第7話 光龍騎神降臨

弾 ライフ:3 リザーブ:0 トラッシュ:2 手札:4


 


バースト:あり


 


フィールド


 


【天蠍神騎スコル・スピア:青+赤・スピリット


コスト5(軽減:青2)+4→9:「系統:光導・異合」


コア4:Lv1:BP9000+2000→11000


シンボル:青+赤】+【砲竜バル・ガンナー】


 


【星角獣ユニゴーント:赤・スピリット


コスト4(軽減:赤2・青2):「系統:皇獣・星魂」


コア3:Lv2:BP4000


シンボル:赤】


 


【ブレイドラ:赤・スピリット


コスト0:「系統:翼竜」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:赤】


 


 


翼 ライフ:3 リザーブ:8 トラッシュ:3 手札:6


 


フィールド


 


【フォビッド・バルチャー:青・ブレイヴ


コスト5(軽減:青2):「系統:戦獣・爪鳥」


コア1:Lv1:BP4000


シンボル:なし】


 


 


ネクサス


 


【青玉の巨大迷宮:青・ネクサス


コスト3(軽減:青1)


コア0:Lv1


シンボル:青】


 


【海帝国の秘宝:青・ネクサス


コスト4(軽減:青2)


コア1:Lv2


シンボル:青青】


 


 


現在は弾が第九ターンを終えて翼の第十ターンが開始されようとしている。フィールドは、弾の場には十二宮Xレアの一体、天蠍神騎スコル・スピアが砲竜バル・ガンナーと合体して存在している。疲労しているのは合体スピリットのみで、星角獣ユニゴーントとブレイドラは回復状態となっている。対する翼のフィールドはブレイヴ、フォビッド・バルチャーのみでこのカードと青玉の巨大迷宮の二枚が疲労している。


 


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!……!」


 


ドローしたカードを見た瞬間、翼の目が僅かにだが細められる。それを見て、弾は何か、強力なカードを引いてきたのだと推測する。


 


「リフレッシュステップ!」


「声に熱が入ってきたな。燃えてきたか?」


「ふざけないで」


 


カードをドローし、二枚のカードを回復させた翼。だが、彼女の心は確実に揺れ動いている。本人も気付かない内に。


 


「メインステップ!リボル・アームズを召喚!」


 


【リボル・アームズ:青・ブレイヴ


コスト4(軽減:青1・白1):【系統:造兵】


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:なし】


 


翼のフィールドに新たに現れるブレイヴカード。魚のような形をした機械が、尾びれから空中に浮く為のブースターとして起動し、そのまま漂う。


 


「リボル・アームズ召喚時効果により、ボイドからコア2個を自分のネクサス1つに置く!青玉の巨大迷宮に2コア追加!」


 


【青玉の巨大迷宮


コア0→2】


 


「続けて門番アルパーカー2体をLv2とLv1で召喚!」


 


【門番アルパーカー:青(緑)・スピリット


コスト1:「系統:獣頭・創手」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:青(緑)】


 


【門番アルパーカー


コア2:Lv2:BP2000


シンボル:青(緑)】


 


青いオーバーオールに麦わら帽子を見に付けた白いアルパカ二体が呼び出される。


 


(小型スピリットを並べてきた……)


「……見せてあげるわ、これが、シンフォギアがもたらした、私の剣!」


 


翼が左手に持つ手札の中の一枚を右手で持ち、掲げる。瞬間、そのカードが金色の光を帯びて輝き、さらにその光は、彼女の口から流れる歌によってもっと強く光り輝く。


 


「翼さんの歌……ってことはもしかして!」


(響の時と同じなのなら……彼女が呼び出そうとしているのはおそらく……!)


「我が刃よ、防人の歌と共にその剣を顕現せよ!アルティメット・オライオン、召喚!不足コストは2枚のネクサスより確保!」


 


【アルティメット・オライオン:青・アルティメット


コスト8(軽減:青3・極1):「系統:新生・闘神」


コア1:Lv3:BP15000


シンボル:極】


 


大地が砕け、そこから巨大な剣が現れる。そしてそれを握る、金髪をなびかせる筋肉質な青い身体の巨人がその姿を出現させ、身体に纏われた金色の衣を輝かせる。


 


「!翼の奴、アルティメットまで……!これ以上はシンフォギア纏っていない馬神君には危険になるかもしれない……!」


 


