キャンプ(基地)

黒い箱の転送装置を使ってタイタンを経由し火星まで帰るのは早い。ものの30分も掛からないのだ。


モグラ隊の秘密基地になっている地下600mのカフェに集まったチーム全員は固唾をのんで私の報告を待っていた。


「全員にコーヒーは行き渡ったか? そうか・・じゃあ聞いてくれ。皆に大変な報告が有るんだ。」

全員瞬きもせず、どんぐり目で私を見ている。


「着いた先はケプラー34連星だったんだ。いいか!・・4900光年も先にある連星系の太陽圏内の惑星なんだ。」


そこまで話すと一瞬ざわめいてタブレットPCでケプラー34を検索している。


私は続ける。

「その連星を回るケプラー34bという巨大ガス惑星にある衛星に着いたんだ。衛星と言ってもこの火星よりかなり大きい。しかもそこには空気も水も有る。つまり水のハビタブルゾーンの衛星なんだ。」


「すっごいすねえ!人間が住めるんですね!」


「ただ・・・問題が無い分けでは無いんだ。その問題が解決するまではこの事は全て秘密だ。モグラチーム以外には絶対漏らさないでくれ。いいな!」


「あの・・危険は無いんですか?僕らも行けますかねえ。」


「もちろん連れて行くよ。交代でね。」


おー!・・やりいー!などと声が上がり、テンションが上がってくる。


「次はサンドバギー2台でキャンプの設営に行くので組み立てのロッジの様な物を設計してくれ、それは渡辺君に任せるから君がメンバーを選んで4人ぐらいでやってくれ。」


「次はいつ行くんですか?」


「ロッジが出来上がったら、基地の設営に行く予定だ。」

オオーー!!と皆が歓声を上げる。




    ◇   ◇




月に1度各チームが集まってミーティングが行われる。

私と渡辺は建設チームの代表としてそれに参加する。


ミーティングでは格チームの仕事と計画のすり合わせをして、全体としての計画をバランスよく進める為の調整をするのだ。ミーティングはアメリカ人と中国人が仕切っていて日本やフランス・スペインなどのなどの発言力はあまり無い。火星開発に掛かる莫大な資金はアメリカと中国に頼っているのだから、それも仕方が無い事なのだ。


ミーティングが終わると、探査隊のスペインチームのリーダーが私の所にやって来て小声で話しかけて来た。

「石原さん、あなたの協力とアドバイスが欲しいのだけど、お願い出来ますか。」

彼はダニエルと言う名のスペイン人でスペイン語交じりの変な英語を話す。


「はい、良いですよ。なんですか?」


「ちょっとここではダメ。食堂に行きましょう。あ、渡辺さんも。」



我々は食堂の隅に陣取り、テーブルを挟んで向かい合った。

ダニエルが言う

「えっと、初めに言っておきますが。これは、この3人の秘密という事で・・お願い出来ますか?」


「秘密ですか? 良いですよ。」


「現在、私たちスペインチームは、ここから400キロ離れた場所に有るクレーターの底の洞窟を探査しているのですがね。その洞窟の奥で半分氷に埋もれた黒い物体を発見しました。まだ誰にも報告をしていません。いいですか。解りますよね。これはとんでもない事ですよ。人間以外の文明の痕跡です。発表したら大騒ぎになって。この探査の結果を取られてしまいます。いや、取られても良いのですが、私が解明をしたいのです。いいですか、主導権を渡したくないのです。」


私は驚いて渡辺君を見る。渡辺君も驚いた顔をして私を見る。


「なるほど。よく解ります。火星を仕切っているのはアメリカと中国ですよ。こんな大発見を彼らがほおって置く分けは有りません。彼らの思惑おもわくが優先するでしょうね。」


