第19話 双翼の出会い
五年前。二課で、雁字搦めに布で巻かれ、紐で椅子に縛りつけられた一人の少女。首からかけられた、紅蓮の色をした石の欠片を埋め込んだようなペンダントをかけた、鮮やかな赤い髪をしたその少女は、まるで手負いの獣のように暴れていた。
「離せよ!この……!離せ!私を自由にしろ!!」
どう足掻いても人間の、それも少女の力ではどうすることも出来ない状況。それをこの少女だって頭では分かっている筈なのだ。しかしその心はそれを認める事は出来なかった。無理矢理にでもこの状況の何かを変えようとしているかのように暴れる少女がいるのは、一つの部屋。目の前には黒いスーツに身を包んだ男たちや、白衣に身を包んだ研究員たちの姿があった。そして、その中には弦十朗と翼の姿もあった。
「この少女か。報告にあったのは」
(……)
ふと、翼は気付く。これが、過去の記憶であることに。ネフシュタンの少女に敗れた自分は生死を境を彷徨っている間に過去の記憶にその身を投じたのだろうかと。声を出そうとするが、声は出ない。当然だ、これは過去の記憶をそのまま再生されているかのようなものなのだから。出来る行動など当時の自分がしていた行動だけだろうし、口から出てくる言葉も、当時自分が口にしていた言葉だけだ。
「天羽奏、十四歳。ノイズに襲撃された、長野県皆神山聖遺物発掘チーム唯一の生存者です。襲撃当日は休日でしたので、家族を発掘現場に連れてきていたのでしょう。そこを襲われたようです」
「……」
何気ない日常の一幕だったのだろう。それを壊したのは、特異災害とされているノイズ。聖遺物の発掘を行っている場所に現れたノイズはそこにいる人達を殲滅。同時に発掘現場も崩壊し、採掘復興の見通しは地理的にも人材的にも不明という状況になっている。彼女が襲撃された一件に関するその報告を弦十朗が聞いていると、一しきり叫びまくって少しは頭が冷静になってきたのか、先程よりは静かな、だがまだ荒れている雰囲気で奏は弦十朗へ向けて口を開く。
「お前らノイズと戦ってんだろ!?だったらあたしにカードをよこせ!奴らをぶっ殺せる強い力を持ったカードをくれ!!」
奏の心を支配していた感情は、怒りや憎み、悲しみ。あらゆる負の感情。溢れんばかりの負の感情のみを自身の存在理由とした彼女は、最も危ない所にいると言っていい。一歩間違えれば、彼女が歩むのは破滅の道に他ならない。だからこそ、彼女に破滅の道を進ませてはいけない。生き残った命なのだから。そう感じ取った弦十朗は、奏の視線に目を合わせるようにしゃがみ込み、語りかける。
「……つらいだろうが、ノイズに襲われたときのことを話してくれないか。我々が、君の家族の仇を取ってやる」
「眠てえこと言ってんじゃねえぞおっさん!私の家族の仇は、私しか取れねえんだ!私にノイズをぶち殺させろ!!」
それが、一時の感情によるものではない。彼女の目はそう語っていた。目の前で家族が死ぬところを見てきたのだろう。家族だけでは無い、多くの命が消えていく様を。故に彼女は痛感した筈だ。己の無力さを。だからこそ、自らの身が破滅を迎えることになろうと立ちはだかるノイズという敵を殲滅する。その覚悟が確かに彼女からはあった。
「……それは、君が地獄に落ちる事になってもか」
彼女の覚悟を見せつけられた弦十朗は、彼女の身に降りかかった不幸の一端を知っているだけにそれに対して強く反対することはとても出来なかった。だとしても、彼女にはノイズと戦う上で現状では必須となる聖遺物への適性は存在しない。それでも尚、戦う事ができる可能性はある。しかし、それは痛みと苦しみを伴う茨の道。本当にそんな道を進んでもいいのか。そう、最後の警告をするかのように今までとは打って変わって厳しい声音になる弦十朗。しかし奏は、その言葉にある確信を得ていた。自分がノイズと戦う事の出来る方法があるという確信を。
「ノイズをぶっ殺せるなら、地獄に落ちたってかまうもんか!いや、寧ろ望んで地獄に落ちてやる!!」
ならば何を迷う事があるのか。いや、ここで迷っているような時間すら自分には残されていないのではないのか。即断だった。奏がその回答を口にしたのは。
「……」
その光景を見ながら、翼は何の躊躇いも無く力を求めた彼女に驚いていたのを覚えている。そして、弦十朗はここまでの強い覚悟を抱かざるを得なくなったつらい経験をした彼女の頭を優しく撫でながら、言葉をかけずにゆっくりと抱き締める。彼女の辛い気持が少しでも和らぐように。そして、これから彼女が味わうであろう地獄の道を案じるように。
