第3話 私の境遇

「ところで、君は本当に僕との婚約に賛成していたのか?」

「賛成、もなにもわたくしの家が半ば無理やり結ばせたのでしょう?」

「無理やり、か。だが、それは君の両親の意思だけだったのではないか。と思ってな」


 そう言われてしまうと否定はできない。

 わたくしも婚約が決まったと聞かされたのはつい先日のことなのだから。


「そう、ですわね。わたくしの意思はあまり入っていないかもしれません」

「なぜ反対しなかった?君は納得しないことに反論を示さないのか?」

「わかったような口を聞かないでくださる?

 わたくしにはそのような選択肢、許されていなかったのですわ」


 つい強く言い返してしまった。

 反論できるものならしたかった。

 けれど、それをしてまた酷い目にあうのも避けたかった。


「そんなの、どうしようもないじゃないですの…」


 思わず口から出てしまった言葉。

 それはわたくしの本心。

 心からの叫び。


 そんなわたくしに彼は言う。


「反論できているじゃないか。今、私に。

 君が私に反対意見を出してきたとしても、私は君を咎めることはしない。自由に意見を発して良いんだ。ソニー、君はもう一人じゃない」


 一人じゃ、ない?

 その言葉はわたくしの心にストンっ、と入ってきた。

 ずっと一人な気がしていた。


 姉のようにはなれない。

 姉のように愛想がよくもない。

 なにもできないならせめて家事だけでもしろと、使用人まがいなことをさせられた。

 そのおかげで今では料理や洗濯もできるようになりましたわ。


 けれど、認めてはもらえなかった。

 屋敷にいる時も、どこか一人なようなそんな気がした。

 使用人は優しい人もいたけれど、わたくしに関わったからと軒並み解雇された。


 だからわたくしは誰も傷つけたくなくて、誰かと関わることも避けてきた。

 わたくしに関わることで不幸になってほしくなかったから。


わたくしは一人でいなくて良いんですの?誰かと笑い合って話しても良いんですの?自由に会話をしても、良いんですの?」


 わたくしは言葉に詰まりながら、ゆっくりと言う。

 ライトさんを困らせてしまうかもしれないのに、今は涙を止めることができない。


 彼は、そんなわたくしに近づいてきて、手をとり包み込んだ。


「そうだ、君は自由に話をしてくれ。私も君と話したい。自分を偽って無理に笑うことをしなくても良いんだ」

「……はい!」


 力いっぱい返事をして笑う。

 彼も気の抜けたように笑った。


「あぁ、君は笑顔の方が似合うな」

「えっ、そ、その、ありがとうございます…」


 わたくしは思わず赤面した。

 言われたことがないんですもの。恥ずかしいですわ…

 はっ、彼は言い慣れているのかしら?

 とても自然でしたものね…


「あの、ライトさんは他の女性にもそのようなことを?」

「いいや、君だけだ。それに私は他の女性には噂通りに接していると言っただろう」

「そ、そうでしたわね」


 思わずホッとした。

 この気持ちがなんなのかは分かりませんが、わたくしの中でなにかが芽生え始めているのは事実。


 いつか分かるようになるのでしょう。

 ですが、今はこの時間を大切にしたいと思うのですわ。

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