第27話 雷神宿りし天秤

「響……」


「ふぅ、ふぅ……!」


 


荒くなった呼吸を抑えながら、響は目の前へと視線を向ける。トドメを刺されて全てのライフを失い、バトルフィールドから外へと飛ばされたクリスは勢いよく地面に激突し、その衝撃でバウンド、さらに空中をきりもみ回転して地面を抉りながら飛んでいく。


 


(何て力だ……!幾ら幻羅星龍に見限られたからって、それには及ばずとも強力な奴だぞ、天地神龍は!しかも、無限ループまで構築したってのに……!この力も、もしかしたらあの女に匹敵しかねない……)


 


砕けた鎧が修復されていく。それと同時に自分の体に異物が侵入し、浸食されていく痛みが全身に流れるが、今はそんなことを気にしている暇はないだろう。


 


(くっ、ダメージを受け過ぎた……!もう一度バトルは無茶だろうが……だったら無理矢理……?)


 


身体を何とか起こしながら目の前に視線を向ける。するとそこでは、響の下に未来が駆け寄ってくる光景があった。


 


「響!大丈夫なの!?」


「うん、何とかね。その……ごめんね、今まで何も言えなくて」


「ううん、いいの。だって響が隠していたのは、私を巻き込みたくなかったからなんでしょ?」


「うん……」


「ふざけんな!!」


「「!」」


 


自分をそっちのけで良いムードに入ってる二人を見て、怒気を滲ませた声を叫ぶクリス。今の自分には時間が無い、そんな切羽詰まった状況で呑気に分かり合っている二人の姿は、あまりにもこの状況には似合わず、クリスにとっては精神を逆撫でされているかのようにも感じられた。


 


「この……雪音クリスを舐めるなぁ!!」


「……そっか、クリスちゃんって言うんだ」


 


やっと名前を知れた。そう言わんばかりに安堵したような表情を見せる響。その反応が意外だったのか、再びクリスはバイザーの下で驚いたように目を見開く。


 


「ねえクリスちゃん。もうこんな戦いは止めようよ!ノイズとは違って、私達は言葉で通じ合えるんだよ!ちゃんと話し合えば、分かり合える筈!」


「響……」


「だって私達、同じ人間だよ!?」


「嘘くせえんだよ……!青臭えんだよ!吹っ飛べ!!ネフシュタン、分離!!」


 


瞬間、これ以上身体を浸食されては行動に支障が出ると感じたクリスがネフシュタンの鎧を無数の破片の弾丸へと分離させ、響たちへと放つ。咄嗟に未来を庇って前に出た響はその弾丸を真正面から受け止めることとなり、大ダメージは免れないだろう。


 


「……?」


「大丈夫!?響!?」


「あ、うん……でも、これって」


 


大量の土煙で周囲が見えなくなる中、響は自分の体に一切のダメージが無い事に気付く。一体どうやって今の攻撃を凌いだのだろうか。少なくとも、今の響にそんなことが出来る能力は存在しない筈だ。だが、その理由は単純、少女は今の攻撃で仕留めるつもりは全くなかったというだけだ。


 


「この私の真の姿を見せてやる!イチイバルの力を!」


「クリスちゃん……?まさか、私達と同じ……?」


 


そしてその目的はただ一つ。土煙が晴れた先で響と未来が見たのは、歌うクリス。その全身は聖遺物から発せられた強大なエネルギーに包まれて、素顔を確認できない。それほどの高密度のエネルギーが渦巻いているのだ。


 


「イチイバルだとぉ!?」


 


一方、二課の本部ではクリスが突然使用したイチイバルの情報に揺れていた。失われていた、第二号聖遺物、それさえも敵に渡ってしまっているという情報に弦十朗は冷や汗を掻きながら、目の前のモニターに表示されていた地図を見る。クリスの出現により、弾にも響の救援に向かうように指示を出していたが、何故か突然発生したノイズの群れに行く手を阻まれ、遅れてしまっている。後数分は響達の下へは駆け付けることはできないだろう。


 


「歌わせたな……?」


「……え……?」


 