アルティメット・オライオン。翼の操る強力なアルティメットの強さは弦十朗達も知っている。そして、シンフォギアが生み出すその強力な力も。その力、大量のフォニックゲインが作り出す力はエクストリームゾーンで発生する通常のダメージを数倍に加速させてしまうのだ。


 


「……でも、もう二人にはこんな事を言ったとしても止まらないでしょうね……」


「それはそうなのだろうが……」


「こ、これが翼さんのアルティメット……!!」


「召喚時Uトリガー、ロックオン!!」


 


翼の右手に小さな短刀が出現し、それが弾のデッキへと放たれ、その衝撃で1枚のカードが空中を舞い、トラッシュへと置かれる。弾のトラッシュへ置かれたカードは、太陽龍ジーク・アポロドラゴン。そのコストを示す6の数字が空へと浮かび上がる。


 


「っ、太陽龍ジーク・アポロドラゴン……!」


「ヒット!!トリガーがヒットした事により、コスト合計12まで相手スピリットを好きなだけ破壊する!コスト9の合体スピリットとコスト0のブレイドラを破壊!」


 


アルティメット・オライオンが剣を振る。瞬間、目の前の大地から出現した大量の剣が空へと撃ち上がり、それらが二体のスピリットを襲う。呆気なく貫かれ、消えていくブレイドラ。両手の鋏を粉々に砕かれ、尻尾の針も砕かれ、身体中に剣が突き刺さっていくスコル・スピア。最後の抵抗で背中の砲竜バル・ガンナーを射出して分離させ、自身は大爆発を引き起こして消えていく。


 


【砲竜バル・ガンナー:赤・ブレイヴ


コスト4(軽減:赤2):「系統:地竜・星竜」


コア1:Lv1:BP2000


シンボル:赤】


 


分離したバル・ガンナーの砲台に本体となる赤いドラゴンの身体が再び出現し、スピリットとして残る。そして、弾もまた、この破壊をただ受け入れるだけでは無い。


 


「やるね……今のは効いたよ。次はこっちの番だ。星角獣ユニゴーントの効果!自分のスピリットが相手によって破壊されたとき、手札のブレイヴカード1枚をコストを支払わずにスピリット状態で召喚できる!輝竜シャイン・ブレイザーを召喚!」


 


【輝竜シャイン・ブレイザー:赤・ブレイヴ


コスト5(軽減:赤2・青2):「系統:星竜・機竜」


コア1:Lv1:BP5000


シンボル:赤】


 


星角獣ユニゴーントの効果によって手札から現れる、白い翼を持つ機械龍、シャイン・ブレイザー。空より現れた新たなブレイヴが弾のフィールドに降り立つ。


 


「さらにユニゴーント、Lv2・3効果!このスピリットの効果でブレイヴが召喚されたとき、デッキから1枚ドローする!」


「今更ブレイヴを出しても無駄よ!アタックステップ!アルティメット・オライオンでアタック!」


「アルティメットのアタック……!ライフで受ける!」


 


アルティメット・オライオンの振り上げた剣が弾へと叩きつけられる。先程までの力とは数段違うその力を全身で受け止めた弾はその巨大な衝撃に思わず仰け反りそうになるが手すりを強く握ってその身体をその場に支え切る。


 


「これが、私のアルティメットの力だ……!」


「ああ、効いたよ……!凄い力だ……!」


「「!?」」


 


弾の顔は絶望するどころか、この状況に対し興奮を隠しきれないと言わんばかりに熱く燃えるように輝いていた。この巨大な敵をどうやって倒せばいいのか。自分の力がどこまで届くのか。考えずにはいられない。考えれば考えるほど、弾はその深みへとはまっていくのだ。


 


「さぁ、もっと来い!」


「……」


 


違う。今まで見た事のあるあらゆるカードバトラーのどれとも弾は違うタイプだ。その、未知の存在を相手に、果たして彼の望んだ通りにアタックしてもいいのだろうか。


 


(……いや、ここはアルティメットを召喚してこちらに流れを引き込んでいる……ここで、さらに次の一手を!)


