第23話 馬神弾VSネフシュタンの少女

「がっ……!」


「っ……!」


 


エクストリームゾーンから弾き飛ばされた四人。裁きの神剣の巨大な力に耐え切れずに吹き飛んだ響は裁きの神剣がその手から投げ出された状態で地面に倒れ、そのまま気絶してしまう。ネフシュタンの少女は空中できりもみ回転しながら地面に数回激突してやっと止まり、すぐに身体を起こして地面に転がったデュランダルを見る。


 


(くそ、何だよこれ……!!もし、お前を連れ帰ろうものなら、私は一体……)


「……」


 


横たわる響に一種の恐怖にも似た感情を向ける少女。一方、彼女とは対照的に了子は嬉々とした目で響を見る。だが、少女が自分の感情を響に向けていたのは一瞬。すぐに自分がここに来た目的であるデュランダルを見ると、それを手に入れる為に飛び出す。しかし、


 


「なっ!?」


 


そこには弾が立っていた。デュランダルを渡さない為にデュランダルと少女の前に立ち塞がった弾はいつもと変わらない無表情をしていた。いや、完全な無表情とは言い切れないのだろう。その瞳には響のバトルによって燃え上がった闘志が輝いているようにすら少女には見えた。


 


「この……!」


 


ネフシュタンの武装である鞭を弾へと振り下ろす。しかし、その鞭が命中する直前、弾は不敵な笑みを口元に浮かべた。


 


「ネフシュタン……いや、ガイ・アスラ!今度こそ俺はお前を超える!いくぞ、ゲートオープン、界放!!」


「しまっ……」


 


弾の目的は、確かにデュランダルを自分に渡さないようにすることだろう。しかし、それだけが弾の目的ではない。いや、この作戦の目的であるデュランダルを奪われない事もまた重要だが、それ以上に弾がここまで闘志を燃やしていた理由は一つ。二度対峙し、倒す事の叶わなかった存在、ガイ・アスラを今こそ超えて見せるという感情だけだ。


 


「……さぁ、これでもう逃げられないな」


「はっ、この程度でどうにかしたつもりかよ!」


 


内心舌打ちをしながら、少女は目の前で金色のアーマーのようなバトルフォームを着用する弾を見る。まさかここで激突王とぶつかることになるとは。しかし、いずれ戦う時が来るだろうということ自体は既に分かっていた筈。それが今になっただけだと結論付け、同時に弾を睨みつけながらある事を思う。


 


(こいつこそあっちの最高の実力を持つカードバトラー。つまり、こいつさえ倒せれば、もう私に恐れるカードバトラーはいない!)


 


文字通り、最後の壁として立ちはだかった男に、自分が磨き上げた技術の全てとネフシュタンの力を叩き付ける。そして勝利をもぎ取るのだ。いや、勝利しなければならない。少女もまた強い感情を心の中で湧き上がらせていたが、ふと弾から話しかけられることでその感情は一時的に静まる事になる。


 


「最初に言っておく」


「……?何だよ、まさかここまで来て怖気づいたとでも?」


「いいや。俺が言いたいのはそんなことじゃない。俺はもう激突王じゃない、ブレイヴ使いだ。ブレイヴ使いとして、俺はお前に挑む。いくぞ、スタートステップ」


 


スタートステップを弾が宣言し、バトルがスタートする。そんな中、先程まで倒れて意識を失っていた響が漸くその意識を取り戻す。


 


「う……?あれ、ここは……」


 


目の前に広がるのがエクストリームゾーンの景色だということに気付いた響は、すぐに誰かがバトルをしているのだということに気付く。意識を失う前の記憶が曖昧だが、そのことは一旦頭の隅へと追いやり、今戦っている二人に視線を向ける。


 


「え……?だ、弾さんが!?」


 


そこにあったのは、弾とネフシュタンの少女が戦っている姿。翼がネフシュタンの少女によって完膚なきまでに叩きのめされていたのを知っているだけに、響にはその少女がバトルをしている姿が恐ろしく見えた。


