第2話  目覚めるシンフォギア

「……君がノイズをバトルで倒したという話を聞いた。それは真実か?」


「……本当だ」


 


今、馬神弾は椅子に縛りつけられていた。その両腕は手錠にかけられており、腰のデッキケースは没収されている。ノイズを倒した彼は、その後にその街に現れた特殊災害対策機動部二課と呼ばれる組織が弾がノイズを倒したという話を聞き、彼に目隠しや手錠等を付けて本部へ強制連行してきたのだ。


 


「ライフを一つも削られずに勝つとは……」


「……生憎、コアは打たせて貯めるタイプでね」


「……?だとすると、ノイズの攻撃でライフを削られながらも勝利したというのか?」


「ああ」


 


その回答に青年に質問していた大柄の男性は絶句する。


 


(……数百年前。バトルフィールドの父と母と呼ばれる夫妻が作り上げたとされるバトルフィールドの技術。技術の進歩によって太古の時代に用いられていたとされるエクストリームゾーンが発見され、それをバトルフィールドとして固定化することで現代におけるエクストリームゾーンはノイズとの戦いの際の有効性を示している。が、それはあくまで有効性だけだ)


 


例えるなら、ノイズ相手にこちらは常にライフ1で挑んでいるような感覚。だが彼にはそのハンデが通用せず、最初から最後までバトルスピリッツを行なって勝ったということになる。何が原因なのか。そう考えるのと同時に、女性の声が放送を通してその部屋へと入ってくる。


 


「ねぇねぇ、そこの彼のデッキ、いえデッキケースなんだけど。凄いわよ……聖遺物級のドでかいエネルギーを秘めたカードがなんと十三枚!デッキに入っているいないに関わらずこれよ!これが、あの時の高密度エネルギーの正体よ!」


「何だと!?それは本当か!?」


 


聖遺物に匹敵するエネルギーを秘めた十三枚。十三枚、そして力を持つと言われれば弾の中にはあるカード達しか思い浮かばない。だが、それを何故聖遺物と言っているのか。それだけは理解できず、目の前の男性に質問する。


 


「聖遺物っていうのは何なんだ?」


「……世界各地の伝説などに登場する、超古代の異端技術等によって作られた技術の結晶品だ。いずれにも共通している事項として現代の技術では製造不可能という点がある」


「成程……それで。いつまで俺を縛るんだ?」


「……随分と静かだな。普通、こういう状況になれば理解できなかったり感情ばかりが優先してまともな話にならない事がほとんどだと思うんだが」


「……これでも、場数は踏んでいる方でね。ところであんた、名前は?」


 


不敵な笑みを浮かべながら男性に視線を返す。その視線の奥に秘めた闘志、そして現実に対し冷めた雰囲気を感じ取った男性が、弾が壮絶な過去を経験しているのだという事を察するのは容易なことだ。


 


「……おっと、そういえば名乗るのを忘れていた。俺は風鳴弦十郎。君の名前は?」


「馬神弾だ」


「……先程聞いたと思うが。君が持っているという聖遺物並の力を秘めた十三枚のカード。知っていれば教えてくれないか?」


「……」


 


弾は弦十郎の目を見る。その目は、他人を見定める目。確実に十三枚のカードについて知っている。その情報を自分達に話してもいいかどうかを確かめているのだ。故に、弦十郎も強い目で弾の目を見る。数秒、無言が貫かれた後、弾は僅かに口元に笑みを見せる。


 


「……あれは十二宮Xレア。太古の時代から伝わるという巨大な力を秘めたカードだ。ノイズとの戦いで俺のバトルフォームの破壊を防いでくれたのはその力によるものだ」


「成程……その話、信じてもいいな?」


「ああ。何が望みだ?」


 


不敵な笑みを浮かべ、質問する弾。弦十郎もまた、弾に微笑を返しながらも真剣な表情である頼みを口にするのだった。


 


