連撃の乱舞術
光が消えると、そこに答えが広がっていた。
「私の勝ちね」
そういって、地面に横たわる俺の首元に刀の切っ先を突き付けてくる。
俺は両手を上に掲げて、降参の意志を示す。
「あぁ、俺の負け。...ちゃんとできたな」
「...」
俺の言葉に対して言葉で返されることはなかったが、彼女の表情はスッキリした顔で笑っていた。
この状態になるまでの工程を見れていた人は僅かだろう。それほどに彼女の術は完成されていた。
透禍が術を発動させ、俺の運命糸が透禍を攻撃しようとした瞬間。俺の運命糸が”切られた”。
糸を刀が切るなど、簡単なことだろう。だが、俺の持つ糸は違う。”運命糸”はその名の通り、運命の力を宿している。そのためこの糸を切れるということは、未来を、過去を、今を変革させるだけの力を有している者と言うことになる。透禍はその力を持っているということだ。
正直、そこまでは予想していた。それだけの潜在能力があることは知っていた。しかし、俺が驚いたのはその後にしてきたことだ。
一発目、居合抜刀で俺の運命糸の内、五本を同時に破壊する。
二発目、横に一閃した刀を弧を描くようにしたに流し、そのまま上に切り上げ、運命糸を二本破壊する。
三発目、そのまま刀を体ごと後ろに引き、弓をつがえるように腕を引き、切っ先を俺目掛けて放つ。俺はそれを避けるが、運命糸を一本破壊して透禍は俺の背後へと流れていく。
四発目、背後へ流れた体を横向きに力を加えてこちらを向きつつ、またもや刀を横一文字に一閃し、また一本破壊する。
そこで一度攻撃の手が止む。俺が透過の方を向くのは四発目の後になってしまい、すぐさま体を翻す。そこにはまたもや刀を鞘に入れ、居合の構えをとった透禍が詰めていた。攻撃は終わりだと思っていたが、そうではなかった。
五発目、透禍の居合抜刀が斜め下から斜め上へと駆ける。そして最後の一本が搔き消される。だが、最初に五本も持って行った攻撃と同等の力が加わり、一本で耐えきれなかった分の力が俺の体に正面から降りかかった。
そして今に至る。
刀術”
「まったく、一発目でここまで仕上げてくるとはな」
「まだまだよ。これくらいなら体を動かせているけど、これ以上に連撃をするようになったら、体が持たないわ」
「はぁ、真面目だな~」
「...あなたがそれを言うのね」
「なんのこと?」
「白々しい、手を抜いていたくせに」
「なにをいっているのかわからないな~」
会話の内容は少々ぎくしゃくしているが、透禍は倒れた俺に手を差し伸べ、起きる助けをしてくれた。
内心、術の発動を手助けしたことに感謝を感じてくれているのだろうか。
これがツンデレってやつか。こういうのもいいなと思っている自分がいる。
「何か変なことを考えてない?」
「イエ、マッタクソンナコトハナイデスヨ」
「...テンションおかしくなってない?」
たしかに少し高揚しているかもしれないな。
まさかここまでとは、俺自身予想外だった。その反動のせいかもしれないな。
「とりあえず、よかったな」
「...ありがとう」
「ふっ、どういたしまして」
「笑うな」
やはり、俺の中で何かがすでに変わってしまっているらしい。
「それじゃあ、最後に今日の評価を頂こうか」
「え?」
俺はポケットからスマホを取り出すと、一部始終を見ていた人の電話番号を押す。
「どうでしたか?」
『お見事だったよ。やはり君に任せてよかったよ』
「え」
透禍が通話の向こう側にいる人物の声を聞くと、すぐさま誰だか分かり、その衝撃で喋れていなかった。
それもそうだろう。彼女が一番その声を聞いてきているはずなのだから。
「なんでお父さんが夜桜くんの電話にでてるの!?」
『軍の秘匿人物と私に面識がないはずがないだろう?』
「そ、それはそうかもしれないけれど」
「まぁまぁ、そんなことは一旦置いておいて。で、どうでしたか?軍の大将殿」
