第4話 太陽神龍の咆哮

「や、やった……やったー!」


「お姉ちゃん凄い!かっこよかった!」


 


エクストリームゾーンから元の空間へと戻ってきた響と少女。ノイズ相手にまさかの勝利を収めた事で興奮も冷めきっておらず、お互いに抱き合っていたが背後で何かが蠢く物音にその興奮は急速に退かされることとなる。


 


「……え?」


 


恐る恐る後ろを振り向く。そこには、先程自分が相手したものよりもずっと巨大なノイズが立っている姿があった。


 


「う、嘘!?まだいた!?」


 


ノイズはエクストリームゾーンに移動する際、複数の個体が一つとなり、質量を増してから行くという性質がある。それは、ノイズが持つ質量が低ければライフを一つ砕かれただけで炭化することとなるからだ。つまりその性質を克服する為に、バトル終了時まで自分達の存在を維持し続ける為に複数の個体が一つに集約される必要がある。だが、その個体を一体撃破してもまだ残りが存在する現状が意味する事はただ一つ。予想以上のノイズが存在していたということだ。


 


「こ、こうなったらもう一度……!」


 


デッキを突き出す響。しかし、先程バトルをしてそのままインターバルも無しに命がけのバトル、それを連戦というのはあまりにも精神的な負担が大きすぎる。それでも、バトルでの疲れから肉体的にも消耗が激しい彼女にはここから逃げるという選択肢も取る事は出来ず、結果リスクが高いという事を分かっていながらもバトルに挑むしかないという現状があった。しかし、


 


「……あえ?」


 


瞬間、響は背後から二つの光源を感じ取った。いきなり現れた光源の正体を確かめるべく耳に意識を向けてみると、それはバイクの駆動音のようにも聞こえてくる。そして響が後ろを振り向くとそこには、二つのバイクがエンジン音を響かせながら現れてくる光景があった。


 


「ば、ばばバイク?」


「……これだけのノイズ……バトルが楽しみだ」


「バトルは互いの命を賭けた真剣勝負よ。そこに楽しむなんていう感情が入る余地はないわ」


 


静かではあるがその声の中に熱意と期待を込めている一人の青年の声、そしてその青年を咎めるかのように冷めた声で告げる少女の声が聞こえてくる。男性はそこでそのままバイクを止めていたが、少女の方はそのままバイクで大型の芋虫のような形をしたノイズへと突っ込んでいき、バイクの上から高い跳躍を見せてバイクを乗り捨て、そのままノイズへ激突させる。


 


「……え?」


 


瞬間、その女性は空へ舞い上がりながら歌を響かせる。その歌は、少女が持つ秘められた力、シンフォギアを覚醒させ、全身に青を基調とした。装甲を纏い、その頭のヘルメットが空中へと舞い、その下にある青い髪を靡かせる。


 


「う、嘘……!?あれって、つ、翼さん!?」


 


風鳴翼。有名なアーティストであり、少なくともこの日本で知らない人はいないと言っても過言ではないだろう存在。彼女もまた、響と同じ武装、シンフォギアを纏って目の前のノイズに対しデッキを突き出す。


 


「ゲートオープン、界放!!」


 


エクストリームゾーンへと大量のノイズを同時に隔離する。突然の現実にただ呆然としていた響だったが、さらに上空から大量のノイズが降ってくる姿を目にする。


 


「うぇえぇえ!?まだいた!?」


 


慌ててその場から逃げだし、落下してくるノイズから逃げる。そんな彼女をノイズから庇うかのように、バイクの荷台にヘルメットを置き、赤い髪を見せた青年がノイズの前に立ち塞がる。


 


「あ、危ない!?危ないですよ!?」


「大丈夫さ。バトルなら慣れてる」


 


デッキを手に、ノイズ相手に不敵な笑みを浮かべる赤い目の青年。それを見たノイズは彼から戦意を感じ取り、その場に残っていた全ての個体が一つに集約して人型となり、青年の前に立つ。


 


