第14話 眷属の鼓動

地下の駅の中を走る響。ノイズとの戦いを終え、弾の下へ向かおうとしたが、その時には彼はまだバトルを行っているという状態。弾が相手しているノイズが倒されれば、今回襲撃してきた全てのノイズは撃退される為、一先ず翼と合流してほしいという弦十朗の指示を受け、階段を数段飛ばしで乗り越える様にして地上へと出る。今頃、未来は流星群を見ているのかと考えると少々複雑な気持ちになるが、仕方のない事だと自分を割り切らせる。


 


「……」


 


地上に出て、辺りを見渡していく。既にノイズ達はいなくなっており、確かに弾が相手にしている個体さえ殲滅すれば終わりだと言えただろう。地上に出てきた響を翼は柔らかい笑みで迎える。


 


「お疲れ様。まだ弾は?」


「はは……まだ戦ってるみたいです。弾さんのバトルを見ようかとも思いましたけど、負ける所が想像できないので取り合えず放っておいても大丈夫かなって思って」


 


多少言い訳みたいになっている感じが否めなく、響自身もそれを理解しているのだろう、苦笑しながら頭を掻く。そんな彼女を見て翼も苦笑しながら、弾を待とうかと考え始めたその瞬間だった。上空から殺気を感じたのは。


 


「危ない!立花!!」


「……え?」


 


咄嗟に立花を抱える様にしてその場から飛び出す。瞬間、響と翼のいた所に無数のクリスタルのような刃が連結した鞭が突き刺さっていく姿が二人の目に映る。


 


「ま、まだノイズが!?」


「ギアを纏え!」


 


切迫した翼の声が響く。物理的な攻撃に対しても防御能力をある程度発揮してくれるシンフォギアなら、この攻撃の主が物理的に自分達を仕留めにかかったとしても何とかなるだろう。響は混乱しながらもそれを理解し、翼と共にそれぞれの歌を歌い、ギアを起動してそれを纏う。


 


「あーあ、避けられちまったか」


「っ……何者!?」


 


右手に剣を出現させ、翼が声の主を確かめるように視線を上げる。翼に続く形で視線を上げた響は、空からゆっくりと降下してくる一つの人影を目撃した。白を基調とした鎧、だが両肩には禍々しい桃色に近い紫色に光る水晶が棘のように生えており、その先には先程攻撃に用いた鞭が生えている。白に近い髪だというのは確認出来るが、顔は兜と水色のバイザーで覆われて目元が隠れており判別できない。しかし、その声音と豊満なバストから響と翼はその人物が女性だと仮定する。しかし、それ以上に翼は、その鎧を見て唖然となる。


 


「それは……ネフシュタンの鎧!?」


「え!?」


 


ネフシュタンの鎧。その聖遺物が二年前にあったのは響も知っている。しかしその聖遺物は、二年前に失われていた筈。てっきり、その時に消滅してしまったのではないのかと考えていたが、現実は違うとでもいうのか。


 


「馬鹿な……ネフシュタンだと!?」


 


コード、Nehushtan。画面に大きく表示されたその文字は、二課の面々を大きく動揺させるのに十分すぎた。それを見て、弦十朗は内心焦りながらも冷静に今後に対する指示を告げていく。


 


「く……現場に急行する!何としてでも、鎧を確保するんだ!」


 


二年前に消えた鎧が、実は何者かに奪われて目の前の少女が使用している。その事実もだが、完全聖遺物であるネフシュタンが起動している。つまり、単純なパワーだけでいえばシンフォギアを軽く凌駕するそれを野放しにすることなど出来はしない。弦十朗の言葉を聞いた了子は軽く頷いて立ち上がると、弦十朗と共に外に止めてある車に乗り込む。戦闘状態にあるかもしれない今の響達に通信を入れて変に気を散らせてしまえば、その隙を相手に突かれる可能性もある為に通信は出来ない。弾も現状バトルをしている為、バトルを終えたタイミングで連絡するしかない。自由に動けるのは弦十朗らだけのようだ。しかし、二課から現場までは大きな距離がある。自分達が到着するまで二人が無事であればいいが。


 


