第3話 蒼の閃光

「ウェル博士とソロモンの杖の所在は不明……」


 


ノイズ達を倒し、大量の黒い炭素が周囲に漂い、積もる中、大量の炭素を吸い込む特性の掃除機や消化のためのホースを職員達が使って事後処理を行う姿を見ながら、あおいは基地の職員から被害状況について聞いていた。


 


「ノイズの衝撃の中で紛失……ですか」


 


その中で特に大きな衝撃となったのは、やはりウェルとソロモンの杖の紛失だろう。しかし、この後のことはこちらの方で処理してくれる筈。自ら最前線に立ち、ノイズを倒してみせた功労者である響とクリスにこれ以上何かをやらせるのも酷な話。というわけで、一通りの処理をあおいが行った後に三人は本部より用意してくれたヘリを使い、翼の待つライブ会場へと向かうのだった。


 


「……はい、そうですか。分かりました」


 


一方、ライブ会場の控室。そこで二課の指令である男、風鳴弦十朗からの報告を受けているのは、黒いスーツに身を包んだ短い髪の眼鏡をかけた男性、緒川慎次。彼もまた、日本が保有する表には出されない組織、特異災害対策機動部二課の職員の一人である。が、それは本業の話。表向きは有名なアーティスト、風鳴翼のマネージャーとして活動している。


 


「司令から一体何を?」


 


慎次が通信を切ったタイミングを見計らって、青い髪に青い目の少女、風鳴翼が質問する。今回、慎次が使用していたのは二課の面々と通信を取る時に使用する端末だったため、指令である弦十朗から何ならかの連絡が入ったと思ったのだろう。


 


「はい。どうやらノイズの襲撃があったようで……とはいえ、その数からみても響さん達がそれに対応している以上、翼さんが加勢に行く必要はないと」


「……そうですか」


 


少しだけ目を細めながら何かを考えるような素振りを見せる。どこか不満そうな表情をしているということだろうか。それは分からないが、翼は一度溜め息を吐くと、丁度いいタイミングで控室の扉がノックされた音を聞く。


 


「そろそろお時間です!お願いします!」


「はい!今行きます!」


 


響達が対応しているなら大丈夫だろう。この半年の間、自分達はルナ・アタックの前よりも強くなった。翼が加勢に行く必要がないと弦十朗が言っているのだから、自分が向かう必要もないだろう。彼女達がこのライブを見に来れないのは少々残念ではあるが、今回はそうだと割り切っておく。


 


「遂に始まるねぇ!」


 


そして、今か今かとライブが始まる時を待つ人々。既に熱気が高まってきているその会場の中、二つの空いた席がある。そこの近くには四人の少女が座っている姿があった。その中の一人、茶髪のツインテールが特徴的な少女、板場弓美は、ペンライトを手にワクワクした様子を見せている。


 


「……」


 


そんな中、黒髪の少女、小日向未来が心配そうに空いた席を見る。彼女達が持つチケットが指定する席の一つ。そこに座る筈であった親友の姿が、ライブ開始直前のこの時間になっても見えない事に不安を感じずにはいられないのだろう。


 


「ビッキー……これなさそう?」


 


その親友、響をビッキーと呼ぶのは、灰色の髪に紫色の瞳を持つこの四人の中で一番背の高い少女、安藤創世。彼女の言葉に少しだけ残念そうに頷きながら、未来は言葉を返す。


 


「うん……今終わったんだって。ライブの開始時間には間に合わないって」


「そうですか……でも、立花さんならこういうとき、いつもみたいに言ってそうですね。呪われてるかもって」


「……ふふ、そうかもね」


 


金髪に黄色い目の少女、寺島詩織の言葉に未来はくすっと笑う。響が来れないのは残念だが、彼女自身は何事も無く、無事だったのだ。それならば何も問題はないだろう。後で彼女がライブに間に合わなかったことについて話すのも一つの話の種になるかもしれない。そう考えると、これもまたそんなに悪くないことなのかもしれない。


 


「おお!出てきた出てきた!やっぱり生の迫力が違うよ!」


 