 


手札のカードと見比べて、この状況で攻めないでいるのは悪手だろうと決める。それに、弾が今まで使っていないバースト、先程のターンのアタック時にも、ライフ減少にも、スピリットの破壊にも反応しなかった所から察するに、あのカードは確実に、スピリット/ブレイヴの召喚時効果に反応するカードだろう。そう結論付けて。


 


「Lv1の門番アルパーカーでアタック!」


 


翼の命令を受けて、アルパーカーが手に持つ鍬を一度上へと掲げると、それを構えて弾へと走り出す。しかし、弾はそのアタックを見て僅かに口元に笑みを浮かべる。


 


「そのアタックを待っていた!相手スピリットのアタックによりバースト発動!トライアングルバースト!!」


「なっ!?」


 


弾の背後にオレンジ色の三角形が刻まれた魔法陣が出現する。そしてその中から赤いシンボルが解き放たれ、フィールドへと落ちる。


 


「手札のコスト4以下のスピリット1枚をノーコストで召喚する!2体目の星角獣ユニゴーントを召喚!」


 


【星角獣ユニゴーント


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:赤】


 


「さらに、フラッシュ効果を発揮!相手のコスト4以下のスピリット3体を疲労させる!回復状態の門番アルパーカー、リボル・アームズを疲労!」


 


さらに魔法陣は白く光り輝き始め、その光を相手のフィールドへと飛ばして2体のスピリットを呑み込んで疲労させる。


 


「このアタックはライフで受ける!」


 


仕留められなかった。その事実に悔しそうに唇を噛み締める翼。しかし、もうアタックできるカードはいない。翼のフィールドにあるネクサス、青玉の巨大迷宮はLv1・2のとき1ターンにコスト3以下のスピリットは1回しかアタックできなくなる効果がある。本来であれば弾の攻撃を抑制する為に出したネクサスだったのだが、不運にも翼自身を縛る結果となってしまった。


 


「ターンエンド……!」


「……いい攻撃だ。まさかスコル・スピアが倒されるとは思ってもいなかったよ」


「今更褒めた所で何も出てこないわ」


「それもそうだ。スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ……翼、君はただ、このバトルフィールド……いや、エクストリームゾーンの外に出たくないだけじゃないのか?」


「……何を言ってるの?」


 


ドローしたカードを手札に加え、一旦プレイを止めて翼を見る。どこまでも真っ直ぐなその瞳の奥に熱く燃える炎。バトスピは対話だ。しかし、弾はまだ、翼という人間の悲しみも、闇も打ち解けてもらってはいない。だからこそ、話しかける。完全にではなくてもいい。少しずつでも構わない。自分達に、彼女の闇を打ち明けてもらう為に。


 


「バトルを通じれば相手のプレイングやデッキを見てそのカードバトラーがどういう人柄なのか見えてくる。君は、本当は心の底からバトスピを楽しめる人だ」


「……ふざけないで。バトルは戦場よ。命を奪い、奪われ、いとも簡単に散っていく……楽しむなんて感情は、不要なものなのよ」


 


彼女はそう言っているが、弾には分かる。バトルを通じて、ここまで一生懸命にバトルにのめり込む事の出来る彼女が、バトルを楽しんでいないわけではない。それでも、彼女はその感情を出来るだけ抑えて、戦士として、人としての感情を排除して戦おうとしたのだ。それが、二年前に奏を失った彼女が見つけた道なのだろう。だが、今のままでは彼女は進めない。道を逸れて、横に進んでいるだけなのだ。


 


「……そうやって、人間としての感情を排除してきたのか」


「そうよ。私は剣。剣は無機質で、感情なんて一切ない。人間として生きるには……」


「この世界はあまりにも辛すぎる、か?」


「……それは」


 


思わず視線を逸らす。こうして、お互いに自分の力をぶつけ合った事で、翼自身も弾が強いカードバトラーだという事実を認めていた。だからこそ、このような反応が出来たかもしれない。


 


「どうして、剣になろうと思ったんだ?」


「感情があれば、人は思考を鈍らせてしまう……ナマクラな刃では敵は斬れないの。だからこそ、私は一切の感情を捨てる。二度と、過ちを犯さないように……」


「……」


「翼さん……」


 


翼の告白。それはそのバトルを見ていた全員が、ただ静かにそれを聞いているしかなかった。バトルを通じて知った、彼女の心。それを聞いた上で弾は、翼という人間に真正面からぶつかり合う。


 


「この空間の外に目を向けろ!」


「っ!?」


「!だ、弾さん……?」


 


いきなりの叱責。その反応が予想外だったのか、翼も思わず驚いたように目を見開く。


 


