第21話 輝石の奇跡
エクストリームゾーンから素早く外に飛び出した奏。翼の姿が見えないところを見るに、彼女もシンフォギアを纏ってノイズを連れてエクストリームゾーンへ移動したのだろう。しかし、どうも数が多すぎる。そのせいで一回バトルしただけではノイズの全ては仕留めきれず、残してしまったノイズの手によって会場は破壊され、人々も多くが炭化して消えてしまっていた。それでも尚、ノイズはまだ大量に残っている。
「……」
一度ノイズがどれくらいいるのかを確認する為に高く跳躍する。そんな奏を襲うべくノイズ達がその身体を伸縮させるかのように蠢き、空へと次々と飛び出してくる。いつもならば全部エクストリームゾーンに一度に引きずり込めるチャンス。しかし、今はそれよりもまだ生存者がいるかどうかを確かめるのが先決だと手にした槍を軽く回転させる。瞬間、槍が無数に分裂してそれが雨のようにノイズへ降り注ぎ、次々とノイズを仕留めていく。
(やっぱり、これだと効率が悪い……!)
歯ぎしりをしながら、会場全体を見渡していく奏。地上がノイズによって阿鼻叫喚の状況となっている中、大爆発によって破壊された地下で動く影が一つあった。
「く……」
弦十朗が身体を起こすと、背中に乗っかっていた瓦礫や塵が背中を伝って地面に落ちていく。爆発の衝撃で破壊され、研究員たちのほとんどが今の爆発で死亡していた。そんな死人たちの顔ぶれを見ながら、その中に了子の姿がないことに気付く。
「了子君……無事か……?」
頬から血が流れている事を感覚から感じ取りながら、顔を見渡していくその時。ある一点から放たれた光を見てその視線が釘付けとなる。
「!?ネフシュタン……!?」
宙に浮かんでいたネフシュタン。その白い物体に黒い光が灯っていき、それは虹色の光となっていく。しかし、それ以上の異質さを演出していたのは、光の中でその姿形を変化させていくネフシュタンだろう。
「これは……!?」
弦十朗がどんな変化が起こっているのかを確認する為にもっと良く見ようとした次の瞬間、天井が崩れて弦十朗の目の前に落ち、煙が発生して視界を塞いでしまった。
「……」
目の前で起こっていたのは、逃げるしかないノイズを倒していく二人。エクストリームゾーンへノイズを引き込み、それを倒して戻ってきたのだろう。奏がバトルスピリッツだけではなくリアルファイトでもノイズを倒していくその現実離れした光景に、その運命の日に立ち合わせていた響は完全に思考を奪われてその場に立ち尽くしていた。
「……これって……」
呆然とした声が漏れるだけだった。しかし、嫌でも響に我を取り戻させるアクシデントがここで引き起こされる事となる。暴れるノイズ達が引き起こし続けた単体では小さかったりするその衝撃が積み重なり、蓄積された観客席が破壊されてしまい、響は一瞬の浮遊感を感じ取る。
「きゃあ!?」
「!?」
思わず、声が漏れてしまう。すぐにはっとなって口を塞ぐが、その声はノイズ達に自分の居場所を教えてしまう要因となってしまう。ノイズ達は一斉にその身体の向きを響へと向け、地面に無造作に投げ出された響へと一気に襲い掛かろうとする。目の前の獲物を喰らう為に。
「!」
終わった。そう悟り、恐怖からその目が閉じられる。しかし、いつまで経っても自分の身体にはあらゆる感覚が残っている。一体なぜなのか。おそるおそる目を開けると、そこには奏の姿があった。がむしゃらに突進してくるノイズ達を、槍を高速回転させることで作り出した楯で受け止めて攻撃を防ぎながら、奏は響へと声を張り上げる。
「駆け出せ!!」
「!」
その声に、今自分がしなければならないことを思い出したかのように立ち上がり、移動を始める。先程地面に投げ出されたときに膝を怪我したのか、走るというにはあまりにも遅すぎる速度で、それでも今の彼女が出来る最高の速度で逃げ出そうとする。その間、ノイズ達の猛攻を必死で受け止めていく奏。ここでエクストリムゾーンに引き込めば、確実にこの空間に残るノイズに響が殺されてしまう。だからこそ、こうして防ぐしかない。だが、そんな中彼女の槍が、不穏な知らせを告げるかのように赤く点滅し始める。
「……!?くそ、時限式が……!」
自虐も込めて声を漏らす。LiNKERによって無理矢理適性を得ているその代価の一つとも言えるデメリット。しかも今日に関しては聖遺物への適性能力がネフシュタンに悪影響を与える可能性を考慮し、LiNKERをここ最近は取り込んでいないのだ。それでも以前までに取り込んでいたLiNKERの影響のおかげか今はギアを纏えている。しかしそれも限界が訪れたのだ。
(頼む。持ってくれ……!あの娘が逃げられるまで!)