「我々特殊災害対策機動部二課は、対ノイズを専門とした活動を行なっている。表には出せない技術などもあるが故に世間一般に二課の存在は知られていないが、故に国家来道に近い情報や力がある」


「対ノイズ……つまり、俺にノイズと戦えと?」


「……民間人にこのような事を頼むのはどうかとは思うだろう。だが、ノイズという脅威に我々は対処できない。対処できるのは、聖遺物の力を持ち、操れる者しか、戦う事は出来ない……他の者がバトルスピリッツで戦うには、あまりにもリスクが高すぎる」


「……そうか」


「無論、いきなりとはいわない。断られても何も文句は言えな……」


「分かった。是非戦わせてもらおう」


「……いいのか?」


 


負ければ死を迎える、敗者必滅のバトル。だが、敗北など考えはしない。どんな戦いでも最後まで見据えるのは勝利のみだ。それに、自分は戦うしかないのだ。この世界に来て、ノイズという未知の災害の事を知り、弾自身もメディアでやっている程度ではあるが調べた事がある。そして、彼がこの戦いに臨むのはバトルフィールドに戻りたいからではない。


 


「ノイズに襲われれば、人は苦しみ、逃げるしかない。目の前でノイズに襲われ、消えていく人を見た。その中で、助けてほしいと奇跡に縋る人達がいた。だから俺に戦わせてほしい……バトルスピリッツで戦う事。勝つ事が俺の仕事だ、役目を与えてほしい」


「……!」


 


見た目からして二十歳にもなっていない筈だ。それほどの青年が、一体どのような経験を積めばこのような、エクストリームゾーンでの戦いの魅力に中毒のレベルでのめり込む事となるのだろうか。


 


「……分かった。君を、我々二課は歓迎しよう。が、我々にとって君の実力は未知数だ。その為、まずは戦闘力を測る所から始めたい。いいかな?」


「勿論」


 


弦十郎が懐から小型の端末を取り出す。そのボタンを押すと、弾を拘束していた手錠が外れて落ち、弦十郎は弾の縄を外していく。


 


「それじゃあ、まずは君のデッキを取りに行こう。ついてくるといい」


「分かった」


 


弦十郎と共に弾は連れられたのは、研究室。そこでは、一人のメガネをかけた女性が興味深そうに十二宮Xレアについて調べている姿があり、部屋の開く音に振り返って弾の姿を見ると、目を輝かせて彼の手を掴む。


 


「貴方がこの聖遺物を持っていた人?これ凄いわね!どんなものなの?ねぇねぇ」


「……えっと、貴女は?」


「……あらやだ。私は出来る女だと評判の櫻井了子よ。よろしくね」


「馬神弾だ。よろしく頼む」


(……馬神弾……?)


 


自己紹介をする弾と了子。自己紹介も終わった所で弦十郎は奥で調べられている弾のデッキを見る。


 


「彼は今後、二課の戦力としてノイズと戦う事になった。一度、彼のデッキを見させてほしい。馬神君、いいか?」


「デッキはカードバトラーを表す鏡だからな。構わない」


 


弾に許可を取って弦十郎が弾のデッキを取る。そしてその中身を見ていくうちに、少しだけ驚きの表情を見せる。


 


「ヴェロキ・ハルパー二枚、ブレイドラ、戦竜エルギニアス、イグア・バギーいずれも三枚ずつ、太陽龍ジーク・アポロドラゴン、太陽神龍ライジング・アポロドラゴン、牙皇ケルベロード各一枚、砲竜バル・ガンナー二枚、突機竜アーケランサー、武槍鳥スピニード・ハヤト二枚、輝竜シャイン・ブレイザー、トレス・ベルーガ、光り輝く大銀河共、デルタバリア、バーニングサンがいずれも二枚ずつ、ブレイヴドローが三枚、サジッタフレイム二枚、ヴィクトリーファイア、ネクサスコラプスが一枚ずつか……Xレアやブレイヴなどは兎も角……随分古いカードが多いんだな?それに枚数も……四十枚じゃないぞ?」


