第5話  紅蓮の流星

「……あ、あの……なんで学院に……?」


 


弾と翼の手によって残っていた全てのノイズが殲滅され、無事に響と少女は保護された。周囲にはノイズが炭化して出来た炭素の塊が転がっており、それを職員達が掃除機のようなもので次々と吸い込んでいく中、少女は無事に母親と再会し、二課の面々が渡した書類にサインしていた。何でも、シンフォギアは国家機密に相当するかららしい。そして、当のそのシンフォギアを偶然とはいえ発言させてしまった響は。


 


「改めて考えてみればそう思うのも無理はないな」


 


黒いスーツを纏ったいかにもな男たちに強固な手錠を両腕にかけられ、身動きを封じられた状態で車に乗せられ、私立リディアン音楽院高等科の中央棟へと連行されていた。そしてバイクを指定された場所に置いた弾が合流したのちに彼等は通路をしばらく歩き、エレベーターへと乗せられる。そこで男性職員が持っていた端末を機械に読み込ませるとエレベーターが二重の鉄の柵に囲まれ、壁からは手すりが出現する。


 


「あ、手すりに掴まっておいてください。危ないから」


「……え?」


 


言われるがままに手すりを掴む響。その言葉の意味を理解できなかったが、それは即座に理解することとなる。エレベーターなどという言葉では片付けられないほどの速度で急降下していくことにより。


 


「うわああああああああああ!?」


 


フリーフォールなどというものではない。不意打ち気味にそれをやられた響は悲鳴を張り上げながらも弾を見る。こんな思いをしているのが自分だけではないと信じて。だが、肝心の弾は表情一つ変えていない。既にこういうのには慣れていると言わんばかりに。


 


フリーフォールなどに関しては宇宙に行く際のトレーニングやコアブリットでバトルフィールドへ射出された際などで慣れている。そうでなくても今の弾にとってはこの程度で驚けなくなっている程の精神力が身に付いているということはあるが。


 


「あ、は、はは……」


 


そして少しの時間の後に速度を緩めていき、動きを止めたエレベーター。顔を引き攣らせながらも乾いた笑いを零す響に翼は冷たい言葉を投げかけた。


 


「愛想は不要よ。これから向かう所に微笑みなど必要ないから」


「……」


 


ちなみに弾は終始無言。先程のバトルで見せた熱さが一転して冷めているこの姿を見ていると、一体何があったのだろうかと疑問を抱かずにはいられなくなる。彼が何故ノイズと戦っているのか、聞いてみたいものではあるが、扉が開いていくのを見てその選択肢を脳裏から消されるのだった。


 


「ようこそ!人類最後の砦、特異災害対策機動部二課へ!」


 


その先に広がっていた暗闇。そこで、クラッカーの音が次々と鳴り響き、明かりが灯されたかと思うとそこにはまるでパーティでも始めるかのような雰囲気で待っていた二課の面々がいた。


 


「……へ?」


「賑やかだな……」


「……はぁ」


 


先程あんな事を言ったばかりなのに、それを否定されて額を痛そうに押さえる翼。予想外のサプライズに唖然となる響に対し、弾は一言だけ呟く。そして、了子や弦十朗らの自己紹介も終えて響は無事に手錠を外され、シンフォギアに関する説明などを受けていた。そして、その中で弾もまた、ガングニールという聖遺物が、シンフォギアがどういうものだったのかを聞かされる事となる。


 


「ガングニール。かつて奏という人物が使用していたシンフォギア……か」


 


その話で出てきたのは天羽奏という人物。彼女もまた、現在響が纏っていたギア、ガングニールを纏ってノイズと戦っており、当時は翼と共にツヴァイウイングというアーティストで一躍人気を会得していたのだという。しかし、二年前のツヴァイウイングのライブの際にノイズが襲撃してきたのだ。そして戦闘の結果、奏は死亡する事となる。


 