「……」
そして景色は変わる。そこにあったのは、シンフォギア、ガングニール。そして、その近くには数人の研究員が立っており、彼等に囲まれる形で奏はベッドに縛り付けられる形で寝かせられていた。その部屋の隣では、了子や弦十朗、そして自分の姿があった。
(そうだ、ここは……)
聖遺物との適性がない奏に無理矢理聖遺物との適性を与える為に行われる投薬。力を望んだ彼女は、厳しい訓練と薬物投与を繰り返すことで、第三号聖遺物、ガングニールへの適性が試みられた。そして、今日もまた、薬物投与が行われようとしていた。
「……」
研究員が半透明な濃い緑色の液体を奏へ注射する。LiNKERと呼ばれる特殊な薬物を投与することで、適合者ではない者を人為的に適合者に仕立てることが可能となる。しかし、その薬物は本来、人間に与えるべきものでは決してない。聖遺物と非適合者を繋ぐ潤滑剤。そう言えば聞こえは良いのかもしれないが、実際は人間の身体を蝕む効果が現れる。
「がっ、あ、があああああ!!」
そしてその副作用といえる効果は今回も現れた。LiNKERを投与された奏の目の焦点がずれ始め、その副作用とも言える激痛と苦しみが彼女を襲う。想像を絶する痛みを受けている彼女。それを、周りの者たちはただ見ているしかなかった。こうすることでしか彼女の力になれない。その事が悔しいのか、弦十朗は無言のまま、ただ力強く己の拳を握る。血が流れてしまうほどに。
「……」
内心では悔しそうに思いながらも、彼女がどっちの選択肢を取る事になろうとこの苦しみから早く逃れられるように了子を見る。了子は弦十朗の視線に応えるように無言のまま頷くと、機器を操作していき、彼女にLiNKERを投与したことによって現れた変化を確認していく。
「ここまで操作しても未だ適合ならず、か……やっぱり、簡単にはいかないものね」
彼女は元々光主ではない。その魂に究極シンボルが無い者に究極シンボルの代わりとしてその身体を苦しむ事となるのだ。それも、何回もやっても尚手に入るものではない。が、それもある意味当然の事と言えるだろう。莫大な魔力を所持していてやっとその力を制御することの出来るマザーコア。その力の一端だったとしても、それを普通の人間が身体に適合させることはあまりにも酷な事だろう。この結果も、ある意味当然と言えば否定できないものではあった。無論、本人が納得出来るかどうかを問われれば別問題だが。
「……!?」
彼女の身体のことを考えれば、投薬をここで終わりにしておくべきだろう。いや、今でさえ人体への影響を考えればギリギリの所でもある。とにかく、研究員たちに指示を出そうと弦十朗が口を開いた瞬間だった。何かが崩れる音と共にベッドが倒れ、奏が地面に這っていた。
「っ……」
息も荒くなっている。しかし、彼女はどうやって自分を縛りつけているベッドから解放されたのか。まさか力任せに引き千切ったとでもいうのか。心配そうに研究員たちが見る中、身体を起こした奏の手には、LiNKERの入った投薬の為の銃型の小型の機器が握られていた。その銃口を自分の首に突き付けた状態で。
「!?よせ!」
「ここまでだなんて、つれないこと言うなよぉ」
その目はどこか焦点が合っておらず、その声もどこか高揚したようなもの。完全に彼女がこの場においては正気を失っているのは誰の目から見ても明らかだ。見る者に狂気や恐怖を与えるかのような笑みを見せながら、奏は何の躊躇いも無くLiNKERを自分に投薬する。
「後ろだとか横だとかそんなとこ向いてたってどうしようもできないんだからさぁ、正面突破で限界超えてやろうじゃん……なぁ、パーティ再開と行こうぜぇ……了子さん?」
常識を超えた薬物投与の影響だろうか。その目の下には隈が浮かび上がっている。こんな行動に出たのも、彼女がノイズを殲滅するという強い覚悟を持っているからなのだろう。そして、彼女の覚悟が漸く結果へと結びついたのか。アラームが鳴り響き、了子の目の前のモニターで次々と新たな画面が表示されていく。
「適合係数飛躍的に上昇……!?第一段階、第二段階、突破!?続いて第三段階まで!?」
今までうんともすんとも言わなかったのに。突然の結果は了子を驚かせるのには十分なものだった。だが、その結果の代償は、奏に重く圧し掛かってくる。苦しそうに首を押さえた彼女はそのまま両手を口に当てて込み上げるものを必死に抑えようとする。しかし、抑えきれないほどに溢れたその大量の血がその口から吐き出され、床を赤く染めていく。一気に貧血に陥るほどの血を吐き出した彼女はそのまま地面に倒れてしまう。