「あ、数枚聖遺物級のエネルギーを秘めたカードを除いてるから少ないだけよ?実際はこの五枚も入ってたわ」


 


金牛龍神ドラゴニック・タウラス、光龍騎神サジット・アポロドラゴン、天蠍神騎スコル・スピア、獅機龍神ストライクヴルム・レオ、魔導双神ジェミナイズ。五枚のカードを彼女から受け取り、それを加えた四十枚を見て改めてデッキ内容を見てみる。


 


「……ふむ、バーストが無いのは気になるが……いいデッキだ。よく練られている」


「バースト?」


「……?知らないのか、バーストを?」


「ああ」


 


弾にとっては当たり前のことではあるが、弦十郎や了子は弾がバーストを知らないという事実を知って驚きの色を顔に見せる。しかしすぐに了子は険しい表情を見せると、弾にある事を進言する。


 


「貴方、ちょっとカードプール知らなさすぎない?やっぱり時代は、バーストカードも入れないとね」


「!」


 


指を鳴らす。するとタッチパネルが弾の前に現れ、バースト効果を持ったカードを始めとした様々なカード、今まで弾が知らないようなカードも含めて表示されていく。


 


「……す、凄い!こんなにいろんなカードが……!」


「ふふ、ノイズと戦うっていうのなら、ちゃんとデッキは吟味しないとね?ちゃんとこの十三枚のカードも返すわ。やっぱり使い慣れている人が使う方がいいでしょう?」


「十二宮Xレア……ああ、助かる」


 


デッキと十二宮Xレアを受け取り、手頃な椅子を借りてタッチパネルと睨みっこをする。そしてカードのテキストを読みこみ、デッキに入れるカードを吟味していく。


 


「……ああ、実はノイズと戦うにあたって紹介したい人がいるんだが……?」


 


しかし、既に弾の意識はカードに向けられたまま。周りの事など知った事ではないという雰囲気だ。それを見て、弦十郎は思わず苦笑する。


 


「はは、もう周りが見えていないな?」


「ええ、凄い集中力。確かに、戦力になるかもね?」


 


その姿を微笑ましくも、だが同時に彼を戦いに送りだす自分達の事を思い、少しだけ複雑そうな表情を見せるのだった。


 


 



 


 


「はぁ、はぁ……!!」


 


時間にして、弾がデッキ構築を始めてから数時間が経過。時間は夜に差し掛かってきており、綺麗な星空が見えている。しかし、その景色を少女達が楽しむ余裕など存在していなかった。


 


「なんで、なんで……!」


 


彼女達二人は、追われていた。背後には大量のノイズ達が迫ってきている。バトルスピリッツならば倒せるのかもしれない。しかし、少なくとも自分のデッキでダメージを受けずに倒すことなど不可能だ。


 


「お姉ちゃん……!」


「大丈夫!何とかなる!」


 


彼女が背負っているのは、自分よりも小さい女の子。始まりは何だったのだろうか。人気のアーティスト、風鳴翼のCDを買いに学校終わりにCDの売っているコンビニに向かった。そこまではいい、日常のワンシーンだ。だがそこからが非日常の、災害への入り口だった。


 


(ああもう、早く消えてよノイズ!)


 


しかし、そこに来た彼女が見たのは、炭化した人間達。そして出現したノイズ達から逃走を開始した彼女が見つけたのは、ノイズに襲われ、殺されそうになっていた小さな女の子。彼女を助ける為に一緒に逃げ始めた薄い栗色がかった黄色の髪に黄色い目をした黒い制服を着た少女はただがむしゃらに真っ直ぐに逃げていた。


 


「……こ、ここまで逃げたら……!」


 


息を切らしながら、外梯子を上ってビルの屋上にまで移動し、流石に体力の限界が来たのかそこで少女は仰向けに寝転がる。


 


「お姉ちゃん、名前なんて言うのー?」


「私は立花響って言うんだ。君は?」


「私?私はねー」


 