適性が徐々に消えてきている。その影響からか、槍に目に見えて分かるひびが刻まれていき、槍の隙間を縫って飛んできた衝撃がヘッドフォンなどにひびを刻んでいく。この楯はもう持たない。それを察したのかどうかは分からない。しかしノイズは、さらに強い勢いで奏へと襲い掛かる。
「こなくそぉおおおおお!」
叫び声を上げ、有りっ丈の力でそれを受け止めきる。攻撃を受け止めたその衝撃で次々と武装が砕け散り、背後へと飛び散っていく。前方から力が来たのだから、背後に飛んでいくのは自然の摂理だ。しかし、その自然の摂理が今、不運にも武器となる。
「……え?」
瓦礫やコンクリートに突き刺さり、砕けていく音。その中で、奏は確かに肉のようなものに何かが突き刺さった鈍い音を聞いた。自分の身体自体には何も変化はない。となれば、その一撃を受けたのは誰か。自分の後ろにいた人は誰か。
「……」
後ろを振り向いた奏の目が見開かれ、その手の槍が動きを止める。そこにいたのは、胸から血を溢れ出し、宙に投げ出された響の姿。ガングニールの破片をその身体に喰らい、吹き飛んだ響が瓦礫に激突し、倒れる。それ同時に、奏は大量の物量となったノイズを、その身体に喰らった。
「がっ……」
腹から何かが込み上げてくる。その全てを無理矢理呑み込みながら地面を転がる自分を地面に槍を突き刺して動きを止め、即座に立ち上がると衝撃波を地面を抉るようにノイズへと放ち、煙を張って一時的にノイズから自分達を隠す壁を作ると響に駆け寄る。
「っ、おい、死ぬな!生きるのを諦めるな!」
光の消えかかったその目を見ながら、奏は響の肩を掴み、声をかける。その声に、全ての感覚を失いかけ、視界も意識も朦朧としながら、響はほとんど無意識と言ってもいい状態で僅かに奏を見る。
「……!」
まだ生きている。でも、すぐに治療しなければ彼女は救えないだろう。そして、自分もまた、このままではただ死ぬしかない。翼一人でも、これ程大量のノイズと戦うのは厳しいだろう。ならば、自分がやるしかない。この、消えかかった命。それを、誰かを救う為に燃やし尽くす。
(いつか、心と身体、全部空っぽにして思い切り歌いたかったんだよな)
静かにボロボロの槍を拾い、どこか晴れ晴れとした顔で、静かにノイズ達へと歩く。一見すればこれ以上ない静かな気配。しかし、彼女の周囲では、そして彼女の中では膨大な量のフォニックゲインが生成されようとしていた。
(今日はこんなにたくさんの連中が聞いてくれるんだ)
通常のシンフォギアのスペックでは全部を一回で仕留めるのは無理だ。だが、この方法を用いて一回で相手することの出来る量を増やせるなら。
(だから私も……出し惜しみなしで逝く)
最期の絶唱を、歌おう。
「……」
静かに、歌が響く。自身の身体と命を燃やし尽くし、膨大なフォニックゲインを以て立ちはだかる敵を殲滅する力、絶唱。彼女が救われる、そんな奇跡を掴む為に覚悟を決めた歌。それが流れた次の瞬間。奏の首元にかけられていた、紅蓮の石が力強く光り輝いた。
「!?」
まさかの事態に、奏自身も戸惑いを隠せない。それでも、絶唱を歌う事は止めない。そして、もう取り返しのつかない状態にまで訪れた所でエクストリームゾーンから飛び出した翼は、奏の姿を見る。
「……え」
奏が何をしようとしているのか。一目で、すぐに理解出来てしまった。駄目だ、それを歌ったら。そう言おうとしても、言葉に出来なかった。彼女の目を見てしまったら。
「……歌が、聞こえる……」
(これが、命を燃やす歌。そして、私が起こす、最期の奇跡だ)
石から溢れる紅蓮の光が、ノイズを全て包み込む。いや、それは石とは最早呼べない。絶唱の膨大なエネルギーを取り込んだその石は、先程よりも一回りも大きくなり、かつて一人の少年が未知なる世界へと向かうゲートを開く為の力を宿した存在。紅蓮の輝石へと復活を遂げていた。
「ゲートオープン、界放」
その光に呑まれた全てのノイズ、そして翼は別の世界へと投げ出される。だが、その空間はバトルフィールドでもエクストリームゾーンでもなかった。中央に二つの光が投げ出され、その光は一つの台のようなものの上に存在している。その周囲には次々と細い柱のようなものが空から落ちていき、十本が均等な間隔を空ける。全てがはまった瞬間、中央が音を立てて凹み、柱が加工されて砂時計のような形へと変化する。次にその柱と柱の間を埋めるように十枚の壁がはめこまれ、半円の形に壁の表面が凹む。
