適者生存

干乾びた太古の湖。

その底に有る不思議な建物は、この惑星の過去と繋がっている。しかし今は、あの建物の中に吊るされた多数の板に、我々が操られている状態だ。


私が渡辺君に聞く。

「あの部屋は何故林を選んだのだのだろうか? 最初は林だけで次は林を介して我々にも繋がった。どう考えても、板がこちらを選んでいるように思うんだが。」


「そう言われればそうですね。僕等と林君の違いって何でしょう?」


「奴は体力が有るかな。体も大きいし声も大きいしな。」


「体力とか強さですかね。強さなら林には敵わないです。」


「板は強さで林を選んだのか?」


「そう言えばあの部屋に初めに入ったのは林ですし、中央の台に乗ったのも林でしたね。案外と林の方が選ばれるように仕向けたのかも知れませんよ。」


「今度は社長さんが最初に入って最初に台に乗ったらどうでしょうか、試してみましょうよ。」



それはありうるかも知れない。

私は直ぐに林を呼んて渡辺と3人で板の部屋に行った。私達は打ち合わせ通りに行動した。先ず私が部屋に入り私が台の上に立つ。上を見上げ、手を広げる。


ガーーーンと全身にショックが来た。そして体が浮き上がるような感じがした。

・・全てを知りたければ目を閉じよ・・

・・思いを巡らせせよ・・


宇宙は生命にとって過酷だ。生命は滅びるのが運命なのだ。様々な方向に進化をして滅びるのだ。滅びることは使命なのだ。その中から進化が生まれる。様々な進化起き、そして滅びるのだ。

・・死は生き延びる為の掟だと知れ・・

・・死は生き延びる為の掟だと知れ・・

・・目を見開けよ・・

・・目を見開けよ・・


私は目を開ける・・

天井と板が見える・・

私は首を起こして周りを見る。


林と渡辺が座り込んている。

「お前ら!大丈夫か?」

私が声を掛けると二人がフラフラと立ち上がる。


「板はこちらの思いに反応している。私は種族の滅亡や死に思いを巡らせていたんだ。すると板はそれに答えたのだよ。・・死は生き延びる為の掟だと知れ・・と答えたんだ。適者を残すために死は掟だとな。」


「この板は人工頭脳みたいな物でしょうか?」


「もう一度やってみよう。今度は渡辺が中心で動け。林と私は静かに後ろに続こう。」


今度は渡辺が前を歩き、堂々と台にのる。板は渡辺と繋がり我々は拒否される。耳鳴りがして、めまいがする。

暫く時が過ぎて、耳鳴りが収まると、私は渡辺君を見る。


渡辺が言う。

「驚きました。これは単純な装置ですよ。僕は社長さんと同じ考えで台に立ったんです。種族の滅亡を考えてね。答は全く同じでした。死は生き延びる為の掟だと知れと答えたんですよ。これは同じ思いに同じ答えを出すのです。それって装置ですよ。」


私は聞く。

「林は何を考えて台に乗ったんだ?」


「俺はただ、これを作った奴等はどこに行ったのかと思ってね。」


「成る程、だからその答えを出したのか。これは最初から決まっていてのかも知れないな。この部屋に入った時の態度や振る舞いで繋がるんだ。繋がったものは合格でで、拒否されたものは不合格になるのかな。」


「もしかすると適者認定装置かも知れません。”死は生き延びる為の掟”なのですよね。繋がれば適者、拒否されたら不適者、つまり生と死を分けるのかも。」



「宇宙に逃げた者たちは適者で。残ったものは不適者としてこの星で滅びたのだろうな。」

私がそう言うと林が反論した。


「そうですかねえ。この間釣った魚は大きかったですよ。大きい奴は5キロ位有った。あんなものが生きていくためには、奴らの餌が居るはずですよ。その餌にももっと小さな餌が必要でしょう?姿は見えなくても生態系が有るはずですよ。それなら、生き残った住民が居てもおかしくないでしょうよ。そうでしょう?」


「そうだよな・・確かに林の言う通りだ。しかしそれにしては生き物が見えないじゃあないか。何で姿を隠しているんだろう。」


渡辺が言う。

「この星は紫外線が強いですよね。紫外線は生命にとっては害ですから・・深い水の中とか、洞窟とか、夜に活動するとかね・・それだと我々の眼にはふれませんよね。」


林が聞く。

「水の中って紫外線は届かないのか?」


「10メートルぐらいの所で2%ほどだから、100分の2になるよ。」


「なるほど。この川は中程に行けば水深が10メートルは軽くある・・ここの住民は水生動物の可能性があるんだろう?じゃあ川の中に住んでいるんだよ。夜になると案外と出てくるかも知れないぞ。どんな生き物か見てみたいよな。どう、今夜見張ってみないか?」


