第6話 十二宮Xレア進撃

「いいバトルだったよ、響」


「はい!ありがとうございます!弾さん!」


「……」


 


ぐっと拳を強く握り、喜びを表に出す響。自分のバトルでノイズを倒せた事、そして翼や弾の助けになれたと思っているのだろう。だが、それでも彼女自身も今の自分の実力ではバトルの先輩でもある翼や弾には及ばないと思っているのだろう。だが、軽く笑って接してくれている弾とは異なり、バトルが終了したことでバトルが始まる前に響に抱いていた怒りが蘇ってきたのだろう、翼の心中には怒りの炎が燃え上がっていた。とはいえ、このまま響が彼女を挑発するような事はしないでおけば何も起こらずには済んだのだろう。


 


「翼さん!」


「……!」


 


だが、ここで響は幾つかミスを犯す。彼女が下した一つのミスは、翼に声をかけてしまったこと。弾と響の会話であれば翼もいらない干渉をすることはなく、時間はかかるかもしれないが取り敢えずこの怒りの剣は静かに鞘に収められた。だが、翼に声をかけた事で彼女は嫌でも響を意識せざるを得なくなってしまう。


 


「今は私はまだ足手まといかもしれません、ですけど一生懸命頑張って今よりずっと強くなります!だから……私と一緒に戦ってください!」


「……!!」


 


そして次に犯したミスは、自分と肩を並べて戦うと言った事。ガングニールの力を偶然に手に入れた響は、翼の目から見て戦士として認められるような存在では無い。一緒に戦うなど以ての外だ。元々堪忍袋の尾が切れかかっていた翼は、この言葉で暴風のように吹き荒れる怒りを遂に爆発させた。


 


「!?」


 


次の瞬間、響の鼻先に太刀が突き付けられた。後数ミリでも前方に刃を動かせば、彼女の鼻を斬る事だろう。ほんの僅か、一瞬の間だけ獰猛な顔を見せた翼は響に冷たく言葉を突き付ける。


 


「そうね……貴女と私、戦いましょうか」


「え?あの……いや、そういう意味じゃなくて、私は翼さんとも一緒に力を合わせて……」


「分かっているわ。そんな事は。私が貴女と戦いたいから言ったのよ」


 


太刀を突き付けたまま一切の動きを見せない翼。蛇に睨まれた蛙のように動けなくなっていた響も戸惑ったように、必死に誤解を解こうと声を漏らすが、翼はそれを一蹴する。


 


「貴女も構えなさい。それは自らの意思を体現したもの。貴女が身に纏っている何者をも貫き通す無双の一振りであるシンフォギアを纏うのであれば、覚悟の証を構えなさい」


「……」


 


何時もならば弾も止めはしないだろう。カードバトラーはバトルを通じて分かり合えると弾は思っているから。だが、今の響は実戦経験は乏しい。その上で、本気で勝とうとするばかりか、殺そうと思わせる程の気迫を放っている彼女をこのままにしておく事は流石に出来なかった。


 


「待て、翼。そう殺気立つものでもないだろ」


「っ……私達は遊びに来ているんじゃないのよ!鉄の意思も持たずに立つ彼女が何を受け継いでいると!」


「……それは、お前が奏という人間を通して彼女を見ているだけだ。響という人間を見ろ」


 


冷めた、だが真剣な物言い。だが、昨日会ったばかりの人間にそんな事を言われる義理などこちらにはないのだ。


 


「そんなに怒りをぶつけたいのなら、俺にぶつけろ。生憎俺も、昨日挑んだバトルをお預け喰らっている上にさっきの響のバトルを見てうずうずしているんでね……」


 


だが、翼にこれ以上考えさせる暇は与えない。挑発を入れ込みながら不敵な笑みを浮かべ、弾は彼女に勝負を挑む。昨日交わした、口での約束ではあるが、彼女も戦いの道に生きる者であれば挑まれたバトルを断る事は決してないだろう。


 


「ええ……シンフォギアを纏ってすらいない人間である貴方が、一体何の覚悟を持ってエクストリームゾーンに立っているのか、是非見させてもらおうかしら……!!」


 