続けて柱の上部に三角形の光を放つクリスタルのようなものが装着され、中央の二つの光がその間隔を広げて向かい合うように壁の外側へと移動していく。そして台座の中央は二等辺三角形のパネルをちりばめたような形となり、それを固定するように周囲の壁からネジのようなものが伸びて台座へとねじ込まれる。
さらに台座の上に徐々に間隔が広げられるように宙を浮かぶリングが出現していき、最後に中央の床を開閉する為の鎖が周囲から伸びてパネルへと連結される。周囲を覆う青空の中、四つの柱が前方にあり、その中にプレイシートの置かれた台座が見える。そして、奏はその未知の空間に立っていた。
(ここは……?)
目の前には、あれだけいた無数のノイズ達全員が一つに集約された個体が立っていた。イセカイ界と呼ばれる未知の空間、自分の声は届く事はない。しかしその空間の中、翼は自分がどこから奏達を見ているのかすらも分からなかった。声すらも出てこなかった。
「……?」
ふと、奏はデッキにある違和感を感じ取った。1枚余分に多いような。いや、今はそんな事を気にしている暇などあるわけがない。
「スタートステップ、ドローステップ、メインステップ」
今のところは絶唱の影響か身体の節々が痛いがまだ戦えないほどではない。いや、ここまでやって負けることなど出来る訳もない。場所や環境が違えど、やることは何一つとして変わらないのだ。
「エクス・ムゲンドラをLv2で召喚」
【エクス・ムゲンドラ:赤・スピリット
コスト2(軽減:赤1):「系統:新生・古竜」:【スピリットソウル:赤】
コア2:Lv2:BP3000
シンボル:赤】
何時ものように声に勢いが無い。絶唱のダメージで大きな声を出せばそれが身体に響いてしまうからなのか。静かに呼び出されたオレンジ色の鎧を纏ったムゲンドラは、空中に立つように現れる。召喚に使われたコアはトラッシュに移動するが、バトルフィールドとかとは違い、コアは消滅せずにそのまま残っていた。
「ターンエンド」
『スタートステップ、コアステップ』
コアステップをノイズが宣言した瞬間、虚空から現れるのではなくどこかから一個転がってくるようにリザーブにコアが追加されていく。
『ドローステップ、メインステップ。ネクサス、夢中漂う桃幻郷を配置』
【夢中漂う桃幻郷:黄・ネクサス
コスト4(軽減:黄2)
コア0:Lv1
シンボル:黄】
ノイズがネクサスを場に出す。しかし、エクストリームゾーンやバトルフィールドとは違い、ネクサスの姿がフィールドには現れない。イセカイ界ではネクサスは姿を現さないということか。
『ターンエンド』
「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。2体目のエクス・ムゲンドラをLv2で召喚」
【エクス・ムゲンドラ
コア2:Lv2:BP3000
シンボル:赤】
「バーストをセットしてアタックステップ、エクス・ムゲンドラ2体でアタック。Lv2・3アタック時効果で1枚ずつ、2枚ドローだ」
『ライフで受ける』
ライフで受ける宣言をしたノイズへエクス・ムゲンドラ達が襲い掛かる。二体はその拳に炎を纏わせると、それを勢いよく前方へと放つ。しかし、その先にノイズは存在しない。だが、その炎は途中で消えて代わりに結晶が砕け散る音と共にノイズのプレイボードの上のライフのコアの内2つが砕け散る。
「ターンエンド」
『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。カチカチウサギを召喚』
【カチカチウサギ:黄・スピリット
コスト2(軽減:黄1):「系統:戯狩」
コア2:Lv1:BP2000
シンボル:黄】
背中から翼を生やし、両足から炎が流れている白い毛並みの兎がノイズのフィールドに現れる。黄色のネクサスを呼び出した所からある程度は察せられたが、やはり黄色がメインのデッキと言う事だろうか。
『夢中漂う桃幻郷、Lv1・2自分のメインステップ時効果。系統:「想獣」を持つスピリットが召喚されたとき、自分はデッキから1枚ドローする。麒麟星獣リーンをLv3で召喚』
