バトルスピリッツシンフォギア

@fdsfds

第1話 ブレイヴ使い、出現

「逃げろぉおお!ノイズだ、ノイズが来るぞぉおおお!!」


「きゃああああああ!!」


 


人々が逃げ惑う。明確な恐怖が現れているが故に、それかに怯え、逃げる。彼等が怯えている存在、それは生物の形をした、生気を感じさせない極彩色をした奇妙な存在。だが、人間に彼らを倒すことはできない。何故か?その理由はいとも簡単なもの。実力が足りないのだ。


 


「お母さん!お母さん!!」


 


子供の悲鳴が上がる。その子供の目の前では、ノイズに触れた母親が黒く炭化していき、ノイズと共に散っていく。


 


「くそぉ、こうなったらやってやる!やってやらああ!!」


「待て、早まるな!!ノイズは強力だ!俺達が束になってかかったって、勝てはしない!」


「だからって、逃げ続けても鬼ごっこのように一人ずつ捕まえられて殺されるだけだろうが!俺はそんなものは嫌だ!どうせやられるくらいなら、こいつで一矢報いてやる!!」


 


男性達に咎められながらも、一人の男性が勇気を振り絞って腰のポーチから裏面の黒いカードの束を取り出し、ノイズに突き付ける。


 


「……」


 


それを見たノイズの大群が一つに集まっていく。集合体となったノイズは、人のように五本の指を両手に生やし、光を放ちながらこちらも同じように黒い紙の束を作り出す。


 


「皆、もう少しの辛抱だからな!ノイズは俺が倒してみせる!!いくぞ!!ゲートオープン!界放!!」


 


男性と目の前のノイズが消える。そして数分後、その男性は炭となってその場に再び現れる事となる。


 


「む、無理も無い……!ダメージを受けただけで炭化してしまうのだ……!!ノイズに勝つには、相手からの攻撃で一つもライフを削られずに勝利するしかないというのに……!!」


 


目の前の男性が決して弱いわけではない。寧ろ、ノイズが偶然現れ、偶然襲撃したこの街に住む者たちの中では、最も強いと言っても過言ではない。しかし、ノイズを相手にすれば、人間は勝てない。物理的な手段でも、先程男性が用いた手段、バトルスピリッツでも。


 


「……わしらの命運も、ここまでかの」


 


諦めたように、一人の老人が声を漏らす。彼等は街角の行き止まりに追い詰められており、そこにいる十数人を除けば全ての人間が恐らくノイズの手によって殺されてしまっている事だろう。


 


ノイズ。太古の時代より観測はされていた、未知の存在。現代に入ってから未知の災害と認識されたそれは、生物の形をしており、突然現れる。そして人間達を襲う。そんなノイズを倒すことは、人間ではほぼ不可能に近い。


 


ノイズには攻撃が通用しない。それは、ノイズの身体が通常は人間の存在する空間にはいないから。攻撃の瞬間だけ人間たちのいる空間にシフトするのだ。故に、ノイズから一方的に攻撃することは可能でも、人間側から一方的に、という選択肢は存在しない。バトルスピリッツと呼ばれる例外を除いては。


 


「……あ、諦めるもんか……!俺だって、カードバトラーだ……!一発貰えば負けだって分かったって、最後まで戦ってやらぁ……!!」


 


一人の男が震える手で黒いカードの束を手に取る。顔は既に恐怖で歪んでおり、見るからにノイズに怯えているのは明確だ。しかし、そんな彼が行おうとしているバトルスピリッツこそ、人間とノイズが同じ空間で戦う事の出来る究極の力。


 


バトルスピリッツ。四十枚以上のカードを束ねたデッキと呼ばれるものを使用し、コアとカードのコンビネーションで戦闘を行なうカードゲーム。それは人々にとっては娯楽から始まり、このように人々の命運を賭けた死闘にまで発展する。だが、ここでもノイズはその優位性を発揮していた。


 


それは、ノイズが持つ炭素転換の力。ノイズに触れた人間は、その身体を炭化させ、死に至るのだ。この性質により、バトル外でノイズを倒すことはほぼ不可能となっている。そしてそれは、バトルスピリッツでも。ノイズが呼び出すスピリット達の攻撃は、ノイズが持つ炭素転換の性質を引き継いでおり、その攻撃を受けた者はたった一つライフを削られただけで炭化し、バトルは強制的に終了してしまうのだ。故に、ノイズの優位性は揺るがない。