「さぁ、始めよう」


「あ、あの……あ、貴方は……?」


「馬神弾。今はブレイヴ使いの馬神弾だ。ゲートオープン、界放!」


 


ゲートが開かれ、弾はエクストリームゾーンへと誘われる。そして弾の身体の内側から赤い光が溢れ出し、その全身を赤、白、緑、紫、青、黄の六つの光が包んでいく。そしてそれは彼の上半身、そして両肩を覆う黄色を基調とした機械的なアーマーへと変わっていき、そのアーマーの中に赤いラインが刻まれ、その中で五つのコアの光が灯っていく。


 


「凄い……バトルフィールドで着ているのと全然デザインが違う……本当に鎧みたい。これよりも」


 


そう言いながらエクストリームゾーンに少女と一緒に飛ばされた響は、弾のアーマーを目の当たりにする。一切の損傷が見えず、かつ使いこまれた雰囲気を感じさせる鎧は、持ち主の静けさもあってとても頼りがいのある装甲に見えた。


 


「始まったか……」


「ノイズ相手にまともに渡り合える青年、馬神弾。その実力、是非とも見せてもらおうかしら?」


 


モニターに表示される、翼と弾のそれぞれのバトル。二課の面々もまた警戒するようにそれを見る中、弾はただ何時も通りと言わんばかりに静かに自分のターンを開始する。


 


「さぁ、始めようか。スタートステップ、ドローステップ、メインステップ。イグア・バギーをLv2で召喚」


 


【イグア・バギー:白(赤)・スピリット


コスト1(軽減:白1・赤1):「系統:機獣・星魂」


コア2:Lv2:BP3000


シンボル:白(赤)】


 


弾が手始めに呼び出したのは、背中に小さい銀色の砲門を背負う緑を基調としたボディを持つ四輪のバギー。エンジンの駆動音を響かせて出現したこのスピリットは本来の色は白だが、自身の効果によって色とシンボルを赤として扱う事ができるのだ。


 


「ターンエンド」


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、メインステップ。デモ・ボーン、闇楯の守護者ナーガンを召喚』


 


【デモ・ボーン:紫・スピリット


コスト1:「系統:無魔」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:紫】


 


【闇楯の守護者ナーガン:紫・スピリット


コスト3(軽減:紫2):「系統:妖蛇」


コア1:Lv1:BP2000


シンボル:紫】


 


胸に紫のシンボルを埋め込んだ小さなガイコツの剣士が現れる。その右手には片手剣、左手には盾が装備されており、その隣に出現した紫のシンボルを砕いて中から蛇の顔をした、人の上半身と蛇の下半身を持つスピリットが現れる。その左手には巨大な盾が、尻尾の先には闇に覆われた鎌が握られている。


 


「闇楯の守護者ナーガン……」


 


御世辞にもまだこの世界で自分の見た事のないカードに関しては効果をまだ把握しきれていない。故にナーガン、並びに守護者達が持つ特有の力は弾にも把握できていない。


 


『バーストをセットし、ターンエンド』


 


ノイズの場に巨大なカードが裏向きで出現する。バーストは弾にとっては馴染みの無いものであるのだが、それが当たり前となっているこの世界で戦うならば何れ使いこなせるようになるべきだろう。


 


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。二体目のイグア・バギーを召喚」


 


【イグア・バギー


コア3:Lv2:BP3000


シンボル:白(赤)】


 


二体目のイグア・バギー。しかしその上に置かれたコアは余分に1コア多い。その理由は相手が紫のカードを使用する為にコアシュートで取り除かれるのを危惧しての行動でもある。


 


「アタックステップ。イグア・バギーでアタック!」


『ライフで受ける』


 


イグア・バギーがデモ・ボーンとナーガンの二体の間を直進していき、四つの車輪を地面に叩きつけて思い切り跳び上がり、その車体をノイズへと叩き付ける。ライフの砕ける音が響き渡り、ノイズの場に存在していたバーストが光る。


 


「!ライフ減少のバーストが!?」


「来るか……バースト」


『自分のライフ減少によりバースト、妖華吸血爪』


 


