第4話 私の境遇(ライト側)

「ところで、君は本当に僕との婚約に賛成していたのか?」

「賛成、もなにもわたくしの家が半ば無理やり結ばせたのでしょう?」

「無理やり、か。だが、それは君の両親の意思だけだったのではないか。と思ってな」


 何も考えず、こう言ってしまった。

 彼女を初めて見た時、美しいと感じた。

 彼女のような美しい女性が私の婚約者でよいのか、と。そう思った。


 だが、私には彼女がなにかに縛られているように思えたのだ。

 彼女の親が、彼女から早く離れたがっているように見えた。

 私の家に全てのことを任せたからだ。


 良家の娘を嫁に出すというのに、そんな簡単に受け渡してよいのか、と。

 彼女はもしや、家であまり良い扱いを受けれていなかったのではないか?


「そう、ですわね。わたくしの意思はあまり入っていないかもしれません」

「なぜ反対しなかった?君は納得しないことに反論を示さないのか?」

「わかったような口を聞かないでくださる?

 わたくしにはそのような選択肢、許されていなかったのですわ」


 やはり彼女の意思は入っていなかった。

 けれど、言いすぎてしまったかもしれないな。

 何故、反対しなかった、など…

 したくてもできなかった、それが彼女なのか…


 よく見ると彼女の手にはひどい傷も残っている。

 あの傷は、水仕事をしてきた者の手だ。

 彼女はもしかしたら自分の屋敷で、冷遇されていたのかもしれない。


「そんなの、どうしようもないじゃないですの…」


 彼女の、苦しそうに出した声が聞こえてきた。

 それをどうにかしたくて、私は言葉を紡いだ。


「反論できているじゃないか。今、私に。

 君が私に反対意見を出してきたとしても、私は君を咎めることはしない。自由に意見を発して良いんだ。ソニー、君はもう一人じゃない」


 こんな言葉で彼女が救われるとは思わない。

 というか、救おうなんて思ってはいけないのかもしれない。

 彼女は自分自身の力で戦いたいのかもしれないから。


 けれど、これからは私がいることも忘れないでほしいと思ったのだ。


わたくしは一人でいなくて良いんですの?誰かと笑い合って話しても良いんですの?自由に会話をしても、良いんですの?」


 彼女は泣きながらそう言った。

 今まで辛いこともあったのだろう。

 そして誰かに相談することもできなかった。

 彼女の今までのことを全て知ることはできない。

 今のこの涙は私が止めたい。と思い彼女の手を包みこんだ。


「そうだ、君は自由に話をしてくれ。私も君と話したい。自分を偽って無理に笑うことをしなくても良いんだ」

「……はい!」


 彼女は笑った。

 泣きながらだったが、とても美しい。


「あぁ、君は笑顔の方が似合うな」

「えっ、そ、その、ありがとうございます…」


 彼女の頬がみるみるうちに赤く染まった。

 可愛い、というのはこういう感情なのだろうか?


「あの、ライトさんは他の女性にもそのようなことを?」

「いいや、君だけだ。それに私は他の女性には噂通りに接していると言っただろう」

「そ、そうでしたわね」


 私は女性とまともに接したのは、ソニーが初めてだからな。

 他の女性のことはあまり知らないが、先程のようなことは言ってはならなかったのか?


 だが、ソニーは嫌そうにしていなかったから良いだろう。


 これから先、ソニーとどうなるかは分からない。

 もしかしたら、ソニーに婚約を破棄されるかもしれない。


そんなことがあるかは分からないが、私は彼女に人の暖かさを伝えられたら。そう思わずにはいられないのだーー

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