豚
牛がいるなら豚もいる。
牛に比べて淡泊な味の、白っぽい赤肉を提供してくれる。これもまた美味いんだ。じゅるり。
魔王健在でもあまり好戦的じゃなく、簡単に手懐けられる。野生でも人を見かけたらすり寄ってくるからね。もうモンスターって呼べないくらい愛くるしかった。
魔王亡き今でも全長4メートルくらいあるから、威圧感がすごい。しかも基礎ステ高いからね、駆け出し冒険者なら軽く吹っ飛ぶ。
そんな豚はビジネス面で見てみれば、牛と比べて敬遠されぎみ。ぶっちゃけ飼育しても金になるのは肉だけだからね。ミルクは出ないし、皮革は直ぐに傷んでしまう。牛のは防具とかに使えるんだけどね。
しかも豚って、成体にならないと食えない。
子豚の丸焼きとかあったよね?
この世界でそんなの食べようとしたら自殺行為さね。
それも、豚の幼体には猛毒があるから。
毒カエルとか毒虫とか、警告用に鮮やかな色ついてるけど、豚の幼体にはそんな色ついてない。知らずに食ってしまったら即死だぜ。
遭難した駆け出し冒険者達が良く死ぬんだよね、これで。
トラップ仕掛けて豚ゲットだぜ!とかはしゃいで、餓死寸前だからがっついて食べたらポックリ逝ってしまった感が漂う屍とか、よく見かけるよ。
話がそれたね。
豚は飼育するとしても成体になるまで育てないといけないし、解体するにも牛程ではないにしろ人件費かかるし、ちょっと手間がかかる。
飼育自体はかなり簡単なんだけど、一頭を育てて金にするまでに二年くらいかかるんだよ。ま、それだけ時間がかかってもプロフィットが出るくらいだから豚を飼育している牧場が存在しているわけで。
とにかく、まったり牧場ライフを送りたい、そんな人達にピッタリな豚ちゃんを紹介しよう。
——— 豚の種類 ———
豚には色々な種類がある。品種ですね。
日本みたいに品種や血統を人工的に選んで繁殖させてるわけじゃないけど、地方によって豚が自ずと進化したんだ。そうやって独自の進化を遂げた五種類の豚達を、我が牧場では全部飼育してます!
どうやって?
そんなもん簡単さ。
俺っちの牧場デカいもん。
敷地内に氷雪エリア、砂漠エリア、森林エリア、山岳エリア、草原エリア、海エリアと全部ある。
ていうかこの大陸丸々一個俺っちの所有地だからねぇ。
MP切れ起こして
え、そんな土地も無ければ
知らないよ、そんなもん。
勝手になんとかしてくれ。
——— 豚舎 ———
豚は大体ほのぼのしてる。
幼体の時に食われないもんだから、天敵がいない。
だから無闇に攻撃もしてこなければ、なにかに突進する習性もない。だから豚舎にはあまり強度を求めなくてもいいのさ。
牛みたいにバカ高い建築費もかからない。低価格で気軽にできるさ。
スペースとして、一頭当たり十畳ほどのスペースを確保しておけば大丈夫。床には藁を敷いておけば良いし、めんどくさいなら剥き出しの土でもオッケー。糞の事を考えると、コンクリで藁敷いたほうが一番衛生的なんだけどね。
まぁ牛や豚の糞は肥料になるからそこまで気を使わなくっても良いんだけど。
ああ、この世界にもコンクリってありますよ?もちろん、俺っちが発明者だけど。
前世の知識を使って“開発”して、特許取得しました。
寝てても金が入ってくるからウハウハ。
コンクリがなくってもいいんだけどね。粘土をぶちまけて、平たくして、
え、どうしてモンスターマスターなのに魔法使えるのかって?
勇者パーティーの賢者さんに教えてもらったのさ。
で、そうやって作った土台の上に、豚舎を建てるのだ。
木材で建てても良いけど、森林エリア等の場合湿度で腐ってしまうから鉄筋がオススメ。
え?鉄筋ってどこで手配するのかって?
知らないよ、そんなもん。
だって俺っち、勇者パーティーの錬金術師君に教わった魔法陣でバンバン出せるから。木材の加工も鉄材の加工も問題ナッシン!
これができないようなら、手を使って頑張るしかないね。
がんばれがんばれ。
——— 飼育 ———
放置でおっけー。
餌に関しては、豚たちは基本的に雑食。だから放牧していたら良いのさ。
毒草でも毒虫でもモンスターの死骸でも腐った果物でも、勝手に探して食べるんだ。なんにもなかったら適当に草とか食ってるしね。
あとは、家から出る残飯を給仕トラフにぶち込んでおけば大丈夫。トラフの他に水桶とかもあった方が良いけど、水を入れ忘れても勝手に水源探してくれるから大丈夫。
豚は何食べても品種特融の味は変わらないから、朝豚舎から出してあげて、一日中放牧でオッケーなのさ。 寄生虫もいなければ病気にもかからないし、予防接種やお薬も要らない。夜に豚舎に入れ忘れても、天敵がいないから野生のモンスターに食われることも無い。
本当、飼育は楽。
でも放置しっぱなしで生息エリアの生態系がぶっ壊れるといけないから、豚の数の管理だけはしっかりとしないとね。ちなみに食料不足でも共食いはしないからそのへんは大丈夫。
——— 肉 ———
豚は一年間の成長を経て成体になって、それから一年したら成熟する。
一歳以上二歳未満の豚に毒はないけど、肉に味がないんだ。だから肉にするのは最低でも生後二年経ってから。時間だけは無駄にかかる。
肉のハーベストは大体牛と同じ手順。
倒して、解体して、肉を区分けして、選別して売る。
でも牛に比べると人件費はあまりかからない。皮が固い訳でもなく、非力な人でも大丈夫。デックスがそれなりに高くて、さらに防腐加工用に毒無効、腐食無効のスキル持ってる人が一人いれば、それで事足りる。大抵の場合、斥候職の人になるね。レンジャーとかシーフとか。
やったね、牛に比べて人件費が浮いたよ!
その分インボイスが低くなるから、収入に反映されるけど。
それでも飼育費はほぼゼロだから、肉を売ったら黒字になるくらい収入は得られるのだ。
——— 終わりに ———
あまり金にならない奴らだけど、きゅるんとした目が可愛い、愛くるしいやつらだから許す。その巨体ですり寄られたらガードしないと吹っ飛ぶけどね。
精肉加工するときは昔の血が騒いでしまうけど、俺は決してそんなことを楽しみにしているわけではない。
断固否定しようじゃないか。
え、信用できない?
あそこの美味しそうな豚を真顔で解体作業して差し上げよう。
ふぅ。
楽し、ゴフン、疲れた。
とにかく、土地さえあれば豚舎も低価格で建てられるし、飼育も楽だし、餌代もかからない。
時間が余っててほのぼのスローライフをしたい人たちにお勧めの豚でした。
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