 


「ぐああああああ!!」


 


バトルを挑んだ男もあえなくライフを削られ、炭化しながらバトルフィールドの外へ叩き出される。次々と消えていき、一人、また一人と減っていく人達。しかしノイズに感情はない。ただ、人間を襲うだけなのだ。そして目の前で戦意を完全に喪失した者達にその手を伸ばそうとした瞬間。


 


「待て」


 


一人の青年の声が空間に響く。確かな威圧感を秘めたその声にノイズは振り向き、追い込まれていた者達もその人物の正体を確かめようとその青年を見る。炎のように真っ赤な髪と目。赤いジャケット、緑色の長ズボンと茶色のブーツ。そしてどこか冷めたような目。その青年は、ノイズを見て、ただ一言、こう呟いた。


 


「バトル、しようぜ」


 


腰のデッキケースからデッキを取り出し、ノイズに見せる。それを認識したノイズは先程のようにデッキをその手に作り出すと、その意思を示してみせた。


 


「ゲートオープン、界放!」


 


瞬間。青年の身体が赤く燃え上がる。その上半身に金色を基調としたアーマーが出現し、5つの光がアーマーに灯る。そして青年はこの世界とは別の隔離された空間、バトルフィールドへと誘われる。


 


「世界が違っても、時代が変わっても、やることは何も変わらない……俺はただ、勝つだけだ。先行はやる。かかってこい」


 


静かな闘志をその目に灯し、青年はノイズに告げる。その言葉を理解したのだろう、ノイズはその手に目の前のプレイボードに置かれたデッキから浮かび上がった四枚のカードを初期手札とする。そしてノイズは雑音の混じった震える機械音声でステップ宣言をする。


 


『スタートステップ、ドローステップ、メインステップ』


 


スタートステップにてターン開始の宣言を行なう。その後、先行第一ターンであるが故にコアステップはスキップされ、ドローステップでデッキからカードを一枚ドローする。その後、リフレッシュステップが行われるが先行第一ターンでは何もすることはない為実質スキップされるのと同意義である。そしてメインステップ。


 


『ビートビートルを召喚』


 


【ビートビートル:緑・スピリット


コスト0:「系統:殻虫」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:緑】


 


赤い紋様が強固な殻に刻まれたカブトムシが出現する。バトル開始時にリザーブと呼ばれる場所に置かれた4つのコア。カードを使用するにはコアが必要となる。


 


「緑のスピリット……」


 


カードを使用する際にはコストと呼ばれる数字だけリザーブ、もしくはフィールドのコアを同じ数だけトラッシュと呼ばれる場所に置かれる。さらにスピリットは自身を維持する為に最低でもコアを1つ以上置く必要があるのだ。


 


『メイパロットを召喚』


 


【メイパロット:緑・スピリット


コスト3(軽減:緑1):「系統:歌鳥」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:緑】


 


赤い葉っぱを登坂に持つ白い毛並みの鳥がビートビートルに続けて召喚される。カードには軽減シンボルが存在しており、カードを使用する際にそのカードに記された軽減シンボルと同じ色のシンボルが場に存在していれば、その数だけ使用の際のコストを軽減できる。現在、場に存在するシンボルはビートビートルが持つ緑のシンボル一つ。そしてメイパロットが持つ軽減シンボルは緑一つ。よって軽減が適用され、支払うコストが3から2へ軽減することとなるのだ。


 


『メイパロットの召喚時効果。ボイドからコア1個を自分のスピリット1体の上に置く。メイパロットに1コア追加』


 


【メイパロット


コア1→2:Lv1→2:BP1000→3000】


 


『ターンエンド』


 


メインステップの後、アタックステップとエンドステップが入る。しかし、アタックステップは先行第一ターンではスキップされ、そのままエンドステップに入り、ターンが終了する事となる。


 


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、メインステップ」


 


コアステップではボイドと呼ばれる無尽蔵にコアが存在する所からコアを1つリザーブへ移動させる事となる。リフレッシュステップでは本来、疲労状態の自分のスピリットの回復とトラッシュに置いてあるコアを全てリザーブへ移動させるという行動が行われるが、後攻第一ターンでは同じくやる事はない。