黒いヒールの付いたタイツを履き、額に赤いヘッドギアが出現する。腰の周りには二枚のプレートが出現し、両腕には小さな機械のようなものが装着している。そして今までネフシュタンのバイザーで見えなかった薄い紫の瞳が見えるようになっている。


 


「私に歌を歌わせたな!私は歌が大嫌いだ!」


「う、歌が大嫌いって……」


「お前がバトルが強いのはよーく分かった。そしてお互いに休憩も無しに二回戦が出来ないってのも十分に承知している。だから……こっちのバトルをさせてもらおうか!!」


「うぇえ!?」


 


クリスが右手を突き出すと、彼女の右腕に装着されていた黒い装飾がボウガンへと変化する。そこから放たれた赤紫色の無数の矢が着弾するのと同時に爆発を次々と引き起こしていき、響達を襲う。


 


「わああああ!?」


「きゃっ!?」


 


咄嗟に未来を抱えて飛び上がる響。しかし、飛んだ後で気付く。今の攻撃で響達を爆発が襲うことは無かったことを。敢えて狙いを外し、爆発によって響達を行動の自由が封じられる空中へと導いたのだ。そして、クリスはその手のボウガンを一本のスナイパーライフルへと変化させると、響の腹へと鋭い一撃をぶち込む。


 


「ごふっ……!」


 


肺の中の空気が全て吐き出されながら勢いよく吹き飛び、背後の樹木に激突する。樹木をへし折り、咳をしながら顔を上げた響と、響だけを器用に吹き飛ばされ、支えが無いまま地面に落ちていく未来。そして、響へと向けたその銃の照準を変更しないクリス。


 


「こいつで、お前の意識を刈り取ってやる!吹っ飛べ!!」


 


そして、何の躊躇いも無く次の引き金が引かれる。瞬間、何かが空から降ってくる音と共に大爆発が発生し、爆煙が一帯を包み込む。


 


「……ふっ」


 


着弾した音を聞き、クリスは確かな手応えがあったと僅かに口元を釣り上げる。しかし、すぐにその表情は、困惑のものとなる。その理由は、薄くなっていく爆煙によって彼女の目に徐々に視界に映し始めることとなった、白を基調とした、青いラインを刻んだ大きな壁によるものだった。


 


「なんだこれは……?」


 


巨大な壁のようなもの。まさか響が出現させたものだろうか。いや、この状況ではそう考える以外に方法はないだろう。しかし、彼女のギアにそんな能力があったとは。そんな疑問を抱きながら、それの正体を自問するように呟く。


 


「盾……?」


「剣だ」


「……何……だと……!?」


 


その声の主は、まだ動けるような、いや、百歩譲って動くことこそ出来たとしても、戦闘に参加できる訳が無い筈だ。しかし、そこにはいた。盾、いやその腹を盾と見間違うほどの大きさに変化させた、巨大な剣を地面に突き刺し、その上に立つ翼の姿が。


 


「……え?あの人って」


「つ、翼さん!?大丈夫なんですか!?」


 


あの風鳴翼もまたシンフォギアを纏う装者。この短時間で衝撃の真実を何度も知らされた未来の頭がパンクしそうな勢いだが、それすらも置いてけぼりにして目の前で装者達はその姿を初めて揃えることとなる。


 


「ああ、とはいえまだ十分ではない。が……二人なら、彼が来るまで時間を稼ぐことが可能な筈だ!協力してくれ!」


「は、はい!!」


 


どちらもまともに戦えはしない。しかし、二人掛かりで、二対一でバトルを仕掛ければ、響とのバトルの疲労が残っているクリスよりもこちらにも十分に勝ち目がある。また、仮にそのバトルに敗北してもバトルが終わる頃には弾が駆け付けて来てくれる筈だ。


 


「二人ならどうにかなると!?」


「それ以外にどう聞こえた!」


 


巨大な剣が小さくなり、片手剣程のサイズとなる。そして地面に降りながら、翼は脳裏で目の前のイチイバルのことを考えていた。


 


(第二号聖遺物、イチイバル。確か十年前に謎の消失を遂げていた筈……何故彼女が持っているのか、そのことについても問い出さなければならない!)


