第8話 お菓子作り

 わたくしはあのあと移動をして、調理場に来た。


「エマ、よろしくお願いしますわ」

「私は少しお手伝いするだけなので。それと、材料のことは料理長に許可をいただいたので好きに使ってください」

「分かりましたわ」


 早速取り掛かろうと、わたくしは髪をくくった。

 しっかりと手も洗う。


「では、クッキーを作っていきますわ。

エマ、でかいボウルと秤をください」

「はい。少しお待ちください」


 彼女は調理場にある棚の中から、わたくしの言ったものを取り出してくれた。


「ありがとう。わたくしは材料を混ぜていきますから、エマはバットを用意していてください」

「了解しました」


 指示を出してから、作業を始める。

 ボウルの中に常温に戻してあったバターと砂糖を入れ、混ぜていく。

 良いと思ったら卵黄を入れて更に混ぜる。

 薄力粉も加えて、ざっくり混ぜたらとりあえずは終わり。

 少しそのまま冷やしておく。


「エマ、少しお話ししていましょうか」

「よろしいのですか?」

「えぇ、少しおいておかないとなので」

「それなら、そうしましょう」


 わたくし達は近くに椅子があったので、そこへ座った。


「ソニー様はお菓子を作ったことがあったのですか?とても手慣れているご様子でしたので」

「そうね。お母様やお姉様に頼まれてね」

「そうだったんですね。ソニー様が作られるものがとても美味しくてお願いしていたのでしょうね」


 エマがわたくしを見て微笑んだ。

 ただ迷惑をかけたくてお願いされていたのだと思っていたけれど、もしかしたら違ったのかもしれないわね…

 この場所に来てから、わたくしは少しずつ前向きになれてきているような気がするわ。


「本当にありがとう」


 思わずこぼれ出た。


「え?私なにもしてませんよ?」

「してくれているのよ」


 彼女を見て笑う。

 彼女は分からないといった様子で、首を傾げている。


「ふふっ、今は分からなくて良いわ」

「?はい」

「さて、そろそろかしらね」


 わたくしは立って、エマが準備してくれていたバットの上に生地を並べる。

 そして、温めてあったオーブンの中に入れて焼き始めた。

 これで焼き上がるのを待てば完成する。


「よし、これで終わりよ」

「そうですね。焼き上がるのが楽しみです」


 待ちながら再びお話を始めた。

 話していると、オーブンの音がした。


「焼けたみたいね」


 オーブンを開け、焼け具合を見る。


「美味しそうですね」

「そうね。いい感じに焼けたわ」

「食べますか?」

「味見しましょうか」


 一枚取り食べる。


「美味しいです!」

「えぇ。よかったわ…ライトさんも気に入ってくれるかしら?」

「きっと大丈夫ですよ。あちらにお持ちしましょう?」

「そうね、ライトさん達に早く食べていただきたいわ」


 気に入ってくださるかは不安だけれど、せっかく作ったのだし。

 それに、エマにも手伝ってもらったもの、きっと大丈夫よね。

 ライトさん達も楽しみにしてくださっているでしょうから、早くお持ちしなければよね!

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