【麒麟星獣リーン:黄・スピリット
コスト2(軽減:黄1):「系統:戯狩・想獣・星魂」
コア4:Lv3:BP5000
シンボル:黄】
靡く赤い髭。紫がかった翼のような衣と、黒と黄色を基調とした鎧を纏った獣。四足歩行をする星獣が、鎖が擦れ合う金属音を響かせながら開かれた中央の最下層の台座の中から空へと高く飛び出してくる。
「いきなりXレアか……!?」
『ターンエンド』
夢中漂う桃幻郷の効果で手札を更にカードを1枚ドローしてターンを終える。アタックせずにブロッカー達を温存したノイズのフィールドに浮かぶ二体のスピリットを用心深く見ながら奏はカードをドローする。
「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。カグツチドラグーンを召喚、不足コストはエクス・ムゲンドラから確保」
【エクス・ムゲンドラ
コア2→1:Lv2→1:BP3000→2000】
【カグツチドラグーン:赤・スピリット
コスト4(軽減:赤2):「系統:古竜」
コア1:Lv1:BP3000
シンボル:赤】
真っ赤に燃え上がる翼を広げ、小型のドラゴンが呼び出される。しかしそのBPはリーンにはまだ程遠い。一体を犠牲にしてまでライフを狙う事にこの場ではあまり意味はないだろう。
「ターンエンド」
『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。シユウを召喚』
【シユウ:黄・ブレイヴ
コスト5(軽減:白2・黄2):「系統:想獣・戯狩」
シンボル:黄】
鉄の額と牛の頭に四つの目を持つ、黄色い装甲に守られたブレイヴが出現する。リーンと相性のいいブレイヴが呼び出され、リーンとシユウは共鳴するかのように雄叫びを上げる。
「ブレイヴ……!」
『麒麟星獣リーンに直接合体』
【麒麟星獣リーン
コスト2+5→7
BP5000+5000→10000
シンボル:黄+黄】
シユウの身体に纏われていた鎧が分離し、シユウ自身の身体が消滅する。分離した鎧は、そのままリーンに纏われていく。シユウは本来、コスト4以上のスピリットとしか合体できないのだが、リーンは合体条件を無視して合体できるのだ。
『アタックステップ、合体スピリットでアタック。シユウ、合体時アタック時効果。ターンに1回、自分のデッキを上から5枚破棄することで、ボイドからコア1個を自分のライフに置き、このスピリットはLv1/Lv2の相手のスピリットからブロックされない』
神閃月下、星空の冠、虚獣帝スフィン・クロス、パオ・ペイール、聖獣カイチ。5枚のカードがノイズのデッキの上から次々とオープンされて広げられ、それらが一気にトラッシュへと移動していき、それと引き換えにノイズのライフに1つコアが生成される。
「フラッシュタイミング、マジック、双光気弾。不足コストはエクス・ムゲンドラから確保」
【エクス・ムゲンドラ
コア2→0】
「相手の合体スピリットのブレイヴ1つを破壊する……私はシユウを破壊」
双光気弾から放たれた炎がシユウを燃やし尽くす。ブレイヴを剥ぎ取られたリーンではあったが、そのアタックが止まるという訳では決してない。
「このアタックはライフで受ける」
リーンの額に雷光が集う。雷光の光はリーンの額から放たれ、それはどこか虚空に吸い込まれるようにして消えたかと思った次の瞬間、奏のライフが一つ砕ける。だが、痛みどころか衝撃すら感じない。フィールドの特色であるとはいえ、今まであったものが無いというのはどこか不安を煽られるものである。
『ターンエンド』
「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。来てくれ……焔竜魔皇マ・グー!召喚!」
【焔竜魔皇マ・グー:赤・スピリット
コスト7(軽減:赤3):「系統:竜人・古竜」
コア1:Lv1:BP5000
シンボル:赤】
オレンジ色に輝く模様を身体に刻んだ一体のドラゴンが中央に開かれた穴の中から現れ、空へと舞い上がる。四本の腕を持つ、人に近い姿をした竜。マ・グーが己の得物であるダブルブレードと斧の二本を持ち、雄叫びを上げる。