 


「弾さん……」


「ドローステップ、メインステップ。ニジノコをLv3で召喚」


 


【ニジノコ:黄(白)・スピリット


コスト1:「系統:戯狩」


コア3:Lv3:BP3000


シンボル:黄(白)】


 


虹色のカラーリングを持つツチノコを呼び出す。呼び出されたニジノコは小さく鳴きながらその口から僅かな火の粉を吐き出す。


 


「ターンエンド」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!メインステップ!ファイザード、森林のセッコーキジを召喚!森林のセッコーキジはLv2!」


 


【ファイザード:赤・スピリット


コスト0:「系統:翼竜」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:赤】


 


【森林のセッコーキジ:緑(赤)・スピリット


コスト1(軽減:緑1・赤1):「系統:爪鳥」


コア2:Lv2:BP2000


シンボル:緑(赤)】


 


額から黄色い角を生やし、背中から白い翼を生やした小さな小型のドラゴン、ファイザードが呼び出される。火の粉を纏うそのオレンジ色の毛並みを揺らすファイザードの隣に出現したのは、弾も愛用する自身を赤としても扱うスピリット、森林のセッコーキジ。緑色の翼を持ち、鎧と刀を身に付けたキジの合計二体のスピリットを最初のターンで呼び出し、フィールドを整えていく。


 


「さらにマジック、双翼乱舞を使用!デッキから2枚ドローしてターンエンドだ」


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ブレイドラをLv2で召喚」


 


【ブレイドラ:赤・スピリット


コスト0:「系統:翼竜」


コア2:Lv2:BP2000


シンボル:赤】


 


ライト・ブレイドラとは違い、オレンジ色の毛並みを持つブレイドラが召喚される。少ないコアでLvを上げられるというライト・ブレイドラとは違った長所を持つスピリットを並べ、こちらもフィールドを整えていく。


 


「ターンエンド」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!六分儀剣のルリ・オーサをLv2で召喚!不足コストは森林のセッコーキジから確保!」


 


【森林のセッコーキジ


コア2→1:Lv2→1:BP2000→1000】


 


【六分儀剣のルリ・オーサ:緑(赤)・スピリット


コスト4(軽減:緑2・赤1):「系統:殻人・星魂」


コア2:Lv2:BP5000


シンボル:緑(赤)】


 


青緑色の殻がその身に纏われた人型のスピリットが呼び出される。昆虫の鋭い爪が生えた腕を持ち、合計四本の腕を宙に広げるルリ・オーサが背中から生えた羽で空を舞いながらゆっくりと着地、その手に握られた剣を弾へと向ける。


 


「このスピリットは……」


「ルリ・オーサ、召喚時効果!ボイドからコア1個ずつを自分の赤のスピリット2体に置く!ルリ・オーサはLv2の時、自身を赤として扱い、森林のセッコーキジもまた自身を赤として扱う!この2体にコアを追加!」


 


【六分儀剣のルリ・オーサ


コア2→3】


 


【森林のセッコーキジ


コア1→2:Lv1→2:BP1000→2000】


 


「緑のコアブーストか」


「ターンエンドだ」


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、メインステップ。ブレイドラをLv3にアップ」


 


【ブレイドラ


コア2→3:Lv2→3:BP2000→3000】


 


「バーストをセットしてターンエンドだ」


(弾さんがまだ動かない……?それとも、動けない……?)


 


弾がここまで静かなのは少し意外だ。そう思いながら響は弾のフィールドと手札を見る。相手がガイ・アスラだと分かっているからこその戦い方なのか、或いは手札が悪いのか。それは定かではないが、弾なりに考えがある筈だ。そう信じながら次のネフシュタンの少女のターンに移る様子を見る。


 


「へっ、随分静かじゃんか。スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!来たれ!幻羅の眷属!スレイヴ・ガイアスラ、召喚!不足コストは、ルリ・オーサから確保!」


「来た……超覚醒!」


 