「光主、とでも表すなら響は新たなガングニールの光主ってとこか」


「……ガングニールは、奏のものだ。あんな、努力もせず、苦労もせずにその力を手に入れた奴の事なんて……!!」


 


彼女の身体を調べる為の精密検査を受ける為に部屋を出ていった響に聞かれていないのが唯一の幸いだろう。しかし、少し苛立ちを含ませた翼の言い方には、彼女を認めていないという素振りが窺える。弾の場合はシンフォギアとは別のベクトルの力を持つ聖遺物なのだろうと割り切っているからこそ特に抵抗はなかったのだろうが、ガングニールを持つこととなってしまった響は話が別のようだ。


 


「……彼女は、二年前からこうなのか?」


 


小声で弾は現在もアーティストを続けている翼のマネージャーを表向きは務めている緒川慎次に質問する。弾の問いかけに彼は、少しだけ苦しそうな表情を見せながらも無言で頷いてそれを肯定する。


 


(二年前が転機、か……)


 


翼の闇の深さを知った様な気がした。今はまだ自制できているみたいだが、もしこれが暴走して響と衝突する様な事にならなければいいのだが。そう思いながらも弾は疑問には思ったがノイズ襲撃によって質問できなかった事を弦十郎へと改めて問いかける。


 


「一つ、聞きたいんだがいいか?」


「どうかしたのか?」


「いや、デッキを作っている時にアルティメットってテキストに書かれたカードがあったんだが……あの時はアルティメットの事が分からなかったから取り敢えず保留にしておいたが、万全のデッキを作るならアルティメットの事も知っておきたい」


「ああ、すまない。そういえば説明するのを忘れていたな。すぐに資料を用意しておこう。後馬神君、どうやら君には家などがないみたいらしいな……しばらくは二課の一室を貸しておこう。デッキ構築もそこでやるといい」


「助かるよ」


 


 



 


 


翌日。デッキを構築し直した弾は、精密検査の結果を知る為に二課に再び訪れた響と共にあるレントゲン写真を見ていた。


 


「これは……心臓に何かが埋め込まれている?」


「あ、二年前の怪我です。あの時、ライブ会場に私も居たんです」


「まさか、この砕けた破片が……?」


「……ええ」


 


何となく察しが付き始める弾。本来なら力を持たず、聖遺物も持たない筈の彼女がその力を持っている。そして心臓に埋め込まれた謎の破片。それらが合わさって証明される事はただ一つしかない。


 


「心臓付近に複雑に喰い込んでいるせいで手術でも取り除けないこの破片……これこそが、かつて奏ちゃんが纏っていた第三号聖遺物ガングニールの砕けた破片なのよ」


「!?」


 


翼の目が驚きに見開かれる。巨大な衝撃を受けていたのは目に見えて明らか。そんな彼女はその事実を受け止めがたいものであるかと言わんばかりに背を向けると、ふらふらとした足取りで部屋を出ていくのだった。


 


「……」


 


ガングニールといえば奏。偶然に偶然が重なってその力を得てしまった響の事を彼女は受け入れられないのだろう。苛立ちを隠そうともしない彼女の背を見送りながらも弾は、自分のデッキケースに目を向ける。


 


「……その、このシンフォギアって……誰かに話してはいけないんでしょうか?」


「……シンフォギアについては俺も詳しくは知らない。でも、大きな力っていうのは常に人を動かし続けるものだ。平和にも滅びにも。力を持っている事が明らかになれば、その周囲にさえ危害が及びかねない」


「……ああ。馬神君の言うとおりだ。アルティメットという未知の力はシンフォギアを纏う奏者しか使用する事ができない。下手をすれば周囲の人々の命に拘わる危険すらもある」


「……!」


 


今度は響が目を見開いて驚く。世界情勢などには疎い響だが、ノイズを倒す技術など世界中が探し求めていると言っても過言ではない。それを可能とするシンフォギア、そして十二宮Xレアの戦力的価値はそんじょそこらの兵器などよりもずっと上だろう。


