Track3 はあ、やってられないから愚痴を聞くバブ……
//エリカ、取材を受けている。一歩離れたところでリスナーは見守る
//何時もより外行きの柔らかで優しげな口調
//SE 環境音 時折ピピ、ピ、鳴る、とデジタルカメラのシャッター音
「次の質問ですか? はい。お願いします。どうぞ」
//瑛莉果は動揺したりせず、堂々と悪びれなく嘘がつける
「私の、ストレス発散の手段ですか? そうですね。私は、あんまりストレスをため込むタイプではないのですが……」
「ええ。小さい頃から先代の……父の背中と仕事ぶりを見て育ちましたので。この生活が日常になってしまって。ええ……。あまり疲れは感じませんね」
「父にも口を酸っぱく言われていました。お前は会社を継ぐんだから。いつも完璧でいて、隙を見せるな。……甘えるなって」
「ですが……そうですね。あえて言うなら、ですが……。最近は意識してリフレッシュできる時間を作っています」
「はい。ええ。……瞑想……というのでしょうか。一人になって、コーヒーを飲んで、クラシックを聞いていますね。静かに、こう。目を閉じて」
「ええ。ふふっ、はい。私、結構凝り性で。学生の頃から、色々調べて、こだわって豆から引いています。今は……そうですね。アマレロ種をシティローストで焙煎したものがマイブームですね」
「はい。アマレロですか? ええ。好んで購入しているのはコロンビア産のブルボン種の豆ですね。なめらかでまろやかなコクとかすかな甘みが特徴のコーヒーです」
「はい……。豊かな味わいで……。静かに身体に染みていくんです……」
「はい。ふふっ……そうですね。ブラックで頂きます。ミルクも合うコーヒーですが……焙煎の……繊細な味の起伏を楽しみたいので」
「はい。格好いい……? ふふっ。よく言われますが、そんなこと無いと思いますよ。私は普通にしているだけです」
「ああ……クラシックの方ですか? それは、そうですね。気分にもよりますが……今朝はドヴォルザークのチェロ協奏曲をかけました」
「ええ。父が遺したレコードがあって。ええ。あれです」
「はい……。彼……。ドヴォルザークがアメリカからチェコに帰国する直前の作品で……。現地の……、ネイティブアメリカンの音楽性を融和させた傑作ですよ」
「ああ……。子供の頃、嗜む程度ですがチェロを習っておりまして。それの影響もありますね……」
「力強い音色で……、気分が良いとつい指先が当時を思い出して動いてしまいますね」
「そうですね……。好きな、良く聞く音楽と言えばやはりクラシックが殆どですね」
「ええ。子供の頃から教養をつけろと父に聞かされていましたし、クラシックの規則正しい音色は、何と言えばいいのでしょうか。心を落ち着けて、癒やしてくれます」
「リフレッシュといえば、そんなところでしょうかね。はい。社長として、責任ある立場としてハメをハズしたりするワケにもいきませんので」
「はい……? いや、そんな。当然の事ですよ。当たり前の事をしているだけです」
「ん、これで大丈夫ですか? ありがとうございました。記事が出るの、楽しみにしています」
「はい。ありがとうございました。それでは」
//取材終わる。取材陣、社長室を後にする。
//SE 機材をガチャガチャかたづける音。
//SE 取材陣が部屋を出て行く足音、ドアの音。
//数秒静寂
//心底疲れて、嫌になった感じで
「はぁ……。もう……」
//耳元で囁く
「来て。そう。こっちへ」
//オギャり部屋へ移動
//SE ドアが閉まる音
「パパ……。えりか……疲れた……だっこぉ……」
//SE 布のすれる音
//甘えてリスナーにくっつく。密着して囁く
「ソファでねんねする~……ソファにつれってって。えりか、赤ちゃんだから歩けない~……」
//SE 布のすれる音 エリカを抱き上げた