だが。響が彼女の名前を聞こうとして視線を上げた瞬間。その目の前に広がっていたノイズの大群を見て、その表情が固まった。


 


「嘘……」


 


もう逃げられない。頭では分かっている。だが、それでも心は。魂は諦める事をよしとはしなかった。


 


「お姉ちゃん、もう駄目なの?」


「……!生きるのを諦めないで!!」


 


ノイズ達の攻撃が迫る。しかし、それでも響はノイズ達を見据える。このまま死んでしまうのか。いや、最後まで諦めない、まだ何か手があるはずだ。生きる為に、必死に自分の中の全てを引き出していく。そして最後に出てきたのは、一つの歌だった。


 


(……あれ?何で歌が?でも……)


 


歌。その中の歌詞、ガングニール。それを口にした次の瞬間。彼女の全身に巨大な力が漲った。その力は、彼女の全身を染めていく。気付けば彼女の両耳にはヘッドフォンが取り付けられており、その両腕と両足にはプロテクターのようなものが取り付けられている。全身にも肌と密着するタイプのスーツが取り付けられており、腰のあたりには小型のスラスターが見える。


 


「……な、なにこれー!?」


「わー!お姉ちゃん!前、前!!」


 


しかし、自分の現状に驚いている様子を敵は待ってなどくれない。襲い掛かるノイズ。それを前に響は反射的に拳を突き出した。


 


「し、しまった……あれ!?」


 


突き出した拳を見て、響は逆に面食らう事となる。ノイズに触れれば炭化する。それは、彼女もよく分かっている。しかし、彼女の手は炭化することなく、ノイズをそのまま吹き飛ばしたのだ。


 


「さ、触れた……炭化してない……じゃ、じゃあこれなら、戦える……?ノイズを相手に、この子を守れる……?」


 


響は近くにいる女の子を見る。今まで、逃げるしかなかった。でも今は違う。今なら、ノイズに触って炭化しなかったということは、逆にノイズの攻撃を受けても炭化しない筈。そう本能的に理解した響は、腰のデッキケースを取り出す。


 


「ノイズはバトスピで倒せれば勝てる!そう言われてる!やるしかない!!」


 


デッキを取り出した響。彼女の行動に反応したノイズの大群は一つになり、人型を作り出す。そしてその手にデッキを作り出し、ゲートを開く。


 


「ゲートオープン!界放!!」


 


瞬間、響の視界が反転する。ゲートが開かれ、別の空間、エクストリームゾーンへと誘われる。


 


「わ、わわ……バトルフィールドと全然違う……バトルフィールドは何ていうかコロシアムみたいな感じがしてたけど、エクストリームゾーンは本当に殺風景……って、そんな事してる場合じゃない!もうこうなったら引き下がれないぞ……!頑張れ、立花響!」


 


両手で自分の頬を叩いて喝を入れると、目の前のプレイボードに置かれた自分のデッキに手を伸ばそうとする。その瞬間、彼女の右手が光り輝き、そこから一枚の金色のカードが出現する。


 


「え!?何これ!?」


 


しかしそのカードを確認する前にデッキの中に入り、シャッフルされていく。これをそのまま捉えるなら、今のデッキは四十一枚ということになる。


 


「頑張れ!お姉ちゃん!」


 


エクストリームゾーンの端の方には泡が浮いており、その中に先程響が救おうとしていた少女が入っている。彼女もこのエクストリームゾーンにいる間は一先ず安全だと見ていい。


 


「先手必勝!私からだ!スタートステップ!ドローステップ!メインステップ!」


 


デッキからカードをドローして手札に加え、手札を見ていく。そして、一先ず繰り出せるスピリットを呼び出す。


 


「ダークディノハウンドを召喚!」


 


【ダークディノハウンド:赤・スピリット


コスト3(軽減:赤1):「系統:地竜」:【覚醒】


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:赤】


 