 


「故に、人々の命を守るためにもその力を隠し通してもらいたい。そしてその上で改めて依頼したい。立花響君、君に宿るその力、ノイズ達を倒す為に役立ててくれないだろうか?」


「……」


 


普通なら断られてもおかしくはない。だが響は、その問いかけに対してしっかりとした意思で自分の答えを口にした。


 


「やらせてください。誰かの為になるなら、私のこの力で、シンフォギアで人を助ける事が出来るなら!」


「……そうか……!?」


 


次の瞬間。アラームが二課に鳴り響く。突然の事態に一瞬だけ驚くが、それがノイズ襲撃によるものだと知るのは容易い。弦十朗は通信を用いて翼にノイズを撃退するように指示を出し、次に弾にも目を向ける。


 


「馬神君、君にも頼めるか」


「ああ。行ってくる」


 


ただ静かに一言告げると、弾もまた指令室から出ていき、翼を追ってノイズの撃退へと向かって行く。二人が動いているというのに自分だけが動かない訳にはいかないだろう、そう感じたのか、響もまた声を張り上げる。


 


「私も行きます!」


「待つんだ!君にはまだ……!」


 


しかし、響は弾や翼とは違う。弾はまだ一日しか見ていない弦十朗達でも馬神弾という実力者が持つ特有の風格を感じさせてくれる。だからこそ、彼が出ていく事に関しては何も言わなかったが、響は違う。バトルの筋は良いのだろうが、だからといって昨日になって初めて危険なバトルに飛び込んだ少女をすぐに戦地へ向かわせる訳にはいかない。しかし、


 


「私の力で誰かを助けられるんですよね!救える命があるんですよね!?だから、行きます!」


 


そう宣言し、響も部屋から出ていく。他人をほっとけない性分なのだろうか。だが、それでも響のその行動には危機感を覚えさせるものがあった。この場に今と昔の弾を知る人物がいたとすれば特に。


 


 



 


 


「翔けろ、太陽龍ジーク・アポロドラゴン!」


 


太陽龍のアタックがノイズの身体を打ち砕く。そして元の空間へと帰還した弾の下に一歩遅れて駆け付けてきた響が近づいてくる。


 


「弾さん!」


「響?お前も来たのか?」


「はい!私でも力になれると思って!」


 


ぐっと拳を強く握り締めながら真っ直ぐな意思を見せる響。その様子を苦笑しながら弾は見ていたが、すぐに辺りに視線を動かしてノイズ達の動向を窺っていく。


 


「昨日よりは数は少ないが……」


「あ、あれは……!」


 


ノイズ達は二手に分かれて出現しており、弾と翼がそれぞれ分かれて迎え撃っているという状況だった。だが、弾の方は一足早く撃退に成功しており、翼の様子を確認する為に響と共に彼女の下へ向かったところで二人が見たのは、今かとバトルに入ろうと集合しているノイズ達を前にシンフォギアを装着して構える翼の姿があった。


 


「成程、こっちには二体分いたか……」


 


一回のバトルにかかった時間は翼よりも短いようだ。そのため、二回目のバトルに入る前に彼女の下へ向かう事が出来たようだ。まだ彼女と戦った事もなく、バトルも見た事が無い弾だが、翼が持つカードバトラーとしての風格から彼女が強者であるということは既に理解していた。だからこそ、これも彼女の獲物なのだろうと手を出そうとは思わなかったが。


 


「翼さん!」


「!?」


 


まだ日が浅いからか、慣れていないからか、響にはそこまで頭が回らなかったようだ。無論、これも彼女なりの考え。翼の力になりたいという思いから出た行動なのだろう。


 


「私が相手だ!ゲートオープン!界放!」


 


しかし、獲物を取られた事、そして彼女の事を快く思っていない翼からすればその行動はあまりにも失礼極まりない行為でしかない。湧いてくる怒りを必死に抑えるように彼女は、恨めしそうにも響を見る。