一触即発。危険な雰囲気が漂う中、響、そして本部からその光景を見ていた二課の全員が声を一切出す事もできずにその光景を見ているしかなかった。そして、二人の口からその言葉が飛び出す。


 


「「ゲートオープン!界放!!」」


 


ゲートが開かれ、二人はエクストリームゾーンへと誘われる。台の上に立ち、互いに向かい合う、金色のアーマーを纏う弾と青い装甲、アメノハバキリを纏う翼。先程まで不敵な笑みを浮かべていた弾と怒りを爆発させていた翼は一転して勝負に集中していた。


 


「先行はもらう」


「いいわ」


「スタートステップ、ドローステップ、メインステップ。戦竜エルギニアスをLv2で召喚」


 


【戦竜エルギニアス:青(赤)・スピリット


コスト1(軽減:赤1・青1):「系統:戦獣」


コア3:Lv2:BP3000


シンボル:青(赤)】


 


青いシンボルが砕かれ、その中から緑色の身体に青い鉄の肩当てや胸当て、甲羅に似た装甲を纏った牛型のスピリットが現れる。


 


「ターンエンド」


「始まってしまったか……」


「止めますか?」


 


始まってしまったバトルに、弦十朗達は一部が不安そうに、だがこうなってしまったかと半ば諦めるようにその姿を見ていた。


 


「いや……こうなってしまった以上は仕方ない。それに、馬神君はともかく、翼も流石にそこまでの無茶はやらない筈だ」


「ええ。それに多分……私は弾君が勝つと思うわ」


「?」


「あ、根拠は無いけど」


 


二課の面々の多くは翼の実力を知っている。翼の事も弾の事よりもずっと知っているが故に、翼の肩を持つ傾向が強いが、了子は敢えて弾に賭けた。


 


(……でも、ブレイヴ使いって。もし彼が本人なら、激突王が存命だった時代って、ブレイヴが存在しない時代だった筈じゃ?)


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!メインステップ!碧海の剣聖マーマリアンをLv2で召喚!」


 


【碧海の剣聖マーマリアン:青・スピリット


コスト3(軽減:青1・緑1):「系統:剣使・異合・創手」


コア2:Lv2:BP5000


シンボル:青】


 


胸元が開けている青い鎧に身を纏った緑色の長髪が印象的なマーメイドが現れる。白い尾を靡かせながら、その右手に構えるトライデントのように三つに刃が分かれた剣を弾に向ける。


 


「ターンエンド」


「最初はどちらも動きませんね……」


「ああ。様子を見ているのだろう……」


(青のスピリットか……デッキ破壊を狙っているのか、或いは……)


 


お互いに初手は大人しい。その姿を見ながら響は二人がお互いに探り合っているのだという事は理解する。


 


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ……よし。俺はバーストをセット。続けてブレイドラをLv2で召喚」


 


【ブレイドラ:赤・スピリット


コスト0:「系統:翼竜」


コア2:Lv2:BP2000


シンボル:赤】


 


弾の場に裏向きで巨大なカードが出現する。バーストがセットされ、さらに剣の翼を持つ小さなドラゴンが弾の場に出現する。


 


(……どう出る?)


「ターンエンド」


「……スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!マジック、ストロングドローを使用!デッキからカードを3枚ドローし、その後手札2枚を破棄する!そしてネクサス、青玉の巨大迷宮を配置!」


 


【青玉の巨大迷宮:青・ネクサス


コスト3(軽減:青1)


コア0:Lv1


シンボル:青】


 


翼の背後に出現する、左右に延々と伸びる巨大な青い迷宮。サファイアの輝きを秘めたネクサスを配置し、翼はこのターンも大きく動く素振りは見せない。


 


「バーストをセットしてターンエンド!」


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、メインステップ。戦竜エルギニアスをLv1へダウン」


 


【戦竜エルギニアス


コア3→1:Lv2→1:BP3000→1000】


 


「そして戦竜エルギニアスをもう1体、Lv1で召喚」


 


【戦竜エルギニアス


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:青(赤)】


 


「続けてマジック、ブレイヴドローを使用。デッキからカードを2枚ドローする」


「……」


 


ブレイヴドローでデッキからカードをドローする。ここまでは良いだろう。だが、弾はドローした二枚のカードを見た瞬間、僅かに纏う雰囲気を引き締める。


 