「っ、何をしている!?早く彼女の身体の中から薬物を!」
このままでは本当に死んでしまう。彼女の命の危機を感じた弦十朗は研究員たちに緊迫した声音で素早く指示を下していく。研究員たちが慌しく動き回り、数人が奏の容態を確認している。そんな中、奏は自分の中で何かが大きく蠢くのを感じ取った。そして次の瞬間。
「「「!?」」」
謎の高エネルギーが放たれ、研究員たちを吹き飛ばす。そして彼女の首からかけられた赤いペンダントがまるでそれに呼応しているかのように鈍い赤い光を灯していたが、その事は誰も気付くことはできないでいた。研究員たちを吹き飛ばし、一撃でその意識を刈り取った奏は、その血塗れの手を強固な防弾ガラスで作られた壁に叩き付ける。
「……!」
「手に入れたぁ……!」
血塗れになり、苦痛に耐えながらも、少女は遂に力を手に入れた。彼女の口からまるでそれを知っていたかのように歌が紡がれる。その歌は、ガングニールに光を灯し、奏の身体にオレンジを基調とした装甲を纏わせる。
「これが……!奴等をブッ倒せる力……!」
縦長に伸びたヘッドフォンのような耳当てが両耳に装着され、身体に密着したオレンジと黒、白の三色で構築されたスーツが纏われる。黒いラバーののようなスーツと一体化している手袋の先に彼女は一本の槍を握っており、それを地面に打ち付けて支えとして立ち上がりながら、興奮したような声を漏らす。
「これが、私の力!私のシンフォギアだ!!」
翼のように偶然から得た力では無い。翼だけでは無い、響も、ネフシュタンの少女もおそらく、そして弾も。三人とも選ばれた戦士となったのは偶然だろう。だが、奏は違った。自ら求め、血反吐に塗れながら歌い、この力を勝ち取り、戦士となったのだった。そして、その姿は翼にとって、とても素晴らしい偉人であるかのようにすら見えていた。
★
景色は代わり、その日から数日後。ガングニールの戦士となった奏は一通りのシンフォギアの制御訓練等を終え、翼と共にノイズを討つ戦士として戦う光景が目に入った。
闇夜の空を赤く塗りつぶす炎。倒壊し、粉砕されていく街並み。その中で蠢くノイズ達。人々を襲い、その命を奪おうとするノイズを前に二人はゲートを開き、ノイズをエクストリームゾーンへと引き込もうとする。
「……ここは私に先陣切らせてもらおうか!」
「か、奏?」
奏が先陣を切るようにノイズ達の前に立つ。目の前で蠢く、ノイズ達。これらを全てエクストリームゾーンへ引き込むため、シンフォギアを纏った状態で奏はその言葉を口にしていく。
「私の初陣だ……全部蹴散らしてやる!ゲートオープン!界放!!」
首からかけられたペンダントに埋め込まれた赤い石を光らせながら。彼女がそう叫ぶと、ノイズ達は一つに集約され、奏と共にエクストリームゾーンへと移動し、この世界と言う空間から一時的に消滅することとなる。
「……」
バトルフィールドに入った奏は、お守りのようにペンダントを握りしめる。以前、聖遺物発掘現場で採掘された小さな赤い石。紅蓮の光を帯びたその綺麗な石は、特に聖遺物としての力を秘めた物では無いらしく、それはペンダントに加工されて奏に託されている。今となっては数少ない、家族との思い出の証。改めて誓いを立てるようにペンダントを握りしめた奏は、目の前の無機質な感情を持たない化け物を強く睨みつけ、そのバトルを開始する。
「いくぞ!先行は私が貰う!スタートステップ!ドローステップ!メインステップ!エクス・ムゲンドラをLv2で召喚!」
【エクス・ムゲンドラ:赤・スピリット
コスト2(軽減:赤1):「系統:新生・古竜」:【スピリットソウル:赤】
コア2:Lv2:BP3000
シンボル:赤】
先行を取ったのは奏。彼女が初手として呼び出したのは、先端が白い毛並みとなっている赤い二本の耳を生やした小さなドラゴン。白と赤の毛並みを持つそのドラゴンの身体にはオレンジを基調とした鎧が纏われており、その小さい身体を武装している。
「ターンエンド」
『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、メインステップ。ピジョンヘディレスを召喚』
【ピジョンヘディレス:紫・スピリット
コスト0:「系統:無魔」
コア1:Lv1:BP1000
シンボル:紫】
紫色に輝く宝石の頭。そんな特徴的な頭を持つ鳥のような姿をしたスピリットがノイズのフィールドに現れる。とはいえ、まだこの段階では相手のデッキの全貌は見えてはこないだろう。
(紫のデッキなのか?)