「へえ?じゃああんた、この鎧の出自を知ってんだ」


「二年前、私の不始末で奪われたものを忘れるものか……!何より、私の不手際で失われた命を忘れるものか!」


「つ、翼さん!」


「立花!貴女は下がって!」


 


剣を構え、上段から斬り込む。その攻撃を、少女は右手に奇妙な形状の杖を持ってそれで防御するかのように受け止める。翼はそのまま攻め込む事はせずに一旦距離を取る。


 


「へえ、こっちの勝負がお望みかい?私はどっちでも構わないけどね」


(奏を失った事件の原因と、奏の遺したガングニールのシンフォギア、時を経て再び揃うとは……だが、今こそ私は、過去と決別して前に進むべき時でもある!)


 


闘志を漲らせる翼。しかし、今の攻防で相手が相当の手練れであることははっきりと理解した。ネフシュタンの持つ強力な力は翼も見ている。その力に自分のギアが及ばないであろうという事も。このまま戦っても劣勢に追い込まれるのは自分の方だ。ならば、


 


「つ、翼さん!?相手は人ですよ!?いきなり斬りかかるなんて……!」


「あくまで武装解除させるためだから問題ないわ。それに……ネフシュタンの鎧とは、因縁がある。今こそ、それに決着を付ける!」


「やれるものならやってみな!!」


「「ゲートオープン!界放!!」」


 


二人の身体がエクストリームゾーンへと移動する。エクストリームゾーンの端の方に出現した泡の中に閉じ込められる形でその空間に入った響は、ネフシュタンの少女と翼のバトルを目撃することとなる。


 


「スタートステップ!ドローステップ!メインステップ!門番アルパーカーを召喚!」


 


【門番アルパーカー:青(緑)・スピリット


コスト1:「系統:獣頭・創手」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:青(緑)】


 


白い柔らかな毛並みを持つ青いオーバーオールのアルパカが現れる。器用に二足歩行をし、麦わら帽子をかぶっているその姿には一種の愛嬌を感じさせる。


 


「さらにマジック、ストロングドローを使用!デッキから3枚ドローし、手札2枚を破棄する!」


 


バルカンバイソンと異海獣アビスシャークの二枚が破棄される。青のネクサスをトラッシュに送り、それをフォビッド・バルチャーの効果でコストを踏み倒して展開するのが彼女のデッキのギミックの一つなのだが、手札にはそのネクサスがまだ来ていないというのだろうか。


 


「ターンエンド」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!メインステップ!炎楯の守護者コロナ・ドラゴンを召喚!」


 


【炎楯の守護者コロナ・ドラゴン:赤・スピリット


コスト3(軽減:赤2):「系統:星竜」


コア2:Lv1:BP2000


シンボル:赤】


 


赤い光を宿した太刀と巨大な長方形の形をした白い盾を持つドラゴンが姿を現す。黒く染まった身体と悪魔のようにすら見える顔を持つドラゴンは、口から小さく炎を吐きながら自身の闘志を相手へ見せつける。


 


「ターンエンドだ」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!ネクサス、青玉の巨大迷宮を配置!」


「……!」


 


【青玉の巨大迷宮:青・ネクサス


コスト3(軽減:青1)


コア0:Lv1


シンボル:青】


 


翼の背後に出現するサファイアの色をした巨大な迷宮。それを見てネフシュタンの少女は厄介なものを張られたと感じ取ったのだろう、少しだけ眉を寄せる。


 


「2枚目のストロングドローを使用!」


 


再び三枚のカードをドローし、その後手札からフォビッド・バルチャーと碧海の剣聖マーマリアンの二枚を破棄する。トラッシュでネクサスが肥えていない今、フォビッド・バルチャーは不要だと判断した結果がこの破棄するカード達なのだろう。


 


「門番アルパーカーをLv2へアップ!」


 


【門番アルパーカー


コア1→2:Lv1→2:BP1000→2000】


 


「バーストをセットし、ターンエンド」


「動かずか……スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!そのネクサスを悪用されない内に、やることやらせてもらおうか!コロナ・ドラゴンのコアを1コアリザーブに移動!」


 


【炎楯の守護者コロナ・ドラゴン


コア2→1】


 


「六分儀剣のルリ・オーサをLv2で召喚!」


 