 


「ヴェロキ・ハルパーをLv3で召喚」


 


【ヴェロキ・ハルパー:赤・スピリット


コスト1:「系統:地竜・機竜」


コア4:Lv3:BP4000


シンボル:赤】


 


青年の場に赤いシンボルが出現し、その中から足がハルパーになっている恐竜が現れる。赤のスピリットを繰り出した青年はアタックステップへ移る。


 


「アタックステップ」


 


アタックステップではスピリットのアタックを行なう事が出来る。アタックしたスピリットは回復状態から疲労状態となり、相手プレイヤーは自分のスピリットでそれをブロックするかライフで攻撃を受ける事が出来る。また、この瞬間も回復状態であるスピリットは疲労し、通常は疲労したスピリットはブロック出来ない。また、アタック宣言後、ブロック宣言前にフラッシュタイミングと呼ばれるフラッシュ効果を持つカード効果を使用できるタイミングがあり、これはブロック宣言前とブロック宣言後の二つがある。


 


「ヴェロキ・ハルパーでアタック!」


『ライフで受ける』


 


ヴェロキ・ハルパーが爪を振り上げ、それをノイズへ叩き付ける。それはノイズの前方に出現したバリアによって阻まれ、ノイズの身体にダメージを叩きこむ。スピリットが持つシンボルの数だけ相手のライフを一度のアタックで削る事ができ、それによってバトル開始時にライフとして持つ5つのコアの1つが砕け散る。全てのライフがアタックや効果によって尽きれば勝利となるが、砕かれたコアはリザーブへ移動して次の攻め手となるというリスクもある。


 


「ヴェロキ・ハルパー、Lv2・3アタック時効果。このスピリットのアタックで相手のライフを減らしたとき、自分はデッキから1枚ドローする。ターンエンド」


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ダンデラビットを召喚』


 


【ダンデラビット:緑・スピリット


コスト3(軽減:緑1):「系統:遊精・星魂」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:緑】


 


額に緑の宝石を埋め込んだ白い兎が2体のスピリット共に並ぶ。続けて現れたそのスピリットの力を知っている青年は、静かにダンデラビットに少しだけ意識を向ける。


 


『ダンデラビット、召喚時効果。ボイドからコア1個をリザーブに置く。さらに2体目のダンデラビットを召喚。不足コストはメイパロットより確保。よってLv1へダウン』


 


【メイパロット


コア2→1:Lv2→1:BP3000→1000】


 


【ダンデラビット


コア1:Lv1:BP1000】


 


『ダンデラビットの効果でコアを1個追加。さらにこのカード以外の系統:星魂を持つスピリット、もう1体のダンデラビットにコアを1つ追加。リザーブのコアを追加してLv2へ』


 


【ダンデラビット


コア1→2→3:Lv1→2:BP1000→3000】


 


「……!」


『アタックステップ。ビートビートルでアタック』


「ライフで受ける!」


 


ビートビートルのアタックが青年へと襲い掛かる。ノイズの力によって触れた人間を炭化させる、一撃必殺の攻撃を受けた青年のアーマーが炭化していく。


 


「……成程、だからお前達はカードバトルに勝ってきたんだな」


 


受けたダメージの痛みに闘争心を滾らせるかのように不敵な笑みを浮かべながら青年はただ静かに状況を理解する。そして次の瞬間、青年のアーマーから強い赤、白、紫、緑、黄、青の六色の炎が溢れ、アーマーの炭化を無理矢理中断させると再び元に戻していく。


 


「だが俺も、普通の人間が持つには大それたものを持っていてね……そのおかげでこのバトル、最後まで楽しめそうだ」


『メイパロットでアタック』


「こちらもライフで受ける!」


 


続けてメイパロットの体当たりが青年へと襲い掛かる。青年の前方に出現した緑色のバリアがその攻撃を防ぎ、衝撃のみを青年に与え、そのアーマーに灯っていた四つの光の内の一つを砕く。


 


『ターンエンド』


「いくぞ、スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ブレイドラを召喚」


 