「感情を殺して、バトルフィールドに籠って、ひたすら戦う……それは、自分自身を殺して、悲しみや怒りから逃れようとしている言い訳だ!」


「なっ……それは」


「生きる力を失って、バトルフィールドで再びそれを取り戻そうとしているのなら別にいい!だが……そこで生きる力を取り戻したら、外に出ろ!今までと比べれば辛い時代かもしれない。でも、自分自身の全てを持って戦わなきゃ、本当の未来はない!」


「そんなの……!」


「その剣、俺が打ち砕く!メインステップ!!」


 


今の彼女を前に進ませるためには、この力で彼女を打ち破るしかない。仲間達と共に駆けまわった未来世界。そこで、得た、最後の切り札で。


 


「龍神の弓、天馬の矢、戦いの嵐を鎮めよ!光龍騎神サジット・アポロドラゴン、Lv2で召喚!不足コアはユニゴーントLv2より確保!」


 


【星角獣ユニゴーント


コア3→2:Lv2→1:BP4000→3000】


 


【光龍騎神サジット・アポロドラゴン:赤・スピリット


コスト8(軽減:赤4):「系統:光導・神星」


コア4:Lv2:BP10000


シンボル:赤】


 


弾の背後で太陽が出現する。プロミネンスの中を駆ける四本の足を持つ白き馬、その上半身に存在する、赤、金、緑の三色の鎧を持つ巨大なドラゴン。その右手には巨大な弓が構えられており、背中には龍の翼が生えている。それが、炎を纏って弾の背後からフィールドへと現れ、紅く燃えるように輝く射手座の星座の光と共に咆哮を上げる。


 


「こ、これが弾さんのデッキの切り札……!?」


「っ……」


「これは、射手座の十二宮Xレアか!?」


「とんでもない切り札を隠し持っていたわね……」


 


サジット・アポロドラゴンの出現に、その場にいた誰もが、その風格に言葉を失う。しかし、そんな中でも弾はただ、自分のバトルを推し進める。


 


「いくぞ、輝竜シャイン・ブレイザーを光龍騎神サジット・アポロドラゴンに合体!Lv3にアップ!」


 


【光龍騎神サジット・アポロドラゴン


コスト8+5→13


コア4→5:Lv2→3:BP13000+5000→18000


シンボル:赤+赤】


 


輝竜シャイン・ブレイザーの身体が消滅し、背中の翼だけが分離する。サジット・アポロドラゴンの翼もまた消滅し、馬の腰にシャイン・ブレイザーの翼が合体し、6枚の新たな翼が広げられる。


 


「アタックステップ!射抜け、合体スピリット!回復状態のLv2の門番アルパーカーに指定アタック!さらにサジット・アポロドラゴン、Lv3合体時効果により、疲労している門番アルパーカーを破壊!」


 


サジット・アポロドラゴンの放ったの矢が、効果で指定されたアルパーカー二体に襲い掛かる。光龍騎神サジット・アポロドラゴン、Lv3合体時効果により、このスピリットのアタック時、ブレイヴ1つにつき、BP10000以下の相手のスピリット1体を破壊する。さらに、系統:「光導」/「星魂」を持つ自分のスピリットすべてはアタックするとき相手のスピリット1体を指定しアタックできるのだ。


 


「なっ……!ふ、フラッシュタイミング!コールオブディープ!フラッシュ効果は対象がいないけれど緑のシンボルがあることで連鎖!砲竜バル・ガンナーと星角獣ユニゴーント1体を疲労!」


 


相手スピリット2体を連鎖によって疲労させるマジックにより、2体のスピリットが疲労する。そしてサジット・アポロドラゴンのアタックとして放たれた矢が残ったアルパーカーを貫く。


 


「……ターンエンド」


「……」


 


サジット・アポロドラゴン。その攻撃には思わず気圧されてしまったが、いざ蓋を開けてみれば弾のフィールドはブロッカーが1体という状況。こんな事で乱され、感情的になって焦ってしまうとは。やはり感情は不要なものだ。そう言わんばかりに一度深呼吸を置いて冷静になると、翼は冷たい目を見せる。


 


「これが、感情に任せて行動した結果かしら」


「さぁ、どうかな?」


「そんなブラフ、通用しないわ。スタートステップ!コアステップ、ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!カモオネをLv2で召喚!」


 