弓美の興奮した声に三人もステージを見る。そこには一つの黒を基調としたドレスに身を包んだ、桃色の長い髪の女性が現れ、観客達に笑顔で手を振る様子がある。マリア・カデンツァヴナ・イヴ。僅か数ヶ月で世界の歌姫と呼ばれる程にまで上り詰めた彼女のライブは全世界の注目の的であり、日本の代表的なアーティストである風鳴翼と共に行われるこのライブもまた、世界中の主要都市に中継が成されているほどの大規模なものとなっている。


 


「おお!」


 


空が暗くなり、照明が消えていく。それと共にマリアの姿が消え、彼女の背後にあった巨大なモニターに表示された、このライブイベントの名称であるQUEEN of MUSICの黄金の文字が消えていく。続けて表示されたのは、Maria×Tubasaの黄金の文字。それと共に、稼働する足場に乗って二人が会場に出現する。


 


「見せてもらうわよ!戦場に立つ貴女の姿を!」


 


マリアのその言葉と共に二人の姿がライトアップされる。あの一瞬で別の服装へと変わり、白と灰色を基調としたドレスに身を包んだマリアと、黒を基調とした小さなマントを左肩にかけた、へそ出しの青を基調とした衣装に身を包んだ翼が現れる。そして二人はその手に今回用意された装飾品であるマイクが取り付けられた剣を手に、今夜限りの特別ユニットによるライブを開始する。二人の歌によって高まる熱気。彼女達の紡ぎ出す一曲は、会場を最大限に盛り上げ、限界にまでその力を高めていく。


 


「ありがとう皆!」


 


曲の演出として宙を舞っていく、不死鳥の羽を模した赤い羽根の雨。曲が終わり、翼とマリアが観客達に手を振っていく。そして、人々の盛り上がりがほんの少しだけ落ちついたタイミングを無意識の内に感じ取り、一歩前に出て口を開く。


 


「私は、いつもたくさんの人達に勇気をもらっている。だから今日は、私の歌を聴いてもらっている人達に少しでも勇気を分けてあげられたらと思っている!」


 


翼の言葉に会場が一気に湧き立つ。そして、その言葉に続くかのようにマリアもまた、口を開く。


 


「私の歌を世界中に届けてあげる!振り返らない、全力疾走だ!ついてこれる奴だけついてこい!最高に高めた歌で最強のステージを手に入れてやる!」


 


それに油、いやガソリンを投下するかのように声を張り上げるマリア。その声に呼応するかのように観客達も更なる盛り上がりを見せ、先程の歌によって盛り上がったその限界をさらに超えていく。


 


「今日のライブに参加できたことを感謝している。そしてこの大舞台に、日本の有名なアーティスト、風鳴翼とユニットを組んで歌えたことを」


「私も、素晴らしいアーティストと出会えたことを光栄に思う」


 


手を差し出す翼。その手を握り、握手を交わす二人。その姿を目にした皆が例えようのない高揚感をその身に宿していき、さらに会場の熱気が高まっていく。この後に歌われるであろう二曲目。それが、その熱気をさらなる盛り上がりへと昇華させてくれると確信して。


 


「一緒に伝えていきましょう。歌には力があるということを」


「それは、世界を変えていける力だ」


 


歌は世界を変える。その言葉を、確かにその通りだと無言で頷いたマリアは、さらなる歌を歌うために翼に背を向けて少し距離を取る。


 


「……そしてもう一つ」


 


その後、彼女が紡いだ言葉はどこか冷たかった。翼の言っている言葉の正当性も、そして観客達が求めるものも、正しいことだ。その要求にマリアは全力で応えようとしている。ただし、その歌は彼等の期待に必ずしも応えるものでは決してない。マリアが腕を振るうと、その動きによってスカートがなびいていく。それと同時に観客達とステージの間。そのスペースに次々と光が降り注いでいき、そこからノイズが現れる。


 


「なっ……!?」


 