「その後、自分のデッキの上から3枚オープンし、その中のブレイヴカード1枚を手札に加える」


 


光龍騎神サジット・アポロドラゴン、砲竜バル・ガンナー、輝竜シャイン・ブレイザーの3枚がオープンされ、弾はその内のブレイヴカード、砲竜バル・ガンナーを手札に加える。その後、光龍騎神サジット・アポロドラゴン、輝竜シャイン・ブレイザーの順番でデッキの上に戻した。


 


「一気に手札補充を……!」


「……いくぞ」


「!」


 


手札からカードを取り出す。弾がそのカードを手にした瞬間、彼から気迫が発せられ、それは翼を射抜く。


 


「来る……!」


「十二宮Xレアをここに!蠍座より来たれ、天蠍神騎スコル・スピア!不足コストは、2体の戦竜エルギニアス及びブレイドラより確保!」


 


【戦竜エルギニアス


コア1→0】


 


【戦竜エルギニアス


コア1→0】


 


【ブレイドラ


コア2→0】


 


【天蠍神騎スコル・スピア:青・スピリット


コスト5(軽減:青2):「系統:光導・異合」


コア1:Lv1:BP5000


シンボル:青】


 


大地に蠍座が刻まれる。青い蠍の紋章が浮かび上がり、地面を砕いてそこから鋭く、鋭利な鎌のような鋏、そして槍のような尻尾を持つ青く巨大な蠍が出現する。


 


「これが、十二宮Xレア……!」


「成程……内包されたエネルギーは確かにとんでもないわ」


「す、凄い……でも、3体のスピリットが……」


 


不足コストを確保する為。道理は分かるが、強くなる為には犠牲をも厭わないその戦い方は、危険なのではないのか。少なくとも、スピリットの数が少なくなればそれだけ、戦闘では不利になってしまう筈だ。弾の行動に不安を感じていた響、しかし対照的に翼は、十二宮Xレアを呼ばれた事でそのプレッシャーに当てられる。


 


「流れを馬神君に持っていったか……」


「動き出すわね……」


「アタックステップ!天蠍神騎スコル・スピアでアタック!」


「!ライフで受ける!」


 


スコル・スピアが跳び上がり、その尻尾を突き出す。翼を守るべく出現した青い半透明の球体上のバリアを打ち砕き、翼のライフを1つ奪う。


 


「……!ライフ減少によりバースト、ディクタトールレギオン!ボイドからコア2個を自分のネクサス1つ、青玉の巨大迷宮に置く!」


 


【青玉の巨大迷宮


コア0→2】


 


バーストカードから放たれた光線が迷宮へと降り注ぐ。同時に翼のフィールドに置かれた巨大迷宮のカードの上に2つのコアが出現する。


 


「さらにフラッシュ効果発揮!不足コストはマーマリアンと青玉の巨大迷宮から!」


 


【碧海の剣聖マーマリアン


コア2→1:Lv2→1:BP5000→3000】


 


【青玉の巨大迷宮


コア2→0】


 


「相手のバーストをオープンし、それがスピリットカードならば破棄する!」


「俺のバーストを……」


 


弾のバーストがオープンされる。しかし現れたのはドラゴニックウォール。マジックカードであり、破棄される事はない。よってドラゴニックウォールは再び裏向きとなって元に戻される。


 


「……ふっ、ターンエンドだ」


「……余裕のつもりかしら。スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!マーマリアンをLv2にアップ!」


 


【碧海の剣聖マーマリアン


コア1→3:Lv1→2:BP3000→5000】


 


「続けて門番アルパーカーをLv2で召喚!」


 


【門番アルパーカー:青(緑)・スピリット


コスト1:「系統:獣頭・創手」


コア2:Lv2:BP2000


シンボル:青(緑)】


 


麦わら帽子をかぶった、青いオーバーオールを着込んだアルパカが現れる。その手には鍬が握られており、一見すればほのぼのとした雰囲気が感じられるがこのスピリットには自身を緑としても扱うハイブリッドシンボル効果がある。


 


「……いくわよ。フォビッド・バルチャーを召喚!」


「!ブレイヴ……!」


 


【フォビッド・バルチャー:青・ブレイヴ


コスト5(軽減:青2):「系統:戦獣・爪鳥」


シンボル:なし】


 


