第5話 趣味ってなんですの?

「ソニー、君は趣味とかあるか?」

「趣味、ですか?」

「いや、ないのなら好きなものでも良いが…」


 彼が気を遣って質問を変えてくださいましたが…

 好きなもの、好きなもの?

 思いつきませんわね…


「なにも思いつきませんわ」

「そうか、では今まででしていて一番していて楽しいと思ったことは?」


 楽しいと思ったこと…


「お菓子づくり、ですわ」


 時々、お母様に作れと言われて作ることがあった。

 それに、お菓子だけは褒めてくれたこともあった。

 それが、嬉しかったのです。


「お菓子づくりか…君はなんのお菓子が好きなのだ?」

わたくしは甘さが控えめのクッキーが好きですわ」


 お母様と姉様に作った材料の残りを使って、自分用のを作っていた。

 クッキーを作れる材料は残っていたから。

 けれど、それ以外にはあまり食べたことがないかもしれない。


「ふむ、いつか私にも作ってくれないか?私も食べてみたい」

「はい。お作りしますわね。あの、ライトさんのご趣味は?」

「私か?私は—改めて考えると、ないかもしれないな」

「ふふっ、ライトさんもないんじゃないですの」


 わたくしは思わず笑った。

 けど、すぐさま


「あっ、す、すみません」

 と言う。


「なぜ謝る。ソニーが笑ってくれるのなら良いさ」

「そうですの?」

「あぁ、君が笑ってるのを見るのは好きだからな」


 今日出会ったばかりですのに…

 ライトさんはドキドキさせるようなことばかり言ってきますわ。

 恥ずかしい…


「そ、そういう発言はやめてくださる?」

「嫌だったか?」

「いえ、その、照れてしまいますので…」


 わたくしは彼にそう言った。

 彼はホッとしたような様子で言う。


「そうか、よかった。ソニー、菓子作りというのはいつぐらいに出来そうだ?」

「えっと—」


 早い方がよいなら明日かしら?

 というか、どちらで調理をすれば良いのかしら?


「あの、明日なら…それと、作る場所はどちらで?」

「作る場所なら、うちの屋敷の調理場を使ってくれ。使用人に言っておくから」

「分かりましたわ」


 ノーツ家の調理場、ですか。

 今更ですが、わたくしの作ったものをライトさんに食べていただいてよいのかしら?

 そんなに上手に作れる気がしないのですが…


「あ、あの、やっぱり—」

「ん?」


 うっ、すごくそわそわしておられますわ。

 それなのに断ることなどできませんわね…


「い、いえ、なんでもありませんわ」

「そうか?」

「えぇ」


 わたくしがお菓子を作るって言ったら、こんなに嬉しそうにするなんて。

 案外子供らしいところもあるのね。

 なんだか安心したわ。


「ソニー、とりあえず今日はここまでにしないか?日も暗くなってきたしな」

「そうですわね。あの、わたくしはどこで寝ればよいのでしょう?」


 初めてこの場所に来たから、分からない。

 それに、荷物も全てこちらへ持ってきているから、帰ることもできない。


「あぁ、それなら侍女に案内させる」


 ライトさんが手を叩いた。


「お呼びでしょうか?」


 扉を開けて人が入ってきた。


「あぁ、ソニーを部屋に案内してくれ」

「承知しました。ソニー・アディール様、こちらへ」


 わたくしは立ち上がり、彼女についていく。

 ついていっていると、一つの部屋の前で立ち止まった。


「こちらです。どうぞ」

「ありがとう」


 そう言うと、目をぱちくりさせた。


「いえ、ごゆっくりお休みください」


 彼女は一礼して去って行った。

 わたくしは部屋の扉を開け、中に入った。


 そこは、でかいベッドとクローゼットが置いてあるシンプルな部屋だった。

 シンプルな方が落ち着いて良いですわね。


 ここが、わたくしがこれから過ごしていく部屋。

 物が増えていくかは分かりませんが、思い出が増えていくと良い。とは思うのです—

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る