響のフィールドに現れる、鋭い爪と黒を基調とした身体を持つ犬のスピリット。彼女の操る赤デッキで彼女が選び抜いた1枚が召喚される。


 


「ターンエンド!」


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、メインステップ。メイエリアを召喚』


 


【メイエリア:白・スピリット


コスト1(軽減:白1):「系統:巨獣」


コア1:Lv1:BP2000


シンボル:白】


 


腹に巨大な白の宝石を埋め込んだ四足歩行をする獣が現れる。その口から生えるのはクリスタルの牙となっている。


 


『さらにネクサス、獣の氷窟を配置』


 


【獣の氷窟:白・ネクサス


コスト4(軽減:白2)


コア0:Lv1


シンボル:白】


 


ノイズの背後に氷柱が生えた巨大な洞窟が現れる。ネクサスとはフィールドに置かれるカードであり、スピリットやブレイヴとは異なり、特殊な条件下でなければアタックやブロックはできない。だがその真価は存在するだけでバトルに影響を与えるという所にある。


 


「むむ、ネクサス……」


『ターンエンド』


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!サーベカウラスを召喚!」


 


【サーベカウラス:赤・スピリット


コスト4(軽減:赤2):「系統:地竜」:【覚醒】


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:赤】


 


三角形の頭をした緑色の皮膚を持つ爬虫類のような四足歩行の恐竜が現れる。


 


「アタックステップ!いけ、サーべカウラスでアタック!」


『ライフで受ける』


 


サーべカウラスが地面から跳び上がり、手首から生えている刃をノイズへ叩き付ける。だが、ライフは1つも減っていない。


 


「……あれ?」


『獣の氷窟、Lv1・2効果。お互いのBP4000以下のスピリットのアタックではライフを減らせない』


「……そ、そんな効果あったんだ……」


 


失態を誤魔化すように指で頬を掻きながらノイズから視線を外す。しかし、今はバトルだ、この程度の失敗でくよくよしてなどいられない。


 


「ま、まぁ次は何とかなる!ターンエンド!」


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。メイエリアをLv3に、獣の氷窟をLv2にアップ』


 


【メイエリア


コア1→3:Lv1→3:BP2000→4000】


 


【獣の氷窟


コア0→1:Lv1→2】


 


『バーストをセット』


 


瞬間、エクストリームゾーンに裏向きで巨大なカードが出現する。


 


「ここでバーストを……?」


 


バースト。1ターンに1度、バースト効果を持つカードを自分の場に裏側で出すことができ、発動条件を満たせばノーコストでバースト効果を発動できるカード。それを場に出したノイズはメイエリアのBPではライフを削れないことから、ターンを終える。


 


『ターンエンド』


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ!リフレッシュステップ!メインステップ!アンキラーザウルスをLv3で召喚!」


 


【アンキラーザウルス:赤・スピリット


コスト2(軽減:赤1):「系統:地竜」


コア3:Lv3:BP4000


シンボル:赤】


 


地面を砕いてドリルの尻尾を持つ赤い恐竜が出現する。更なる赤スピリット、アンキラーザウルスを呼び出しながら、どうすればノイズのライフを削れるかを考えていく。


 


(アンキラーザウルスのBPは4000。でもアタックステップの間、自分のフィールドに覚醒か激突を持つスピリットがいればBPが+1000され5000になる。これなら、ネクサスの邪魔も受けずに済むし、攻撃後は覚醒の力でダークディノハウンドのLvを上げれば一気にライフを2つ削れる!)