突然の時代に驚きを隠せない翼。しかし、彼女はまだこういう事態に慣れているからこそ、驚きながらもはっきりと思考を保つことができていた。しかし、一般人達は違う。突然現れたノイズに思考を放棄させられ、続けて津波のように襲いかかる恐怖に声があがる。一人が声を上げれば、後は恐怖の連鎖だ。人々へと伝染し、限界まで強化されたそれは、一気に弾け、会場を恐怖の叫び一色へ染め上げた。


 


「何……だと……?」


「どういうことなの……」


「ぎにゃあああああああああああああああああ!?」


「ハルトォオオオオオオオオオオオオオ!!!」


「ヤメローシニタクナーイ!!」


「どういうことだってばよ!?」


「何なのだ、これは!どうすればいいのだ?!」


「げえっノイズ」


「誰か説明してくれよぉ!」


「……狼狽えるな」


 


その状況を見ながら、マリアが小さく呟く。一番近くにいる翼でさえも聞き取れないほど小声で呟いたその言葉は、誰でもない、自分に向けたもの。もう取り返しのつかないスタート地点に立った自分を鼓舞し、前に突き進むためにマリアはその声を上げる。


 


「狼狽えるな!!」


 


まさに、絶対者の一喝。恐怖に支配された人々は、ノイズを呼び出した張本人であるマリアの言葉にその声を無理矢理止めさせられていた。今、自分たちの命を握っているのが彼女だと、そう本能で察しているから。


 


「あ、アニメじゃないのよ!?」


「何でまたこんなことに……!?」


「……響」


 


ノイズの出現に、未来達も驚いた表情を見せていた。しかし、既にそういった修羅場を経験済みであった彼女たちも、この中でしっかりと自我を保つことができていた例外と言うべきだろう。


 


「……了解です。装者二名と共に急行します。時間は、約四十分です」


 


一方、響とクリスもヘリを使い、ライブ会場へと急いでいた。ヘリに備え付けられたテレビ画面に映し出された、ノイズの出現したライブ会場。翼自体を心配する気持ちはないが、他の観客達がいるという条件が備わってくると都合が違ってくる。本部と連絡を取った後にあおいは、響とクリスに視線を送る。


 


「連戦になるけど、二人に事態の収拾をお願いするわね」


 


あおいの言葉に無言で頷く響とクリス。そして、テレビ画面に映る、待つことを命じられたかのように動かないノイズ達を見ながら二人は先程の二連戦を思い出していた。今にして思えばまるで計ったかのように現れたノイズ達。まだ詳細はわからないが、これがライブ会場に現れた、操られているかのような動きをしているノイズ達と無関係だとは考えにくいだろう。そして、そのライブ会場で、万が一の事態に備えて翼は自身のシンフォギアである天ノ羽々斬のペンダントを握る。その姿を捉えながら、マリアは不適な笑みを浮かべて口を開く。


 


「怖い娘ね」


 


マイクを使わず、翼にだけ話しかけた声。小さく呟かされたその声は、観客にも聞こえず、翼にしか聞こえていない。いや、その声が敢えて翼にだけ聞こえる声で語りかけたことに翼が気付くのは容易なことだった。


 


「この状況にあっても私に飛びかかる機会を狙っているなんてね。でもまだよ。今はまだ動くときではない。まさか、彼等がノイズからその身を守れると思って?」


「……」


 


悔しそうに唇を噛む翼。彼女の言うとおりだ。この状況で下手に動けば皆が犠牲になるのだから。完全に手詰まりであることを実感している翼に、余裕を持った声でマリアはさらに言葉を続ける。


 


「それに、ライブは世界中に中継されているのよ?日本政府はシンフォギアのことを明らかにはしているけど、装者までは明らかにしていない筈じゃなかったかしら?」


(……こいつ)


 


翼が装者だと知っている。この分だと、響やクリスのことも知っているだろう。


 


「甘く見ないでもらいたい。そうとでも言えば、私が躊躇うと思ったか」


「私好みの答えだ……貴女のように、誰もが誰かのために戦うことができていたら、世界はもう少しまともだったかもしれないわね」


「?貴様はいったい……」


 


彼女は何が目的なのか。翼の抱いたその疑問を解消するかのようにマリアは会場中を見渡す。そしてマイクの電源を再び入れて会場全体に声が響くようにする。


 


