第15話 答えは決まった

「ルー様、決まりましたわ」


 わたくしは彼の瞳を見つめた。

 彼は話を聞こうと見つめ返してくださった。


 隣にいたお父様に小声で言われる。

「断るんじゃないぞ」と。


 すみません、お父様。

 わたくしがお父様の命令に背くのは初めてかもしれないですね。

 ですが、もう決めたのです。


「ソーの素直な気持ちを聞かせてくれ」

「はい」


 わたくしは微笑んだあとに、深呼吸をした。


「ルー様、申し訳ございません。

 婚約者に、という申し込みを辞退させていただきますわ」

「そうか…私とは嫌だったか」

「ルー様が嫌というわけではないのですが…」


 わたくしが王子の婚約者になったとしたら、反感を買ってしまうでしょうし。

 それに、お姉様にもまた嫌味を言われそうですわ。

 それ以外にも理由はあるのですけれどね。


「ならなぜ断るのだ。今婚約している男が良いのか?聞いたが、ソーは今あのライト・ノーツと婚約しているのだろう?」


『あの』と言われたということは、きっと噂を知っているのでしょう。

 わたくしも噂を聞いてからお会いするまでは怖かったですけれど。

 ですが、実際会ってみたらとてもお優しい方でしたわ。


「とても冷たい男だと聞いた。本当にそんな男で良いのか?私と婚約したら絶対に苦労もさせないし、辛い想いもさせないが」

「あなたに、なにが…」


 思わず拳を握ってしまいそうになった。

 だって、ライトさんのことを噂を聞いただけで悪く言うから…

 わたくしは心を落ち着かせて、再び話し始める。


「ルー様になにが分かるんですの?ライトさんはとてもお優しい方ですのよ。それなのに、わたくしの大切な婚約者を悪く言わないでくださるかしら?」


 わたくしは彼に向かってハッキリと言う。

 それほど、ライトさんのことを離し難いと思い始めているのだろう。

 自分がこんなふうにハッキリ言うことが出来るだなんて知らなかった。

 

「だが、私は君のことを思って—」

わたくしのことを思って?わたくしが一番辛いときにいてくださらなかったあなたがですの?わたくしのことを本当に思うのでしたら、身をひいてくださると嬉しいですわ」


 王子に対してこんな言い方はよくなかったかもしれないと、言い終わってから気がついた。

 ですが、どうしても言いたかったのです。

 彼の自分のことしか考えていないような物言いに、とても腹が立ってしまったものですから。

 ここまで言って帰ってくださらないのであれば、どうすれば良いかは分かりませんけれど。

 どうなるのでしょうね?

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