ケプラー34b

疲れた・・

思えばこれまでは幸運だったのだ・・

何が何だか解らないままここまで来たのだ・・

・・

・・


「何寝てるんだよ!! 何なんだよ3人とも!! 起きろよ!!」

3人はポカンとして林を見上げた・・

我々は寝てしまったのか?



「どうしたの!!何で3人で寝てるの!?しかも同じ格好で!」


私が言った

「林、お前は大丈夫なのか?」


「社長、それはこっちのセリフだよ。皆んな大丈夫なのかあ?」


「いや、林君が倒れたので皆で休憩していたんだよ。」

と吉田が言う。


「そうかあ?! 倒れてるのはそっちの3人みたいなんですけどね。」

そういって林は笑う。


我々3人は狐に化かされたような気持で顔を見合わせながら立ち上がった。

「ともかくローバーであの箱まで戻ろう、腹も減ったしな・・疲れたんだよ、それでつい寝てしまったんだ。」


外に出るとすっかり暗くなり満天の星空だった。

「凄いなあ、この星空・・渡辺君、地球はどっちになるんだ?」


「多分我々の太陽系はあっち方向ですね。」

そう言って渡辺君は地平線の方向を指さす。

皆がその方向を見たが、我々の太陽が見えるはずもなかった。


夜になると急激に気温が下がり外気温は5度になったのでローバーの気密室に入って寝ることにした。しかし朝は5時間でやって来た。初めに小さな太陽で明るくなり昼頃に大きな太陽が現れると急激に気温が上がってくる。昼夜の温度差は40度近いのだ。


「これから山脈地帯に行ってみようと思うんだ。2時間も有れば着くだろう。帰りは夜になるが、夜の方が快適なドライブになりそうだからな。今からならちょうど良い時間になるだろう。出発だ!」


この辺りは昔は湖でも有ったのか、平坦で走りやすい。皆のヘルメットは無線で繋がっているので話が弾む。


林が指示を出す。

「そこは右に曲がってそのまま真直ぐに行けば、ほら!その岩の左を通って後は真直ぐに山脈方向に進める。」


林は登山が趣味だけあって地形を読むのは上手い。

「前の山の右の谷に入れば川に出るからその手前で休憩しよう。」


「川?? 川なんて無いぞ・・」と渡辺君が言う。


「いや、有る。」と林。


大きな岩山を右に曲がり暫く進むと川が見えてくる。

「本当だ!何で分かったの?」

と吉田


川の渚にローバー止めると皆が川のへりに立つ。川の水なんて地球を出た後初めての事だ。川の渚のあちらこちらに緑のボウルのような物が有る。おそらくこの星の植物なのだろう。


「あの・・宇宙服を脱いで水に入っても良いですかね。」

と吉田が言う。


「良いだろう。でも、魚か何かに食われるなよ!」

と私が言うと吉田が宇宙服を脱ぎだした。それを見て林と渡辺も服を脱ぐ。私も彼らに続く事にする。


自然の水がこんなに気持ちの良いものだとは・・私はこの感覚を忘れていた。正に生き返るとはこの事だ。皆んなまるで子供のようにはしゃいでいる。先ほどから何かがコツコツと足に当たる。何か生き物が居るのだろうか。