「アタックステップ、マ・グーの効果、トラッシュのコアを好きなだけこのスピリットに置く!」
【焔竜魔皇マ・グー
コア1→6:Lv1→3:BP5000→10000】
「マ・グーの効果でエクス・ムゲンドラ、カグツチドラグーン、そしてマ・グー自身にBP+3000、さらに赤のシンボル1つを追加!」
【エクス・ムゲンドラ
BP2000+3000→5000
シンボル:赤+赤】
【カグツチドラグーン
BP3000+3000→6000
シンボル:赤+赤】
【焔竜魔皇マ・グー
BP10000+3000→13000
シンボル:赤+赤】
焔竜魔皇マ・グー、Lv1・2・3、自分のアタックステップ時効果。系統:「竜人」/「古竜」を持つ自分のスピリットすべてをBP+3000する。この効果を受け、系統:「古竜」を持つすべてのスピリットがBPをアップさせた。さらに、マ・グー、Lv2・3効果により、系統:「古竜」を持つ自分のスピリットすべてに赤のシンボル1つを追加するのだ。この二つの効果により、奏は一気にダブルシンボルの古竜を三体作り出したのだ。
「カグツチドラグーンでアタック、アタック時効果で1枚ドロー」
デッキからカードをドローする。そしてドローした1枚を見て、奏は少しだけ頬を緩ませる。そこにあったのは、自分のアルティメット、アルティメット・ジークフリードだったからだ。次のターンもガンガン攻め込める。そう思いながらカグツチドラグーンのアタックを見る。
『カチカチウサギでブロック』
カグツチドラグーンの口から炎が放たれ、それがカチカチウサギを燃やし尽くす。しかし、その破壊によりカチカチウサギの効果が発動される事となる。
『カチカチウサギ、相手による破壊時効果。自分はデッキから1枚ドローする』
「続けて、エクス・ムゲンドラでアタック!」
『ライフで受ける』
「ターンエンドだ」
相手が手札に何を温存しているかは分からない。だからこそ、エクス・ムゲンドラで着実にライフを削り、マ・グーのトドメの一撃は放たずに一旦様子を見る事にする。そして続くノイズのターンが訪れる。
『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。細剣の猫騎士ケット・シーを召喚』
【細剣の猫騎士ケット・シー:黄・スピリット
コスト5(軽減:黄3):「系統:想獣・神将」
コア1:Lv1:BP4000
シンボル:黄】
青い帽子とマントを身に付けた、腰にレイピアを差した猫のスピリットが召喚される。単体では然程大きな力を持っているとは言い切れないが、このスピリットが持つ効果の真価は、別の所にある。夢中漂う桃幻郷の効果でさらに1枚カードをドローし、手札から更なるスピリットをその手に掴む。その手に掴んだカードのコストは10。だが、それを手にした瞬間にそのコストが10から6へと書き換えられる。
『神帝獣スフィン・クロス、召喚』
【神帝獣スフィン・クロス:黄・スピリット
コスト10(軽減:黄6):「系統:虚神・想獣」:【聖命】
コア1:Lv1:BP7000
シンボル:黄】
広げられた赤い翼。金色の身体を持つ、スフィンクスを思わせるその巨鳥は、見る者全てに畏怖を与える。強大な力を秘めた虚像の神が今、その姿を呼び起こす。
「なんだこれは……」
その姿に、思わず奏も驚きの声を漏らすしかない。コスト10のスフィン・クロスだが、細剣の猫騎士ケット・シーが存在するとき、手札にある系統:「虚神」を持つスピリットすべてのコストが6になる効果により、コスト6のスピリットとして呼び出されたのだ。そしてこのスピリットもまた系統:「想獣」を持つ。よって夢中漂う桃幻郷による追加ドローが起動される。さらに、
『神帝獣スフィン・クロス、召喚時効果。自分の手札にある系統:「想獣」を持つスピリットカード1枚を、コストを支払わずに召喚できる。神帝獣スフィン・クロスを召喚。不足コストは、麒麟星獣リーンより確保』
「!?2体目!?」
【麒麟星獣リーン
コア4→3:Lv3→2:BP5000→4000】
【神帝獣スフィン・クロス
コア1:Lv1:BP7000
シンボル:黄】
スフィン・クロスの効果によって手札から2体目が呼び出される。さらにネクサスによる1枚のドロー。そして、2体目のスフィン・クロスの効果が起動する。