『ネクサス、剥がれ落ちるウロコ山を配置』
【剥がれ落ちるウロコ山:赤紫・ネクサス
コスト5(軽減:赤2・紫1)
コア0:Lv1
シンボル:赤紫】
続けて配置されるネクサス。ノイズの背後の空が暗い青紫色に染まっていき、地面から地響きと共に巨大な山が生え出てくる。その山の壁面は無数の岩の鱗で覆われており、山が聳えるように伸びていくにつれて壁面の鱗が次々と剥がれ落ちていき、完全に振動を終えて動きを停止させたときにはその壁面の一部は内側の比較的綺麗な紺色の鱗を覗かせていた。
『ターンエンド』
「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!カメレオプスを召喚!」
【カメレオプス:赤・スピリット
コスト3(軽減:赤2):「系統:爬獣・星魂」
コア1:Lv1:BP2000
シンボル:赤】
エクス・ムゲンドラの隣に出現する、カメレオンの姿をした赤のスピリット。大型スピリット召喚をサポートしてくれる心強いスピリットを並べ、奏は一切の迷いすら見えない強い瞳でノイズを睨みつける。
「アタックステップ!エクス・ムゲンドラでアタック!Lv2・3アタック時効果で1枚ドロー!」
エクス・ムゲンドラが両手に装着されたオレンジの篭手を打ち鳴らすと鳴き声を上げ、ノイズへ殴りかかる。
『ライフで受ける』
振り上げられたエクス・ムゲンドラの拳。それは無機質な感情を感じさせない声を発したノイズへ吸い込まれ、そのライフを奪い取っていく。ノイズのライフを奪い、ダメージを与えた。その事実を噛み締めるように奏は興奮したような笑みを浮かべながら、さらにカメレオプスのカードにその手を伸ばす。
「続けていけ!カメレオプスでアタック!!」
『ライフで受ける』
カメレオプスが地面を駆け、ノイズへと飛び掛かる。そのアタックをライフで受けたことでノイズはそのライフを一気に残り2つにまで減らされる事となる。
「ターンエンドだ!」
「ふ、フルアタック……」
防御も糞も無いと言えばそれまで。しかし攻めて攻めて攻めきるという赤の攻撃的なバトルスタイルの面で言えば彼女の戦い方はそれを体現しているとも言えるのかもしれない。
『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ナイト・ヘディレスをLv2で召喚』
【ナイト・ヘディレス:紫・スピリット
コスト4(軽減:紫3):「系統:無魔」:【連鎖:
コア3:Lv2:BP4000
シンボル:紫】
青に近い所々が錆びているカラーリングをした騎士甲冑に身を包んだ一体のスピリットが現れる。その頭の部分には霊体のような形をしているかと思わせる特徴的な部分があり、顔がないとも錯覚させる。その手には自身の得物である斧が握られているのが確認出来る。
「へっ、お次は幽霊騎士か?」
『シャドウ・メイデンを召喚』
【シャドウ・メイデン:紫・ブレイヴ
コスト4(軽減:紫2):「系統:無魔」
シンボル:なし】
さらに畳みかけるようにノイズは次のカードを手札から呼び出していく。呼び出されたのは、紫色の人を閉じ込める棺のような形をした処刑器具、アイアンメイデン。それに取り付けられた手には一本の刀身が紫色に光る剣が握られていた。
「これは……ブレイヴ!?」
「っ、来るのか……!?」
『ナイト・ヘディレスにシャドウ・メイデンを直接合体』
【ナイト・ヘディレス
コスト4+4→8
BP4000+2000→6000】
シャドウ・メイデンの棺桶が開かれ、その中に広がる空洞の中で紫色の光が出現する。その光はシャドウ・メイデンの手に持つ剣に吸い込まれていき、その身体は消滅する。同時にナイト・ヘディレスはその手に持っていた斧を投げ捨てると、シャドウ・メイデンが遺した剣を掴み、それを新たな自らの得物へと変える。