 


「っ……」


「大丈夫か」


「……問題ないっ……」


 


なし崩しにバトルフィールドの中へと移動した翼に弾は声をかける。彼女の怒りが伝わってきたからだろうか。そんな彼に必死に自分の内心を悟られないように声を漏らすように翼は言葉を返す。そんな彼女を刺激しないように、弾は話題をバトルへと転換するのだった。


 


「彼女のバトル……見させてもらおうか」


「……ふん」


 


バトルフォームであるシンフォギアを纏った響はまだシンフォギアには慣れない様子が見えるが、バトルに向かうその意思は本物だ。


 


『スタートステップ、ドローステップ、メインステップ。ヤクヤナギを召喚』


 


【ヤクヤナギ:緑・スピリット


コスト2(軽減:緑1):「系統:遊精」


コア2:Lv1:BP1000


シンボル:緑】


 


厚い体毛を持つ巨大な牛のようなスピリットが現れる。その背中には硬い甲冑のような装甲が装備されており、体を守っているようにも見える。


 


『ターンエンド』


(このノイズのデッキは神速を肝としているのか?)


 


ヤクヤナギにはアタックステップ時に自分の手札にある神速を持つスピリットとブレイヴに緑の軽減を2つ追加する効果がある。リザーブにコアを1つ残したままなのも次のターンに神速スピリットをヤクヤナギの効果とシンボルでノーコストで召喚する為の準備なのだろう。


 


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!メインステップ!翼竜人プテラディアを2体召喚!」


 


【翼竜人プテラディア:赤・スピリット


コスト2(軽減:赤1):「系統:竜人・翼竜」:【覚醒】


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:赤】


 


【翼竜人プテラディア


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:赤】


 


青い翼の腕を広げる細身の竜人が響のフィールドに現れる。仮面のようなものをかぶって素顔を隠し、腰に二本の短刀を差した赤のスピリット達は響のフィールドを彩っていく。


 


「ターンエンド」


「覚醒の赤スピリットを投入したデッキ……赤デッキか」


「……」


 


険しい表情で響を見る翼。響はお互いの場を見渡した後に今は攻めるべきではないと考え、ターンの終了を宣告する。


 


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。緑芽吹く原野を配置』


 


【緑芽吹く原野:緑・ネクサス


コスト5(軽減:緑3)


コア0:Lv1


シンボル:緑】


 


ノイズの背後に巨大な原野が広がる。緑豊かな原野の配置に全てのコアを使用し、神速の狙いを潰させてまで配置した目的は何があるのか。


 


『バーストをセット』


 


ノイズの場に巨大な裏向きのカードが出現する。ネクサスの配置によって消えたコアの分をこれで補うというつもりなのだろうか。


 


『ターンエンド』


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!サーベカウラスを召喚!」


 


【サーべカウラス:赤・スピリット


コスト4(軽減:赤2):「系統:地竜」:【覚醒】


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:赤】


 


二体の竜人に続けて三角形の頭が特徴的な緑色の恐竜のようなスピリットが召喚される。


 


「プテラディアをLv2へアップ!」


 


【翼竜人プテラディア


コア1→2:Lv1→2:BP1000→3000】


 


「バーストをセットしてアタックステップ!Lv2のプテラディアでアタック!」


『ライフで受ける』


 


プテラディアが腰から短剣を抜き、ノイズへと叩き付ける。ライフが1つ砕ける音と共にプテラディアは響のフィールドへと戻る。そして入れ替わりになるようにもう1体が飛び出していく。


 


「もう一体のプテラディアでアタック!フラッシュタイミング、覚醒!疲労しているLv2のプテラディアのコアを今アタックしているLv1のプテラディアに移動!Lv2へ!」


 


【翼竜人プテラディア


コア2→1:Lv2→1:BP3000→1000】


 


【翼竜人プテラディア


コア1→2:Lv1→2:BP1000→3000】


 