【ブレイドラ:赤・スピリット


コスト0:「系統:翼竜」


コア1:Lv1:BP1000


シンボル:赤】


 


剣で出来た翼を持つ小さなドラゴンがヴェロキ・ハルパーと共に並ぶ。これで下準備は出来た。あとはあのカードを呼び出すだけだ。


 


「太陽よ、炎をまといて龍となれ!太陽龍ジーク・アポロドラゴン召喚!不足コストはヴェロキ・ハルパーより確保!よってLv2となる!」


 


【ヴェロキ・ハルパー


コア4→3:Lv3→2:BP4000→3000】


 


【太陽龍ジーク・アポロドラゴン:赤・スピリット


コスト6(軽減:赤2・青2):「系統:神星・星竜」


コア1:Lv1:BP4000


シンボル:赤】


 


青年の背後で炎が燃える。そしてバトルフィールドの外から紅蓮の身体を持つ、身体中に真っ白な宝石を埋め込んだ龍が音を響かせて一歩、また一歩と内側へと入ってくる。咆哮を張り上げながら青年の目の前で立ち上がった太陽龍。戦いの舞台を移した彼が一番最初にエースとして見出したスピリット。その力はこの場においても彼を救い、勝利へ導く。


 


「アタックステップ!ジーク・アポロドラゴンアタック時効果により、このスピリットは回復状態の相手スピリットを指定しアタックすることができる!いけ、ジーク・アポロドラゴン!Lv2のダンデラビットに指定アタック!」


 


ジーク・アポロドラゴンが翼を広げ、空へ翔け上がる。そしてダンデラビットを掴みかかる。通常、アタックステップではアタック宣言後にフラッシュタイミングと呼ばれるフラッシュ時に効果を使用できるカード効果を使用できるタイミングがあるが、指定アタックの場合、指定した相手スピリットはその宣言の時点でブロックした扱いになってしまい、ブロック前のフラッシュタイミングは行われない。


 


『フラッシュタイミング、マジック、ライフチャージを使用。不足コストはダンデラビットのLvを1に下げて確保』


 


【ダンデラビット


コア3→1:Lv2→1:BP3000→1000】


 


だがノイズもみすみすスピリットを逃すと言うつもりは毛頭ない。マジックも他のカードと同じくコストを支払ってから効果が適用される。そしてライフチャージの効果は、


 


『コスト3以上の自分のスピリット1体を破壊し、ボイドからコア3個をリザーブへ置く。指定アタックを受けたダンデラビットを破壊し、コア3個をリザーブに置く』


 


コアブースト。それもコア3個をリザーブに置くという破格の力だ。コアは即ちバトルスピリッツのカードの力の源なのだから。


 


「ヴェロキ・ハルパーでアタック!」


『ライフで受ける』


「ヴェロキ・ハルパーの効果により1枚ドロー。ターンエンドだ」


 


更にヴェロキ・ハルパーが敵をライフを討つ。更なる1枚の手札を得て、青年はノイズの次の一手を待つ。


 


『スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。ブレイヴ、カラクリバッタを召喚』


 


【カラクリバッタ:緑・ブレイヴ


コスト4(軽減:緑2・白1):「系統:怪虫・樹魔」


コア1:Lv1:BP4000


シンボル:緑】


 


木と鉄で出来た、カラクリ製のバッタが出現する。だが、それよりも青年が注目したのはそのカードの種類。


 


「ブレイヴ……!それもこのカードは今まで見た事の無いカードだ」


 


ブレイヴ。それはスピリット、マジックとも異なる種類のカードであり、手札、デッキではブレイヴとして扱われるが、場に単体で存在している場合はブレイヴカードではなくスピリットカードとして扱われる。だが、その真価は彼等が合体の名をその種類名として持っているという事である。


 


(だが、このタイミングで召喚時効果を持たない、単体では変哲もないブレイヴ……来るな)


『キングタウロス大公をLv2で召喚』


 


【キングタウロス大公:緑・スピリット


コスト8(軽減:緑4):「軽減:殻虫・剣獣」


コア4:Lv2:BP6000


シンボル:緑】


 


「来たか、Xレア……!」


 


興奮を隠しきれない熱の籠った声が漏れる。右手が巨大な槍となっている、下半身が緑色の昆虫のようになっている巨大な獣が出現する。緑のXレアであり、増えたそのコアを如何なく発揮して青年を落としにかかる。


