第2話
「もうすぐ個人戦だねー」
夕焼けの中を二人で歩いて帰りながら、私は後ろめたさを感じていた。さくらと私とでは、その技量は天地の差。何で、私と一緒に帰ろうなんて言ったんだろう。
「あと三週間しかないんだね。長いようで短かったなあ、高校弓道も」
「さくらの弓道は、まだ終わらないよ」
私は俯きながら言った。
「個人戦も団体戦も、さくらはきっと県行って、地方行って、何なら全国だって——」
「悠希は?」
「え?」
私は咄嗟に彼女の顔を見た。何でそんなに、真剣な顔ができるの? さくらが立ち止まり、私もつられて立ち止まる。
「悠希は目指さないの? 全国」
「……無理だよ、私は」
だって、早気だから。
ずっと、部活に行くのが億劫だった。周りのみんなはどんどん成長していくのに、私だけ、全然上達しない。先輩たちにどんなに射を見てもらっても、親身になって教えてもらっても、早気だけはどうしても治らなかった。
『ゆっくり、落ち着いて引いてみたら?』
『伸び合う意識が大事だと思うよ』
何度も何度も教えてもらった。何度も何度も引いて、何本も引いて、でも、中らない。焦りがより一層、矢を的から遠ざける。分かっているのに。分かって、いるのに……。
「さくらには分からないよ」
醜い、卑屈の塊。
「さくらには私の気持ちなんて分からないよ! 早気なんて味わったことないくせに! 早気がどれだけ辛いかなんて、全然知らないくせに! 私だって、私だって……離したくて離してるわけじゃない……」
「……悠希は、敗北に慣れてる」
心臓が、ドクン、と跳ね上がった。
「え……?」
喉から掠れた悲痛なクエスチョンが漏れた。
「そのままじゃ絶対、県個人は無理だよ」
さくらは歩き出した。私は、立ち止まったまま一歩も動けないでいた。敗北に、慣れてる……? 何それ、馬鹿にしてるの? 私はこんなに苦しんでるのに。
部活内で掲げられた目標に、「インターハイ県個人全員出場」というのがあった。県大会個人戦に出場するには、三週間後の地区大会で八射四中しなければならない。四本射るのを二回やって、その合計的中が八本中四本でないと出場できないのだ。ちなみに男子は八射五中。男子に生まれなくてよかった、と思うけど、女子に生まれていても早気なのだから結局は同じだ。
「無理だよ……」
無理だって分かってるのに。さくらの言葉が、頭から離れない。
『敗北に慣れてる』
見下されてるみたい。いや、ずっとそうだったの? 友達のふりして、内心では私を見下してたの?
何が真実か分からなくなって、私は心音だけを聞いていた。そうしているうちに、辺りは真っ暗になった。
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