「私たちはノイズを操る術を手にして、この星の全ての国家に要求する!」


「!?世界を敵に回すというのか……!?」


「そして!」


 


マリアがその手にした剣を高く投げる。剣が宙を舞い、人々の視線がそれに釘付けとなる中、マリアが勢いよく音を立てるように床を蹴る。静かとなっていた会場内に響いた音は、再び皆の視線をマリアへと釘付けにし、そこでマリアは、歌った。彼等が望んでいたものとは違う、戦いのための歌を。


 


「!?」


 


そして、歌の中で翼ははっきりと聞いた。ガングニールという言葉を。


 


「まさか……!?」


 


オレンジと黒を基調としたインナースーツがマリアの身体を包み、響の装着していたもののカラーリングが白から黒へと変わった籠手、そしてグリーブを装着し、黒いマントが風になびく。そして落ちてきた剣を再び握ると、そのマイクで高らかに宣言した。


 


「私達はフィーネ!終わりの名を持つ者だ!!」


「黒い……ガングニール……だと……!?」


 


二課が所有する聖遺物、ガングニール。奏の死亡時に彼女が纏っていたギア諸共消滅し、現在は響の胸に埋め込まれたものを除いて既にガングニールは存在しないはず。しかし、それに対する答えに近いものを、二課の本部では一人の男性から聞いていた。


 


「そんなことが……」


 


白髪の男性、斯波田賢仁。外務省事務次官である彼から、今回の一件に関連していると思われる情報を二課は受け取っていた。少し前、米国の聖遺物研究機関でトラブルが起こり、聖遺物の一部が紛失、さらに研究データも損失したというのだ。桜井了子、いやフィーネは米国とも通じていた。もし、ツヴァイウイングのライブの時に別のガングニールの破片を回収、それをギアとしたものをマリアが所持しているとしたら。彼女たちの背景も自ずと見えてくる。


 


「急ぎ、対応に当たります」


「おう、頼むぜ」


 


賢仁との通信が切られ、二課は敵の背景を洗い出すために様々な方面での調査を開始する。そして会場では、翼は動くに動けないままでいた。その様子を見ながら、マリアは彼女が動けない理由を察した上で予想外の言葉を口にした。


 


「いいわ。そんなに力を振るいたいなら、見定めてあげる。そのための舞台を、私が作ってあげるわ」


「何……!?」


「オーディエンス諸君よ!お前達を解放しよう!」


「何!?人質とは手元に置いておくものではないのか!?」


 


マイクを使い、声を上げたマリアの言葉に驚くしかない翼。しかし、彼女の瞳を見て、翼は察した。彼女の中に熱く燃える魂があることを。


 


「こんなに大勢の人質がいたところで、動くのに邪魔だ!私の人質はたった一人で十分!」


 


もっともらしい大義名分をつけ、会場から人々を無理矢理追い出す。僅か数分で人々が消えていく中、マリアは一人の女性からの通信を受け取っていた。


 


「何故、自ら優位性を崩すようなことを?」


「……どのみち、奴らは最大の障害として立ち塞がる。その力を実際に見極めてみたい、そう思っただけよ。当然、この場であちらは使わないわ」


「……いいでしょう。ですが忘れないで、血に汚れることを恐れてはならないことを。念のため、切歌と調を向かわせています。作戦の誤差の範囲内で自由におやりなさい」


「了解マム、ありがとう」


 


一言礼を述べる。それを合図として通信が切れ、マリアは翼に笑いかける。これでもう邪魔者はない。私達のステージを邪魔するものはないと言わんばかりに。そして一歩、また一歩と翼の前に歩み寄る彼女を前に、翼は耳元にはめ込んだ小型のイヤホンから慎次の通信を聞き取る。そして、彼女もまた口元に笑みを浮かべながら言葉を紡いでいく。


 


「マリア。まだこのステージには足りないものがある」


「……何?」


「私達の戦いに、観客などいらない!」


「!?」


 