「キャハー!!捕まえたぞー!!」と林が叫ぶ。両手で何かを捕まえている。

皆が林のそばに集まる。

「見ろよ、これはこの星の水生生物だ。地球の魚に近いな。」


「スゲー、これは食えそうだなあ。」

と吉田が言う。

「もっとでかいやつが居るんだ。捕まえようぜ!」

と林が答える。



渡辺が私の目を見て首をかしげている。そうだ・・私も渡辺と同じ疑問を感じているのだ。林の様子が何か変なのだ。

渡辺君が私のそばに来て言う。

「何か、林君・・賢くなりました?うーん・・考え方が変わったと言うか・・」


「彼が川の存在を説明したよな・・私は気が付かなかったんだ。渡辺君は気が付いたのか?」


「全然ですよ。地形の事は予測できても水の存在は予測出来ないですよ。」


「地形の事だって彼は知っているような口ぶりじゃあないか。何か変だよな。」




その日の山脈地帯の探索は大収穫だった。

水をたたえた川の存在・・

気温が高くなる昼間も山脈地帯は気温も低く暮らしやすい。

植物や動物の存在も確認できたのだ。

この衛星は完璧だ・・

人類が移住出来る衛星なのだ。


しかし、疑問も残った。

これほど良い環境なのに植物の種類や動物が少ないという事だ。この環境なら地球のようにもっと多種多様の生き物がいても良いのだが・・



その夜は皆んなで、星空の下で食事をした。

「こんな良い環境ならここに移住しても良いなあ。」

と吉田が言う。


すると渡辺君が

「僕も同じだよ。この星は冒険に満ちているし、連星の周りを回るケプラー34b・・その衛星で暮らすなんてすごい事だよ。」と言う。


私が言う

「林はどうなんよ?」


「いや、それにはちょっと問題が有るんですよ。」

と言う。


皆が林の方を見る。

「この星は生物の種類が少ないだろう。この連星と惑星の関係は不安定なんだよ。1千万年に1度の確率で連星同士の質量のバランスが崩れて恒星間での物質の移動が起きるんだ。」


何を言っているんだ!この男は・・林がそんな話をするなんてあり得ない。皆の気持ちも同じだろう。皆があっけにとられたように林を見る。


林は続ける。

「物質の移動は恒星を巻き込んで、空気組成から気温までかき乱されるんだよ。だからたびたび生物はダメージを受ける事になるんだ。この星で繁栄をしていた住民も、そのことが原因で滅んでしまったんだ。人類が移住すれば同じ事になるだろうな。」


ここで私が口を挟んだ。

「ちょっと待ってくれ!何でそんな事をお前は知っているんだ?」


林は少したじろいて

「いや、知っているから知っているだけですよ・・」


「どうして?! そんな事をお前が話すのか?! 変だろう?」


皆が林の方を見る。

「変ですよねえ・・でも俺は知っているんですよ。知っているんだからしょうがない。」


私は渡辺君に言う。

「渡辺君はどう思うよ。君の知っている事か?」


「いや、そんな話・・聞いたことが有りませんよ。でも、林君の話はあり得るんですよね。連星は不安定で質量を奪い取ることが知られています。それが周期的に起きたとしてもおかしくは無い。もし1千万年の周期なら文明にとっては壊滅的でしょうね。生物もある程度多様になったところで殆どが絶滅するし、そこから生き残った生物が進化しても又1千万年後にやられるのなら・・その説明には合理性が有りますよ。」


私は林に聞く。

「それでは次の絶滅は何時なんだ?」


「153年後です。もう目の前ですよ。」

と林は平然と答える。


「お前は林なんだよな! 何かに乗っ取られては居ないよな?」


林は言う。

「待ってくださいよ。俺は俺ですって。そんな宇宙人みたいに言わないで下さいよ。」


「そうか、お前は何でも知っているんだな。誰かに聞いたのか?」


「どいうなんすかね。聞いたかも知れないけど忘れました。」

林はあっけらかんとそう言った。



渡辺君が私のそばに来て言う。

「石原さん、あの時ですよ。林が白目をむいて痙攣したでしょう。あの時ですよ。」


「あの時何かに乗り移られたのか?」


「分かりませんが、あの吊るされた沢山の板から何かが彼に伝わったのですよ。きっと・・」


「なんであんな馬鹿に? お前の方が適任だろう?」


「どうなんでしょうね・・僕とは周波数が合わなかったとか・・」



これをどう発表したとしても、153年後の絶滅を誰が信じるだろうか。何の証拠もなく、実際に近くで観測しても連星は安定しているのだ。ただ林が妄想のような話をしているだけなのだ。


人々は夢中になってケプラー34bの衛星に移住をするだろう。そして153年経って移住がピークに達した頃に絶滅するのだ。

逃げ道はあの黒い箱一個しかないというのに。



**続く**

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る