 


覚醒。それはフラッシュタイミングで使用できる、自分の他のスピリットの上のコアを自身の上に移動させることのできる能力。単体では相手を牽制するといった使い道しかないが、その利点は赤デッキに不足しがちなコアを少量で多くのスピリットが使い回せるという部分にある。


 


「アタックステップ!アンキラーザウルスの効果!お互いのアタックステップの間、私のフィールドに覚醒を持つスピリットがいることでBP+1000!」


 


【アンキラーザウルス


BP4000+1000→5000】


 


「アンキラーザウルスでアタック!」


『ライフで受ける』


 


獣の氷窟の効果を突破し、アンキラーザウルスの回転するドリルの尻尾がノイズに叩きつけられ、ライフのコアが一つ砕かれる音が響く。


 


「よっしゃ!まずは1つ……あれ?」


 


だがその音は伏せられた力を発動させるための引き金となる。突如として裏側のバーストカードが表向きに裏返され、吹雪が荒れ狂う。それは、アンキラーザウルスとダークディノハウンドを呑み込んでいく。


 


「!?」


『ライフ減少によりバースト、アルティメットウォールを発動。このバトル終了後、アタックステップを終了。さらにコストを支払い、フラッシュ効果を発揮。コスト3以下の相手スピリット3体を手札に戻す。ダークディノハウンドとアンキラーザウルスを指定』


「うぇええ!?」


 


吹雪に呑まれたアンキラーザウルスとダークディノハウンドが響の手札へと戻っていく。今、フィールドに残っているのはサーべカウラスのみ。しかもアタックステップはバースト効果で終了させられている。もう打つ手がない。


 


「た、ターンエンド……」


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ネクサス、巨獣の森をLv2で配置』


 


【巨獣の森:白・ネクサス


コスト4(軽減:白2)


コア1:Lv2


シンボル:白】


 


獣の氷窟を覆うように巨大な森が広がっていく。洞窟と森。二つのネクサスが作り出す独特の風景が、相手である響に不安感を与える。


 


「に、二枚目のネクサスまで……」


『鎧装獣アウドムラをLv1で召喚。不足コストはメイエリアより確保』


 


【メイエリア


コア3→1:Lv3→1:BP4000→2000】


 


【鎧装獣アウドムラ:白・スピリット


コスト3(軽減:白3):「系統:巨獣・甲獣」


コア2:Lv1:BP4000


シンボル:白】


 


続いて、鎧で全身を覆った、翼のように巨大な鉄の皮膚が生えた牛が出現する。そのLv1の維持コストは2と少々大きいが、そのコストとBPの高さを見ればある意味納得だろう。


 


『ターンエンド』


「スタートステップ!コアステップ!ドローステップ……!リフレッシュステップ!メインステップ!」


 


ドローステップで引いたスピリットを見て、このカードが来てくれた事を心強く思う。だが今はそれよりもやらなければいけない事がある。


 


「アンキラーザウルスをもう一度Lv3で召喚!」


 


【アンキラーザウルス


コスト2(軽減:赤1)


コア3:Lv3:BP4000


シンボル:赤】


 


「さらにマジック、双翼乱舞を使用!デッキからカードを2枚ドロー!」


 


ここはスピリットを並べず、手札増強に努める事にする。だが、その選択肢が甘かった。獣の氷窟が光り輝く。


 


『獣の氷窟、Lv2効果。相手のスピリット/マジックの効果で相手の手札が増えたとき、増えたカード1枚につき、自分はデッキから1枚ドローできる』


「ノーコストドローって……むむむ、アタックステップ!」


『巨獣の森、Lv2効果。相手のアタックステップ時、ステップ開始時に相手のスピリット1体を指定できる。そのスピリットは、可能ならば最初に必ずアタックする。サーべカウラスを指定』


「……あ、サーべカウラス!?」


 


巨獣の森から放たれる冷気。それがサーべカウラスを刺激し、響の命令を待たずにアタックを開始する。


 


『鎧装獣アウドムラでブロック。この瞬間、鎧装獣アウドムラのブロック時効果によりボイドからコア1個をこのスピリットに置く。よってLv2にアップ』


 


【鎧装獣アウドムラ


コア2→3:Lv1→2:BP4000→6000】


 


「BP6000!?」


『さらに巨獣の森、Lv1・2の相手のアタックステップ時効果。系統:巨獣、または機獣を持つ自分のスピリットがブロックしたとき、ボイドからコア1個をそのスピリットに置く。系統:巨獣を持つ鎧装獣アウドムラに1コアを置く』