 


ピリピリとした緊張感の中、クリスももうここまできたら後には引けないと考えていた。そして、三人がゲートを開こうとした、まさにその瞬間。


 


「!?なっ!!」


 


突如として頭上から飛来してきた二つの螺旋を描いた棒のようなものが、クリスの前に墜落してきた。


 


「「「!?」」」


 


それは地面に墜落した瞬間にその身体を黒く染め、ボロボロになって崩れていく。間違いない、ノイズだ。しかし、クリスにとってはそれ以上に、ノイズが自分に対して攻撃してきたという事実に驚き、身体が固まっていた。


 


「あ、危ない!!」


「え!?」


 


響の声に、はっと我を取り戻す。しかし、その時には既に、自分の頭上から螺旋を描き、高速で回転しながら降下してくるノイズの姿があった。間に合わない、そう考えた直後、自分の体が何者かに突き飛ばされた。


 


「な!?」


「立花!?」


「響!?」


 


クリスを突き飛ばしたのは、紛れも無い響だった。クリスを突き飛ばしてノイズの攻撃から彼女を護るが、それと引き換えにノイズの攻撃を響が受けることとなり、背中に勢いよくノイズの攻撃を受けることとなる。


 


「……!」


「おい、お前何をやってるんだ!?」


 


背中に勢いよく激突したノイズが炭化して消えていき、その衝撃と痛みが響に重く圧し掛かる。そのダメージに耐え切れず、前のめりに倒れた彼女をクリスは支えながら、彼女を視る。一方、味方である筈のノイズに攻撃された。そして敵の味方だと思っていたノイズがその敵を攻撃した。それらの事実によって自分達の戦いを中断せざるを得なくなった翼は新たな脅威の存在を探す。


 


「ごめん、クリスちゃんに当たりそうだったから、つい……」


「……!馬鹿にすんな!余計なお世話だ!」


 


頬を紅潮させながら恥ずかしさを紛らわすように叫ぶ。しかし、次の瞬間に彼女の顔は蒼白になっていく。突如として響いてきた、一人の冷たい女性の声によって。


 


「命じたことも出来ないなんて、貴女はどこまで私を失望させるのかしら」


「「「「!!」」」」


 


四人が同時に一点を見上げる。夕陽の光をバックに、空をゆっくりと歩いているのは、黒い帽子にサングラスを付けた、黒い衣を纏った女性。その手にはソロモンの杖が握られている。


 


「フィーネ……!」


「今の時代は本当に無能が多くて困るわ。野心のあるなしは別にしても最低限実力が伴っている者がいた白夜王や異界王、蛇遣い座に魅入られた少年が羨ましいと思うほどにね」


(フィーネ……終わりの名を持つ者?)


「……っ!こんな奴がいなくたって!」


 


響を無造作に投げ飛ばし、フィーネを見上げるクリス。投げ飛ばされた響はまともに立つことも出来ずに駆け寄ってきた翼に抱えられる形になる。


 


「戦争の火種くらい、私が全部消してやる!そうすりゃ、あんたの言うように人は呪いから解放されて、バラバラになった世界は元に戻るんだろう!?」


「無理よ。実力の無い貴女じゃね」


「!」


「だってそうでしょ?馬神弾程の実力があっても、信頼出来る仲間と共に世界を駆けまわっても、人の力程度じゃどうにもならないのだから。だから、貴女には彼とは別のベクトル、コアエネルギーとは違うフォニックゲインでの高いエネルギーを期待していたんだけど……それももう意味はないわ。もう貴女は用済みよ」


「!何だよ……何だよそれ!どういうことだ!答えろ!答えてみろ、フィーネ!!」


 


クリスが叫ぶ。しかし、フィーネは彼女の言葉には何も返答を返さず、左手を青く光らせる。瞬間、クリスがアーマーパージによって吹き飛ばしたネフシュタンの鎧が青い光の粒子となって彼女の下へと集っていき、それが虚空へ消えていく。続けて、フィーネがその光る青い手を翳すと、目の前に一つの光が集い、それがモニターとなる。


 


「これは!?」


「だ、弾さん!?」


「え!?弾さんまで!?」


 