表側になった紫のカードが起動する。その力がどんな効果か、どこか期待するような視線を向ける弾の前でノイズがその効果処理を行っていく。


 


『デッキからカードを2枚ドローする』


「ライフ減少でコアを溜め、同時に2枚のカードをノーコストでドロー……いいカードだ」


「か、感心してる!?」


「だがまだアタックステップは終わってないぞ。もう一体のイグア・バギーでアタック!」


『ライフで受ける』


 


3ターン目で一気に2つのライフを削り、勝利に近付く。その代価として弾の場には疲労したスピリットしか残らないが、今はこれでいい。手札を見ながら弾は静かにフルアタックによって砕けた2つのライフを見ながらエンドステップへ入る。


 


「ターンエンド」


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ネクサス、血塗られた魔具をLv2で配置』


 


【血塗られた魔具:紫・ネクサス


コスト3(軽減:紫1)


コア2:Lv2


シンボル:紫】


 


ノイズの背後に巨大な二本の杖が突き刺さる。それらは悪魔のような顔が先端に描かれており、それぞれ緑とオレンジの不気味な目を輝かせている。


 


(……厄介なネクサスだな)


「闇楯の守護者ナーガンをLv2へアップ」


 


【闇楯の守護者ナーガン


コア1→3:Lv1→2:BP2000→3000】


 


『ターンエンド』


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ」


 


デッキからカードをドローしながら相手の場に張られたネクサス、血塗られた魔具の事を考える。あのネクサスがある限り、コアが2個以下のスピリットがアタックした際にそのスピリットは強制的に破壊される。今の弾の場ならばコアを3つ置かれているイグア・バギーがその範囲から逃れられ、もう1体に1コア追加すればどちらもネクサスの防御を突破できる。しかし、ここは急いで攻めるのは得策ではない。


 


「太陽よ、炎をまといて龍となれ!太陽龍ジーク・アポロドラゴン召喚!不足コストは2体のイグア・バギーより確保!」


 


【イグア・バギー


コア3→0】


 


【イグア・バギー


コア2→1:Lv2→1:BP3000→1000】


 


【太陽龍ジーク・アポロドラゴン:赤・スピリット


コスト6(軽減:赤2・青2):「系統:神星・星竜」


コア1:Lv1:BP4000


シンボル:赤】


 


弾の背後で太陽が赤く燃え上がる。そして弾の隣に巨大な赤き龍が出現し、一歩、また一歩とフィールドへと四足歩行で入場してくる。そしてフィールドに立つと二本脚で立ち上がり、その翼を広げて咆哮を張り上げながら両肩、両膝、そして額に見える金色の装飾を光らせる。


 


「おお……!」


 


その姿に思わず響達も感銘の声を漏らす。見るからに強そうなスピリット。これを使って攻め込むのかと思わせるが、今攻めても自殺行為にしかならない事は明白。


 


「ターンエンドだ」


 


次のターンに備え、ジーク・アポロドラゴンを温存しておく。次のリフレッシュステップでコアが戻って来てからが勝負だ。そう結論付けながら。


 


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ。ネクサス、血塗られた魔具、Lv2効果発揮。ステップ開始時に自分の手札にある呪撃を持つジョー・サイスを破棄する事によりドローする枚数を+2する。リフレッシュステップ、メインステップ。ジャンゴヘビをLv2で召喚』


 


【ジャンゴヘビ:紫・スピリット


コスト1(軽減:紫1):「系統:妖蛇」:【呪撃】


コア3:Lv2:BP2000


シンボル:紫】


 


赤と黒、白の三色の縞縞模様をもつ毒々しい見た目の蛇が現れる。その口から覗かせる鋭い二本の牙を伝って地面には紫色の液体が流れ落ちている。


 


『ネクサス、地獄都市カイーナを配置。不足コストは闇楯の守護者ナーガンのLvを1に下げる事によって確保』


 


【闇楯の守護者ナーガン


コア3→1:Lv2→1:BP3000→2000】


 