【六分儀剣のルリ・オーサ:緑(赤)・スピリット


コスト4(軽減:緑2・赤1):「系統:殻人・星魂」


コア2:Lv2:BP5000


シンボル:緑(赤)】


 


青緑色の殻につつまれた人物が現れる。その腕は昆虫の鋭い爪のようになっており、人間とは異なり四本の腕がある。背中には羽が生えており、その手には一本の巨大な刃が握られているのが確認出来る。


 


「ルリ・オーサの召喚時効果!ボイドからコア1個ずつを、自分の赤のスピリット2体に置く!ルリ・オーサはLv2ならば色とシンボルを赤として扱える、よってコロナ・ドラゴンとルリ・オーサにコアを1つずつ追加だ!」


 


【炎楯の守護者コロナ・ドラゴン


コア1→2】


 


【六分儀剣のルリ・オーサ


コア2→3】


 


「くっ……一手遅かったか……!」


 


青玉の巨大迷宮はLv2のとき、相手スピリットとブレイヴの召喚時効果を封じることが可能だ。先行で配置出来ていれば、ルリ・オーサの召喚時効果を防げたのだろうが、時既に遅し。


 


「マジック、双翼乱舞!不足コストはルリ・オーサの効果で増えたコアをそのまま流用して確保!デッキからカードを2枚ドロー!」


 


【炎楯の守護者コロナ・ドラゴン


コア2→1】


 


【六分儀剣のルリ・オーサ


コア3→2】


 


「こっちもバーストをセットしてターンエンドだ」


「攻めてこない……?」


 


コロナ・ドラゴンは効果破壊に対して耐性を持っており。ルリ・オーサもBPは5000と大きい。まだ準備が整っていないのか、或いは低コストスピリットでは攻める気が無いのか。または、


 


(……何かが来るのを待っている……?)


 


嫌な予感がする。今の自分の手札と比較しても、相手のライフを即座に奪えるような一手は繰り出せない。だとしても、まだ相手の手札が整っていないのなら、攻め始めた方がいいだろう。


 


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!リボル・アームズを召喚!」


 


【リボル・アームズ:青・ブレイヴ


コスト4(軽減:青1・白1):「系統:造兵」


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:なし】


 


尾びれがブースターとなっている魚の形をした戦艦が現れる。オレンジと焦げ茶色の縞々模様のカラーリングを持つそのブレイヴの口には砲台が装着されており、額には青い宝石が埋め込まれている。


 


「リボル・アームズ召喚時効果!ボイドからコア2個をネクサスに置く!」


 


【青玉の巨大迷宮


コア0→2】


 


「翼さんもコアブーストを!」


「さらに異海獣アビスシャークを召喚!不足コストは、アルパーカーとネクサスより確保!」


 


【門番アルパーカー


コア2→1:Lv2→1:BP2000→1000】


 


【青玉の巨大迷宮


コア2→0】


 


【異海獣アビスシャーク:青・スピリット


コスト4(軽減:青2・緑1):「系統:異合」:【連鎖:条件緑シンボル


コア1:Lv1:BP4000


シンボル:青】


 


鋭い牙を生やした、翼を生やしたサメが浮上してくる。浮き上がるように現れ、空を泳ぐアビスシャークは、その瞳を不気味に光らせてネフシュタンの少女を睨みつける。


 


「スピリットにブレイヴ……となれば」


「その通りだ!リボル・アームズをアビスシャークに合体!Lv2へ!」


 


【異海獣アビスシャーク


コスト4+4→8


コア1→2:Lv1→2:BP4000→5000+3000→8000】


 


リボル・アームズが分離してアビスシャークの全身のあちこちに装着される。新たな鎧を纏う形となったアビスシャークは、新たな力を得た事を宣言するかのように高く咆哮を上げる。


 


「アタックステップ!いけ、合体スピリット!Lv2・3効果により、デッキから3枚ドローし、手札2枚を破棄する!さらにリボル・アームズ、合体時効果によりコスト4を指定!これで相手はこのバトル終了時までコスト4のマジックを使用できない!」


 


3枚のカードをドローし、俊星流れるコロッセオと巨人大帝アレクサンダーを破棄する。そしてアビスシャークは一直線にネフシュタンの少女へと襲い掛かり、その鋭い牙を剥き出にする。


