第18話 8月30日(水) 教科書

 朝。


 昨日に引き続き、今日も目覚ましの音で目が覚める。


 6時15分。


 意外と早起きも苦にならない。

 

 

 ただ、この時間はまだ誰も起きていない。


 当然朝食も用意されている訳もなく。


 かといって、こんな早朝から特にすることもない。


 とりあえず、下に降りるか。



 1階に降りて、トイレを済ませる。


 その後、キッチンで烏龍茶を一杯。


 

 とりあえず、先にシャワーでも浴びるか。



 ◇  ◇  ◇


 ■シャワータイム


 いつものようにシャワーを浴びながら、今日は何をしようかと考える。


 夏休みもあと2日。


 何かやっておきたいことは……特にないな。


 「今しかできないこと」みたいなものが見当たらない。


 実際、9月1日に学校が始まっても、この日は金曜日だから、翌日からすぐ週末だ。


 昨日、少し頭を使い過ぎたから、今日はのんびりと過ごすか。



 ◇  ◇  ◇


 シャワーからあがると、母親が朝食の支度を始めていた。


「おはよ」


「あら冬真、今日も早起きだったのね」


「おう」


 俺は母親の邪魔にならないように冷蔵庫を開けて、再び烏龍茶を飲む。


 

「朝ごはん、一緒に食べるでしょ?」


「あぁ、そうする」


 

 俺はそのままリビングで朝のニュース番組を見始める。


 そうしているうちに父親も降りてきて朝食。


 聖羅せいらはまだ寝ているらしい。


 

 両親と俺。


 聖羅のいない朝食は、何か不思議な感じだ。


 

 朝食後。

 

 再び俺はリビングでテレビを見ながらまったりと過ごしている間に、父親は仕事へと出かけて行った。


 

 

 さて、そろそろ自室に戻ろうか。


 階段を上って、2階へ。


 自室のドアを開けて入ろうとしたタイミングで、聖羅が部屋から出てきた。



「あ、おにぃ、おはよ」


「おはよ」


「おにぃ、もうご飯食べたの?」


「おう」


「早いね~」



 そんな会話をしながら、聖羅は階段を下りていった。



 ◇  ◇  ◇


 ■教科書


 俺は自室に入ってベッドに腰掛ける。


 さて、何をしようか。



 聖羅は明日テストだって言ってたから、今日は恐らくテスト勉強だろう。



 勉強かぁ……。久しくしていないな。


 

 ふと、本棚を見ると、夏休み中一度も触れられなかった教科書たちが並んでいる。


 

 俺は立ち上がり、その中の教科書の1つを手に取る。



 なぜか俺は、急に焦りが広がる。


 将来のこと。


 父親の言葉と、聖羅の頑張る姿。



 この夏休み、不思議と後悔はなかった。


 時間を無駄にしてしまったとか、そういう気持ちはない。


 でも、今から始めないと後悔する。


 そんな思いが俺を駆り立てる。



 俺は教科書を開き、1学期の復習を始めた。


 

 ◇  ◇  ◇


 ■入浴タイム。


 いつも通り、夕食後のまったり入浴タイム。

 

 結局、俺は今日、昼食の時を除き、夕方まで集中して1学期の復習を行った。


 ある意味、せっかくの夏休みなのにという思いもあったが。


 夏休みが終われば、俺の高校生活も折り返しだ。


 本当に早い。


 高校生活を後悔しないために。


 ここからは真剣に将来のことを考えて生きていこう。



 ◇  ◇  ◇


 風呂からあがって、両親に声をかけ、キッチンで烏龍茶を一杯。


 そして、2階に上がる。


 この後は聖羅とアニメを見ることが夏休み後半の日課となっていたが、今日はどうだろうか?


 明日、聖羅はテストだと言っていたし。


 そんなことを考えていると、いつも通り聖羅がやってきた。



「おにぃ、異世界アニメ見よ~」


「いいけど、聖羅、大丈夫か? 明日、テストだろ?」


「おにぃ、ダメだよ! そういう気づかいが、実は一番受験生を精神的に追い込むんだから」


「確かに。息抜きも必要だよな」


「でしょ? 待ってるね」


 そう言って、聖羅は自分の部屋に戻った。



 俺が聖羅の部屋に入ると、聖羅はPCをセッティングして、準備完了だった。


 聖羅の隣に座る。



 薬草のおかげで魔法の特性を増幅させた主人公。


 さっそく、村の魔法使いから魔法を伝授してもらう。


 といっても、どのような魔法が伝授されるかはわからない。


 魔法が人を選ぶのだそう。


 そして、この主人公が獲得できた魔法は、何とも中途半端な防御魔法だった。


 魔法の力自体は実践を積むにしたがって、レベルアップしていくらしい。


 まぁ、もともと姫を護衛するためにこの主人公は雇われたのだから、防御魔法で良かったのではなかろうか。


 しかし、これだと敵が現れたときに、防御ばかりで攻撃ができない。


 そこで、今度は攻撃特性の強い冒険者を、異世界から召喚するとのこと。


 ちょと待て!


 それは洞窟に行く前にやっておくべきではないのか!?



 酷い。酷すぎる!



 聖羅も失笑を禁じ得ず、ゲラゲラ笑っている。


 なんか、このアニメ見てると、些細なことなんてどうでもよくなるな。



「さて、俺は部屋に帰るな」


「うん」


「聖羅、明日の試験、頑張れよ!」


「うん! ありがと、おにぃ」


 俺は自室に戻った。


 

 ◆  ◆  ◆


 8月30日 水曜日

 晴のち曇


 後悔しないよう、今から始めよう。俺はそう考えた。

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