【地獄都市カイーナ:紫・ネクサス


コスト4(軽減:紫2)


コア0:Lv1


シンボル:紫】


 


赤と紫の毒々しくも禍々しい無数の生命体が絡み合って構築された都市が血塗られた魔具の頭上に出現する。


 


「新しいネクサス……」


『バーストをセット。アタックステップ、ジャンゴヘビでアタック。さらに地獄都市カイーナ、Lv1・2お互いのアタックステップ時効果。呪撃/呪滅撃を持つ自分のスピリットが疲労したとき、自分はデッキからカードを1枚ドローする』


(呪撃をサポートするネクサス……成程、いいカードだ)


 


呪撃を持つスピリットは、自身がアタックした時、バトル解決時にブロックしていた相手スピリット1体をバトル終了時に破壊する。アタックして疲労する事を1枚のドローへのアドバンテージに変えるこの地獄都市は呪撃デッキにとって相性が良いと言える。


 


「ライフで受ける!」


 


ジャンゴヘビが空中へと舞い上がり、その長い体を弾を守るべく出現した紫色の半透明のバリアへと叩きつけられる。バリアが音を立てて砕け散るのと同時に弾のアーマーのライフが1つ砕け散る。


 


「凄い……あの人も炭素転換していない……」


「やはり、通用しないようだな……これも、十二宮Xレアと呼ばれるカードの力なのか?」


「ええ、そうみたいね。十二宮Xレアと思われるカード達のエネルギーがノイズの干渉を防いでいるみたいね……」


『ターンエンド』


 


弾がノイズの手によって一撃で消されていない。その事実を確かめた響と二課の面々は、コアを3つ置いて血塗られた魔具の影響を脱したジャンゴヘビのアタックを受けた弾に注目する。


 


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。砲竜バル・ガンナーを召喚」


 


【砲竜バル・ガンナー:赤・ブレイヴ


コスト4(軽減:赤2):「系統:地竜・星竜」


コア2:Lv1:BP2000


シンボル:赤】


 


額に赤い小さなシンボルを埋め込んだ小さな赤いドラゴンが現れる。翼を持たず、背中に二台の砲門を背負ったブレイヴが出現する。


 


「砲竜バル・ガンナーを太陽龍ジーク・アポロドラゴンに合体!ブレイヴのコアを乗せてLv2へ!」


 


【太陽龍ジーク・アポロドラゴン


コスト6+4→10


コア1→3:Lv1→2:BP4000→6000+2000→8000


シンボル:赤+赤】


 


砲竜バル・ガンナーの背中の砲台が分離し、本体が消滅する。同時に太陽龍の翼が消え、その背中にバル・ガンナーが合体し、その体の白い球体が赤く染まっていき、同時に弾のアーマーの赤いラインもさらに一際強く、燃える様に赤く輝いていく。


 


「ブレイヴスピリット!」


「か、かっこいい……」


「ニジノコを召喚」


 


【ニジノコ:黄(赤)・スピリット


コスト1:「系統:戯狩」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:黄(赤)】


 


虹色の皮膚を持つドラゴンにも見えた存在が現れる。小さくも強力なハイブリッドシンボル、いや自身の効果により実質四色のシンボルに変わることの出来るスピリットを呼び出して場を固め、安心してアタックステップに臨めるようにする。


 


「アタックステップ!合体スピリットでアタック!この瞬間、砲竜バル・ガンナーの効果!デッキからカードを1枚ドローし、BP4000以下の相手スピリット1体を破壊する!ジャンゴヘビを指定!」


 


太陽龍の背中から放たれた二発の弾丸。それはジャンゴヘビを撃ち抜き、大爆発の中で塵一つ残さずに抹消させる。しかし、それと同時にノイズのフィールドのカードが輝く。


 


『相手による自分のスピリット破壊後、バースト発動。マーク・オブ・ゾロ』


「!バースト……」


 


瞬間、空に巨大な紫色の光でZの文字が出現する。その文字は一つの鞭となって太陽龍に絡みついていく。弾の手によってスピリットは破壊される条件を満たしてしまった事が裏目に出たようだ。