【スレイヴ・ガイアスラ:赤・スピリット


コスト6(軽減:赤3):「系統:滅龍・星竜」:【超覚醒】


コア1:Lv1:BP4000


シンボル:赤】


 


少女の背後で炎が立ち昇る。その中から現れる、赤黒い翼。黒い無機質な皇室の身体。マグマのようにすら思わせるオレンジ色の皮膚を持つ巨体のドラゴンが現れる。真の姿を解放する前の幻羅星龍ガイ・アスラを彷彿とさせるその姿を見ながら、弾は異界王の圧倒的な威圧感を思い出し、同時にガイ・アスラに対する己の熱い思いを感じていた。


 


「アタックステップ!ルリ・オーサでアタック!」


 


超覚醒はこのターンでは温存しておくつもりなのだろう。ルリ・オーサが剣を振り上げて弾へと襲い掛かる。


 


「ライフで受ける!」


 


弾のライフが砕けようとする。ルリ・オーサが剣を振り上げて弾へと叩きつけようとした瞬間、ルリ・オーサの目の前に正六角形の緑色の光の輪郭を無数に束ねたような板が出現し、その中心へ攻撃のエネルギー全てが吸収、それが一筋の光線となって弾のライフを撃つ。


 


「……」


 


こんな痛みも何時ぶりだろうか。異界王と戦った時、獄龍隊と戦った時。それ以来とも言えるだろう。だが、ダメージを受ける時に感じる痛み自体にほとんど意味はない。バトルを楽しむ上で、この痛みはバトルフィールドに立っているという確かな感覚を証明することにしかならないのだから。


 


「ふっ」


(!?嘘だろ……笑ってるのか!?装者として何度も戦ってきていたあの風鳴翼が一撃で悶え苦しむような痛みを……!?)


 


そんな痛みを受けながら倒れる事すらせずに、寧ろその痛みが心地いいと言わんばかりに不敵な笑みを浮かべてその場に立つ弾。その姿は異常であり、とても不気味にすら思えた。


 


「さぁ、どうした?まだターンは終わってないぜ?」


「っ、ターンエンドだ!」


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、メインステップ。いくぞ、来たれ、黄色の十二宮Xレア!乙女座より現れろ!戦神乙女ヴィエルジェ!Lv2で召喚!不足コストはニジノコ及びブレイドラより確保!」


 


【ニジノコ:黄(白→赤)


コア3→1:Lv3→1:BP3000→1000


シンボル:黄(白→赤)】


 


【ブレイドラ


コア3→0】


 


【戦神乙女ヴィエルジェ:黄・スピリット


コスト6(軽減:黄3):「系統:光導・天霊」


コア2:Lv2:BP6000


シンボル:黄】


 


弾がカードを掲げると共に弾の周囲から立ち昇った黄色の光が空に放たれ、乙女座を描く。そしてそこから光の衣を纏って見る者全てを魅了するかのような金髪のロングヘアを持つ乙女が舞い降りる。慈悲に溢れた緑色の目を開き、先端で花の咲いた杖を握る、白い羽衣を纏った天使が白い翼を広げると共に、ブレイドラが不足コスト確保の為に消滅する。


 


「乙女座のXレア……凄い綺麗……」


(これも十二宮Xレアの一体って奴か……ただ、その……全くイメージに合わない……)


「戦神乙女ヴィエルジェ、召喚時効果!自分のライフが5以下のとき、ボイドからコア1個を自分のライフに置く!」


 


弾のライフが再び増える。しかし、それはさらに一つ、ネフシュタンの巨大な力を受けることになるということ。だが、そんなことを弾が考えるまでも無い。


 


「ライフ回復効果!?」


「アタックステップ!ヴィエルジェでアタック!」


「へっ、馬鹿か!スレイヴ・ガイアスラでブロック!さらに超覚醒!ルリ・オーサ、森林のセッコーキジ、ファイザードのコアを移動させ、Lv3へ!さらに回復!」


 


【ファイザード


コア1→0】


 


【森林のセッコーキジ


コア2→1:Lv2→1:BP2000→1000】


 