「……!」
『シャドウ・メイデン、Lv1召喚時効果。自分はデッキから1枚ドローする』
「系統:無魔」を持つスピリットにのみ合体することの可能なブレイヴ、シャドウ・メイデン。ナイト・ヘディレスと組み合わせた場合、この二枚は互いの弱点を埋め合い、更なる力を発揮できるようにすら成り得るのだ。
『アタックステップ。合体スピリットでアタック。ナイト・ヘディレス、Lv2アタック時効果。疲労状態の相手の合体スピリット1体を破壊する』
無論、奏のフィールドにまだ合体スピリットはいない。しかし、ナイト・ヘディレスの効果はそれだけではない。アタック時効果は機能せずに終わるかと思われた瞬間、ノイズの背後に聳える剥がれ落ちるウロコ山が赤い光を放つ。
「「!」」
『自分の赤のシンボルがあるとき、連鎖発揮。自分はデッキから1枚ドローする。シャドウ・メイデン、合体時、アタック時効果。疲労状態の合体していない相手のスピリット1体を破壊する。カメレオプスを破壊』
「く……!」
ナイト・ヘディレスが振り上げた剣から放たれた光が空中で紫色の棺桶、アイアンメイデンを構築する。開かれたその中にカメレオプスが吸い込まれていき、アイアンメイデンが閉じられると共にカメレオプスの姿はフィールドから消え去っていく。二つのアタック時効果を終了させたナイト・ヘディレスはメインのアタックをする為に奏へ斬りかかる。
「っ、ライフだ!ライフで受ける!」
ナイト・ヘディレスが振り上げた剣が奏へ振り下ろされる。奏を護るように出現した紫色の半透明な球体のバリアがその剣を受け止めるが、ナイト・ヘディレスの攻撃の威力に耐え切れずに破壊され、奏のライフを奪っていく。
「っ……ぐ……!」
全身に駆け巡る痛み。通常のバトルフィールドでは味わえないその痛みに表情を苦しそうに変化させながらも、奏は内心、ある事実に喜んでいた。
「奏!」
「……はは、すげぇ……!本当にノイズの攻撃を喰らっても、死なない……!」
シンフォギアが持つ、装甲:ノイズと言うべき力。もし自分の身体が炭化していたら、痛みを味わう事すら出来ずに塵となって消えていた事だろう。つまり、この痛みこそがノイズと戦えるという証拠。自分が生きているという実感なのだ。
『ターンエンド』
「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!二体目のカメレオプスをLv2で召喚!」
【カメレオプス
コア3:Lv2:BP5000
シンボル:赤】
「……ターンエンド」
シャドウ・メイデンがいる限り、無用なアタックは逆効果にしかならない。今すぐにでもノイズにダメージを与えたい感情もあるが、その感情に身を任せて自分のバトルを左右してしまえば勝機を逃すことだってあり得る。そこの感情の制御は奏自身上手く折り合いは付けていた。時には勝つ為に耐えて耐えて耐え抜くことも必要だと。
「奏……」
『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ソウルホースをLv2で召喚』
【ソウルホース:紫(赤)・スピリット
コスト1(軽減:紫1・赤1):「系統:魔影」
コア2:Lv2:BP2000
シンボル:紫(赤)】
足が刃となっている、空に浮かぶ魂だけの霊体の馬が呼び出される。紫色の毛並みを持つ、四本脚に炎を纏わした影を新たに呼び出し、準備は整うこととなる。
『合体スピリットをLv1へダウン』
【ナイト・ヘディレス
コア3→1:Lv2→1:BP4000→2000+2000→4000】
続けてリザーブにコアを戻し始める。その行動が意味するのはただ一つ。相手が大型のスピリットを呼び出そうとしているということしかない。
(……来る!)