そこにいたのは、弾。ノイズの足止めを喰らっていた弾は、ノイズを倒す為にエクストリームゾーンへとゲートを開いていたのだ。その光景を見せられた四人は同時に固まり、その光景を注目するしかないのだった。


 


「スタートステップ、ドローステップ、メインステップ。戦竜エルギニアスをLv3で召喚」


 


【戦竜エルギニアス:青(赤)・スピリット


コスト1(軽減:青1・赤1):「系統:戦獣」


コア3:Lv2:BP3000


シンボル:青(赤)】


 


戦端が黒く染まった、白い角を持つ緑色の体を持つ闘牛が召喚される。青い鎧をその身体に纏った、青と赤のシンボルと色を持つ頼れるスピリットを呼び出し、弾は相手の様子を見ることとする。


 


「ターンエンド」


「フィーネ……これはどういうつもりだ!?」


「彼がこの場にいると、万が一が起こり得たら困るから足止めをしておいたのよ。貴女達は何も知らずに彼を見ていたみたいだけど、改めて焼き付けるといいわ。過去、それも二度の人類史の崩壊が起こる以前の世界の生ける伝説となった存在、その戦いをね」


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、メインステップ。キャメロット・ポーンをLv2で召喚』


 


【キャメロット・ポーン:紫・スピリット


コスト0:「系統:魔影」


コア2:Lv2:BP2000


シンボル:紫】


 


紫色の目を持つ、機械的な紫色の体を持つ小さな兵士が出現する。その足は存在せず、霊気のようなもので浮いているのが見てとれる。


 


『キャメロット・ナイトをLv2で召喚』


 


【キャメロット・ナイト:紫・スピリット


コスト2(軽減:紫1):「系統:魔影」:【不死:コスト0】


コア2:Lv2:BP2000


シンボル:紫】


 


槍と盾を構える、キャメロット・ポーンと同じくらいの小さい身長を持つスピリットがノイズのフィールドに続けて召喚される。


 


『ターンエンド』


「紫のカードか……スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ブレイドラをLv2で召喚」


 


【ブレイドラ:赤・スピリット


コスト0:「系統:翼竜」


コア2:Lv2:BP2000


シンボル:赤】


 


剣の翼を持つ小型ドラゴンが弾のフィールドに現れる。ブレイドラは出現と同時に可愛らしい鳴き声を上げ、エルギニアスと共に並ぶ。


 


「アタックステップ。戦竜エルギニアスでアタック」


『キャメロット・ナイトでブロック』


 


キャメロット・ナイトでブロックを宣言した瞬間、キャメロット・ナイトが槍を構えてエルギニアスへと一直線に突進してくる。しかし、BP3000に対してBP2000。その差は覆せるわけが無く、キャメロット・ナイトの槍はエルギニアスの装甲に弾き飛ばされ、宙に舞ったところを思い切り角で突き上げられ、破壊されてしまう。


 


「ターンエンド」


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ネクサス、六分儀天文台を配置』


 


【六分儀天文台:紫・ネクサス


コスト3(軽減:紫1)


コア0:Lv1


シンボル:紫】


 


ノイズの背後に出現する、巨大な望遠鏡や定規などが一つになった天文台。紫のスピリット達をサポートしてくれる、決して小さくはないネクサスだ。


 


「……」


『騎士王蛇ペンドラゴンを召喚。不足コストはキャメロット・ポーンから確保。よって消滅』


 


【キャメロット・ポーン


コア2→0】


 


【騎士王蛇ペンドラゴン:紫・ブレイヴ


コスト5(軽減:紫2・赤2):「系統:妖蛇・星魂」


コア1:Lv1:BP4000


シンボル:なし】


 


キャメロット・ポーンを不足コスト確保の為の糧とし、フィールドに現れる機械の蛇。二つの刃が連結したその姿には、紫特有の力が秘められている。


 


「騎士王蛇ペンドラゴンか」


『騎士王蛇ペンドラゴン、召喚時効果。相手のスピリット1体のコア2個を相手のリザーブに置く。ブレイドラを指定』


 


【ブレイドラ


コア2→0】


 


ブレイドラのコアが全て消え、先程のキャメロット・ポーンと同様に消滅の道を辿る。それだけではない、コアを失った事により、ペンドラゴンの更なる効果が起動することとなるのだ。