【スレイヴ・ガイアスラ


コア1→5:Lv1→3:BP4000→8000】


 


スレイヴ・ガイアスラが翼を広げ、回復する。その影響でファイザードとルリ・オーサが消滅し、代わりにスレイヴ・ガイアスラはBP8000へと上昇してヴィエルジェを迎え撃つ。乙女座の十二宮Xレアの力がただライフを回復するだけである訳が無い。そう考える少女の予想は正しい。


 


「ああ……!」


「そうだ、それでいい!」


「!?」


 


それでいい。そう言った弾に少女は目を見開く。スレイヴ・ガイアスラの手に込められた熱線がヴィエルジェを貫き、無数の光へと霧散させる。だが、弾の手札にはヴィエルジェのカードが握られたままとなっている。


 


「何!?」


「戦神乙女ヴィエルジェ、Lv2・3効果!系統:「光導」/「天霊」を持つ自分のスピリットすべては、相手によって破壊されたとき手札に戻る!そして手札に戻ったヴィエルジェは、再び召喚時効果が使用できる!」


「!」


「そしてガイ・アスラは超覚醒という強力な効果を持つ反面、自力でコアを外す事が出来ない。それは眷属であっても例外じゃない!」


「ぐっ……!」


 


思わず唸る少女。ここまで考えてアタックしていたのだ。もし今のアタックをライフで受けたのならば受けたで相手のライフを1つ削れたという結果が残るだけ。どちらに転んでも弾にとって良い状況になるだけだ。スレイヴ・ガイアスラからコアを回収する手段が少女のデッキに無いわけではない。しかし、その方法を取った瞬間にそのスレイヴ・ガイアスラはフィールドからトラッシュへ消える事となるのだ。


 


「ターンエンド!」


「弾さん……ここまで考えて!」


「この程度でスレイヴ・ガイアスラが攻略出来たと思うな!スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!2体目の六分儀剣のルリ・オーサをLv2で召喚!」


 


【六分儀剣のルリ・オーサ


コア2:Lv2:BP5000


シンボル:緑(赤)】


 


2体目のルリ・オーサが呼び出される。こちらもLv2で呼び出されており、さらにフィールドには3体の赤のスピリットが存在する。


 


「ルリ・オーサの効果で自身と森林のセッコーキジに再び1コア追加!」


 


【六分儀剣のルリ・オーサ


コア2→3】


 


【森林のセッコーキジ


コア1→2:Lv1→2:BP1000→2000】


 


「まだだ!さらに賢龍ケイローンを召喚!不足コストは森林のセッコーキジとルリ・オーサをLv1に下げて確保!」


 


【森林のセッコーキジ


コア2→1:Lv2→1:BP2000→1000】


 


【六分儀剣のルリ・オーサ:緑


コア3→1:Lv2→1:BP5000→3000


シンボル:緑】


 


【賢龍ケイローン:赤・スピリット


コスト5(軽減:赤2・緑1):「系統:星将・古竜」:【連鎖:条件緑シンボル


コア1:Lv1:BP5000


シンボル:赤】


 


大樹とドラゴンが組み合わさって生まれたケンタウロスのような姿をしたドラゴンが少女のフィールドに続けて現れる。その手に握られた樹の弓が、その存在を一層引き立たせている。


 


「賢龍ケイローン、召喚時効果!BP5000以下の相手スピリット1体を破壊して、デッキから1枚ドローする!ニジノコを破壊し、1枚ドロー!」


 


ケイローンの手にした弓から放たれた矢がニジノコを貫く。そしてデッキからカードを1枚ドローするが、まだケイローンの効果は終わらない。


 


「さらに緑のシンボルが1つあることで連鎖発揮!ボイドからコア1個をこのスピリットに置き、緑のシンボルが2つあることにより連続で連鎖が発揮される!さらにボイドからコア1個、合計2個をこのスピリットに置く!」


 


【賢龍ケイローン


コア1→2→3:Lv1→2:BP5000→8000】


 