 


『キングタウロス大公召喚時効果。このカード以外の自分のスピリットの数だけボイドからコア1個をこのカードに置く』


 


今、ノイズの場にはキングタウロス大公の他にビートビートル、メイパロット、ダンデラビット、カラクリバッタの四体がいる。よって、追加されるコアの数は4個。


 


【キングタウロス大公


コア4→8】


 


『カラクリバッタをキングタウロス大公に合体。Lv3へ』


「来たか!ブレイヴスピリット!!」


 


【キングタウロス大公


コスト8→12


コア8→9:Lv2→3:BP6000→12000+4000→16000


シンボル:緑+緑】


 


キングタウロス大公の背中にカラクリバッタがドッキングし、一つとなる。ブレイヴの真価はスピリットと合体し、そのブレイヴが持つ色、コスト、シンボルを引き継ぎ、そのブレイヴが指定する分のBPと合体時効果を得るのだ。


 


『メイパロットをLv2へアップ』


 


【メイパロット


コア1→2:Lv1→2:BP1000→3000】


 


『アタックステップ。ブレイヴスピリットでアタック』


「ダブルシンボル……ブレイドラでブロック!」


 


ブレイドラが健気にも自分の何倍も大きなキングタウロス大公の前に立ちはだかる。しかし、そのあまりの体格差はそのままBP差を示し、キングタウロス大公の槍の一振りでいとも簡単に吹き飛ばされて破壊される。


 


「キングタウロス大公、Lv2・3アタック時効果。BPを比べ相手のスピリットだけを破壊したとき、相手のライフのコア1個をリザーブに置く」


「っ……!」


 


青年の残りライフが3つから2つへと減らされる。ダブルシンボルの攻撃は回避したが、それでも確実にライフを1つは持っていかれたようだ。


 


「ビートビートルでアタック」


「ライフで受ける!」


 


ビートビートルのアタックで青年の残ったライフ2つの内1つが砕け散る。これで残ったライフはたったの1。ノイズの炭素転換を防ぐことのできる彼だが、流石にバトルに敗北すればその限りでは無い。


 


「メイパロットでアタック」


 


メイパロットが翼を広げ、青年へと飛び込む。この攻撃に成功すれば。だが、そうはいかない。青年はこのアタックを待っていた。コアを打たせて貯め、カウンターを放つこの瞬間を。


 


「フラッシュタイミング、マジック、ヴィクトリーファイアを使用!BP3000以下の相手スピリット2体を破壊する!メイパロットとダンデラビットを破壊!」


 


Vの形をした炎が発生し、突進するメイパロットは当然、相手の場にいた回復状態のスピリット、ダンデラビットもまた炎に呑まれ消えていく。


 


「……勝負を焦ったな」


 


このアタックステップでもうアタックを可能とするスピリットはいない。青年の最後のライフを奪う事は叶わなかった。


 


『エンドステップ。カラクリバッタ、合体時効果。このスピリットを回復させる』


「成程、リカバリーも万全か」


 


しかし、ここまで無機質で無表情、いや元々あの見た目で表情があるとは思えないがポーカーフェイスがまるで話にならないのは少々慣れない部分がある。とはいえ、これもバトルである事に変わりはない。ライフを打つ痛みがあり、スピリットの声が響き、カードバトラーが激突する。相手が何であろうと変わらない。それが自分。勝つ事が自分の役割なのだから、彼に迷いなどとっくに存在しない。


 


「スタートステップ、コアステップ、ドローステップ、リフレッシュステップ、メインステップ。牙皇ケルベロードを召喚!」


 


【牙皇ケルベロード:青・ブレイヴ


コスト5(軽減:赤2・青2):「系統:異合・皇獣」


コア1:Lv1:BP5000


シンボル:青】


 


鉄のヘルムで顔を隠した黒い身体を持つ獣。その全身には赤い色を基調とした青い棘の装飾を凝らしており、ブレイヴとしての高いスペックがその身体には秘められている。


 


「ケルベロードを、ジーク・アポロドラゴンに合体!さらにLv3にアップ!」


 


【太陽龍ジーク・アポロドラゴン:赤(青)