 


『この効果でそのスピリットのコアが0個になったとき、自分はデッキから1枚ドローする。エンドステップ。六分儀天文台、Lv1・2効果。自分のトラッシュにある効果の記述を持たないスピリットカード1枚を手札に戻す。キャメロット・ポーンを手札に戻す。ターンエンド』


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ブレイドラを新たにLv3で召喚」


 


【ブレイドラ


コア3:Lv3:BP3000


シンボル:赤】


 


「アタックステップ。戦竜エルギニアスでアタック」


 


エルギニアスが先程と同様に走り出す。しかし、今回は相手のフィールドにBP4000のペンドラゴンが存在する。が、弾もまたただ無策でエルギニアスを突っ込ませている訳ではない。


 


「フラッシュタイミング、サジッタフレイムを使用。不足コストはエルギニアス、ブレイドラより確保」


 


【戦竜エルギニアス


コア3→1:Lv2→1:BP3000→1000】


 


【ブレイドラ


コア3→2:Lv3→2:BP3000→2000】


 


空から降り注いだ炎を纏った矢がペンドラゴンを焼き尽くす。合体時効果が厄介なブレイヴを真っ先に対処しておきたかったのだろう。それだけでなく、この戦いでは真正面からぶつかっていく戦い方を選択するべきと弾自身も感じ取っていた。


 


『ライフで受ける』


 


エルギニアスの体当たりがノイズのライフを手始めに一つ奪い取る。しかし、まだアタックは終わらない。このターンに弾が行う行動は、言わばノイズに対する挑発だ。さっさと攻めてこい。しないのならば、こちらがお前のライフをさっさと奪い取る。ノイズと意志疎通は出来ないだろうが、戦い方からそれを判断するぐらいの能力はノイズにもある筈だ。


 


「続けてブレイドラでアタック」


『ライフで受ける』


 


続けてブレイドラが小さく走り出し、ノイズの目の前で口を開いて火炎放射をノイズへと浴びせる。炎が更にライフを奪い、それを確認して弾は口を開く。


 


「ターンエンド」


「弾さんが先手を……」


「だから、いきなりこんなものを見せて、どうしようっていうんだ!?」


「……格の違いよ。ぬるま湯に浸かりきっていた貴女達と、強さの深みにはまり込んだ男のね」


 


取り敢えず静かに見ていろ。そう言わんばかりのフィーネの台詞に押し黙らされるクリス。そのまま、映像の中の弾とノイズのバトルは、第六ターンへと入る。


 


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。キャメロット・ポーン2体を召喚』


 


【キャメロット・ポーン


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:紫】


 


【キャメロット・ポーン


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:紫】


 


トラッシュから手札に加えた分と、今ドローしたのか或いは既に手札に存在していたのか。それらを含めた二枚が同時に召喚される。トラッシュに置いてあるキャメロット・ナイトの存在を含めて、決して侮れないスピリット達だろう。


 


『ストロゥ・パペットを召喚』


 


【ストロゥ・パペット:紫・スピリット


コスト0:「系統:魔影」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:紫】


 


木槌を手に持つ、茨が絡みついた藁人形のような姿をしたスピリットが二体のキャメロット・ポーンと共に並ぶ。三体の紫のスピリットを並べ、さらにノイズは手札に存在するスピリットカードを場に呼び出す。


 


「シュテン・ドーガを召喚」


 


【シュテン・ドーガ:紫・スピリット


コスト5(軽減:紫2):「系統:魔影」


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:紫】


 


両腕に鎖の付いた、一本の剣を右手に握る巨大な鬼が現れる。その鬼面を相手に見つけながら現れたその存在は、登場と共に雄叫びにも似た叫びを上げる。


 


「……」


『シュテン・ドーガ、Lv1・2召喚時効果。自分のトラッシュにある系統:「魔影」を持つコスト3以下のスピリットカード1枚を、コストを支払わずに召喚できる。キャメロット・ナイトをLv2で召喚』


 


【キャメロット・ナイト


コア2:Lv2:BP2000


シンボル:紫】


 