「一気に4コアもブーストした!?」


「だが、スピリットの破壊によりバースト発動!双光気弾!デッキからカードを2枚ドローする!」


 


弾もまたただではやられない。ニジノコが破壊され、トラッシュへ送られたことで双光気弾を発動する。ヴィエルジェの時は手札に戻った為、発動は出来なかった為、ここで手札補充を行う。


 


「さらにバーストをセットしてアタックステップ!森林のセッコーキジでアタック!」


「ライフで受ける!」


 


森林のセッコーキジが刀を抜いて弾へと振り抜く。刀を叩きつけられ、そのエネルギーが集約した光線が弾を貫き、ライフをさらに一つ奪い取る。


 


「続けてルリ・オーサでアタック!」


「こちらもライフで受ける!」


 


二度目となるルリ・オーサの攻撃もまたライフで受け切る。ここでスレイヴ・ガイアスラの超覚醒を用いれば一気に弾のライフを削り取れる。しかし、弾のリザーブにはコアが溜まっており、迂闊に攻めてアタックステップ終了系のマジックを使われてしまえば、スレイヴ・ガイアスラにコアを無駄に喰わせる結果で終わる可能性もある。


 


「……ターンエンドだ」


「どうした?攻めてこないのか?」


「そんな安い挑発に何か乗るかよ」


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ。君は、何故戦う?」


「何?」


 


てっきりこのままメインステップに突入し、ヴィエルジェの再召喚を行う。そう思っていた少女は突然語り掛けられた事に驚きの声を漏らす。しかし、少女のそんな反応に対して何か言うこともなく、弾は少女に次の言葉を投げかける。


 


「君は何故響を狙う?何故、デュランダルを奪おうとする?」


「……はっ、そんなこと素直にばらすと思ってるのかよ?」


 


そこまで頭は簡単に出来てないぜ、と付け加えながら少女は弾を小馬鹿にするように返答する。しかし弾は冷静に少女を視る。バイザーでその奥の瞳は見えない。だが彼女のバトルから感じ取った、その必死な思い。ネフシュタン、いや、異界王の力を使ってまでしなきゃいけない強い思いが彼女にはある。そう確信した上で弾はさらに言葉を重ねていく。


 


「俺は知りたい。君が、こんな誰かを傷つける方法を取りながらも、そうしてでも成し遂げようとしている目的を。何故、優しい君がこんなことをしているのかを」


「ばっ、誰が優しいだ!ふざけたことを言うな!」


「別にふざけてなんかないさ」


 


声を荒くして言い返すネフシュタンの少女。しかし、既に彼女も弾のペースに陥っているのだ。バトルスピリッツを通じて行われる対話。弾とぶつかり合い、戦う中で弾の次の一手、弾の行動、弾の使うカードを考える中で彼女もまた、馬神弾という人間のことを無意識の内に理解しようとしているのだ。


 


「弾さん……」


(バトルスピリッツは対話。とはよくもまぁ言ったものね……)


 


敵であっても、分かり合おうとする弾の姿。カードバトルを通じて分かり合おうとする弾の姿は、一見すればただの偽善者と嫌われる姿かもしれない。しかし、それでも自分を貫き通し、分かり合おうとする。現に弾は多くの者とバトルスピリッツで通じ合ってこれたのだ。そして今回もやることは同じだ。


 


「君は敵である翼が倒れた時、彼女を気遣う言葉をかけたんだろ?」


「そ、そんなのそいつを連れていく為に吐いた嘘に決まってるだろ!?」


 


苦しそうになりながらも弾の言葉を否定する。今の自分に優しさや甘さなど必要ないのだ。そう言わんばかりに弾の言葉を否定する。しかし弾は、ここで引き下がりはしない。


 


「バトスピを通じて伝わって来たよ。君が苦しい思いをしながら戦っていることが。だから、全てとは言わない。少しでもいい。教えてほしいんだ。君が戦っている理由を」


「……お前、本当の馬鹿かよ……?」


「かもな」


 