鎖によって身体中を繋がれた黒い翼をもつ巨大な鳥がその姿をフィールドへと出現させる。現れた怪鳥は嘶きを上げる。


 


「そしてマーマリアンに直接合体!」


 


【碧海の剣聖マーマリアン


コスト3+5→8:【連鎖:条件緑シンボル


BP5000+4000→9000】


 


フォビッド・バルチャーの胴体が消滅し、翼だけとなる。翼だけとなったフォビッド・バルチャーはマーマリアンの背中と合体し、青い光がフィールド全体へと放たれる。


 


「フォビッド・バルチャー召喚時効果!自分のトラッシュにある紫/緑/青のネクサスすべてをノーコストで自分のフィールドに配置する!海帝国の秘宝を配置!Lv2へアップ!」


「ストロングドローで捨てたカードか……」


 


【海帝国の秘宝:青・ネクサス


コスト4(軽減:青2)


コア1:Lv2


シンボル:青青】


 


巨大迷宮の頭上へと出現する、神秘的な赤い螺旋が中心に向かって伸びる青い三つ首の竜が巻き付いた秘宝。その目は赤く染まっている。


 


「い、一気にスピリット、ブレイヴ、ネクサスを!?」


「アタックステップ!合体スピリットでアタック!マーマリアン、アタック時効果によりデッキからカードを2枚ドローし、その後手札1枚を破棄する。しかしここでネクサス、海帝国の秘宝、Lv2効果発揮され、手札は破棄されない!」


 


マーマリアン、合体時効果。このスピリットのアタック時、デッキからカードを2枚ドローし、その後手札1枚を破棄する。しかし、海帝国の秘宝、Lv2の効果により、自分のアタックステップに自分の青のスピリット/アルティメットの効果で破棄される自分の手札の枚数を-1枚する。よって、マーマリアンの効果によって破棄される筈であった1枚はネクサスによって-1となり、破棄する枚数は0枚。よって2枚とも手札へと加えられるのだ。


 


「さらに連鎖発揮!マーマリアンに1コア追加し、Lv3へ!」


(連鎖……そういう能力を持つカードも幾つかあったな)


 


【碧海の剣聖マーマリアン


コア3→4:Lv2→3:BP5000→6000+4000→10000】


 


連鎖。それは連鎖元となる効果発揮後、指定された特定の色のシンボルが自分のフィールドに存在する場合に続けて発揮する能力。今回、マーマリアンは元となるアタック時効果でドローした後に連鎖発揮条件である緑のシンボルを持つ門番アルパーカーが存在することでアタック時効果はまだ続き、ボイドからコアを1つこのスピリットに置く効果が発揮されたのだ。


 


「ライフで受ける!」


 


宙を舞い、マーマリアンがその手の剣を弾へと叩きつける。ドラゴニックウォールの力を使えば合体スピリットを倒す事が出来たが、それではスコル・スピアが相討ちとなって失われる事となってしまう。それだけはできれば避けておきたかった。


 


「……ふっ」


(笑った……?)


 


強烈な痛みを弾は感じている筈。自分だって、装甲:ノイズを持つこのシンフォギアを纏う事で炭素転換を無効化していても尚、エクストリームゾーン内でライフを砕かれた際の痛みを完全に殺しきる事が出来るわけではない。可能ならば何度も受け続けたくはない痛みだというのに、弾はその痛みにある種の生きがいを感じている。翼にはそう見えた。


 


「ターンエンド」


「いいね……こうでなくちゃ。スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ」


 


前のターンにブレイヴドローで戻した輝竜シャイン・ブレイザーをドローし、スコル・スピアを回復する。そしてメインステップへ移ろうとする前に弾は、翼を見る。


 


「翼」


「……何かしら」


「一つ聞きたい。俺や響は、君にとって邪魔か?」


「……え?」


 


唐突に、だが核心に迫る質問。それを受けた翼は、それを肯定するように静かに口を開く。


 


「ええ、邪魔ね。昨日まで本当の戦いを知らなかったような素人が増えた所で足手まといでしかない。護るべきものの価値も碌に知らないような娘にシンフォギアを与えたって宝の持ち腐れでしかない。ガングニールは、彼女が受け継ぐことの出来るものじゃない」