【カモオネ:青・スピリット


コスト4(軽減:青2):「系統:異合」:【連鎖:条件緑シンボル


コア4:Lv2:BP4000


シンボル:青】


 


クリオネを模した青い半透明の水で出来たような怪物のような生命体が翼のフィールドに召喚される。残ったブロッカーがユニゴーント1体だけの弾では、この2体のアタックで終わりだ。


 


「だ、弾さん……!?」


「アルティメット・オライオンをLv4にアップ!」


 


【アルティメット・オライオン


コア1→4:Lv3→4:BP15000→25000】


 


「アタックステップ!カモオネでアタック!アタック時効果によりネクサスにボイドからコアを1つ置く!海帝国の秘宝に置き、Lv2に!」


 


【海帝国の秘宝


コア0→1:Lv1→2】


 


「星角獣ユニゴーントでブロック!」


 


ユニゴーントの角がカモオネへと振り上げられる。しかしカモオネはそれを華麗に避けると、首元から生えた鋭い鍵爪のような器官を身体中に突き刺し、一気に破壊してみせる。


 


「……」


 


そして破壊された時の効果を使わない。つまり、弾の手札にブレイヴはない。そう読み、翼はトドメとなるアタックを仕掛ける。


 


「これで終わりよ!アルティメット・オライオンでアタック!!」


 


アルティメット・オライオンが剣を振り上げ、弾へと襲い掛かる。残りライフは1。ブロッカーもいない。このアタックを受ければ弾の負けが確定する。だというのに、弾の表情は寧ろ、この逆境を楽しんでいるかのように笑っていた。


 


「フラッシュタイミング!」


「っ!?」


「マジック、バーニングサンを使用!手札のトレス・ベルーガをノーコストで召喚!」


 


【トレス・ベルーガ:青・ブレイヴ


コスト5(軽減:青2・赤2):「系統:異合」


シンボル:青】


 


弾が発動したマジックにより、弾の手札のブレイヴ、トレス・ベルーガが光と共に弾の手から離れ、フィールドのサジット・アポロドラゴンのカードの横に出現する。そして、


 


「サジット・アポロドラゴンに直接合体!そして回復させる!」


「「……!?」」


 


三つの首を持つ青き獣、トレス・ベルーガ。その姿がサジット・アポロドラゴンの背後から青い一筋の光と共に放たれ、サジット・アポロドラゴンと衝突する。瞬間、眩き青の閃光がサジット・アポロドラゴンから放たれて全身の鎧をトレス・ベルーガの顔のような装飾が成された金色の鎧へと変化させ、背中の翼は太陽のように神々しく輝く。


 


【光龍騎神サジット・アポロドラゴン:赤(青)


コスト8+5+5→18


BP13000+5000+6000→24000


シンボル:赤+赤+青】


 


「嘘!?ブレイヴ2体と合体するスピリット!?」


 


バーニングサン。手札にあるブレイヴカード1枚をカード名に「アポロ」と入っている自分のスピリット1体に直接合体するようにコストを支払わずに召喚し、そのスピリットを回復させる。サジット・アポロドラゴンは既に合体しているが、このカードはダブル合体スピリットになる事ができる効果を持つ。ユニゴーントの効果を使った場合、バーニングサンを弾は使う事が出来なかった為、敢えて使用しなかったのだ。そして、変化は弾自身にも現れる。


 


「……!」


 


弾の身体を激しい闘気が駆け巡ったかのように変化が起こり、そのアーマーが黒く染まっていく。そしてその表情も大きく変貌し、一切の優しさも何も感じられない、ただ目の前の敵を殲滅し、勝利するという強い意思を宿したかのような形相になる。


 


「迎え撃て、ダブル合体スピリット!!」


 


回復したダブル合体スピリットでブロックを宣言する。それに応じるかのようにサジット・アポロドラゴンは手に持つ弓を変形させて剣とすると、アルティメット・オライオンの持つ剣に真正面からぶつかり合う。互いに何度も刃を交え、鍔迫り合いとなり、それを制する為にアルティメット・オライオンは力を込めて、サジット・アポロドラゴンを吹き飛ばそうとする。だが、サジット・アポロドラゴンはその衝撃を利用して後ろに下がりながら剣を弓に戻すと炎の矢を三発放ち、アルティメット・オライオンへ攻撃する。その矢を剣の腹で受け止めると、アルティメット・オライオンはサジット・アポロドラゴンの真上から一刀両断すべく刃を受け止め、再び弓を剣に変形させたサジット・アポロドラゴンはそれを受け止める。