ここまで言われて、遂に言葉を失うネフシュタンの少女。自分が戦いにおいてどれだけ愚かな行為をしているのか、そんなことは百も承知の発言だ。だからこそ、少女は弾という人間に対し、言いようのない感情を抱く事となってしまった。いろんな意味で底の見えないこの男との戦いを長引かせてはいけない。そんな継承が頭の中で鳴り響く。


 


「っ、言葉だけで取り繕ったって、それが信用出来るか!!裏でどんなどす黒いことを考えているのかどうかも分からないんだからな!下手に大人ぶって、大人の理屈を語ってんじゃねえよ!」


「大人か。ああ、俺も以前と比べて少し成長した。だからこそ、俺は君と分かり合えるし、このバトルに勝つ」


「!?」


 


絶句。呆然とした少女の目の前で、言われた言葉の全てを飲み込み、受け入れた上でそれを上回る。弾は強い瞳で、少女を射抜きながら己の強い言葉を放つ。


 


「君は、バトルの先のヴィジョンを見ているか」


「何……!?」


「目的の為に戦う。譲れない大切なものがあるからこそ、敵対する。けど、その戦いの果てに、勝利を掴み取った先に広がる世界を思い描いているか?」


「何だよ、急に……」


「俺にはある。ノイズを倒し、立ちはだかる敵を叩き潰し続けた先に追い求める、俺や異界王が作った時代の遥か未来の時代で本来、戦う責務がないであろう俺が戦う目的が。そしてその先で待つ人達の姿が。目の前だけ見ても、バトルには勝てない。自分を曲げず、貫き、そして目の前の展開だけではなく最後まで見据えなければ、カードバトラーとしての勝利は見えてこない!」


「っ!」


 


思わず少女は自分の身体を震えさせる。嘘や偽りなどではない。弾は自分が言ったその言葉の全てが事実であると相手に思い込ませるほどの気迫を放っていた。静かな雰囲気の中突如としてその覇気を見せられ、それが逆に弾の言葉を信用する大きな要因へと昇華させられる。このまま、言葉で戦っても、弾には絶対に勝てない。少女は半ば混乱しながらも有りっ丈の叫びを上げる。


 


「何だって言えるんだよ!!言葉だけなら!!それが嘘かどうか、てめえ自身が証明してみろよ!!」


「ああ、なら証明して見せるさ。メインステップ、ニジノコを召喚」


 


【ニジノコ:黄(赤)


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:黄(赤)】


 


二体目のニジノコがフィールドに呼び出される。これで下準備は完了だ。


 


「新たな十二宮Xレアをここに!双子座より来たれ!創造と破壊、二つの顔を持つ天空の魔術師!魔導双神ジェミナイズ、Lv3で召喚!」


 


【魔導双神ジェミナイズ:黄・スピリット


コスト7(軽減:黄4):「系統:光導・導魔」


コア3:Lv3:BP8000


シンボル:黄】


 


双子座の黄色い光が地面に出現する。地面を砕き、無機質にすら思える細い腕を持つ奇妙な姿をした白と黒、それぞれカラーリングの違う奇術師二人が背中合わせに繋がったような容姿を持つスピリットが光を払って大地へ出現する。


 


「!?乙女座じゃない!?」


 


完全に裏を書かれた。また乙女座を呼び出してライフを回復し、防御を固めながら来る。召喚するだけでライフを回復するその効果を活かしてくるだろうと先程のターンの行動から思い込んでいた少女は完全に虚を突かれる形となった。


 


(これじゃ、バーストが起動しない!!)


 


セットされたバーストの発動条件は、相手スピリットの召喚時効果。ヴィエルジェが呼ばれればその召喚時効果に反応したのだが、ジェミナイズに召喚時効果は存在しない。


 


「くっ、一体どんな効果を……!?」


「ターンエンドだ」


「!?ターンエンドだと!?」


 


攻撃しないのか。いや、弾のフィールドにはスピリットが二体だけなのだから、アタックしないのはある意味当然のことだ。しかし、少女はその判断が出来ないくらいに思考が追い詰められていた。


 


(確か、ジェミナイズの効果は……!)