それを宣言した瞬間、会場の全電源が落ちる。それによって中継が遮断され、翼とマリアの姿を誰も捉える事が出来なくなった瞬間、翼の口から歌が紡がれる。その歌は、彼女の身体に蒼きシンフォギアを纏わせていき、一人の戦士の姿を作り出す。


 


「く……誰が中継を!?」


「さぁいくぞ、マリア!貴様のガングニールを見せてみるがいい!!」


「ふん、これで全力で戦えるというのなら、見せてみろ!」


 


ノイズの出現と共に舞台裏で動き出していた慎次。彼は翼が全力で戦うことを可能とするために中継を遮断させたのだ。そして二人の戦士は、戦いの舞台を次の舞台へ移す。己の両手の篭手を槍へと変形させたマリアと、刀を手にした翼が真正面からぶつかりあおうとした瞬間、二人はその叫びを上げた。


 


「「ゲートオープン!界放!!」」


 


 



 


 


エクストリームゾーンに入る翼とマリア。相手は世界の歌姫と評される存在。そのバトルスピリッツの腕前もお墨付きだ。加えて言うなら、アルティメットとアームドギアもある筈。そこを重点的に考えながら翼はターンを開始していく。


 


「スタートステップ!ドローステップ!メインステップ!ウバタマンを召喚!」


 


【ウバタマン:緑・スピリット


コスト2(軽減:緑1・青1):「系統:殻人」:【連鎖:条件青シンボル


コア1:Lv1:BP2000


シンボル:緑】


 


翼のフィールドに緑のシンボルが出現し、その中からウバタマムシをモチーフとした二足歩行をする昆虫型スピリットが現れる。赤い水晶を埋め込んだ杖を握るそのスピリットを最初に呼び出して様子見をする。


 


「ターンエンド」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!メインステップ!真紅の女神マッハを召喚!」


 


【真紅の女神マッハ:白・スピリット


コスト3(軽減:白1):「系統:氷姫」


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:白】


 


マリアのフィールドに出現した白のシンボルが砕かれ、その中から赤く燃える炎のたてがみを持つ一頭の白い馬が出現する。その馬に跨るのは、深紅のドレスとマントに身を包んだ氷の身体を持つ女性。無機質なその表情と白い氷の長髪をなびかせながら、小さな杖のようなものを握り、真紅の女神としてこの場に君臨する。


 


(やはり、氷姫デッキ……!)


「バーストをセット、そしてアタックステップ!真紅の女神マッハでアタック!」


「ライフで受ける!」


 


マッハが杖を振り抜くと、焔が出現する。出現した焔はウバタマンを素通りして翼へと襲い掛かり、翼を守るように出現した白い半透明のバリアを砕き、その衝撃を翼に与える。


 


「ターンエンド」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!ウバタマンの効果により、青のシンボルを追加!」


 


【ウバタマン


シンボル:緑+青】


 


ウバタマン、Lv1・2効果により、お互いのメインステップの間、このスピリットには青のシンボル1つが追加される。それによって発揮される効果もあるが、この場においてはそれは然程意味を成さないだろう。


 


「碧海の剣聖マーマリアンを召喚!」


 


【碧海の剣聖マーマリアン:青・スピリット


コスト3(軽減:青1・緑1):「系統:剣使・異合・創手」


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:青】


 


翼のフィールドに緑の長髪を揺らす青い鎧に身を包んだ人魚が現れる。その右手にはトライデントのように三つに刀身が分かれた剣が握られているのが確認できる。


 


「続けて、ハイドラ・アームズを召喚!」


 


【ハイドラ・アームズ:青・ブレイヴ


コスト5(軽減:青3):「系統:海首」


シンボル:なし】


 


さらに翼が呼び出したのは、白い三つの機械的な首が装着され、それらと身体を青白い炎のようなもので繋いでる奇妙な姿をした海竜。それがブレイヴである事に気付いたマリアは、これから翼が行おうとしていることもすぐに悟る。


 


「……!」


「ハイドラ・アームズを碧海の剣聖マーマリアンに直接合体!」


 


【碧海の剣聖マーマリアン


コスト3+5→8:【連鎖:条件緑シンボル


BP3000+4000→7000】


 