『冥府魔神オブシディオン、召喚』
【冥府魔神オブシディオン:紫・スピリット
コスト7(軽減:紫2・赤2):「系統:無魔・魔神」:【激突】
コア1:Lv1:BP6000
シンボル:紫】
ノイズがXレアを呼び出す。その瞬間に生じた激しい紫の風。その中から現れたのは、牛のような巨大な悪魔に跨った、骨の鎧を纏った一体の骸骨の姿を見せる騎士。その右手には一振りの剣、左手には手綱を握り、背中にはボロボロの紫色のマントが姿を覗かせている。
「これは……!」
「え、Xレア……!?」
『騎士王蛇ペンドラゴンを召喚』
【騎士王蛇ペンドラゴン:紫・ブレイヴ
コスト5(軽減:紫2・赤2):「系統:妖蛇・星魂」
シンボル:なし】
機械の身体を持つ紫色の蛇のような形状のドラゴンが更に呼び出される。二つの白い剣を連結させたようなボディを持ち、その刃はスピリット達の武器となる。
「さらにブレイヴを!?」
『騎士王蛇ペンドラゴンを冥府魔神オブシディオンへ直接合体』
【冥府魔神オブシディオン
コスト7+5→12
BP6000+4000→10000】
ペンドラゴンの顔が消滅し、その身体が二本の剣へと分離する。その二本の剣は柄同士が連結して一本のダブルブレードとなると、自身の剣を捨てたオブシディオンの右手に持たれる事となる。
「二体目の合体スピリット……!」
『騎士王蛇ペンドラゴン、召喚時効果。相手のスピリット1体のコア2個を相手のリザーブに置く。エクス・ムゲンドラを指定』
【エクス・ムゲンドラ
コア2→0】
『この効果でそのスピリットのコアが0個になったとき、自分はデッキから1枚ドローする』
エクス・ムゲンドラを消滅させて防御用のスピリットを1体消すと、それを引き金としてデッキからカードをドローし、手札を補充する。
『アタックステップ。合体スピリットでアタック。騎士王蛇ペンドラゴン 、合体時アタック時効果。相手の合体していないスピリットのコア1個を相手のリザーブに置く。カメレオプスを指定』
【カメレオプス
コア3→2:Lv2→1:BP5000→2000】
ペンドラゴンが変化したダブルブレードが振るわれ、紫の斬撃が放たれる。その斬撃はカメレオプスを斬り、その中のコアのエネルギーを奪い取っていく。
『冥府魔神オブシディオン、Lv1・2・3アタック時効果、激突』
激突の効果により、カメレオプスは強制的にこのアタックをブロックせざるを得なくなる。しかし、オブシディオンの振り上げたその刃は無慈悲にもカメレオプスを斬り捨ててしまい、ただの肉壁としてでしかその役目を果たす事が出来なくなってしまう。
『ピジョンヘディレスでアタック』
「っ……ライフで受ける!」
ピジョンヘディレスのアタックが奏へ突き刺さる。スピリット達を失ったその無防備なライフは、このターンで削りきられる心配はないが、このまま狙い続けられる事は間違いないだろう。
『ソウルホースでアタック』
「ライフで受ける!」
続くソウルホースのアタックも奏は自分のライフで受け切る。さらに残ったナイト・ヘディレスも動くか。それを確かめるように奏が視線を送るが、ここでフルアタックはする気はないのだろう。ナイト・ヘディレスをブロッカーに残してノイズはターンを終了する。
『ターンエンド』
「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!リューマン・クロウをLv2で召喚!」
【リューマン・クロウ:赤・スピリット
コスト0:「系統:竜人」:【スピリットソウル:赤】
コア3:Lv2:BP2000
シンボル:赤】
青い身体に黄色い爪を持つ竜人の一人、リューマン・クロウが召喚される。奏のデッキに投入されたコスト0の赤スピリット。その力は、この状況では一際活かされるものとなってくれるだろう。
「さぁ出番だ!こい、焔竜魔皇マ・グー!召喚!」
【焔竜魔皇マ・グー:赤・スピリット
コスト7(軽減:赤3):「系統:竜人・古竜」
コア1:Lv1:BP5000
シンボル:赤】
奏の背後から炎がフィールドへ降り注ぐ。その中からオレンジ色に輝く模様を身体に刻んだ一体のドラゴンが現れる。四本の腕を持つ、人に近い姿をした竜。マ・グーが己の獲物であるダブルブレードと斧の二本を持ち、雄叫びを上げる。