 


『カードを1枚ドローし、相手のスピリットのコア2個をトラッシュに置く。太陽龍ジーク・アポロドラゴンを指定』


 


【太陽龍ジーク・アポロドラゴン


コア3→1:Lv2→1:BP6000→4000+2000→6000】


 


『さらにコストを支払い、フラッシュ効果を発揮。コスト5以下の相手のスピリットすべてのコア1個ずつを相手のリザーブに置く』


「……!」


 


【イグア・バギー


コア1→0】


 


【ニジノコ


コア1→0】


 


さらにマーク・オブ・ゾロの光はイグア・バギーとニジノコを襲う。太陽龍は現在のコストは8のため、フラッシュ効果の範囲からどうにか逃れたようだ。


 


「バースト……だが、こうでなきゃ面白くない。まだアタックは継続している。ジーク・アポロドラゴン、アタック時効果により、回復状態の相手スピリットに指定アタックできる!ナーガンに指定アタック!」


 


太陽龍の突進が、鎌を突き出すナーガンに襲い掛かる。鎌の刃をバル・ガンナーの砲台で吹き飛ばし、盾も同時に粉々に打ち砕き、得物を失った相手に激突して粉砕する。


 


「ターンエンドだ」


「い、一気に四体のスピリットが消えた……」


 


だが、どちらの方が被害が大きいかと言われれば間違いなく弾の方だろう。次のターンからも攻撃の起点に使用できるシンボル達を失っているのだから。


 


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ。ステップ開始時にジョー・サイスを破棄し血塗られた魔具の効果でドローする枚数を+2。リフレッシュステップ、メインステップ。闇楯の守護者ナーガン、ジャンゴヘビをLv2で召喚』


 


【闇楯の守護者ナーガン


コスト3(軽減:紫2)


コア3:Lv2:BP3000


シンボル:紫】


 


【ジャンゴヘビ


コスト1(軽減:紫1):【呪撃】


コア3:Lv2:BP2000


シンボル:紫】


 


(二枚目を手札に引いていたか……)


『さらにジャンゴヘビをLv2で召喚。不足コストは血塗られた魔具より確保』


 


【血塗られた魔具


コア2→0:Lv2→1】


 


【ジャンゴヘビ


【呪撃】


コア2:Lv2:BP2000


シンボル:紫】


 


二体目のナーガンが出現し、自分のスピリットすべてを守る。同時に呪撃を持つジャンゴヘビ二体を並べ、カイーナでのドロー用のスピリットを並べていく。


 


『アタックステップ。闇楯の守護者ナーガンでアタック』


「ライフで受ける!」


 


ナーガンの尻尾に握られた鎌が投げられる。それは軌道を描きながら弾に迫っていき、そのライフをさらに奪っていく。


 


『ジャンゴヘビでアタック。地獄都市カイーナの効果によりカードを1枚ドロー』


「こっちもライフで受ける!」


 


コアを3つ持つジャンゴヘビがネクサスの妨害をすり抜けて弾へと迫る。その攻撃を一切の躊躇いなく受け切った弾はその場に踏み止まるように衝撃に耐える。


 


『ターンエンド』


「一気にライフを2つも……!」


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。輝竜シャイン・ブレイザーを召喚!」


 


【輝竜シャイン・ブレイザー:赤・ブレイヴ


コスト5(軽減:赤2・青2):「系統:星竜・機竜」


コア3:Lv1:BP5000


シンボル:赤】


 


赤き炎の模様が刻まれた白き体を持つ機械竜が弾の場に現れる。コアも3つ置き、相手のコアシュートに対する警戒も忘れない。


 


「合体スピリットをLv3にアップし、アタックステップ!」


 


【太陽龍ジーク・アポロドラゴン


コア1→5:Lv1→3:BP4000→9000+2000→11000】


 