//SE ヨタヨタした足音
//SE ギシっとソファに身体を寝かせる音。
「パパ……。えりかね、のどかわいた」
「え……? コーヒー? えりか苦いのきらーい。ミルク飲む……」
//早口でツッコミ、直ぐさま赤ちゃんに戻る。
「赤ちゃんがコーヒーなんて飲むわけないでしょ。あんなの、普通に苦いだけで、泣いちゃうでしょ。頭使いなさいよ」
「え……? ミルク……用意してたの……? ふふっ……、ありがと……ぱぱ」
「……ちょっと冷めてる……。ううん。いい。ね、それより、パパ、膝枕して」
//SE ギシッ、ソファが沈み、リスナーが座る音。
//ここからエリカ、リスナーの膝の位置
「はやく~……。んっ……ん……えへへ……」
//SE 布のすれる音
「んっ……ん……。パパのお膝……好き~……」
//深呼吸
「す~~、は~~~、……えへへ。パパの匂い~……」
「ん……ぱぱ……ミルク~……」
「はやく~。みるく~」
//微かに、哺乳瓶の先端をはむリップ音
「んっ……あむ……んっ」
//ミルクを飲んでるシーンの台詞は、哺乳瓶の先を唇に触れたまま喋るような不明瞭さを交えて
「おいし……えへへっ……」
「んっ……ん……」
「エリカ、ちゅ~ちゅ~で飲むミルクが一番好き~」
「んっ……えへへっ……ん……」
「きょうね、えりか。お仕事がんばったよ……」
「えらい~……? えへへっ……んっ……」
「なでなでして~。 うん。んっ……ん……」
「ぱぱのなでなで……すきぃ……」
「えりかね~……ぱぱになでなでしてもらえる~って思って。おしごと、がんばったんだよ~……」
//SE 布のすれる音
「んっ……ん……」
「きょうのね、記者さん、あの女の人ね、エリカにいじわるするんだよ」
「んっ……あむ……」
「うん、えっとね。えりかのこと、年下の女の子だ~って思ってね。バカにしてるの……まつり上げられてるだけだ~って。顔に書いてあるの」
「エリカね~……がんばってるのに。認めてくれない人は、ど~してもエリカのことキライ~って目で見るんだ~」
「パパ……、そこの棚のガラガラ取って……?」
「うん。青くて、お星様がキラキラしてる、ガラガラ。きれいでしょ? エリカのお気に入りなんらよ~」
「ありがと、ぱぱ」
//エリカ、ガラガラを受け取る
//SE ガラガラがキラキラ音を鳴らす。
「ふふふ……えへへ……んっ……えへへ……」
「エリカ、この音すき~」
「パパ、見てみて。お星様の間に、鳥さんが飛んでるんらよ~……うぇへへ……」
//SE ガラガラがキラキラ音を鳴らす。
//哺乳瓶の先端をはんだリップ音
「ん……っ、んっ……」
「ねえ、ぱぱ、もっとエリカのこと、褒めて……?」
「えへへ……えへへ……ほんと……? えりか、もっとがんばる……」
//SE ガラガラがキラキラ音を鳴らす
//短い沈黙
//SE ガラガラがキラキラ音を鳴らすが、中途半端に短く途切れる
//大きなため息。淡々と、落ち込んだ様子で独白
「はぁ……。何やってるんだろ。私……」
「……お父様が亡くなってね、私が城山商事の社長を引き継ぐことになって」
「私、ずっと、頑張ったんだよ。上手くできてるかな……?」
「みんなの期待にも応えなきゃいけないし」
「お母さんもね、小さい頃に死んじゃったから」
「ずっと甘えること、出来なかったんだ」
「それでね? こんな事、してるの……」
「ねえ、迷惑? ボーナスはSSで査定出すし、本当に嫌だったら元の部署に戻してあげるから……。ダメ……?」
「ううん……。答えないで……。……社長命令」
//SE 布のすれる音
「なでなでして……」
「ん……えへへ……ぱぱ……。えへへ……」
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