『神帝獣スフィン・クロス、召喚時効果。自分の手札にある系統:「想獣」を持つスピリットカード1枚を、コストを支払わずに召喚できる。神帝獣スフィン・クロスを召喚。不足コストは、麒麟星獣リーンより確保』
「3体目まで握っていたのか……!?」
【麒麟星獣リーン
コア3→2】
【神帝獣スフィン・クロス
コア1:Lv1:BP7000
シンボル:黄】
圧倒的。そう言うしかないだろう。一気に3体の大型スピリットを並べたその光景は。だが、ネクサスによる追加ドローと、最後の神帝獣スフィン・クロスの召喚時効果はまだ残っている。
『神帝獣スフィン・クロス、召喚時効果。自分の手札にある系統:「想獣」を持つスピリットカード1枚を、コストを支払わずに召喚できる。虚獣帝スフィン・クロス、召喚。不足コストは麒麟星獣リーンより確保』
【麒麟星獣リーン
コア2→1:Lv2→1:BP4000→3000】
【虚獣帝スフィン・クロス:黄・スピリット
コスト11(軽減:黄6):「系統:虚神・想獣」
コア1:Lv1:BP7000
シンボル:黄】
続けて現れたスフィン・クロスは先程とは少し違っていた。少しだけ影の入った様なスフィン・クロスの降臨、一気に現れた4体のスフィン・クロス、そしてそれだけ展開しておきながらも、ネクサスの効果によるドローで手札損失は一切ないという膨大なアドバンテージだ。
『アタックステップ。神帝獣スフィン・クロスでアタック』
「焔竜魔皇マ・グーでブロック……!」
スフィン・クロスの前に立ち塞がるマ・グー。だが、そのマ・グーに破壊されずに済む為に、ノイズは手札から1枚のマジックを用いる。
『フラッシュタイミング、マジック、サンダーブランチを使用。不足コストは麒麟星獣リーン及び細剣の猫騎士ケット・シーより確保』
【麒麟星獣リーン
コア1→0】
【細剣の猫騎士ケット・シー
コア1→0】
『このターンの間、合体していない、または転召を持たない相手のスピリットすべてのLv1/Lv2/Lv3/BPを2000として扱う』
【カグツチドラグーン
BP3000→2000】
【焔竜魔皇マ・グー
BP10000→2000】
「なっ……」
しまった、とは続かなかった。マ・グーの身体がスフィン・クロスの両手から放たれた光の奔流に呑まれ、破壊されてしまう。
「マ・グー!」
『神帝獣スフィン・クロスでアタック』
「っ、ら、ライフで受ける!」
スフィン・クロスの光が奏のライフを奪う。そのアタックにより、神帝獣スフィン・クロスが持つ聖命が発揮。このスピリットのアタックによって相手のライフを減らしたとき、ボイドからコア1個が自分のライフに置かれる事となる。
「ライフ減少によりバースト、三札之術!BP破壊はできないけど、メイン効果発揮!デッキから2枚ドローし、その後デッキの上から1枚オープン!」
このカード次第となるだろう。仮にアルティメット・ジークフリードを次のターンで呼び出した所ではたして攻めきれるのか。自分のデッキにまだ逆転の目を狙える奇跡のカードが残っているのだろうか。そんな不安を感じ取りながらデッキの上をオープンした、奏の顔が驚きに歪んだ。
「……何だ、これ」
そこにあったのは、アルティメットカード。赤のスピリットではない為にデッキの上にそのまま戻した。だが、先程見たカードから感じ取ったその力が、まだ自分の手に残っている。
『神帝獣スフィン・クロスでアタック』
「ライフで受ける!」
再び聖命の力を受け、ノイズのライフが3つから4つへと増える。虚獣帝もまた動くか。そう考えるが、そうはならずに虚獣帝スフィン・クロスを温存したままノイズはターンを終える。
『ターンエンド』
「……スタートステップ……!?」
第九ターン。それを宣言した瞬間だった。奏は身体中の感覚が消えたかのような錯覚に一瞬陥った。それはすぐに収まったが、左手が痺れている。それだけではない、全身に虚脱感が漲っており、さらに目立つ変化と言えば、
「シンフォギアが……!」