 


「ライフで受ける!」


 


青い球体に守られた少女のライフを奪い取るアビスシャーク。しかし、その攻撃によってバーストが発動条件を満たし、少女を護るように氷の盾が出現する。


 


「「!」」


「ライフ減少によりバースト、絶甲氷盾!ボイドからコア1個を自分のライフに置いて回復!」


 


バースト状態のカードはマジックでもスピリットでもなく、バーストを対象とした効果しか受け付けない。その為、このバーストの発動は有効となる。出現した盾から生み出された青い光が少女のボードに新たなライフをもたらす。受けたダメージを帳消しにされてしまい、悔しそうに翼は歯噛みするが、既に終わったことだと思考を切り替えて前を見る。


 


「ターンエンド……!」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!さぁ来い!幻羅の眷属!スレイヴ・ガイアスラ、召喚!」


 


【スレイヴ・ガイアスラ:赤・スピリット


コスト6(軽減:赤3):「系統:滅龍・星竜」:【超覚醒】


コア1:Lv1:BP4000


シンボル:赤】


 


ネフシュタンの少女の背後で炎が立ち昇る。その中から現れる、赤黒い翼。黒い無機質な皇室の身体。マグマのようにすら思わせるオレンジ色の皮膚を持つ巨体のドラゴンが現れる。黒い装甲が印象的なそのドラゴンは、響も翼も、今まで見た事がないものであった。


 


「な、何このスピリット……!?」


「まさか、これがネフシュタンの力……!?」


「ああそうさ。この鎧は、何でも文明が崩壊する前の文明だかで歴史に名を遺すとある偉い人が実際に使用していたバトルフォームの残骸から作られたらしくてね。そいつの全盛期は世界を実際に滅ぼせるぐらいの力があるって言ってたけど……まぁどうでもいいことさ。2枚目の双翼乱舞を使用。デッキから2枚ドローだ」


 


マジックを使い、手札を補充する。そして、スレイヴ・ガイアスラを呼び出したネフシュタンの少女は、バイザーで隠れた奥の瞳を見開くと、面白そうに声音を強めながらアタックステップを宣言する。


 


「アタックステップ!スレイヴ・ガイアスラでアタック!」


 


スレイヴ・ガイアスラの下半身が炎に纏われ、翼を広げて飛翔する。その羽ばたき一つで激しい旋風が巻き起こり、それはアビスシャークとアルパーカーを吹き飛ばし、翼も思わずボードに取り付けられたバーを掴み、必死に吹き飛ばされないように耐えなければならなくなるほどだ。だが、彼女が味わった旋風に気を取られた一瞬でスレイヴ・ガイアスラは両手に炎を生み出して翼へと振り上げていた。


 


「ら、ライフで受ける!」


 


ライフで受ける。そう宣言した翼の前に防壁が出現する。しかし、そこである異変に気付く。通常、ライフで受ける際に発生するバリアは球体のものであり、それが自分達を護ってくれる。が、目の前に現れたのは複数の六角形の光の輪郭が束ねられて作られたような赤い防壁。スレイヴ・ガイアスラがそこに拳を叩き付けると、極限まで圧縮されたエネルギーが一筋の光線となって翼の胸を撃ち抜いた。


 


「……かはっ……!?」


「!?翼さん!?」


 


肺の中の全ての空気を外に吐き出される。撃ち抜かれた胸からは煙が立ち昇っており、そこを中心として今まで経験したことが無いほどの強烈な痛みが全身に駆け巡っていた。その余りの痛さと衝撃を受けてバーから手を離してしまい、吹き飛ばされて地面に倒れた翼は、胸を押さえて荒くなる呼吸を必死に落ち着かせようと深呼吸を繰り返していた。


 


「な、なんだ……この痛み……は……えほっ、げほっ!」


「大丈夫ですか!?翼さん!?」


 


冷や汗が浮かび、その目は焦点が揺らいでさえいる。想像を絶する痛みを味わった翼を見ながら、ネフシュタンの少女は面白そうに笑う。


 