『ヤクヤナギでブロック』


 


プテラディアが抜いた短剣がヤクヤナギの角とぶつかり合い、火花が散らされる。だが、この攻防には先がある。


 


『フラッシュタイミング、ブリーズライドを使用。このターンの間、ヤクヤナギをBP+3000』


 


【ヤクヤナギ


BP1000+3000→4000】


 


『緑芽吹く原野、Lv1・2、アタックステップ時効果。自分がマジックの効果を使用したとき、ボイドからコア1個を自分のリザーブに置く』


「BPを越えられたか……」


「サーべカウラスの覚醒でバトルしているプテラディアのコアを全部移動!」


 


【翼竜人プテラディア


コア2→0】


 


【サーべカウラス


コア1→3:Lv1→2:BP3000→4000】


 


BPを逆転されたプテラディアのコアが全て移動され、消滅する。それによってヤクヤナギはプテラディアを破壊する事ができなくなる。


 


「まだまだ!サーべカウラスでアタック!」


『ライフで受ける』


 


サーべカウラスが空中へと飛び出し、一回転しながら体をノイズへと叩き付ける。ライフを素早く二つ奪い取る。覚醒を利用して上手くスピリットの上からコアを移動させていき、高いBPを維持していくその手際の良さを見て、弾は素直に感心する。


 


「上手く覚醒を使いこなしているな……覚醒スピリットは複数体並べて少ないコアを共有できる利点があるからな……筋は良い」


「筋は良くても、覚悟が無ければ実力は伴わないわ」


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ネクサス、戦場に息づく命を配置』


 


【戦場に息づく命:緑・ネクサス


コスト4(軽減:緑3)


コア0:Lv1


シンボル:緑】


 


新たな命が背後で誕生する。このネクサスは今は然程意味を成さないが、残しておけば後に厄介になる事だろう。


 


『ヤクヤナギをLv2へアップ』


 


【ヤクヤナギ


コア1→3:Lv1→2:BP1000→5000】


 


『アタックステップ。ヤクヤナギでアタック。フラッシュタイミング、マー・バチョウをLv2で神速召喚』


 


【マー・バチョウ:緑・スピリット


コスト3(軽減:緑2+緑2):「系統:雄将・華兵」:【神速】


コア2:Lv2:BP4000


シンボル:緑】


 


光の粉を纏った金色の刃の羽根を背中に背負う、青い馬が神速召喚によって現れる。召喚コストの支払いと上に置くコアをリザーブから使用する事によってフラッシュタイミングにも使用できる能力、神速。その力で呼び出されたマー・バチョウには召喚時効果がある。


 


『マー・バチョウ、召喚時効果。アタックステップ時にこのスピリットが召喚されたとき、ボイドからコア1個をリザーブに置く』


「……!ライフで受ける!」


 


ヤクヤナギの角が響へと叩きつけられる。遂にライフが削られ、その痛みに表情を歪ませながらも、必死に手すりに掴まって衝撃に耐える。


 


「ったた……でも!ライフ減少によりバースト、三札之術!BP4000以下の相手スピリット1体を破壊する!マー・バチョウを破壊!」


 


三発の炎が表向きになったカードから放たれ、マー・バチョウを燃やし尽くす。まだバーストの効果は終わらない。


 


「そしてコストを支払い、メイン効果を発揮!不足コストはサーべカウラスより確保!」


 


【サーべカウラス


コア3→1:Lv2→1:BP4000→3000】


 


「デッキから2枚ドローし、その後デッキを上から1枚オープンし、それが赤のスピリットなら手札に加える!」


「エクストラドローみたいだな……こんなバーストもあるのか」


「……貴方、本当にバーストの事知らないのね」


 


響のデッキの上からカードがオープンされる。そして、オープンされた赤のカードは、彼女のデッキに眠っていたXレアカード。


 


「……来た!龍星皇メテオヴルム!!赤のスピリットカードのため、手札に加える!」


「!メテオヴルム……!」


「?」


 