シンフォギアが光に包まれている。しかも、その光は宙に少しずつ霧散するように消えている。限界が近付いてきているのだ。もし、このままバトルを続ければ、敗北の目は確実に自分に向けられる。それを抜きとしても、自分の身体の存在そのものが時限式なのだ。今はまだ、この輝石の力があるからなのかどうかは定かではないが、身体は残っている。だが、勝つにしろ負けるにしろ、この戦いで自分は消えてしまうだろう。だが、今の手札でこの状況を打開することは出来ない。可能性があるとすれば、奇跡が生み出した、新たなアルティメット。その1枚に賭けるしかない。
「コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ムゲンドラをLv2で召喚」
【ムゲンドラ:赤(白)・スピリット
コスト1(軽減:赤1・白1):「系統:新生」
コア2:Lv2:BP2000
シンボル:赤(白)】
鎧を纏っていない状態のムゲンドラが召喚される。これで、全ての準備は整った。赤と白、それぞれの力がフィールドに揃った事で、この奇跡は姿を現すのだから。その力を呼び起こす歌が、奏の口から紡がれていく。その手の1枚に、赤と白、二つの光が集まっていきそれは金色の光となる。
「命を燃やす最期の奇跡!二色合体アルティメットよ、その姿を呼び起こせ!アルティメット・ジークフリーデン、召喚!」
【アルティメット・ジークフリーデン:赤白・アルティメット
コスト7(軽減:赤2・白2):「系統:新生・古竜・武装」
コア3:Lv4:BP20000
シンボル:極】
中央の台座が開かれ、そこから金色の光が空へと放たれる。その中には、アルティメット・ジークフリードに似た金色の龍が姿を見せ、その龍は金色の光を振り払い、フィールドに降り立つ。白い翼を広げ、アルティメット・ジークリードとは違い二本脚で宙に立つ。
(何、このアルティメット……)
奏の持つアルティメットは、アルティメット・ジークフリードだった筈。だが、今彼女が使っているのは、新たなアルティメット、アルティメット・ジークフリーデン。一体どこでそれを手に入れたのか。翼がそう思いながらシンフォギアを光の粒子へ徐々に変換させている奏を見ると、その首元で一層強く光り輝く紅蓮の輝石が目に入った。
(もしかして、あれが……?)
「これが、私の最期だ!アタックステップ!アルティメット・ジークフリーデンでアタック!Uトリガー、ロックオン!」
分解されかけ、ほとんど刃を残していない槍から放たれた光がノイズのデッキトップをトラッシュへと落とす。落とされたカードはペガサスフラップ。コスト4のカードだ。
「ヒット!全てを焼き尽くせ、アルティメット・ジークフリーデン!」
アルティメット・ジークフリーデンから放たれた炎が四体のスフィン・クロスを全て燃やし尽くす。一瞬の抵抗すら与えずに燃やし尽くしたアルティメット・ジークフリーデンのトリガーは、ヒットしたカードのコスト1ににつき1体、BP10000以下の相手スピリットを破壊するのだ。今回ヒットしたカードのコストは4、よって4体のスピリットが全て破壊される事となった。
『ライフで受ける』
さらにアルティメット・ジークフリーデンの手に青い光の氷の槍が作り出され、それが相手のフィールドへと投げられる。虚空へと消えた槍は、ノイズのプレイボードの上に置かれたライフを砕く。もう、相手フィールドにブロッカーはいない。そしてライフは残り3。対する奏のフィールドには、3体のアタッカー。
「これで……終わりだ。いけ、私のスピリット達!」
ムゲンドラ、エクス・ムゲンドラ、カグツチドラグーンの3体の口に炎が集まる。最期のアタックステップ、アタックを宣言した瞬間、奏の口から一筋の血が零れ落ちる。それが地面に垂れた瞬間に3体のアタックが、ノイズの残る全てのライフを打ち砕き、その身体を完全に消し去った。
★
「奏!奏!」
声が聞こえる。もう身体に感覚はない。声も出せない。視界もまともに機能していないだろう。だが、奏は最期に見た。イセカイ界の外で、自分を抱えてくれる翼の姿を。そして、死の直前に何となく気付いた。自分の体が粉々に、散っていくのを。自分の身体が、塵になっていくのを。
この日、一人の装者は、その命の灯火をここで断つこととなった。
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