「これがネフシュタンの力って奴さ。そうだな……このエクストリームゾーンでの通常のバトルで受ける痛みがバトルフィールドの大体十倍ぐらい。これはそれよりもずっと上だからな……でも、意外と柔らかいんだな。この痛みの中で戦い抜いた奴らも過去には結構いるってのに」


「……!」


 


いつまでも痛みにどうのこうの言っている場合ではない。まだバトルの途中なのだ。痛みを必死に抑えて這い上がるように立ち上がる翼。響は何とかして自分を閉じ込めている虹色の泡を壊そうともがくが、それは意味を成さない。この空間で戦えるのは、バトルを行っている翼とネフシュタンの少女だけなのだから。


 


「ま、あんたも所詮過去の英傑、戦士と比べればってとこさ。それに、この痛みのやばさは私も味わってるから、とんでもないってことは感じる、サレンダーするならもう痛まずに済むぞ?」


「ふざ、けるな……!この戦い、勝利か敗北かはあっても、逃走だけはない……!!ライフ減少によりバースト発動、ディクタトールレギオン!ボイドからコア2個を自分のネクサスに置く!」


 


【青玉の巨大迷宮


コア0→2】


 


「強情だね……まぁ、いいさ。こっちも目的があって負けられないからな!ターンエンド!」


 


ゆっくりと台から手を離して自分の足で身体を支える翼。たった一撃でここまで損傷することとなろうとは、誰が予想できただろうか。ただ、見ているだけしか出来ない自分の非力さに、思わず怒りさえも湧いてくる。


 


「つ、翼さん……!」


「安心しろ、立花。私はこのバトル、必ず勝利する……いや、してみせる!スタートステップ!コアステップ、ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!海帝国の秘宝をLv2で配置!」


 


【海帝国の秘宝:青・ネクサス


コスト4(軽減:青2)


コア1:Lv2


シンボル:青】


 


赤い目が光る三つ首の龍を模した彫刻物が出現する。三体の龍が巻かれているかのような球体の中では、神秘的な光景である赤い宇宙が輝いている。


 


「バルカンバイソンを召喚!」


 


【バルカンバイソン:青・スピリット


コスト6(軽減:青3・極1):「系統:異合」


コア1:Lv1:BP5000


シンボル:青】


 


バルカンを持つ、深緑色の装甲に身を包んだバイソンが現れる。器用に二本脚で立つその異形な姿をしたバイソンは、目の前のネフシュタンの少女へ自身のシンボルを叩きつけようと意気込むかのように雄叫びを上げる。


 


「青玉の巨大迷宮のコアをリザーブに戻し、そこから1個ずつをアルパーカーとバルカンバイソンに移動してLv2へ!」


 


【青玉の巨大迷宮


コア2→0】


 


【門番アルパーカー


コア1→2:Lv1→2:BP1000→2000】


 


【バルカンバイソン


【強襲:1】


コア1→2:Lv1→2:BP5000→7000】


 


「アタックステップ!バルカンバイソンでアタック!アタック時効果、強襲!青玉の巨大迷宮を疲労させ、このスピリットを回復!さらにバルカンバイソンの効果!強襲の効果で自分のネクサスが疲労した時、デッキから2枚ドローし、手札1枚を破棄する!けど、海帝国の秘宝、Lv2効果によりアタックステップの間、自分の青のスピリット/アルティメットの効果で手札から破棄するカードを1枚少なくする!」


 


デッキから2枚のカードをドローし、そのまま手札に加える。そしてバルカンバイソンが少女へと襲い掛かる。その手に握られたバルカンが弾丸を次々と発射し、地面を抉りながら少女へとその銃身を向けようとする。


 


「ライフで受ける!」


 


少女を護るように出現した青い半透明の球体のバリアにバルカンバイソンの弾幕が次々と命中し、そのバリアを破壊する。しかし少女はそのアタックによって受ける衝撃など全く意にも課さない様子を見せている。


 


「効かないね。もっと来たらどうだい?」


「……ターンエンド」


 


アビスシャークでアタックすれば手札をさらに増やせる。しかし、このままアタックしてもいいものか。まだ、こちらはスレイヴ・ガイアスラがどんな存在なのか把握していない。このターンで倒す事は不可能である以上、ここは万全の体勢で敵の攻撃を受け止めるべきだと判断したのだ。


 