コスト6→11


コア1→5:Lv1→3:BP4000→9000+5000→14000


シンボル:赤+青】


 


ジーク・アポロドラゴンの赤い宝石と額の白い角が全て青く光り輝く。全身にケルベロードが変化した新たな装甲を纏い、青き闘気を滾らせる。


 


「アタックステップ!!吼えろ、ブレイヴスピリット!この瞬間、ジーク・アポロドラゴン、Lv3合体時アタック時効果発揮!BP9000以下の相手スピリット1体を破壊する!ビートビートルを破壊!!」


 


ジーク・アポロドラゴンの口から放たれた炎がビートビートルを撃墜する。疲労したスピリットを焼き、さらにジーク・アポロドラゴンとケルベロードの力が明らかとなる。


 


「ケルベロード、合体時効果!このスピリットがアタックする時、ターンに1回、デッキの上から5枚破棄することでこのスピリットは回復する!さらにジーク・アポロドラゴン、アタック時効果!ブレイヴスピリットを指定アタック!!」


 


翼を広げ、空を翔けるジーク・アポロドラゴン。しかし、そのBPは14000。僅かにキングタウロス大公には届かず、ジーク・アポロドラゴンの振り上げた爪はキングタウロス大公の槍によって受け止められ、背中のカラクリバッタが肩から砲門に変化してその標的を敵に向ける。


 


「フラッシュタイミング!ネクサスコラプスを使用!このターン、合体スピリット1体をBP+5000!」


 


【太陽龍ジーク・アポロドラゴン


BP9000+5000+5000→19000】


 


BPを一気に底上げしたジーク・アポロドラゴンがカラクリバッタの砲門が放たれる寸前に力任せに爪を振り下ろして窮地を脱する。そのまま一旦キングタウロス大公を蹴って空に飛び上がると、真下に向かって炎を解き放ち、敵のブレイヴスピリット完膚なきまでに焼き尽くす。


 


『カラクリバッタを分離』


 


【カラクリバッタ


コア9:Lv1:BP4000】


 


スピリットと合体していたブレイヴは、スピリットがフィールドを離れた際にブレイヴにコアを置いてフィールドに留まらせる事が出来る。背中から射出されたカラクリバッタはそのままスピリットとなってフィールドに疲労状態で残る。


 


「ヴェロキ・ハルパーでアタック!」


『ライフで受ける』


 


間髪いれずにヴェロキ・ハルパーの鋭い爪がノイズに叩きつけられる。ブロッカーの存在しないフィールド、手札は0。そして残りのライフは2つ。勝敗は、決した。


 


「これで最後だ、ブレイヴアタック!!アタック時効果により、カラクリバッタを破壊!!」


 


すれ違い様に残ったブレイヴを切り裂き、太陽龍はその爪を、ノイズへ振り下ろす。そして2つ、ライフが砕かれる音と共にノイズが大爆発を引き起こし、消えていく。


 


「……ノイズ。こちらの世界で未知の災害として認定されている、生物のようで、生物ならざるもの……だが、その実力は本物だ。恐れを知らないからこそ、大胆に戦える。だから俺は、戦えて嬉しかったよ」


 


最後にそう言い残し、青年もバトルフィールドから消え、元の空間へ戻る。そしてそこでは、驚いた様子で彼を見る、この街の人々がいた。


 


「あ、あんた……まさかノイズを、倒したってのか!?」


「ああ。勝つのが俺の仕事だ。負けはしない」


 


淡々と言ってのける青年。しかし、彼の心の内では、彼らを助ける事が出来てよかったという安心感が広がっていた。


 


「な、名前を教えてくれ……君は、一体……?」


「……」


 


名前。そう言えば自分の名前を名乗るのなど一体どれくらい久しぶりなのかと思い、少しだけ自嘲気味に笑うと青年は、自分を象徴するその名を口にするのだった。


 


「馬神弾。今はブレイヴ使いの馬神弾だ」


 


かつて激突王としてその名を馳せ、遥かなる未来の地でブレイヴ使いとしてその戦いの運命に自らを投じてきたその青年は、新たな地で戦いの運命へと誘われる。


 


ノイズ、聖遺物、そしてシンフォギア。様々な力が渦巻く世界で、青年は再び戦う―――

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