その夜我々は生き物を見る為に基地の明かりを落として川縁を見張った。明かりは無く月のような衛星の反射する微かな光だけだ。


時々魚のはねる音が聞こえる・・

魚も夜には水面に上がってくるのだ。


「3人同じ場所に居ても効率がわるいだろ。少し離れて見張ろうぜ。」


林の提案でそれぞれ30メートルぐらい離れて川縁の石の上に座る。川は緩やかに流れ、波の音もしない。

ピシャッ ピシャッ と小さな魚のはねる音が聞こえる・・

静かだ・・

ピシャッ ピシャッ ・・


その時ガバガバと音がした。音の方向を見ると林が足を滑らせて川に落ちていた。私は走って林の所に行った。

「大丈夫かよ!」


林は頭までずぶ濡れでふらふらと立ち上がった。腰まで水に浸かっている。

「おい、大丈夫かよ!」

林は何も言わずこちらを見る。その顔は暗くて目だけが光っている。

「手を出せ!ほら掴まれ!」

足を滑らせたのか、ザブンと水音を立てて、林は再び水の中に倒れこむ。


「おい!何しているんだよ!」

私は彼を捕まえようとするが手が届かない。

「何をやってんだよ!」

私は腰まで水に入り手を伸ばして林の手を掴む。


その時後ろで声がした。

「社長、何してるんですか!?」

振り返るとそこには林が居たのだ。

その時掴んだ林の手がつるりと滑り林は水に沈んだ・・

「どうしたんです?なんで水に入ったんですか?」

林が私の腕を持ち水から引き上げる。


「林??じゃあ今のは??」

私は混乱して林を見る。


「何か見たんですか?」


「見たんだよ!確かに見た!」


「何を見たんです?水生人間でも見たんですか?」


「そうじゃあ無い。お前を見たんだ!お前を引き上げようと手を掴むと、手が滑って水の中に消えていったんだ。」


「待ってくださいよ。気持ちの悪い冗談はだめですよ。俺はそういうのは苦手なんですからね。」


そこへ渡辺が駆けつける。

「何か居たんですか?!」


「いや、社長の冗談だよ。」

と林が言う。


「いや、そうじゃあ無い。林が水に落ちたんだ。引き上げようしたが手だ滑って林は水に沈んだんだ。」と私が言う。言いながら馬鹿な話だと自分で思う。


「やめてくださいよ、じゃあ俺は誰なんです??」

と林が言う。


全身水に浸かったせいで寒くて体が震える。顎ががちがち音をたてる。頭が混乱して何も言えなくなる。


「大丈夫ですか社長、ずぶ濡れじゃあないですか。震えてますよ。早く帰って着替えましょう。」

と渡辺が促す。


別荘に帰り、髪を乾かして服を着替える。

毛布にくるまって体が温まってくると少し気持ちが落ち着いてくる。


林が温かいコーヒーを入れてくる。

「ありがとう・・」

私は温かいコーヒーを一口飲む。


「聞いてくれ。あれは林だった。顔を見たんだ。私は林を助けようと水に入ったんだ。確かに林の手を掴んだんだ。」


「えー!じゃあ俺は誰なんですか?言っている事が変ですって!」

と林が言う。


「分かっている。変なんだ。しかし、あれは林だった。」


「浮き上がった魚が俺に見えたんじゃあないですか?」

と林がたたみ掛ける。


「いや、見えたんじゃあ無い、確かにこの手でお前の手を掴まえたんだ。」

馬鹿な話だ・・そんな事はあり得ない。私は頭が壊れたのか・・


話が堂々巡りになってしまい、明日の夜もう一度 川縁を見張る事で話が決着した。


そしてその夜も少し距離を置いて何か現れるのを待った。

1時間ほど時間が過ぎて今日は何も現れない。今日は何も無い・・そんな気持になっていた。

その時林の方でガバガバと水音がしたのだ。私が駆け寄ると林が何かを引き上げているではないか。私も水に入りその物体を掴まえて林と一緒に岸まで引きずって行った。そしてその物体を水から出した。


「ドエーー!!」

林が奇声を上げて飛び退いた。

見るとその物体は林だったのだ。


私は覚悟を決めて物体の髪を掴みずるずると岸に引き上げた。

林で有る筈はない。

何かの見間違いだ。

引き上げるとその物体はひくひくと動いている。

渡辺がやって来て奇声を上げる。

「なんだーあ!?きもい!」


それはやはり林だったのだ。

正確には林の顔をした魚のような化け物と言うべきなのかも知れない。

髪の毛が有り手も指もついている。体は鱗に覆われているが顔は林そのものだ。

「何ですか?これは・・」

林が青ざめた顔で言う。


渡辺が言う。

「どう見ても林君に化けているように見えるのだが・・」

「何のために?」

「解らんよ。」


物体はひくひくと動きながら変化を続けている。

尾が2つに分かれて足になろうとしているのだ。林が石を持ち上げて振り下ろすギエーと物体が声を上げる。


林が石で殴り潰す。

「この野郎!俺に化けやがって!この野郎!」

何度も何度も殴られて物体は動かなくなる。林は物体を川に沈めて流れに流す。


「あれは俺に化けようとしていたんですよ。気持ちが悪い!自分で自分を殺したみたいだ。なんて事だ!」林は青ざめた顔で川に唾を吐いた。


次の日からモグラ隊を緊急に集め8人態勢で川を見張った。しかしその後、変な物体が現れる事は無かったのだ。




・・続く・・

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