「翼さん……」


 


翼に自分が気に入られていないという事は響自身も気付いていた。そしてシンフォギアを使ったノイズとの戦いでは素人だというのも事実。彼女の言う言葉は、今の響に対して言うのならば全て正しい事であると言えるだろう。


 


「だが、最初から強いカードバトラーなんていない。今は弱かったとしても、響も強くなれる。きっと、俺やあんたと互角に戦えるぐらいにな」


「ふざけないで!血も見ず、痛みにも耐えずに力を得た彼女が、ガングニールを使いこなす事なんて出来るわけがないわ!」


「奏、だったか。俺は天羽奏という人間を知らない。でもこれだけは言える。響は奏にはなれない。どう努力したって、響は響でしかないからだ」


「……あ」


 


ふと響は、弾の声で思い知らされる。自分が持つこのガングニールの力は、二年前、自分を助けてくれた奏の遺してくれた力だ。あの時、奏と共に戦う翼の姿を見て、二年経った今、ガングニールに目覚めた彼女は翼の隣に自分が立ち、奏の代わりに戦えるようにならなければならないと無意識の内に思い込んでいたのかもしれない。しかし、自分がどう頑張ったところで、なれないのだ。別の人間になど。


 


「そうよ!だからあの娘が奏のガングニールを使うのは……!」


「それは、お前がその奏という人間を響を通して見ているだけだ」


「……!」


「あら、バッサリ言うのね」


「ああ……翼にとってはきつい言葉になるだろうな……」


 


弾は奏と言う人間を知らない。いや、知っていた所で弾は彼女に一切の情けなどを与えるつもりはない。同情など与えても、翼は自分が惨めとなるだけだろう。だからこそ弾は、容赦なく翼を叩き潰す。


 


「響は奏のギアを持つ戦士じゃない。ガングニールの戦士だ!それを認めるんだ。今のお前は自分の我が儘が通らず、ただ駄々を捏ねて現実から逃げようとしているだけだ!」


「っ……貴方なんかに、私の気持ちなんて……!」


「過去に縛られたまま、ターンを進めないカードバトラーに勝利はない!メインステップ!星角獣ユニゴーントを召喚!」


 


【星角獣ユニゴーント:赤・スピリット


コスト4(軽減:赤2・青2):「系統:皇獣・星魂」


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:赤】


 


赤い鎧を纏った白い縦髪を持つユニコーンが弾のフィールドに出現する。


 


「そしてスコル・スピアをLv2にアップ!」


 


【天蠍神騎スコル・スピア


コア1→4:Lv1→2:BP5000→9000】


 


「そしてバーストを破棄し、新たなバーストをセットする!いくぞ、アタックステップ!スコル・スピアでアタック!この瞬間、アタック時効果によりコスト5以下の門番アルパーカーを破壊!」


 


スコル・スピアの尻尾の針から放たれた青い光線が、アルパーカーを粉砕する。


 


「っ……!」


 


天蠍神騎スコル・スピア、Lv2・3アタック時効果。系統:「光導」/「星魂」を持つ自分のスピリットすべてにアタック時、このスピリットのコスト以下の相手の合体していないスピリット1体を破壊する効果が与えられる。そして系統:光導を持つスコル・スピアのコストは5。対してアルパーカーのコストは1。よって破壊が成立する。そしてブロッカーを失った翼が行える選択肢は一つ。


 


「ライフで受ける!!」


 


スコル・スピアの鋏が翼のライフを砕く。手すりを強く握り、十二宮Xレアの攻撃の威力を全身で耐え切る。


 


「ターンエンド」


「……大切な者を失った事のないあんたに、私の辛さなんて……!スタートステップ!コアステップ、ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!バルカンバイソンをLv3で召喚!」


 


【バルカンバイソン:青・スピリット


コスト6(軽減:青3・極1):「系統:異合」:【強襲:1】


コア5:Lv3:BP10000


シンボル:青】


 


バルカンを握る、二足歩行をするバイソンが翼のフィールドに現れる。深緑色のアーマーに身を包んだ高いBPを誇るスピリットが咆哮を上げる。


 