「そうなんですよ。それが嫌なのです。私の手から離れてしまいます。ある程度調査が進むまでは秘密にして置きたいのです。」


「それじゃあ秘密にするべきですよ。どうして私に話すんですか?」


「分厚い氷の中なんですよ。石原さんチームの助けが無ければ掘り出せないのです。」


「なるほどお・・」私は渡辺君を見る彼も私を見てニヤリとする。


「OK!協力しますよ。あなたの功績はあなたのものですよ。一緒に調査しましょう!」


「ああ、石原さん!助かります。あなたはアミーゴですよ!グラシアス。ムーチョグラシアス。石原さんは最高だ!」


「ダニエルさん、後で連絡を下さい。機材を持って出かけましょう。しかし400キロ離れているのですね・・それは行くまでが大変だ。」


「それは大丈夫ですよ!まかせて下さい。」

彼はそう言って、何食わぬ顔で立ち上がると 我々を残して去っていった。


「聞いたかい渡辺君、他にも有ったんだよ。今度も地下の洞窟の中だ。」


「驚きましたねえ、今度は何処に繋がっているのでしょうか。いや・・転送装置はまだ他にも有るのでしょうか?」


「う~ん・・しかし何の為に・・」



     ◇   ◇



ダニエルの操縦は荒っぽい。サンドバギーは飛び跳ねるように疾走する。火星の引力は地球の4割しかないので思いがけずジャンプするので、着地の度にズシン ズシンとお腹に響く。

バギーがジャンプする度にダニエルが「ひょーっ」とか「うひゃーー」とか変な奇声を発する。食堂で話していた時の学者顔はどこかに消えてしまったのだ。


クレーターに着くとバギーは急斜面をらせん状に降りていくバギーには私たちが持ち込んだ掘削機が乗っているのでずるりと横滑りをしないか心配になる。


「エストイ ビエン! エストイビエン・・OK!・・大丈夫です!」

ダニエルは能天気な声で笑いながら言う。


クレーターの底にはテントが張ってあり、ダニエルの部下が迎えてくれる。

スペイン人は礼儀正しいと言うか、私と渡辺が全員と握手をしなくては気が済まないようだ。


「この奥に、200m歩きます。そこから少し、10メートル下に降ります。そこで氷に埋まっています。大きい・・とても大きい。4メートル有ります。」


「中はどうなっていますか?」


「ノセ、解らない。クアドラドです。四角ね。」



現場に到着すると下方10メートルぐらいの所に例の黒い箱が有った。半分は氷に埋まっていて、このままでは扉の開閉は出来ない。

渡辺君が言う。

「ドアは右側ですねそっちの氷を取り除けばドアを開けられます。」


「彼らはドアが開くとは知らないからびっくりするぞ。」


「いや、そこから先がもっとびっくりですよ。」


「ナニ? テイエネウステン プロブレマ?問題はありますか?」


「いや、すぐに作業に掛かります。右側の氷を取り除きましょう。」


「OK!バモサセルロ!」





固いと言っても氷は氷だ。

我々がシュンシュンと氷を切りダニエルのチームが氷を運び出す。私と渡辺君が氷の

破片まみれになりながら2時間作業して右のドアの前の氷は取り除いた。


「ムイビエン!できましたね。」


「いいですか、ダニエル。よく見て。渡辺君やってくれ。」

渡辺君が物体の凹みに手を入れる。するとスーーとドアがスライドする。

オオーー!!と歓声が上がる。


「ダニエルと私たちで中に入りましょう。」

私とダニエルと渡辺が中に入る。

「いいですか、これからマジックが起きます。渡辺君!」


静かにドアが閉まり、そして静かに開く。


外は明るかった。

斜め上に変に赤い色の太陽が出ている。

太陽の横に惑星のような物が浮かんでいる。


「ケパーサ サルプレリード!なんですかこれは!」

渡辺君が言う

「ここはどこでしょうか?太陽が変に赤いですねえ・・赤色矮星ですかねえ。」


外気温18度

空気密度気圧1,7

湿度36


「ここは地球と大差が無いぞ渡辺君。心当たりは無いのか?」


「赤色矮星なんて幾らでも有りますからねえ・・どこかは解りません。カメラを設置して太陽とあの惑星の動きを撮影します。少ししてまた来てカメラを回収すればデータが取れますから。」


「ケパーサ?ここはどこかの星ですか?箱が運んだのか?」

すっかり動揺したダニエルが叫ぶ。


「はい、この箱のマジックです。とんでもない物です。帰りましょう、後で場所を渡辺が特定します。」


ドアが開くと外にはダニエルの部下たちが集まっていた。ダニエルは心配する彼らに向かって

「エスタビエン!エスタビエン!大丈夫!」

と言い、そして私に向かって

「ひみつです。」と言った。


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