シュテン・ドーガの雄叫びが再び放たれ、それに導かれるようにキャメロット・ナイトがトラッシュから蘇る。1ターンで一気に五体のスピリットを連続召喚したノイズは、それらを用いて弾を仕留めにかかる。


 


『アタックステップ。キャメロット・ポーンでアタック』


 


キャメロット・ポーンが槍で宙を一度薙ぎ払うと槍を構え直し、弾へ向かって飛び出していく。遂に攻め始めたノイズの攻撃を前に、ブロッカーのいない弾が取る選択肢は一つしかない。


 


「ライフで受ける!」


 


キャメロット・ポーンの槍が弾へ叩きつけられ、その目の前に展開された紫色の半透明のバリアを砕いて衝撃と痛みを弾へと与える。その衝撃を顔色一つ変えずに耐え抜くと、さらに続くノイズのアタックを受け止める為に身構える。


 


『ストロゥ・パペットでアタック』


「こちらもライフで受ける!」


 


ストロゥ・パペットが木槌を振り上げ、弾へと殴りかかる。今度のアタックもライフで受けた弾の二つ目のライフが消し飛び、そのアーマーに残ったライフの数を証明するように三つの光が一瞬強く輝く。


 


『シュテン・ドーガでアタック』


「これもライフで受ける!」


 


更にシュテン・ドーガが剣を振り上げ、弾に追撃を仕掛ける。一気に三つのライフを奪い取ったノイズは、残りの二体でアタックすれば弾のライフを全て奪い取れるだろう。しかし、弾の手札に何かが残っている可能性があり、それを考慮したのだろう。


 


『ターンエンド』


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。戦竜エルギニアスをもう一体召喚」


 


【戦竜エルギニアス


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:青(赤)】


 


追加で呼び出されるエルギニアス。これで今の弾が用意できる低コストスピリット達は揃った。これらのスピリットを使い、弾は手札に眠る一体のスピリットを呼び起こす。


 


「続けて、出でよ十二宮Xレア!天秤座より来たれ!天秤造神リブラ・ゴレム、召喚!不足コストはブレイドラより確保!」


 


【ブレイドラ


コア2→1:Lv2→1:BP2000→1000】


 


【天秤造神リブラ・ゴレム:青・スピリット


コスト8(軽減:青4):「系統:光導・造兵」:【粉砕】


コア1:Lv1:BP6000


シンボル:青】


 


弾の背後から立ち昇る無数の光が、大地へと天秤座を刻みこむ。刻まれた天秤座の青い光を地面ごと砕き、地中から両肩に巨大な秤を担いだ青と白を基調としたゴーレムが出現する。その手には自身の得物である、金色の鎖に繋がれた槍が握られており、十二宮Xレアが持つその威圧感をその身体から放っている。


 


「な、何これ……今まで、見たことが無い……」


「十二宮Xレア……天秤座の力か!?」


「そう。歴史上失われた、十二宮Xレアのオリジナル。銀河の全盛期にはコピーカードが随分出回っていたみたいだけど……やっぱりオリジナルはオーラが違うわね……」


「……」


 


既に、フィーネの目にはクリス達は映っていない。映っているのは、馬神弾ただ一人だけだ。


 


「ターンエンド」


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ、アタックステップ。キャメロット・ナイトでアタック』


「……ブレイドラでブロック」


 


ブレイドラが鳴き声を上げ、槍を振り上げたキャメロット・ナイトと真正面からぶつかり合う。しかし、BPの差によりブレイドラが逆転され、キャメロット・ナイトの槍に吹き飛ばされる事となる。


 


『キャメロット・ポーンでアタック。フラッシュタイミング、冥皇封滅呪を使用。自分のスピリット1体を破壊することで、相手は、相手のスピリット1体を破壊する。キャメロット・ナイトを破壊』


「戦竜エルギニアスを破壊する」


 


キャメロット・ナイトとエルギニアスが同時に破壊される。これにより、キャメロット・ナイトがトラッシュへと移動することとなり、このターン、コスト0のスピリット達が破壊されればそれを切っ掛けとしてトラッシュのキャメロット・ナイトが不死によって蘇る準備が整った。そしてまだキャメロット・ポーンのアタックは続いている。が、