 


【鎧装獣アウドムラ


コア3→4】


 


アウドムラが力任せに走り込んでくるサーべカウラスを角でかちあげる。吹き飛ばされ、光と共に消えていくスピリット。しかし、サーべカウラスが消えた事でアンキラーザウルスも自分のフィールドから覚醒を持つスピリットが消えた事になり、BPが下がる事となる。


 


【アンキラーザウルス


BP4000】


 


「……ターンエンド」


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ノーザンベアードを召喚』


 


【ノーザンベアード:白・スピリット


コスト3(軽減:白2):「系統:巨獣・星魂」


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:白】


 


白い毛並みを持つ、腹に鎧を付けた白熊が現れる。このスピリットもまた。アウドムラ同様のステータスを持っており、頼れる防御スピリットとしても機能する。


 


『セイバーシャークを召喚。不足コストは鎧装獣アウドムラより2コア、メイエリアより1コア確保』


 


【メイエリア


コア1→0】


 


【鎧装獣アウドムラ


コア4→2:Lv2→1:BP6000→4000】


 


【セイバーシャーク:白・ブレイヴ


コスト5(軽減:白2・赤2):「系統:空魚・星魂」


コア1:Lv1:BP3000


シンボル:なし】


 


メイエリアの上のコアが全て取り除かれ、消滅する。そして青いサメをモチーフとした航空機が出現する。このブレイヴが持つ二つの効果、その内この場で機能する最も危険な効果として適切なのは、召喚時効果の方にある。


 


『セイバーシャーク召喚時効果。このターンの間、自分のスピリットが持つこのスピリットのブロック時効果全てはこのスピリットのアタック時に発揮される』


「ま、守りが攻撃に!?」


『アタックステップ。鎧装獣アウドムラでアタック。セイバーシャークの効果によりアタック時効果となったブロック時効果によりボイドからコア1個をこのスピリットに置く。よってLv2へアップ』


 


【鎧装獣アウドムラ


コア2→3:Lv1→2:BP4000→6000】


 


(ど、どうしよう……こ、攻撃を受けると、これは実は通用しなくてノイズに炭化されて殺されちゃうかもしれない……で、でもここでアンキラーザウルスを破壊する訳には……どうすれば……)


 


迫るアウドムラ。必死に頭で考える。だが、答えは出てこない。だが、次第に思考は一周して逆に冷静になっていく。


 


「い、いや……ノイズに触れたからバトルでも大丈夫だと思ってここに来たんだ!こうなったら、もうどうにでもなれ!!ライフで受ける!」


 


響のライフがアウドムラの突進によって撃たれる。彼女の前方に出現した白い球体上のバリアがその攻撃を受け止め、衝撃のみが彼女のアーマーに与えられ、痛みが全身に奔り、後ろへ吹き飛ばされる。


 


「っ……たた……!バトルフィールドより痛い……でも」


 


全身を見る。炭化していない。ノイズの最も強力な効果を受け付けていない。この装甲:ノイズを持つ不思議なアーマーならまともに戦える。自分の戦いが出来る。その確証を得て立ち上がる。


 


「おかげで、もう何も怖くない!!」


『ノーザンベアードでアタック。こちらもブロック時効果発揮。ボイドのコア1個をこのスピリットに置く。Lv2へアップ』


 


【ノーザンベアード


コア1→2:Lv1→2:BP3000→5000】


 


「ライフで受ける!」


 


ノーザンベアードが飛びかかる。それもアウドムラ同様にバリアで防ぎ、衝撃と痛みだけを感じ取った響は大きく身体を仰け反らせながらも、腰のスラスターを使用してどうにか踏み止まる。


 


『ターンエンド』


「こっからが本当の勝負!!私の戦いを見せてやる!!」


 


もうその目に迷いはない。少女を救うために、ノイズを倒す為に。響はターンを宣言する。


 


「スタートステップ!!」

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