 


「っ……で、でもいくらダブル合体スピリットでもBPは24000!アルティメット・オライオンには届かないわ!」


「……」


「!?」


 


そんな事は分かってる。そう言わんばかりに不敵な笑みを浮かべた弾は、その手札に持つ最後の1枚。先程のターンにドローし、この瞬間のために敢えて使用しなかったカードを切り出す。


 


「さらにフラッシュタイミング!マジック、ネクサスコラプス!不足コストはユニゴーントより確保!」


 


【星角獣ユニゴーント


コア2→1】


 


「このターンの間、合体スピリット1体をBP+5000!ダブル合体スピリットにBP+5000!」


 


【光龍騎神サジット・アポロドラゴン


BP13000+5000+6000+5000→29000】


 


「BP29000!?」


「嘘、スピリットがアルティメットを超えた……!?」


 


互いに刃をぶつけ合い、鍔迫り合いとなっている二体の激突。今度はサジット・アポロドラゴンが力任せにアルティメット・オライオンを吹き飛ばすと、そのまま空へと飛翔し、背中から輝く無数の翼から太陽の光のような刃を次々と放ち、アルティメット・オライオンの行動を封じるように地面に突き刺していく。そして身動きを封じた所でサジット・アポロ・ドラゴンの口から放たれた大量の火炎がアルティメット・オライオンを一撃で粉砕し、大爆発を引き起こす。


 


「……」


 


自分の切り札であるアルティメットカードが負けた。目の前で起こったその現実に翼の思考は止まってしまっていた。自分が剣として戦う為に、象徴としたエースカード、それが崩されたのだ。とても屈辱で、悔しくて、でも、何故か心が満たされていく。とても楽しい、そんな感情が心の奥底から湧き上がる。


 


「……そんなカードを手札に……って?待って。さっきのターン、貴方がそのカードを使えば、私を倒せたはずじゃ……!?それに、ネクサスコラプスだって、使えば私のネクサスをどちらも破壊できた筈……!」


 


自分が分からなくなっていく。それでも、今の弾が行ったそのプレイングの妙さは自分にも理解出来た。だからこそ、問わずにはいられない。何故、先程のターンに勝負を決めに行かなかったのか。だが、弾の言葉はとても単純なものだった。


 


「そんなのつまんないだろ?」


「……え?」


「アルティメットが目の前にいるんだ。ここで戦わなきゃ、俺じゃない……それに、逃げたくないだろ。こんな楽しそうな勝負」


「「……」」


 


バトルに対してどこまでも貪欲なカードバトラー、馬神弾。勝利の機会を捨ててまで弾は自分のバトルを貫く。その、自分の中の感情、欲望にどこまでも忠実な姿は、一切の感情を捨てようとしていた翼にとってはとても眩しく見えた。


 


「た、ターンエンド……」


「翼、君の信じていた、自分を過去の世界へと閉じ込め、新たな世界を否定するそのスタイルは完全に砕けた。スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。マジック、ネクサスコラプスを使用!ネクサス2つまでを破壊する!」


「二枚目をドローした!?」


 


空から降り注ぐ炎。それが翼の背後に立つ迷宮と秘宝を燃やし尽くしていき、光と共に消滅させていく。


 


「アタックステップ!ダブル合体スピリットでアタック!サジット・アポロドラゴン、Lv3合体時効果により、カモオネとリボル・アームズを破壊!」


 


サジット・アポドラゴンの弓から放たれた2本の矢が炎を纏って飛んでいき、カモオネとリボル・アームズを一撃で破壊する。


 


「さらにトレス・ベルーガ合体時効果!自分のデッキを上から6枚破棄しBP+6000!」


 


【光龍騎神サジット・アポロドラゴン


BP13000+5000+6000+6000→30000】


 


トライアングルバースト、ペガサスフラップ、サイレントロック、騎士王蛇ペンドラゴン、バルカン・アームズ、そして天秤造神リブラ・ゴレム。6枚のカードが弾のデッキの上から破棄されてトラッシュへと置かれ、その中に系統:「光導」を持つ天秤座の十二宮Xレア、天秤造神リブラ・ゴレムが存在していることにより、トレス・ベルーガの更なる効果が発揮される。