ハイドラ・アームズの三つの首が分離し、その身体が消滅する。そして三つの首はマーマリアンの右肩、左肩、そして胸の三ヶ所と重なり合い、竜の口を模した新たな肩当てと装甲をマーマリアンへと与えていき、ブレイヴと一つになったマーマリアンから青い光が解き放たれる。


 


「ハイドラ・アームズ、召喚時効果!相手のライフの数だけ相手のコスト3以下のスピリットを破壊する!真紅の女神マッハを破壊!」


 


ハイドラ・アームズと一つになったマーマリアンが振り抜いた剣から放たれた斬撃がマッハを両断する。疲労状態でのブロックを可能とする、序盤から攻めと防御を両立させてくれるスピリットを早々に対処されたことに、声には出さずともマリアは少しだけ眉を顰める。


 


「バーストをセット、そしてアタックステップ!合体スピリットでアタック!マーマリアン、合体時効果によりデッキから2枚ドロー、そして手札1枚を破棄する!」


 


マーマリアンの効果によって手札を増やし、そこから巨人大帝アレクサンダーを破棄する。さらに、ウバタマンが持つ緑のシンボルがマーマリアンの連鎖を発揮させることとなる。


 


「さらに連鎖発揮!ボイドからコア1個をこのスピリットに置く!」


 


【碧海の剣聖マーマリアン


コア1→2:Lv1→2:BP3000→5000+4000→9000】


 


「まだだ!ハイドラ・アームズ、合体時効果により自分の手札が3枚以下の間、このスピリットに青のシンボル1つを追加する!」


 


【碧海の剣聖マーマリアン


シンボル:青+青】


 


「ライフで受ける!」


 


マーマリアンが振り上げた刃がマリアを襲う。青い半透明のバリアを突き抜けて発生したダブルシンボル分のダメージをその身に受けながら、マリアは伏せられたバーストカードを起動させる。


 


「ライフ減少によりバースト発動!!」


「!」


 


マリアの伏せられた白のバーストカードがオープンされる。それと同時にフィールド全域に激しい吹雪が吹き荒れていく。


 


「氷の覇王よ、来たるがいい!!氷聖女ジャンヌダルク、Lv3でバースト召喚!」


 


【氷聖女ジャンヌダルク:白・スピリット


コスト7(軽減:白3):「軽減:覇皇・氷姫」:【氷壁:赤/紫/緑/白】


コア4:Lv3:BP8000


シンボル:白】


 


吹雪が突如として鳴り止む。そして消えていく吹雪の中から現れた、白銀の鎧にその身を包んだ氷の聖女。一振りの剣を携え、金色の馬に跨って現れたそのスピリットこそ、マリアのデッキのキースピリット。


 


「やはり来たか……!ターンエンドだ」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!誓約の女神ヴァールをLv2で召喚!不足コストはジャンヌより確保!」


 


【氷聖女ジャンヌダルク


コア4→3:Lv3→2:BP8000→7000】


 


【誓約の女神ヴァール:白・スピリット


コスト4(軽減:白2):「系統:氷姫」:【氷壁:赤/緑/黄】


コア2:Lv2:BP5000


シンボル:白】


 


マリアのフィールドに出現する、氷の紋章を象った様な杖を握る氷の身体の美女。黒い露出の大きなドレスを羽織る女性を呼び出したマリアは、この二体を携えて攻撃を開始する。


 


「アタックステップ!誓約の女神ヴァールでアタック!」


「ライフで受ける!」


 


ヴァールが杖を振るうと、氷の礫が出現し、それが翼へと叩きつけられる。ライフを奪われた翼。しかし、まだマリアの攻撃は終わる事はない。


 


「氷聖女ジャンヌダルクでアタック!」


「こちらもライフで受ける!」


 


ジャンヌダルクが剣を抜き、馬を走らせる。翼の眼前へと迫ったジャンヌダルクが振り上げた剣は、翼の身体を切り裂き、そのライフをさらに削り取る。


 


「ターンエンド」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!ウバタマンをLv2、合体スピリットをLv3にアップ!」


 


【ウバタマン


コア1→3:Lv1→2:BP2000→3000】


 