「来ないんだったら、これ以上変なことをやられる前にブッ倒してやる!スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!さらにスレイヴ・ガイアスラ2体を召喚!!不足コストはルリ・オーサとケイローンより確保!!」


 


【六分儀剣のルリ・オーサ


コア1→0】


 


【賢龍ケイローン


コア3→1:Lv2→1:BP8000→5000】


 


【スレイヴ・ガイアスラ:赤・スピリット


コスト6(軽減:赤3):「系統:滅龍・星竜」:【超覚醒】


コア1:Lv1:BP4000


シンボル:赤】


 


【スレイヴ・ガイアスラ


コア1:Lv1:BP4000


シンボル:赤】


 


ジェミナイズ一体しかいない弾にこれ以上何かをされる前に叩き潰す。一気に畳みかけるようにスレイヴ・ガイアスラを連続召喚してみせる少女。


 


「三体のスレイヴ・ガイアスラ……!?」


(さぁ、どうなることやら)


「アタックステップ!Lv3のスレイヴ・ガイアスラでアタック!」


 


スレイヴ・ガイアスラが天へ舞い上がる。少女のフィールドのスピリットは五体。超覚醒を含めれば合計七回のアタックが可能となる。二度はブロックで防げても、残るアタックは防げない。


 


「こいつらで終わりだ!!」


「弾さん!!」


「……ふっ」


「「「!」」」


 


スレイヴ・ガイアスラのアタック。それを待っていたかのように弾は不敵な笑みを浮かばせる。相手を挑発させ、焦らせ、攻め手を急がせる。現に彼女は、強力なスレイヴ・ガイアスラを並べて一気に畳みかけてきた。この布陣を一網打尽にする手段を、弾はその手から放つ。


 


「フラッシュタイミング!サンダーブランチ!不足コストはジェミナイズとニジノコより確保!」


 


【ニジノコ


コア1→0】


 


【魔導双神ジェミナイズ


コア3→2:Lv3→2:BP8000→6000】


 


「このターンの間、合体していない、または転召を持たない相手スピリットすべてのLv1/Lv2/Lv3BPを2000として扱う!」


 


【森林のセッコーキジ


BP1000→2000】


 


【賢龍ケイローン


BP5000→2000】


 


【スレイヴ・ガイアスラ


BP8000→2000】


 


【スレイヴ・ガイアスラ


BP4000→2000】


 


【スレイヴ・ガイアスラ


BP4000→2000】


 


天空から降り注いだ稲妻が少女のフィールドの全てのスピリットのBPを固定させる。一気にBPを下げられてしまうが、少女はそれでも自分の優位は揺るがないと口を開く。


 


「そんな苦し紛れ!どうってことはない!」


「はたしてそうかな?」


「!?」


「魔導双神ジェミナイズ、Lv2・3効果!自分がコストを支払ってマジックカードを使用したとき、その効果発揮後、自分のマジックカード1枚をノーコストで使用できる!」


「マジックの連続使用だと!?」


「そうか!弾さんはサンダーブランチとのマジックコンボを!」


「さらにマジック、ネオ・フレイムテンペスト!BP4000以下のスピリットすべてを破壊する!」


 


BP6000のジェミナイズ以外は全てサンダーブランチの効果によりBPは2000となっている。よって、少女のフィールドの全てのモンスターが、ネオ・フレイムテンペストの焼き範囲内に入っており、吹き荒れた炎の竜巻が、スレイヴ・ガイアスラ、ケイローン、森林のセッコーキジ、全てを包みこみ、焼き尽くしてしまう。


 


「嘘……だろ?」


 


目の前で起こった逆転劇に、呆然と言葉を漏らす。しかし、嘘でも夢でもなく、それは紛れもなく現実の光景でしかない。そして、その光景を作り出した男は、一層不敵さを感じさせる笑みで、何事も無かったかのようにこう言ってのけるのだった。


 


「さあ、勝負はこれからさ。そうだろ?」

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