「アタックステップ!マ・グーの効果でアタックステップ開始時にトラッシュのコアを好きなだけこのスピリットに置くことができる!」
【焔竜魔皇マ・グー
コア1→7:Lv1→3:BP5000→10000】
「さらにアタックステップ時、系統:「竜人」/「古竜」を持つ自分のスピリットすべてをBP+3000!」
【焔竜魔皇マ・グー
BP10000→13000】
【リューマン・クロウ
BP2000→5000】
「まだまだ!マ・グー、Lv2・3効果で系統:「古竜」を持つ自分のスピリットすべてに赤のシンボル1つを追加!」
【焔竜魔皇マ・グー
シンボル:赤+赤】
「いけ、マ・グーでアタック!!」
マ・グーが自身の得物を振り上げてノイズへ飛び掛かる。だが、まだこれだけではない。奏は手札からあるマジックを繰り出す。
「フラッシュタイミング、双光気弾!不足コストはマ・グーから確保!」
【焔竜魔皇マ・グー
コア7→5】
「ブレイヴ、シャドウ・メイデンを破壊!」
双光気弾の炎がシャドウ・メイデンを破壊する。あのブレイヴを残しておけばマ・グーを効果で破壊される可能性もあった為、止むを得ない使い方ではあっただろう。そして襲い掛かるダブルシンボルのアタック。ナイト・ヘディレスでブロックするのか。ノイズが取った選択肢は。
『ライフで受ける』
自らのライフを相手へ差し出す行為。自分のライフを残り1つにしてでもスピリット達を守る事のほうが有効だと考えたのだろうか。ここでリューマン・クロウがアタックすれば高確率でナイト・ヘディレスを倒せるだろう。しかし、トドメを刺せないことが分かっている上でアタックするメリットはあまりない。
「ターンエンド」
(……)
マ・グーを呼び出して一気に相手を追い詰めた奏を見て、僅かに表情を明るくする翼。しかし、スピリットの数で大きな差がある以上、とても奏の有利だと言い切れないでいる。攻め込むには絶好のタイミング。ノイズは無論、それを見逃しはしないだろう。
『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。合体スピリットをLv3にアップ』
【冥府魔神オブシディオン
コア1→5:Lv1→3:BP6000→12000+4000→16000】
『ピジョンヘディレス、ナイト・ヘディレスをLv2にアップ』
【ピジョンヘディレス
コア1→2:Lv1→2:BP1000→2000】
【ナイト・ヘディレス
コア1→3:Lv1→2:BP2000→4000】
『アタックステップ。合体スピリットでアタック。騎士王蛇ペンドラゴン、合体時効果によりリューマン・クロウを指定』
【リューマン・クロウ
コア3→2】
「リューマン・クロウでブロック!フラッシュタイミング!」
激突の効果でリューマン・クロウがこのアタックをブロックする。だが、それでいい。これでアタックを防いだ上で手札にあるマジックを使う事。それこそが奏の狙いだった。
「ネオ・フレイムテンペストを使用!不足コストはリューマン・クロウとマ・グーから確保!」
【リューマン・クロウ
コア2→0】
【焔竜魔皇マ・グー
コア5→4:Lv3→2:BP10000→8000】
「BP4000以下の全てのスピリットを破壊する!」
リューマン・クロウが消滅し、さらにピジョンヘディレス、ソウルホース、ナイト・ヘディレスの三体が炎の竜巻に飲み込まれて全て破壊されてしまう。残ったオブシディオンのアタックもリューマン・クロウのおかげで防がれ、奏は無傷でこのターンを乗り越える事が出来た。
「す、凄い……」
『ターンエンド』
「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!」
マ・グーでアタックすれば勝てる。しかし、相手がそう簡単に攻撃を通らせてくれるだろうか。だが、このカードならばその心配はないだろう。相手がスピリットを回復させる術を持っていようと、スピリットのアタックを防ぐ手段があろうと。
「……さぁ、初陣だ!来い、私のシンフォギア!」