【碧海の剣聖マーマリアン


コア2→4:Lv2→3:BP5000→6000+4000→10000】


 


「アタックステップ!」


「誓約の女神ヴァール、Lv2・3効果により、相手のアタックステップ開始時、氷壁を持つ自分のスピリットすべてを回復させる!」


 


二体のスピリットが起き上がる。氷壁を持つスピリットが回復状態で存在する限り、翼は迂闊にマジックを使用できない。


 


「構うものか!合体スピリットでアタック!アタック時効果により、デッキから2枚ドローし、1枚を破棄!さらに連鎖でコアを追加!」


 


【碧海の剣聖マーマリアン


コア4→5】


 


海帝国の秘宝を破棄し、さらに手札を増やす。今の翼の手札は五枚。よって、ハイドラ・アームズの効果によるシンボル増加は行われる事はない。


 


「ライフで受ける!」


 


一つのシンボルしか持たなくなったマーマリアンの斬撃がマリアに命中する。そして着実に追い詰められながらもマリアは余裕を崩さない。


 


(ふふ、確かに良い腕……これじゃ、中々厳しいかもしれないわね。でも、せめて貴女の象徴であるアルティメットを出すまでは、頑張ってもらうわよ!)


「ターンエンド!」


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!獅魂の剣刃レオンエクスカリバーを召喚!」


 


【獅魂の剣刃レオンエクスカリバー:白・ブレイヴ


コスト4(軽減:白2):「系統:剣刃」


シンボル:白】


 


マリアが一振りの剣を呼び起こす。二頭の獅子の顔が鍔に施された、牙のように左右に二本ずつ伸びる特徴的な刃。柄の部分は金と黒の縞模様で成り立っており、刀身が光を反射し、輝きを見せている。


 


「白のブレイヴか!?」


「獅魂の剣刃レオンエクスカリバー、氷聖女ジャンヌダルクへと直接合体!」


 


【氷聖女ジャンヌダルク


コスト7+4→11


BP7000+4000→11000


シンボル:白+白】


 


ジャンヌダルクの手にレオンエクスカリバーが握られる。それによって新たな白のシンボルを得たジャンヌダルク。


 


「獅魂の剣刃レオンエクスカリバーの召喚時効果でコスト4以下の相手スピリット、ウバタマンを手札に戻す!」


 


レオンエクスカリバーから白い光が放たれ、ウバタマンの姿が消えていく。これだけでも十分な威力だが、その破壊力をさらに高めるため、マリアはジャンヌダルクのための塔を呼び出す。


 


「さらにネクサス、氷聖女の塔を配置!」


 


【氷聖女の塔:白・ネクサス


コスト4(軽減:白2)


コア0:Lv1


シンボル:白】


 


マリアの背後に巨大な塔が出現する。翼を生やした天使を象った彫刻が施された塔は、まさにジャンヌダルクのために作られた塔とも言えるだろう。


 


「このネクサスがある限り、系統:「覇皇」/「雄将」を持つ自分のスピリットすべてに氷壁:紫/黄/青が与えられる」


 


【氷聖女ジャンヌダルク


【氷壁:紫/黄/青】】


 


(ジャンヌダルクが欠いていた黄と青の氷壁を与えた……?)


「これが貴女を仕留める一枚となる。マジック、ムーンボウクロークを使用!氷壁を持つ合体スピリットを指定することで、このターン、合体スピリットが持つ氷壁と同じ色の相手スピリットからブロックされなくなる!」


「!?まさか!」


 


今、ジャンヌダルクは全色の氷壁を得ている。ブロックされなくなったダブルシンボルのアタックで翼を仕留めるつもりなのだ。


 


「アタックステップ!ゆけ、合体スピリット!ジャンヌダルク、Lv2・3合体時効果により、氷壁を持つ自分のスピリットのアタック時、そのスピリットが持つ氷壁と同じ色の相手スピリットを手札に戻す!合体スピリットを指定!」


「く……ハイドラ・アームズは分離!」


 


【ハイドラ・アームズ


コア1:Lv1:BP4000


シンボル:なし】


 


