第4話
あれから10年が経った。
僕は今、母と2人で暮らしている。
僕はもうすぐ高校を卒業するけど、大学にも行かないし、就ける仕事もそう簡単には見つからないだろう。
病気持ちの僕が仕事したって迷惑をかけるに違いない。
そんな現実に対する不信感と、自身への無価値感が僕を記憶の世界に閉じ込めるが、先日届いた一通の手紙が、僕を現実に引き戻した。
先生が、がんで死んだ。
「先生・・・。」
果たすべき約束が無くなったことで、僕は人生という鎖から解放された気がした。
正直なところ、僕のほうが先に死ぬと思っていたのに。
日本で生まれてくる子供の100人に一人は、軽度から重度の心臓疾患を持つ。
僕は、中度の心臓病だった。
お医者さんからは90%以上は無事に大人になれると聞いた。
だけど、その数字が高いのか低いのか当時の僕にはわからなかった。
十人に一人は大人になれないなんて。
それが自分かもしれないって。
そう、思っていた。
周りの友達は大人になれるのに、僕はなれないかもしれない。それがとても悲しかった。
この病気のおかげで、僕は人生や将来に関して悲観的だった。いや、物事に対してすべてそうだった。
僕が小学校に上がりたての頃は、父さんとお母さんが家で良く言い争いをしていた。
何を言っていたかは覚えていないけど、2人の声を聞くたびに、僕の心はズキズキ痛んだ。
なんで僕は病気を持って生まれのか。
僕のせいで本当にごめん。
みんなに迷惑をかけて本当にごめん。
ある日、父さんは家からいなくなった。
それからお母さんは、僕より薬を飲むようになって一人のときによく泣いていた。
お父さんがお金を振り込んでくれる日なんかは特に。
僕の前では常に笑顔で、いつも大切にしてくれたお母さん。本当にありがとう。
どうか最後まで幸せになってください。
父さん。お金だけでも助けてくれてありがとうございました。もう迷惑はかけません!
新しい奥さんと幸せな家族を作ってください。
そして先生。
生きる事を、教えてくれてありがとう。
こんな人がお父さんだったら、と思わせてくれてありがとう。
みんな今まで迷惑をかけてごめんなさい。
これが最後だから許してください。
「楽しかった。ありがとうございました。」
手紙を握りしめて、僕は椅子を蹴った。
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拝啓
親愛なる私の大切な生徒 k君へ
この手紙を君が見る時、私はこの世にいないだろう。
私の体には、がんがあちこちに見つかっており、かなり悪い状況だそうだ。
だから、私が負けてしまった時にこの手紙は君に届くようになっているはずだ。
この手紙を書いた理由は、謝罪とお礼がしたかったからだ。
君との約束をこんな形で破るのは申し訳なく思っている。まぁ、君が覚えていてくれたらなんだけど。
小学生の君が、懸命に病と向き合っている姿を実際に知っていたから、私も勇気をもらった。
なんだか君に教えていたつもりが、私のほうが教わってたようだ。本当にありがとう。
病気を知ったときに君に伝えなかったのは、
病を治した後に君と話をしたがったことと、もう、随分昔のことだから忘れられてるんじゃないかって思ってしまってたんだ。
君には君の人生があるとね。 だけど今は少しだけ後悔しているよ。
最後に君と話がしたかった。
ついつい感傷的になってしまったようだ。
もっと書きたいことはいっぱいあるんだけどこれくらいにしておくよ。
敬具
君の生徒である体罰教師より愛を込めて
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人生とはさもありなん 明日 友郎(あしたともろう) @tomotomotomorrow
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