「いけ、合体スピリット!デモ・ボーンに指定アタック!さらに砲竜バル・ガンナーの効果によってデッキからカードを1枚ドローし、BP4000以下の相手スピリット1体を破壊する!さらにジーク・アポロドラゴンのLv3合体アタック時効果によりBP9000以下の相手スピリット1体を破壊する!どちらの効果もナーガンを指定する!」


 


破壊効果はどちらもナーガンの持つ破壊耐性効果によって阻まれる。だが、攻撃されたデモ・ボーンはそのまま破壊され、呪撃もLv1では持たないが故にカイーナの効果も活かせない結果となってしまった。


 


「……ターンエンドだ」


 


手札に低コストのスピリットが居ないのか、弾はスピリット状態のブレイヴ1体を残してターンを相手へ渡すしかない。もしノイズに感情というものが存在していたとしたら今頃は口元に自分の優位性を示す笑みを浮かべている事だろう。


 


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。闇楯の守護者ナーガンをLv3に、ジャンゴヘビにコアを1つ追加』


 


【闇楯の守護者ナーガン


コア3→5:Lv2→3:BP3000→5000】


 


【ジャンゴヘビ


コア2→3】


 


「コアが3つ以上乗ったスピリットが3体……」


 


対して弾の場に存在するブロッカーは輝竜シャイン・ブレイザーのみ。残りライフが2つしかない弾は、このフルアタックで敗北を免れない状況に追い詰められていると言ってもいい。


 


『アタックステップ。ジャンゴヘビでアタック』


「このままじゃ……!」


 


ジャンゴヘビが弾のライフを奪う為に再びその身体を宙へと舞わせる。響達の頬を敗北を予感させる冷や汗が流れるが、弾は一切視線を逸らすことなく手札のカードに手を伸ばす。


 


「フラッシュタイミング、サザンクロスフレイムを使用。不足コストは合体スピリットより確保!」


 


【太陽龍ジーク・アポロドラゴン


コア5→1:Lv3→1:BP9000→4000+2000→6000】


 


「BP4000以下のスピリットすべてを破壊する!」


 


今、場に存在するBP4000以下の条件を満たすスピリットはジャンゴヘビ二体のみ。それらが十字を描いた巨大な炎の熱風によって燃やされていく。カイーナによるドローカードで手札をこのアタックで増やされたが、そこは気にする事はしない。


 


『闇楯の守護者ナーガンの効果により疲労状態で場に残る』


「このアタックはライフで受ける!」


『ターンエンド』


 


ライフ二つ。弾の命を繋ぎ止めていると言っても過言ではないその二つの輝きの内の一つが砕け散る。既に疲労済みのジャンゴヘビのアタックは防げないが、回復状態の方はサザンクロスフレイムで効果破壊される事によって疲労させられこのターンのアタックの権利を失う事となる。残ったナーガンは次のブロックの為にそのまま場に残しておくという事だろう。だが、次のターンは与えはしない。弾の手札には既に前のターンにバル・ガンナーの効果でドローした逆転の一手が存在しているのだから。


 


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。合体スピリットをLv2へアップ!」


 


【太陽龍ジーク・アポロドラゴン


コア1→2:Lv1→2:BP4000→6000+2000→8000】


 


メインステップに突入した瞬間、響には弾の纏う雰囲気が変わったかのようにも見えた。これから強大な波が来る。そう思わせる炎をその目に燃やしながら弾はそのカードを呼び出す。


 


「駆け上がれ!神の名を持つ赤き龍!太陽神龍ライジング・アポロドラゴン召喚!」


 


【太陽神龍ライジング・アポロドラゴン:赤・スピリット


コスト7(軽減:赤3):「系統:神星・星竜」


コア2:Lv1:BP6000


シンボル:赤】


 


黄金に輝く鎧と太陽のように燃える紅蓮の肉体を持つ、巨大な龍。かつて一人の男より受け取った、ジーク・アポロドラゴンに並ぶ赤きエーススピリット。それが頭上に真っ赤に燃える太陽の熱を地中より受け取り、地面を砕きながら現れ、空中で太陽の炎を解き放ちながら翼を広げる。