マーマリアンの姿が消え、分離した三つの首に再び胴体が復活し、スピリットの状態へと戻るブレイヴ。しかし、それでジャンヌダルクのアタックは止まらない。


 


「さぁ、消えるがいい!!」


「……いいや、まだだ!相手スピリットのアタックによりバースト発動!トライアングルバースト!手札のコスト4以下のスピリットをノーコストで召喚する!再び現れろ!マーマリアン!」


 


【碧海の剣聖マーマリアン


コスト3(軽減:青1・緑1)


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:青】


 


翼が起動したバーストによって手札から再度出現するマーマリアン。しかし、これだけでは防げない。だからこそ、翼は更なる効果を発揮させる。


 


「さらにフラッシュ効果発揮!誓約の女神ヴァールを疲労!」


 


トライアングルバーストが放つ光がヴァールを包みこみ、疲労させる。これで後続は封じた。後は目の前の敵だけだ。


 


「フラッシュタイミング!双光気弾を使用!ブレイヴ、獅魂の剣刃レオンエクスカリバーを破壊する!」


「っ、そう来たか……!」


 


炎がレオンエクスカリバーを燃やし尽くす。それによってBPとシンボルを失い、致命傷を与えきれなくなったジャンヌダルクは失った得物の代わりに腰に差していた己の剣を抜く。


 


【氷聖女ジャンヌダルク


BP7000


シンボル:白】


 


「このアタックは、ライフで受ける!!」


 


そしてジャンヌダルクのアタックが翼のライフを破壊する。が、これでこのターンは凌ぎきった。この一撃で仕留められなかったことを悔しく思いながらマリアはターンエンドを宣言することとなる。


 


「ターンエンドよ」


「ここで決めさせてもらう!スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!門番アルパーカーを召喚!」


 


【門番アルパーカー:青(緑)・スピリット


コスト1:「系統:獣頭・創手」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:青(緑)】


 


麦わら帽子と青のオーバーオールが印象的な白い毛並みのアルパカが出現する。これで準備は整ったと言わんばかりに目を閉じ、集中していく翼。その姿を見て、マリアも彼女の雰囲気が変わったことを察する。


 


(遂に出てくるみたいね……!)


「我が刃よ、防人の歌と共にその剣を顕現せよ!アルティメット・オライオン、召喚!」


 


【アルティメット・オライオン:青・アルティメット


コスト8(軽減:青3・極1):「系統:新生・闘神」


コア1:Lv1:BP15000


シンボル:極】


 


歌によって高められるフォニックゲイン。翼の歌と共に大地がひび割れていき、そこから巨大な土煙が大地が崩壊する音と共に出現していく。煙の中からゆっくりと現れる、金色の装甲を両腕や腰、胸などに纏った、金髪の巨人。その赤い目と青い皮膚に秘められた戦士としての覚悟と、その巨大な剣に刻まれた力を翳し、アルティメット・オライオンは降臨する。


 


「おぉ……これが……!」


「召喚時Uトリガー、ロックオン!!」


 


翼の手に出現した一本の短刀が、マリアのデッキを破壊する。そしてトラッシュへと置かれたカードは、クリスタルオーラ。コスト5のカードだ。


 


「ヒット!コスト合計12まで相手スピリットを好きなだけ破壊する!氷聖女ジャンヌダルクと誓約の女神ヴァールを破壊!」


 


コスト合計は11、よって破壊が可能となる。アルティメット・オライオンの手の剣から蒼の一閃が放たれ、二体のスピリットを同時に呑みこんで破壊する。


 


「くっ……!?これが……!」


「アタックステップ!マーマリアンでアタック!」


「ライフで受ける!」


 


マーマリアンの刃がマリアのライフを最後の一つへと減らす。そして、最後のライフを奪い取るため、その言葉を、アルティメット・オライオンへと命じた。


 


「アルティメット・オライオンでアタック!」


「ライフで受ける!」


 


アルティメット・オライオンがマリアの眼前に迫る。そして振り下ろされた刃は、マリアの最後のライフを砕き、エクストリームゾーンから吹き飛ばしたのだった。


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