第13話 昔話

「ルート様、我が娘ソニー・アディールをお連れしました」


 お父様は、男の人に膝をつきお伝えした。

 おそらくこの方が第三王子なのでしょう。


「お初にお目にかかります。わたくしはソニー・アディールと申します」


 ドレスを持ち上げお辞儀をする。


「初めまして、か。覚えていないのか?

 ソー?」

わたくしをそう呼ぶのは—

 もしかして、ルー様?」


 お父様はルート様とおっしゃっていたけれど。

 聞き間違いかしら?

 いえ、間違えてはいないはずだわ。


「あぁ。あの頃はそう名乗ったな」

「やはり、ルー様なのですね…」


 ルー様とは、わたくしがアディール家で庭仕事をしている時に知り合った。

 隠れて泣いていた時、たまに見つかって慰めていただいた。

 王子様みたいな方だとは思っていたけれど、本当に王子だったなんて、驚きましたわ。


「ルート様とソニーは顔見知りだったのですね。それで、ルート様は本日はどういったご用件で来られたのでしょうか?」


 お父様はいつもの高圧的な態度ではない。

 この国の王子には逆らえないからだろうか。

 本心ではそんなことは思っていないでしょうけれどね。


「今日はお願いがあってきたのだ」

「お願い、といいますと?」


 お父様がそう聞くと、ルー様は深呼吸をしてから言う。


「どうか、ソーを私の婚約者として迎えさせてはいただけないだろうか?」

「ソニーを、ですか?」

「ああ。ソニー・アディールを、だ」


 わ、わたくしを第三王子の婚約者に⁈

 お父様は苦虫を噛み潰したような顔をしている。

 おそらく、わたくしが指名されたことが気に食わないのでしょう。

 リリヤお姉様の方ではないのか、と思っていそうですわね。


「本当に、ソニーで良いのですか?うちには、ソニーよりも優秀で美しいリリヤというソニーの姉がいるのですが。そちらではなく?」

「変わっていないようだな。アディール公爵よ。私はソーが良いと言っているのだ。それに、昔から姉には不遇な扱いを受けているとソーから聞いている。それなのに、迎え入れるわけがないだろう」


 確かに昔ポロッと口に出してしまったかもしれません。

 それを覚えていてくださったなんて…

 わたくし自身も忘れていたのに。


「ぐっ、で、ですが、ソニーは今婚約者がいるのですよ!ですから、リリヤと婚約を結びませんか⁈」


 どうしてもリリヤお姉様と縁を結ばせたいようですわね。

 第三王子と縁を結んだとなれば、すぐに噂になり、アディール公爵家は安泰。

 お父様はそうしたいのでしょうね。

 相変わらず、ご自分のことしか考えられていないのですわ。


「いいかげんにしてくれ。私はソーが良いのだ。それより、ソーの考えを聞かせてくれないだろうか?」


 ルー様がわたくしを見て言う。

 わたくしの気持ち?


「わ、わたくしは—」

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