「そうか……それじゃ、遠慮なく蹂躙させてもらおうか!?」


「っ!?」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!鳳凰竜フェニック・ソードを召喚!」


 


【鳳凰竜フェニック・ソード:赤・ブレイヴ


コスト6(軽減:赤3):「系統:機竜・星魂」


シンボル:なし】


 


獰猛な笑みを見せた少女が繰り出したのは、赤のブレイヴ、鳳凰竜フェニック・ソード。赤い刀身の刃が四枚生えた右翼と青紫色の刃の翼が四枚生えた左翼を持つ、機械的な姿をした竜。その右肩には一本の剣が装着されており、青く燃える炎の尻尾を持っている。


 


「スレイヴ・ガイアスラに直接合体!!」


 


【スレイヴ・ガイアスラ


コスト6+6→12


BP4000+5000→9000】


 


フェニック・ソードの肩の剣が抜ける。そして胴体が消滅し、剣がスレイヴ・ガイアスラの手に握られてその身体から赤い光を解き放つ。


 


「さらにブレイヴだと!?」


「フェニック・ソードの召喚時効果!BP4000以下のスピリットすべてを破壊するか、ネクサスすべてを破壊する!ま、私にネクサスはないから被害はないが……そっちはどうかな?」


「……!しまっ……」


 


鳳凰の姿をした炎が天空から降り注ぐ。その炎は青玉の巨大迷宮と海帝国の秘宝に降り注ぎ、跡形も無く燃やし尽くしてしまう。


 


「つ、翼さんのネクサスが一気に全滅させられた……!?」


「コロナ・ドラゴンにリザーブのコアを全て追加し、Lv3にアップ!」


 


【炎楯の守護者コロナ・ドラゴン


コア1→6:Lv1→3:BP2000→4000】


 


「アタックステップ!コロナ・ドラゴン、Lv2・3効果により自分のアタックステップ時、系統:「星竜」を持つ自分のスピリットすべてにBP+2000!」


 


【炎楯の守護者コロナ・ドラゴン


BP4000+2000→6000】


 


【スレイヴ・ガイアスラ


BP4000+5000+2000→11000】


 


「合体アタック!この瞬間、フェニック・ソードの合体時効果により、相手スピリットに指定アタックができる!まずは雑魚を蹴散らしな!合体スピリットに指定アタック!」


 


スレイヴ・ガイアスラがフェニック・ソードを構える。剣から劫火が放たれ、それは竜の身体に鳳凰の翼を持つ生命体となってアビスシャークへと襲い掛かる。強力なアタックだ。だが、一回だけの指定アタックならば特に警戒する必要もない。Lvも先程までと同じ1なのだから。だが、その無知さが、翼と響に無意識の内に油断を与えているということに、二人は気付いていなかった。だからこそ、ネフシュタンの少女はその隙を突くかのように不意打ちを叩きこむ。


 


「この瞬間、スレイヴ・ガイアスラの効果発動!超覚醒!!」


「「超覚醒!?」」


「コロナ・ドラゴンより1コア移動させ、合体スピリットを回復!!」


 


【炎楯の守護者コロナ・ドラゴン


コア6→5】


 


【スレイヴ・ガイアスラ


コア1→2】


 


「馬鹿な……自発的に起きてきただと……!?」


 


超覚醒。それは覚醒と同じく他のスピリットからコアを自分に移動させる能力。しかし、覚醒と大きく異なるのはコアが自分の上に置かれる度に回復するという驚異的な特性にある。


 


「アタックは続いてる!吹き飛びな!」


 


炎がアビスシャークを一瞬で焼き尽くしていく。このBPの差を覆す事など不可能、しかしスピリットは破壊されてもブレイヴは分離して残せる。アビスシャークから分離したリボル・アームズは翼のフィールドに着陸する。


 


【リボル・アームズ


コア1:Lv1:BP3000】


 


そう言うかのようにネフシュタンの少女は更なる猛攻を仕掛けるべく、再びスレイヴ・ガイアスラに命令を下す。


 


「合体スピリットで再びアタック!次は門番アルパーカーに指定アタック!」


 


スレイヴ・ガイアスラの拳に纏われた炎が無慈悲に放たれる。吐き出された炎はアルパーカーを一瞬で燃やし尽くし、その存在を掻き消すように焼き尽くしていこうとする。


 


