開戦の試験場
最初からこれが狙いだったと言わんばかり。
分かりきっていた。予想できなかった。決まっていた。考えられなかった。
いくつもの自分が、確かにいる。
だが、”今”の俺はどこにもいなかった。
俺は何者なのか?
「キミはキミだよ」
あぁ、ありがとう。
俺はもう迷わない。
最後まで俺を信じてくれた君を、今度は俺が信じるから。
「...ふぅ、準備はできた。始めようか」
ここからが幕開けだ。
俺がお前らを表舞台に導いてやる。
♢
時はそれなりにさかのぼり、四日前。
この日、初めての実習授業があり、越智 鏡月に課題を出された日でもあった。
その課題内容は夜桜 幸糸と四対一で勝負し、勝つこと。ここで疑問が生まれる。
どうして対戦相手が夜桜くんなのか。対戦すること自体は分かる。講師の先生に自分たちの実力を知ってもらうためには手っ取り早くていいだろう。
だが、普通なら対戦相手は講師に来た先生自身が行うのではないか。どうして夜桜くんを指名したのか。
さらにいえば、対戦人数が四対一ということ。生徒同士の戦いでこんな一目瞭然の試合をさせること。
そして、”最弱”と言われる噂。だが、それとは裏腹におかしな態度。
彼は何かを隠している。それを越智さんは知っている。だから彼を対戦相手に選んだ。
ここまで考えたが、結局のところ証拠がない。
「答えは試験で、ってことね」
今は地図のない宝を探すより、謎を解くしかなさそうだ。
私たち四人は残された時間でできる限り訓練した。
様々な作戦、戦術、合わせ技。勝つために私たちは様々な訓練をした。
四日。実際に魔族とこれから戦うような気分だった。
私だけではない、この班の人たちは全員勘が良い。皆分かっているのだろう。
その間、夜桜くんは学校に来なかった。
♢
ここに至るまで早足すぎたかな。
そう思ってしまうが、結局のところもうすでにここまで来てしまったのと、いつかはこうなる”運命”であると気持ちを切り替える。
くよくよしてるとまた怒られるからな。
俺は現実に焦点を当てる。前には四人。各々の力量がその立ち姿だけで示された。
さすがと言わざるを得ない。
だが、こっちだってそれなりの苦労をしてきたんだ。
「それではこれより、試験を開始する」
今俺たちがいるのは軍が管理している秘匿訓練場。どうしてそんなものがあるのかと言われれば、名目上は術を他家に知られないようにするため。
名目とはいえこれも十分に理由だ。だが、これが建てられた本当の理由は違う。まぁ、その話はまた別の機会に。
そんな場所をわざわざ貸してもらってるんだ、俺も”本気”で相手をするのが礼儀だろう。
「始め!」
鏡月の掛け声と同時に前衛二人、透禍と七星が早速切り込んでくる。距離はあと五メートル。
躊躇いなし。完璧な動き。
七星の剣が真正面から突きさそうと走り、その後ろを透禍が刀を下段に構えてついてくる。
そして、よく見ればそれより後方で悠莉と紅璃が左右それぞれを銃と弓で捉えている。
なるほど、七星の剣は囮、それを避けて後ろに行けば透禍がさらに控えている。左右に避ければ悠莉と紅璃が。
四日でよくもまぁ、こんなに息が合うことで。初手にして王手ってことかな。
だけど、それはあくまで一般人にとって。
「ふっ!」
「なっ!?」
俺はこの策に一つの抜け道を見出す。
後ろ、左右、上、どこに逃げても駄目。ならどうするか。
まずこの時点で間違っている。考える場所はもっと前に、分岐点は他にある。
それは、”進む”か”退く”か。先ほどまでの考えは後者、なら前者ならどうだろうか。
俺は攻撃に対し、真正面から相対する。
七星が突き刺す剣をかわし、懐に入り込む。進んで来られるとは思っていなかったのか、七星の対応が一瞬遅れる。