 


「戦竜エルギニアスでブロック。フラッシュタイミング、マジック、トライアングルトラップを使用。不足コストは戦竜エルギニアスより確保」


 


【戦竜エルギニアス


コア1→0】


 


エルギニアスから不足コストを確保する為にその存在が消滅する。これによって、エルギニアスとキャメロット・ポーンが相討ちするという自体は起こる事はなく、トラッシュのキャメロット・ナイトが復活することも無い。


 


「コスト4以下の相手スピリット3体を疲労させる。キャメロット・ポーンとストロゥ・パペットを疲労」


 


二体のスピリットを包み込むように発生した緑色の三角形の光。その光に包まれ、疲労状態となったことでこのターンのアタックと次のターンのブロックに参加することが出来なくなってしまう。そして、残ったアタック出来るスピリットはシュテン・ドーガのみ。仮にアタックしてもリブラ・ゴレムに防がれてしまうだろうし、そうでなくライフで受けたとしてもそのライフを削り取る事は出来ない。アタックするだけ無駄だと判断したのか、ノイズはこのターンのアタックステップを終了する。


 


『ターンエンド』


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。天秤造神リブラ・ゴレムをLv2にアップ」


 


【天秤造神リブラ・ゴレム


コア1→3:Lv1→2:BP6000→8000】


 


「さらに、雷神砲カノン・アームズを召喚」


 


【雷神砲カノン・アームズ:青・ブレイヴ


コスト5(軽減:青2・赤2):「系統:造兵」


コア1:Lv1:BP5000


シンボル:青】


 


龍の顔の形をした銃口を持つ戦車が弾のフィールドに出現する。青のブレイヴ、雷神砲カノン・アームズは、その力を十二宮Xレアと一つにする。


 


「リブラ・ゴレムに合体!」


 


【天秤造神リブラ・ゴレム


コスト8+5→13


コア3→4:Lv2→3:BP8000→12000


シンボル:青+青】


 


カノン・アームズの銃口とそれが乗っているキャタピラの一部が分離し、リブラ・ゴレムが掲げた右上に銃口が装着され、背中に翼の形をした戦車の一部が装着される。そしてリブラ・ゴレムが右腕を前に突き出した瞬間、銃口の龍の口が開かれ、同時に弾のアーマーの赤いラインが青く染め上げる。


 


「こ、このブレイヴは……!」


 


カノン・アームズの効果を知る翼は、これから起こる惨劇を予想していた。同時に、リブラ・ゴレムが持つその効果は、カノン・アームズの効果を強く強化してくれるといってもいい。


 


「アタックステップ!砕け、合体アタック!」


 


リブラ・ゴレムが右腕の銃口をノイズへと突き付ける。瞬間、リブラ・ゴレムの全身から青い波動が解き放たれ、それがノイズのデッキを3枚破棄する。


 


「リブラ・ゴレム、アタック時効果!粉砕!」


 


アロンダイザー 、呪の覇王カオティック・セイメイ、黄昏のキャメロット城 。一気に三枚のカードがLv3のリブラ・ゴレムが放つ粉砕の力によってトラッシュへと落とされる。また、その中にスピリットカードであるカオティック・セイメイが存在したことでリブラ・ゴレムはさらなる効果を発揮する。


 


「さらにリブラ・ゴレム、Lv3アタック時効果!このスピリットの粉砕によってスピリットが破棄されたとき、このスピリットを回復する!さらに、このスピリットが回復状態の間、相手のライフは減らない!続けて、雷神砲カノン・アームズ、合体時効果!このスピリットのアタック時、相手のデッキを上から1枚破棄!」


 


さらにリブラ・ゴレムの右腕の銃口から放たれた青白いレーザーがノイズのデッキトップの妖華吸血爪を破棄する。そして、このアタックによって破棄された四枚のカードが、カノン・アームズの更なる効果を発揮させる。


 


「雷神砲カノン・アームズと合体しているスピリットのアタック時、このスピリットの効果によって破棄されたカードと同じ色のカードを相手は手札から使用することができない!」


「破棄されたカードは、粉砕の三枚とカノン・アームズの一枚……」


「そして、その全部が紫のカードだった……つまり」


「紫のマジックを使って防御できない……!」


 