 


「その中に系統:「光導」を持つ天秤造神リブラ・ゴレムがあったので、ダブル合体スピリットは回復する!フォビッド・バルチャーを指定アタック!」


 


さらに一本の炎の矢が放たれ、フォビッド・バルチャーを破壊する。ネクサスを全て焼かれ、スピリットを全滅され、自らの剣の象徴であるアルティメットも砕かれた。もう、翼には何も残っていない。


 


「……っ」


「これが、感情を捨てて剣になろうとしたバトルの結果だ。バトルに不必要なものなんて一つも無い。デッキ、運、感情、腕、戦略。あらゆる要素が一つになって初めてカードバトラーは本当の戦いが出来るんだ」


「また、失うの……私は……?」


「もう失わないさ。君はこのバトルで新しく前に進める。もし、前に進めなくなったら、周りを見ればいい。一緒に前を進んでくれる仲間達がいる筈だ」


「仲間……」


「翼、君も不器用な生き方しか出来ない人間なんだな。でも、バトルを通じて俺達は分かり合う事が出来た。これからもきっと、もっと分かり合えるさ」


「……」


 


弾を見る。自分の全てを叩き潰し、闇を砕き、壁を粉砕してみせ、自分の意識を覚醒させて外へと引っ張り出してくれる。彼の言うとおり、否定し続けたものと向き合ってみるのもいいかもしれない。


 


「ダブル合体スピリットはトリプルシンボルだ。いくぞ、ダブル合体アタック」


 


ダブル合体スピリットが翼の眼前へと迫る。そして、その右手に握られた赤く燃えるように輝く剣が、自分へと叩きつけられようとする。しかし、翼の心は不思議と軽かった。先の見えない不安感がある。しかし同時に、彼が支えてくれる。そんな安心感を感じ取っていたから。


 


「……ライフで受ける」


 


剣が赤い半透明の球体のバリアへと叩きつけられる。バリアが砕ける音と共にトリプルシンボルとなったダブル合体スピリットが3つのライフを同時に奪い取る。そして、彼等のバトルは幕を閉じたのだった。


 


 



 


 


「……」


 


道路に膝を付けたまま、翼は静かに顔を上げる。そこにいたのは、エクストリームゾーンから帰還した一人の青年、馬神弾。十二宮Xレアを操り、シンフォギアを、アルティメットを操る自分を叩き潰した誇り高く、そして熱きカードバトラーだった。自分は敗者、負けたのだ。これから弾にどんな目に遭わされるのだろうか、などと思わず変な事までも考え始めた彼女に差し伸べられたのは、弾の手だった。


 


「ありがとうございました、いいバトルでした」


「……え?」


 


突然差し出されたその手に、思わず面食らう翼。しかし、弾の意図は理解し、取り敢えずその手を握り返す。そして弾に引っ張られる形で立たされた翼は、弾のどこか満足したかのような安らいだ顔を見る。


 


「枯渇しやすい手札をネクサスを併用してカバーし、デッキ破壊は狙わず強襲を用いて相手のライフを奪いにいく戦術……効いたよ。凄く充実したバトルだった」


「え、ええ……」


 


戸惑いながらも返事を返す。しかし、不思議と悪い気分ではない。自分の闇を無理矢理抉じ開けられ、自分が閉じこもっていた世界から無理矢理引っ張りだされた外は、意外と悪くないように感じた。


 


「……その、翼さん!」


「……?」


 


弾とのバトルなどもあって完全にこの場にいたという事実を忘れていた。しかし、よくよく考えてみればこの場には響もいたのだ。すっかり忘れきっていた自分に内心で苦笑しながら響に向き直った翼は、


 


「ごめんなさい!!」


「……え」


 


ふたたび戸惑う。背筋を伸ばし、足を揃えて頭を下げた響、それが自分に対する謝罪だという事は理解しているが、それでもこの状況で畳みかけるように連続してこんな出来事が続くのでは流石の翼も理解が追い付かない。


 


「私、翼さんの気持ちとか全く考えていなくて、それで色々と嫌な思いとかさせちゃって……その、本当にごめんなさい!」


「あ、いや、私は……」


 


もう今となっては怒りも何も湧いてこない。それどころか逆にあれだけ突っぱねていた自分の方が申し訳ない気持ちでいっぱいになってきてしまう。そんな二人を、弾は優しい目で見るのだった。


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