柄を握る手に手刀打ち、得物を放した手からすぐさま取り上げる。そのまま流れるように体を捻り、回し蹴りを入れる。
七星は何とか防御するが、衝撃で訓練場端まで吹き飛ぶ。
まず一人。
七星がいなくなったことで透禍と相対する。
「あなた何者よ、その身のこなし。それは...」
「話してる余裕はないぜ」
一瞬だが、戸惑ってしまった透禍に対し、距離を一気に詰める。
七星から奪った剣で上段からたたき切ろうとする。遅れはしたが、透禍もそれに対し素早く下段に収めていた刀を切り上げ、弾こうとする。
それを待ってた。
「え...」
俺は僅かに軌道をずらすことで互いの刃は当たることなく横切った。透禍はそのままバランスを崩し、体が流れてしまう。
先ほどまでは七星と透禍の前にいたため、後衛二人が俺を狙うことが出来なかったが、障害物がなくなることで二対一となった。
俺は上半身をそのまま地面に落とし、急加速。できる限り短時間で戦闘を終わらせるため、接近しようとする。
だが、そう簡単ではないよな。
俺の予想は当たったようで、二人は少々厄介である。
「悠莉、あの身のこなしは半端じゃない!近づけたら負ける」
「分かってる。紅璃、さっきとは違って私たちに障害物を作ろう」
「分かった」
この二人は頭の回転が早い、そして術の相性も良い。
「”
「”
まず悠莉の術で簡単に壊せない土の壁を建てる。そうすることで俺が最短距離で移動できないようにする。
次に紅璃の術で踏んだら破裂する導火線を敷く。そうすることで地雷を作り、簡単に突破されないようにする。
思ったよりえげつないな。
俺は全速力を維持し、弾と矢を避け続ける。近づくことができないため、どうするか悩む。
だが、時間はその間も進でしまう。急激に気温が下がる。
おいおい早すぎだろ。あの蹴りをくらってもう起き上がんのかよ。
七星がすでに起き上がり、術を二つも展開していた。
「”
”氷下気”。周囲の温度を急激に下げる術。”冰零剣”。絶対零度の冰で作られた剣で、触ったものを瞬時に凍らせてしまう。
そしてさらに厄介なのがもう一人。
「時間をくれてありがとう。ヒラバナ流刀術、”
”天花万象”。刀身に術を溜め込み、一気に解放する一撃必殺の技。
溜め込むまでに時間がかかるため、実戦でも使い勝手が悪く、諸刃の剣である。
だが今は四対一。この状況では諸刃の剣ではなく、最強の一手となりうる。
透禍の術が発動可能になったその時、四人は一斉に四方から俺を囲むように飛び込んできた。今度こそ逃げ場をなくすように。
七星により、体温が奪われることで体の動きが悪くなる。
悠莉により、強固な壁が俺の動きを遮る。
紅璃により、地雷が仕掛けられることで俺の身動きを規制する。
透禍により、一撃でも食らうと俺の負け。
たく、えげつないな。これはさすがに負けるかな。
でも、今回は少々意地悪をさせてもらおう。ここで負ける訳にはいかないんだ。
四人の得物がそれぞれ俺を捉える。
「これで終わりよ」
「...そうだな、手加減はここまで。ここからは本気を出そう」
「は?何をのたまって——」
四人の攻撃が俺に当たる瞬間、四人の動きが止まる。
「え...」
何が起こっているのか分からない。そういった呆けた声が聞こえた。
「”
次に瞬きをした時には四人は倒れていた。全員が何が起きたのか一切理解できていなかった。
「俺の勝ちだな」
「どうしてっ!」
「どうしてって。君こそどうした?」
「こ、こんなことが」
画して試験は終わり、全ての始まりが確定した。
罪の花と運命の糸。世界の運命はこれから動き出す。
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