そのカードに思い入れでもあるのだろうか。一瞬だが獰猛に、だがとても懐かしそうに表情を変化させた弾の横顔。それが翼には妙に印象に残った。


 


『エンドステップ、トラッシュのブリーズライド1枚は手札に加えられる』


 


ノイズの手札にブリーズライドが戻っていく。これで再び緑芽吹く原野の効果を起動させるマジックが補充される事となる。


 


「……スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!ドラゴンヘッドを召喚!」


 


【ドラゴンヘッド:赤・スピリット


コスト0:「系統:翼竜」:【覚醒】


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:赤】


 


「響け星よ!龍星皇メテオヴルム、召喚!!」


 


【龍星皇メテオヴルム:赤・スピリット


コスト7(軽減:赤3):「系統:星竜・勇傑」:【激突】


コア1:Lv1:BP6000


シンボル:赤】


 


オレンジ色にも似た赤い翼が広げられる。緑色の目を輝かせ、空から降り注いだ隕石の中から現れたドラゴンは、響のフィールドで咆哮を張り上げた。


 


「……ターンエンド」


(ブリーズライドのせいで踏み込めないか……)


 


今、響のフィールドで最もBPの高いメテオヴルムでも、相手はブリーズライドを使えばBP3000以上の神速スピリットを手札から呼び出すことで迎撃出来てしまう。


 


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。を使用。自分の手札すべてを破棄することで自分はデッキから3枚ドローする。ヤクヤナギを召喚。コスト及び維持コアはLv2のヤクヤナギより確保』


 


【ヤクヤナギ


コア3→1:Lv2→1:BP5000→1000】


 


【ヤクヤナギ


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:緑】


 


『アタックステップ。2体のヤクヤナギでアタック。フラッシュタイミング、ムシャツバメ2体をLv2で神速召喚』


 


【ムシャツバメ:緑・スピリット


コスト1(軽減:+緑2×2):「系統:爪鳥」:【神速】


コア3:Lv2:BP3000


シンボル:緑】


 


【ムシャツバメ


コア3:Lv2:BP3000


シンボル:緑】


 


「どっちもライフで受ける!」


 


二体のヤクヤナギが同時に響のライフを奪う。これで残ったライフは二つ。そして相手のスピリットは二体。とはいえ、こちらにはまだブロッカーが三体残っている。流石にこれ以上のアタックは行わないのではないだろうか。そう響が安堵した瞬間、その考えは打ち壊される。


 


『ムシャツバメでアタック』


「!?ライフで受ける!」


 


空から急降下する兜や鎧を纏ったツバメが響のライフを砕く。さらに畳みかけるようにノイズは残ったムシャツバメにも指示を出す。


 


『2体目のムシャツバメでアタック』


(メテオヴルムでブロック……いや!)


 


スピリットでブロックするのか。その選択肢を敢えて外し、響は手札から一枚のマジックを取り出す。


 


「フラッシュタイミング!フレイムスパークを使用!BP5000まで相手スピリットを好きなだけ破壊する!その後、トラッシュのスピリット、翼竜人プテラディアを手札に戻す!」


 


ムシャツバメ1体と2体のヤクヤナギが一斉に炎に包まれて焼かれる。これでアタックは封じた。だが、ノイズのターンはまだ終わっていない。


 


『相手によって自分のスピリットが破壊された事でバースト発動、風の覇王ドルクス・ウシワカ。相手スピリット2体を疲労させる。サーベカウラス、龍星皇メテオヴルムを指定。さらにフィールド/リザーブ/トラッシュのコアが合計8個以上のとき、このスピリットカードを召喚する。ムシャツバメのコアを2つ移動させる』


 


【ムシャツバメ


コア3→1:Lv2→1:BP3000→1000】


 


【風の覇王ドルクス・ウシワカ:緑・スピリット


コスト5(軽減:緑3):「系統:覇皇・殻虫」:【神速】


コア5:Lv3:BP10000


シンボル:緑】


 


