もし、戦いたくないのなら、それでも構わない。俺が二課に働きかけて、君を日常へ戻せるようにする。戦いも何も無い、平和な日常へ」


「……んでだよ」


 


ポツリと言葉が漏れる。後はもう、止まらなかった。堪えられない涙がその目から流れ落ちていく。本当に分からなかった。何でそこまで自分に語りかけるのかが。


 


「何でお前は、そんなに他人の為に出来るんだよ!!何で……!」


「……困っている人を見過ごせない。それだけだ。今も、昔も。そしてこれからも。お前も、不器用な生き方しか出来ないんだな。それが分かっただけで、このバトルには意味があった」


「……!」


「このバトルを通じて、俺は雪音クリスと言う人間を知ることが出来た。今まで戦ってきたこと、話してくれてありがとう」


「……馬鹿」


 


急に恥ずかしくなったのか、慌てて涙を拭いながら頬を赤らめ、そっぽを向いてしまうクリス。その姿を微笑ましく見ながら、弾はアタックステップを宣言する。


 


「……ふっ、アタックステップ。ダブル合体スピリットでアタック。トレス・ベルーガ、合体時効果でデッキを6枚破棄し、BP+6000」


 


【光龍騎神サジット・アポロドラゴン


BP6000→13000+5000+6000+6000→30000】


 


バーニングサン、太陽龍ジーク・アポロドラゴン、巨蟹武神キャンサード、砲竜バル・ガンナー、ブレイヴドロー、鳳凰竜フェニック・キャノン。六枚のカードが破棄される中、含まれていたのは系統:「光導」を持つキャンサードのカード。


 


「系統:「光導」を持つ巨蟹武神キャンサードがあったので、ダブル合体スピリット回復する。さらにサジット・アポロドラゴン、Lv3効果で天使プリマを破壊」


 


炎の矢が再び放たれ、天使プリマを貫く。続けて三本の炎の矢がクリスへと放たれ、それがクリスの残りライフ4つの内の3つを砕く。残ったライフは1つ。そして、弾のフィールドには回復状態のサジット・アポロドラゴン1体。勝敗は、決した。


 


「いくぞ、クリス」


「……ああ」


「ダブル合体アタック!」


 


サジット・アポロドラゴンの弓が剣となり、それがクリスへと振り上げられる。一切の迷いを見せずに振り抜かれたその刃は、クリスの最後のライフを奪い取ったのだった。


 


 



 


 


「……」


 


エクストリームゾーンの外。イチイバルが外れ、バトルが始まる前に弾が見た私服の姿のまま、クリスは地面に座りこんでいた。彼女に近づくと、弾は手を差し伸べる。


 


「ありがとうございました、いいバトルでした」


「……いいバトル、か……」


 


大きなため息を吐きながらも、ふとクリスは自分から手を伸ばしている事に気付く。まるで、彼と一緒にいると安心する。そんな感覚にすら陥りそうになるが、バトルに疲れた今であればそれも構わないかと思っていた。


 


「これからどうするんだ?」


「……別に。ただ……今は一人になりたい」


 


どこか気まずそうに、弾に手を引いてもらって立ち上がった後、慌ててその手を離しながら顔を反らす。今は精神的にも色々ごちゃごちゃしているのだろう。


 


「そうか」


「……じゃあな」


 


クリスは弾の手に何かを押しつけるようにすると、その場から足早で去っていく。彼女の姿が見えなくなった後、弾が手を開くと、そこには番号が書いてあった紙が握られていたのだった。


 


 



 


 


(装着した適合者の身体能力を引き上げると同時に、表面をバリアコーティングし、装甲:ノイズと言うべき能力を発揮する防護能力こそシンフォギアの特性……同時にそれが人の扱えるシンフォギアの限界でもあった……)


 


暗い研究室。そこに一人で籠っていた了子は、顎に手を当てながら考えこんでいた。


 


(シンフォギアから解放される力は、容赦なく装者を蝕み、浸食していく。それは、その力が人の身には強大すぎるマザーコアの力の一端を宿した聖遺物であるから。いや、敢えて言うなら、天然じゃない人工の聖遺物であるが故の特性と言うべきだろう。その力を、限界を超えて解き放つ術こそ絶唱。人と聖遺物の間に隔たりがある限り、その負荷という問題は解決しない。私の理論でもそう結論付けていた)


 


手元のカップの飲み物を飲み干すと、今まで探し求めていたものをようやく見つけたような、そんな渇望していた表情を見せながら、その脳裏に一人の少女を想い浮かべる。


 


(唯一それを覆せる可能性があるとすれば、それは立花響)


 


見れば、その研究室のあちらこちらに響の写真が貼られていた。同時に、彼女に関する様々な文章が記されていた紙も積み上げられていた。


 


(人と聖遺物の融合体第一号……天羽奏と風鳴翼のライブも兼ねた機動実験で最高に高めたゲインによって一応の成功を収めたが……立花響はそれに相当する完全聖遺物、太古に目覚めて以降は完全では無く仮の機能停止状態に陥っていたことを踏まえたとしても相当の代物である裁きの神剣、デュランダルをただ一人の力で起動させることに成功する)


 


その可能性は決して考えなかった訳ではない。しかし、今の自分ではそれはあまりにも無茶なことだと考えていた。


 


(マザーコアの力の一端を取り込む以上、相当の魔力を所持していなければならない。それは、異界王や古き友、マギサが証明している。だから、私自身もより魔力を強めて聖遺物を制御できるようになるべきだと考えていた……が)


 


ここで、自分が微妙に勘違いをしていたのだ。二人が魔力でマザーコアを制御していたのは、それがマザーコアが言わば天然であったから。しかし、聖遺物はマザーコアの力の一部を組み込んだ人工物。故に、必ずしも同じ制御の仕方が必要となる、という訳では無かったのだ。


 


(聖遺物と融合し、自らが聖遺物となる。成程、固定概念に縛られすぎていたわ。更に今は天然物の弾丸も揃っている……私の計画は、大きく前進している)


 


口元が緩み、気を抜けば高笑いが漏れてしまいそうになる。それを堪えながら、自分の掌で物事が動いているのを、彼女は感じ取るのだった。

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