第4話 電話ボックス

 高校2年生になったしめじ君。夏休みのお盆の間は、やはり、おばあちゃんの家で父母や妹ら家族と過ごしていた。


 8月15日の夕方4時。

 10円玉2枚と100円玉1枚を短パンのポケットに入れたしめじ君は土間から外に出た。向かう先は、歩いて5分ほどの所にある雁木がんぎ通りの信用金庫の前にある電話ボックスだ。


 西陽が当たっている電話ボックスのドアを開けると、むわっとした空気に包まれたし、黄色い受話器を左手で握ると熱さが感じられた。

 10円玉を2枚入れてから、ダイヤルを回すと、呼び出し音が3回鳴ってから繋がって10円玉が機内で落ちる音がした。


「もしもし、佐野ですけど」


 男の声で応答があった。これは弟君の声だ。


「しめじですけど、ゆいさんはいらっしゃいますか?」


「はい。少々お待ちください。 ねえちゃ~ん、しめじ君から」


「もしもし」


「しめじです。居てくれてよかった」


「暑いね~お盆も。元気だった?」


「いや、ちっとも元気じゃない。この街はなんも無いし、ゆいちゃんにも会えないからさ」


「また、そんな嬉しいこと言って~」


「いや、ほんとに」


 ビー 


「あ、ちょっと待って、100円玉入れる」


「明日、俺、午前中、部活行くけど、ゆいちゃんは?」


「わたしんとこは、20日まで無いの」


「あ、そなんだ。でも、俺が部活終わったら、シュガーボウルで昼飯どう?おばあちゃんからお小遣いもらったからおごるよ」


「う~ん… どうしよっかなあ」


「なんか用事あるん?」


「おかあさんが、買い物行くって言ってたから」


「う~ん… それ、なんとかなんないかな~」


「ちょっと、待って。ねえ、おかあさん、明日の買い物、夕方でもいい?お昼をしめじ君と食べたいんだけど… うん… うん… は~い。うん、明日、いいよ。何時?」


「部活終わんのが12時だから、12時半にシュガーボウルで、どんな?」


「12時半ね。わかった」


「自転車で来る?」


「そうするつもりだけど、しめじ君は?」


「俺は、今は実家だけど、明日の帰りはまきのアパートに帰るから、南二条駅から汽車で帰るよ」


「わかった。あ、この前みたいに、ブルーハワイ飲んで酔っ払わないでよね」


「酔っ払ってなんかなかったじゃん」


「ええ?自転車二ケツしたとき、結構、ふらふらしてたじゃない」


「ゆいちゃんの体重が重くなってそうなったんだろ」


「ああ、しめじ君、ひど~い」


 ビー


「あ、切れる。ゆいちゃん、嘘だよ。明日は、健全に昼ご飯だけだ」


「うん。じゃ、明日ね」


「うん、じゃあね」


 受話器を戻して、電話ボックスのドアを開けたら、籠っていた空気が解放されて汗を掻いた体に当たる風が涼しく感じられた。


(明日こそ、ゆいちゃんの手を握るんだ)


 しめじ君は、蚊に刺された右腕をぼりぼりかきながら雁木の道を早足で歩いた。



関連小説:「Sugar Bowlにて」

https://kakuyomu.jp/works/1177354054895377139





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る