 


「た、太陽神龍……!?」


「ここでXレアを……!」


「輝竜シャイン・ブレイザーをライジング・アポロドラゴンに合体!Lv3へ!」


 


【太陽神龍ライジング・アポロドラゴン


コスト7+5→12


コア2→5:Lv1→3:BP6000→11000+5000→16000


シンボル:赤+赤】


 


シャイン・ブレイザーが新たな装甲となってライジング・アポロドラゴンの背中に合体する。そしてライジング・アポロドラゴンの背中に新たに六枚の黄色い光を宿す白と赤のカラーリングを持つ無機質な羽が出現する。


 


「太陽龍と太陽神龍……どちらもブレイヴによって真価を発揮するカードか……成程、流石ブレイヴ使いと自らを名乗るだけあるな」


 


二体の太陽の名を持つスピリット達が並ぶ姿は圧巻とも言えるだろう。そして、二体を並べた弾はこのバトルで最後のアタックステップにするべく運命の時へ突入する。


 


「アタックステップ!翔けろ、合体スピリット!太陽神龍ライジング・アポロドラゴンで闇楯の守護者ナーガンに指定アタック!」


 


太陽神龍が翼を広げ、ナーガンへと迫る。しかし、その前にナーガンは鎌を一振りすると紫の波動が放たれて血塗られた魔具の効果から逃れるために乗せられた、太陽龍の3コアの内の2つをリザーブへと送り込む。


 


「コアが減った……」


「闇楯の守護者ナーガン、Lv2・3ブロック時効果。相手のスピリット1体のコアを1個だけになるように相手のリザーブに置く」


 


【太陽龍ジーク・アポロドラゴン


コア3→1:Lv2→1:BP6000→4000+2000→6000】


 


「これじゃ、血塗られた魔具の効果を突破できない……!」


「……ふっ」


 


太陽龍のコアが減る。だが、弾にとってはそれもまた予定調和だった。太陽龍のコアが減らされようと、太陽神龍のコアが減らされようと。どちらでなかったとしても、これだけならば弾の勝利は揺るがないからだ。


 


「フラッシュタイミング、ゾディアックコンダクトを使用!このターンの間、スピリット1体をBP+3000する!俺が指定するのは……闇楯の守護者ナーガン!」


「相手のスピリットを!?」


 


【闇楯の守護者ナーガン


BP5000+3000→8000】


 


BP8000となったナーガン。しかし、太陽神龍に勝つ事は出来ず、構えた盾ごと太陽神龍の口から放たれた巨大な業火がその全身を焼き尽くす。


 


「何故、敢えて相手のスピリットのBPを上げるような真似を……!?」


「輝竜シャイン・ブレイザーの効果!このカードと合体したスピリットがBP8000以上の相手スピリットを破壊したとき、その数だけ相手のライフをリザーブに置く!ナーガンのBPは8000、よって条件は満たしている!喰らえ!」


 


太陽神龍の口から放たれたブレスはそのまま収まることなくノイズへと襲い掛かる。そして1つのライフを破壊し、更なる太陽神龍の力を繰り出す。


 


「さらにライジング・アポロドラゴン、Lv3合体アタック時効果により、BPを比べ相手のスピリットだけを破壊したとき、相手のスピリット/ブレイヴ/ネクサス、どれか1つを破壊する!俺が破壊するのは、血塗られた魔具だ!」


 


炎が降り注ぎ、全てを燃やし尽くす。血塗られた魔具が破壊された事により、アタックを封じるその枷が消え、太陽龍はコアが1つでもアタックが可能となる。


 


「す、凄い……」


「これで終わりだ!合体スピリットでアタック!砲竜バル・ガンナーの効果により1枚ドローし、BP4000以下のジャンゴヘビを破壊!」


『ライフで受ける』


 


太陽龍が駆ける。ブロッカーは全て疲労しダブルシンボルのアタックを防ぐ手立てはノイズには無い。そして太陽龍の背中の砲台が、ノイズを撃ち抜いた。

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