この効果により、ノイズは自分の手札にあるマジック、アサシネイトを使用することが出来なくなってしまった。このカードを使用すれば、粉砕の回復に失敗するときが現れたリブラ・ゴレムを破壊することが出来る筈だった。しかし、カノン・アームズの効果によりそれは不可能となり回復状態となったことでダメージを与えられなかったリブラ・ゴレムは再びその銃口をノイズへ向ける。


 


「続けて合体アタック!アタック時効果発揮!」


 


六分儀天文台、冥皇封滅呪 、キャメロット・ナイト、ローガンの四枚が破棄され、スピリットカードであったキャメロット・ナイトの存在によりリブラ・ゴレムが回復する。


 


「連続合体アタック!!」


 


マーク・オブ・ゾロ、骸戦車ゲパルバート、ローガン、シュテン・ドーガ。ストロゥ・パペット、キャメロット・ポーン、、骸戦車ゲパルバート、アロンダイザー。呪の覇王カオティック・セイメイ、妖華吸血爪、黄昏のキャメロット城 、六分儀天文台。さらに回復しアタックをし続け、デッキを十二枚破棄し、一気にノイズをデッキアウトへと追い込んでいく。そして次なるアタック。ここで遂に、リブラ・ゴレムはその勢いを止めることとなる。


 


「……」


 


黄昏のキャメロット城、冥皇封滅呪、妖華吸血爪。リブラ・ゴレムの効果で破棄されたカードの中にスピリットは存在せず、肝心のスピリットカードはカノン・アームズの効果によって破棄されたシュテン・ドーガ一枚のみであった。それにより、疲労状態となるリブラ・ゴレム。このままダブルシンボルのアタックがノイズへ襲い掛かる事となるが、最早それは決定打とはなりえない。


 


「ああ!?」


「え!?」


「ここで止まりやがった……!」


「まさか、彼が負けるというの……!?」


(……いや)


「フラッシュタイミング!リブートコードを使用!疲労状態の自分のスピリットすべてを回復させる!」


「白のマジック!?」


 


リブラ・ゴレムが光に包まれ、再び起き上がる。回復状態になったことにより、リブラ・ゴレムの効果でノイズのライフは削られなくなる。また、リブートコードにはこの効果で回復した合体スピリット以外のスピリットはアタックできない効果があるが、今のリブラ・ゴレムは合体スピリット。そのデメリットは存在しないと言ってもいいだろう。


 


「もう一度アタックだ!」


 


止まったその身体は、再起動されたかのように再び動き出す。ストロゥ・パペット、キャメロット・ナイト、ローガン 、呪の覇王カオティック・セイメイ。四枚のカードを破棄して回復するリブラ・ゴレム。そして、


 


「合体アタック!!」


 


骸戦車ゲパルバート、アロンダイザー、マーク・オブ・ゾロ。三枚のカードが破棄されたそのタイミングで、ノイズのデッキは全て消えてなくなる。回復されなかったリブラ・ゴレムのアタックによってノイズのライフが二つ奪われるが、最早そのことは関係ないだろう。既に、ノイズのデッキは無いのだから。


 


「これで終わりだ。俺にはすぐにでも駆け付けなきゃいけない所があるんでね……ターンエンド」


『スタートステップ』


 


スタートステップ。そう宣言した瞬間、ノイズの体が大爆発を引き起こす。それを見届けてフィーネは、表示させているモニターを指を鳴らして消滅させる。


 


「もう彼にはノイズなんかじゃ相手にならないわね。ふふ……」


 


最後の方に機嫌が良いのか笑い声を洩らすと、フィーネは右腕に光の球体を作り出すと、それから激しい閃光を放つ。


 


「「「「!」」」」


 


そして光が収まり、全員の視界が取り戻された時には既にフィーネの姿は消えていなくなっていた。その事実を認識したクリスは、ハッとなったように目を見開いてその場から空へと飛び出していく。


 


「待てよ!フィーネ!!」


 


その姿を追おうとしたが、今追ったところで既に遅いだろうと悟った翼は、響と共にクリスの背中を見送るしかなかったのだった。


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