『あぁ。新しい術を生み出し、それで見事彼を倒してみせた。軍の上司としても、お前の父としても誇らしいよ』
「お父さん...」
その言葉を聞き、透禍の瞳が潤んでいた。
双一楼は透禍の上司、父といったこともあるが、術を教授させた師でもあるからだろう。
「それじゃあ、次に、隊長殿からもお言葉を頂こうか」
『え、俺からも?』
「なんで隊長までいるんですか!?」
『双一楼さんから一緒に来いと言われてね。不可抗力だから許してね。頼むから怒らないでね』
「...分かりました。それでは、そんな隊長のお言葉もお聞きしましょうか」
理由があろうと、それは透禍にとって意味がないらしい。
言葉に少々力がこもっているような気がした。
俺に向かって言っている訳じゃないのに、俺まで背筋が凍るような気がした。
『コホンッ。えっと、じゃあ一つだけ。自惚れるなよ」
「...分かってます」
いくら一度俺に勝ったとしても、この世は理不尽。何が起こるか分からない。
運命を変えられるだけの力を持っていたとしても、必ずしもいい方向に変えられるとは限らない。さらに言えば、透禍には悪いが、俺は手加減をした。
それは、この勝負の結果が正しいものとは限らない。
彼は透禍の隊の長だ。隊員を鍛え、救い、使い、共に戦う者として、その言葉を紡いだのだろう。
透過もそれを理解し、自覚することで、より高みを目指そうとしている。
本当に、ここの人たちはよく”出来ている”な。人として、軍人として、術士として。
「とまぁ、これにて今日の特別授業はお開きとさせていただきましょうか」
『そうだな、幸糸くん。今日はありがとう。そして今後とも透禍たちをよろしく頼むよ』
「はい、それでは」
そうして通話は切られた。
珍しく、双一楼さんとの通話履歴を残しておける電話となった。
「さて、帰りましょうかね」
「...それで逃げれると思っているの?」
ここできりがよく、帰れると思ったのだがそうでもないらしい。
「質問の権利は二回だったわよね?」
「...よくわからないな~。腹減ったろ?何か驕ってやるよ」
「食事をしながら答えてくれるってことでいいのかしら?」
「...」
逃げれそうもないな。
そうして透過がこちらに滲み寄ってくる。そのまま腕を掴もうと手をこちらに伸ばしてくる。
その時だった。
「ぐはっ——」
「ごほっ——」
互いに同じ瞬間に血反吐を吐き、その場に倒れる。
「...くそっ。持たなかったか」
「あ、やばいかも」
そう言って、互いに意識をなくし、その場で共に気絶してしまった。
♢
気が付くと、私はまたも同じ天井を見上げていた。
「悠莉」
「はい、何でしょうか」
そこには、目を向けずとも、いることが分かっていた人がいた。
「彼は?」
「...自分の心配よりもですか。透禍様と夜桜さんは訓練場で倒れていたところを監視隊に発見され、ここへ運ばれました。夜桜さんは運ばれてから輸血を済ますと、目を覚まされ、病室から抜け出していました」
「そう...」
逃げ足が早いわね。
質問を聞けなかったことに少し残念さと、安心感があった。たしかに、答えは聞きたいけれど、あの時に聞くのは自分でも少し躊躇いがあったから。
『あなたは私の何?』
初めて会った日からの謎。なぜか自分と今まで接点がなかった人物とは思えず、自分が忘れているだけなのかもしれないと思い、聞こうと思った質問。
今考えれば、少し恥ずかしい質問だ。これはこれでよかったのかもしれない。
「面白いですか?」
「顔に出てたかしら?」
「えぇ、素晴らしい笑顔で満ちていますよ」
確かにそうだったかもしれない。
私はこれからの生活が楽しみでしょうがない。
「ま、今は勘弁しといてあげるか」
いずれ答えてもらうわよ。
糸術士、夜桜 幸糸。
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