それを呼び出す為に、シンフォギアの力を更に高める。その為の歌が、ガングニールが作り出した奏のアルティメットを呼び覚ます。
「正面突破で立ちはだかる敵を殲滅しろ!アルティメット・ジークフリード、Lv4で召喚!」
【アルティメット・ジークフリード:赤・アルティメット
コスト6(軽減:赤2):「系統:古竜」:【真・覚醒】
コア3:Lv4:BP14000
シンボル:極】
「!」
奏の背後で立ち昇る炎の波。その中を駆け抜ける四本脚の金色のドラゴンが、その中を身軽に舞い、フィールドに飛び出してくる。そのままゆっくりと前足を地面に付けると、咆哮と共に自身の身体を覆っていた金色のオーラを弾き飛ばし、紅蓮の装甲を纏った焦げ茶色の肉体を露わとする。
「これが、奏のアルティメット……!」
「アタックステップ!焔竜魔皇マ・グーの効果でトラッシュの4コアをこのカードに!」
【焔竜魔皇マ・グー
コア3→7:Lv2→3:BP8000→10000】
「いけ、アルティメット・ジークフリード!!Uトリガー、ロックオン!」
奏の両手が合わさり、その篭手が一体化して槍となる。その槍を回転させながらエネルギーを溜め、そのエネルギーを弾丸としてノイズのデッキへ放ち、そのデッキトップのカードをトラッシュへと落とす。
『ヘッジボルグ、コスト4』
「ヒット!」
無論、ヒットした所でこのままでは何も変わらない。アルティメット・ジークフリードのアタックが相手の最後のライフを奪って終わりなだけだ。
『フラッシュタイミング。ストームアタックを使用。相手のスピリット1体を疲労させる。その後、自分のスピリット1体を回復させる。焔竜魔皇マ・グーを疲労。その後、合体スピリットを回復』
「……アルティメット・ジークフリードのトリガーがヒットしたとき、相手はスピリットで可能ならブロックしなければならない!さらにフラッシュタイミング、真・覚醒!自分のスピリットのコア1個をこのアルティメットに置き、BP+3000!」
【焔竜魔皇マ・グー
コア7→6】
【アルティメット・ジークフリード
コア3→4:BP14000+3000→17000】
『合体スピリットでブロック』
合体スピリットの回復と同時にマ・グーが疲労する。もし奏が呼び出したのがスピリットだったら、このブロックでアタックステップは実質的に終了していただろう。しかし、
「……こいつで終わりだ!」
アルティメット・ジークフリードへ振り下ろされる刃。しかし、その刃はアルティメット・ジークフリードの堅すぎる装甲の前にいとも簡単に砕かれる。アルティメット・ジークフリードは後ろ脚で立ち上がると、オブシディオンの身体を掴み、その身体をノイズへ叩き付けて爆発させ、一撃で仕留める。
「アルティメット・ジークフリードのトリガーがヒットしたとき、相手のスピリットにこのアルティメットのアタックがブロックされれば、相手のライフのコア1個を相手のリザーブに置く!」
ノイズの残りライフは1。その一つを、アルティメット・ジークフリードは打ち砕き、ノイズをこの世界から完全に消し飛ばした。
★
数十分後。更に追加で現れたノイズ達を手分けして殲滅し、全てのノイズを倒した奏と翼は、朝日も差し込んできた時間帯の中、ノイズの攻撃によって破壊された建物の瓦礫に埋もれていた生存者を助ける為に瓦礫の撤去作業を行っていた。
「大丈夫か?」
「あ、ああ……ありがとう」
瓦礫の中に埋もれていたその男は、比較的外傷の少ない別の所で助けられた男に肩を貸してもらいながら立ち上がり、奏達に礼を言う。
「……へ?」
それが意外だったのか、奏は少しだけ驚いた様な声を漏らす。自分からすればただノイズを倒しに来ただけという気持ちが強かった。人を救助しようという気持ちはその時にまるでなかったのだ。
「瓦礫に埋まっても、ずっと歌が聞こえていたんだ。だから、諦めなかった」
「あ、ああ……」
彼自身限界が近いからだろうか。短く礼の言葉を述べると、治療などを行う為に移動していく。その背中を見ながら、奏と翼は、自分達の力で人を救ったという事実をゆっくりと感じ取るのだった。
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