金色の翼が桜色の光と共に広げられる。それを持つのは強固な黄緑色の殻を持つ鳥のようなスピリット。風の覇王ドルクス・ウシワカの登場と同時に二体のスピリットが疲労する。


 


「ば、バースト召喚……!?」


「これを狙って、敢えて自分のスピリットを破壊させるために無策に突っ込ませたのか……わざわざ、手札を使いきってまで神速召喚をして」


『エンドステップ。トラッシュよりブリーズライドを手札に加えてターンエンド』


(ドルクス・ウシワカには確か、バトル終了時に自身を手札に戻す効果があった筈。これを使えばドルクス・ウシワカは神速と合わせて何回でもブロッカーになれる。スピリットが四体いても物量押しはできそうにないわね)


 


冷静に状況を分析していく。意外と響の方が状況的には余裕がないこの状況。これを打開するには。響は深呼吸をして、山場となるであろうターンを開始する。


 


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!」


 


ドローステップで響が引いてきた1枚のカード。それは、彼女のデッキにおける最大の力を秘めた、シンフォギアが与えた力の象徴ともいえる力。それを引いてきた響は、顔を一段と明るくさせる。


 


(来た……!)


「……流れが変わったな」


 


響が手に握るそのカード。それを起動させる為の歌が彼女の口から漏れていく。彼女や翼にとっては自然になってしまっているその動作、だが弾にとっては少し意外なその行動に、少し怪訝そうな顔を浮かべる。


 


「……歌?」


「来るわね……」


 


響の手から金色の光が溢れる。そして響の背後に雷鳴が轟く。


 


「金色の稲妻!アルティメット・ジークヴルム、Lv5で召喚!」


 


【アルティメット・ジークヴルム:赤・アルティメット


コスト6(軽減:赤3):「系統:新生・星竜・竜人」:【真・激突】


コア4:Lv5:BP17000


シンボル:極】


 


雷鳴の中から現れる、金色の鎧を纏ったジークヴルム。赤と青の皮膚を持つ稲妻の竜の出現に、弾の目がこれ以上ないほどの驚きで見開かれる。


 


「ジークヴルム!?しかも、アルティメット……!!」


(……やっぱり、さっきのメテオヴルムと同じ。声に熱がある)


「アタックステップ!いけ、アルティメット・ジークヴルムでアタック!Uトリガー、ロックオン!」


 


響の手から放たれた光がノイズのデッキを弾く。そしてトラッシュへと落とされたカードはマジック、スタークレイドル。コスト3のカードにより、


 


「ヒット!アルティメット・ジークヴルムのBP+10000!」


 


【アルティメット・ジークヴルム


BP17000+10000→27000】


 


「そして真・激突!相手はアルティメットを含むカードでブロックしなければならない!」


(激突の上をいく能力、真・激突……!)


『風の覇王ドルクス・ウシワカでブロック』


 


炎を纏ったアルティメット・ジークヴルムと風を纏ったドルクス・ウシワカが真正面からぶつかり合う。そして、BPで勝るアルティメット・ジークヴルムがドルクス・ウシワカを弾き飛ばした。


 


(計算が崩れたわね)


「残った手札はブリーズライド。勝負あったか」


「サーべカウラスでアタック!」


『ライフで受ける』


 


サーべカウラスの突進がノイズのライフを打ち砕く。


 


「ドラゴンヘッドでアタック!」


『ライフで受ける』


 


さらに続くようにドラゴンヘッドが残っているライフを砕く。残ったライフは1つ。最後のライフを奪うのは、


 


「これで、トドメ!いけ、メテオヴルム!!」


『ライフで受ける』


 


メテオヴルムが炎に包まれ、一直線に敵へと突っ込んでいく柱となる。炎を浴びせられ、ライフを全て潰されたノイズの体が粉々に炭化していき、消滅していくのだった。


 


「……よし!」

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