「アタックステップ!バルカンバイソンでアタック!アタック時効果、強襲!青玉の巨大迷宮を疲労させ、回復する!」


 


アタック時にネクサスを疲労させる事で自身を回復させる能力、強襲。強襲はそのカードのキーワード能力の横に書かれた数字の数だけ1ターン中に使用する事ができる。


 


「ここでバルカンバイソン、アタックステップ時効果!自分の強襲でネクサスが疲労した時、デッキからカードを2枚ドローし、手札1枚を破棄する!けど、海帝国の秘宝、Lv2効果により手札は破棄されない!」


「BP10000……ライフで受ける!」


 


バルカンバイソンが突撃し、弾の眼前に迫って一気にバルカンの引き金を引く。無数の弾丸が襲い掛かり、弾のライフを奪っていく。


 


「……ふっ」


(また笑っている……このバトルを楽しんでいるの?それとも、何か策があるから?)


 


ライフ減少のバーストでもアタック後のバーストでもない。ドラゴニックウォールのようにただ温存しているだけか。今の翼が判断するには材料があまりにも少なすぎる。


 


「……ターンエンド」


「どうした?もっとこないのか?」


「……貴方みたいにただバトルしていれば満足できる程単純な人間じゃないわ」


「……そうか。スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ブレイドラを召喚、そして星角獣ユニゴーントをLv2にアップ!」


 


【ブレイドラ


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:赤】


 


【星角獣ユニゴーント


コア1→3:Lv1→2:BP3000→4000】


 


「砲竜バル・ガンナーを召喚!」


 


【砲竜バル・ガンナー:赤・ブレイヴ


コスト4(軽減:赤2):「系統:地竜・星竜」


シンボル:赤】


 


背中に二台の砲門を背負う小さな竜が現れる。弾の愛用するブレイヴの一体が呼び出され、この状況を打開する為の合体が行われる。


 


「天蠍神騎スコル・スピアに合体!」


「っ……!」


 


【天蠍神騎スコル・スピア:青+赤


コスト5+4→9


BP9000+2000→11000


シンボル:青+赤】


 


バル・ガンナーの砲門が分離し、それがスコル・スピアの細身の背中に合体する。それと同時に弾のアーマーの赤いラインが一際強く赤い光を放ち始める。


 


「く……!」


「アタックステップ!ぶち抜け、合体スピリット!砲竜バル・ガンナー、合体時効果によりカードを1枚ドロー!そしてスコル・スピアの効果でコスト9以下のバルカンバイソンを破壊する!!」


 


バルカンバイソンがスコル・スピアの尻尾の針から放たれた青と赤の混ざった光の光線に撃ち抜かれ、破壊される。


 


「そしてこれがメインのアタック!」


「合体スピリットでブロック!」


 


スコル・スピアの背中の砲台から無数の弾丸が放たれ、空を舞うマーマリアンへと襲い掛かる。それを空中で器用に身体を回転させながら回避しスコル・スピアへと迫ったマーマリアンは両手に持つ剣をスコル・スピアへと叩きつけ、スコル・スピアが突き出した鋏に剣を挟まれる事で遮られる。そこから剣をスコル・スピアの鋏から解放させようとマーマリアンはもがくが、捕えた獲物をこの蠍は逃さない。青い光を帯びた尻尾の針がマーマリアンへと向けられ、光が放たれその身体を呑み込んで一瞬にして破壊し、背中の黒い翼が空中へと分離される。


 


【フォビッド・バルチャー


コア1:Lv1:BP4000】


 


「ターンエンド」


「……負けるわけにはいかない……!ずっと、戦ってきた私に、負けは許されない!」


「生憎、俺も勝つのが仕事だ。だから、俺は負けない」


「負かしてみせる!!私の力は……こんなものじゃない!!私は剣だ……どんな時でも、折れることはない、全てを切り裂く!スタートステップ!」


 


確実に追い込まれてきている。でも負けはしない。負けるわけにはいかないのだ。戦いの中に生きる事を決めた自分が、ノイズとの戦いで今まで無敗だった自分が、こんなどこぞの馬の骨かもわからない青年に負けることなど。それは、彼女の心の奥底にあるカードバトラーとしての純粋な思いを呼び起こそうとしていることに、翼はまだ気付いていないのだった。

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