「フラッシュタイミング、超覚醒!コロナ・ドラゴンからコアを移動!Lv2へアップ!」


 


【炎楯の守護者コロナ・ドラゴン


コア5→4】


 


【スレイヴ・ガイアスラ


コア2→3:Lv1→2:BP4000→6000+5000+2000→13000】


 


Lvが上がり、回復したスレイヴ・ガイアスラの一撃がアルパーカーを燃やす。二体のスピリットを破壊しても尚、スレイヴ・ガイアスラはまだその勢いを止める事はない。


 


「続いて、バルカンバイソンに指定アタック!超覚醒でコロナ・ドラゴンから1コア受け取り、回復!」


 


【炎楯の守護者コロナ・ドラゴン


コア4→3:Lv3→2:BP4000→3000】


 


【スレイヴ・ガイアスラ


コア3→4】


 


コアを喰らい、何度でも立ち上がるガイアスラ。超覚醒の猛威が、必死にバルカンの引き金を引いて応戦しようとするバルカンバイソンへと襲い掛かる。身体中に放たれる弾幕。その全てが装甲や皮膚に弾かれていき、全く効力を発揮しない。その攻撃をチンケなものだと一蹴するかのようにバルカンバイソンの眼前に急接近したスレイヴ・ガイアスラはフェニック・ソードを真横に薙ぎ払い、バルカンバイソンを斬り捨てた。


 


「……合体スピリットでリボル・アームズに指定アタック!コロナ・ドラゴンのコアを喰って回復!」


 


【炎楯の守護者コロナ・ドラゴン


コア3→2:Lv2→1:BP3000→2000】


 


【スレイヴ・ガイアスラ


コア4→5:Lv2→3:BP6000→8000+5000→13000】


 


残されたリボル・アームズがスレイヴ・ガイアスラの炎で焼き尽くされる。怒涛の連続アタックがスレイヴ・ガイアスラによって行われ、フィールドを更地に変えられた翼。その圧巻の光景を前にした響と翼は、ただ言葉を失うしかなかった。


 


「そんな……翼さんのスピリット達が、全滅……!?」


「何なの、この力……ガイアスラも、超覚醒も、今まで見た事も聞いた事も無い……」


(……いや、まだ大丈夫だろう。相手のデッキに紫がタッチでも投入されているのが怪しいが……今までの戦い方を見る限りではその可能性も低い。なら、ここは少し攻めに転じても大丈夫……いや、何かあった場合に備えて4コアは残しておくべきだ)


 


ネフシュタンの少女が相手の反応に返答せずにスレイヴ・ガイアスラの動かし方を考えていたのはその効果が大きな原因だ。超覚醒はコアを置く事でそのスピリットを回復させる強力な効果があり、コアの数だけ攻撃できるという考え方も出来る。しかし、当然というべきであり、決して看破することの出来ないデメリット効果がある。それは、お互いにどんな手段を用いても上に置いてあるコアを直接取り除く事ができないという事。コアを使いきれば、相手に無防備な姿を晒す事となってしまう為、運用について考えさせられてしまうのだ。


 


「ルリ・オーサでアタック!」


「……!これ以上は好きにはさせない!フラッシュタイミング、雷神轟招来を使用!!コスト5以下の相手スピリット1体を破壊する!六分儀剣のルリ・オーサを破壊!」


 


稲妻が轟き、それが天空からルリ・オーサへと降り注いでその身体を爆散させる。スレイヴ・ガイアスラを残してルリ・オーサでアタックに切り替えて正解だったかとネフシュタンの少女はその様子を見ながら内心で声を漏らす。まだ、こちらは四回アタックを仕掛けられ、翼のライフを全て奪える可能性はある。しかし、まだ防御の為のマジックがある可能性も否定できない。


 


「ターンエンドだ」


「……」


 


何とか、ターンを凌ぐ事が出来た。しかし、状況は最悪と言っても良いだろう。この状況を打開する方法は、次のドローにかかっている。翼は、一度深呼吸をして身体の痛みを一度和らげると、まだ続く激闘へその身を投じる為に声を上げるのだった。


 


「スタートステップ!!」

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