夏、便意、ギャル

楽々園ナタリー・ポートピア

教室からの脱出

  夏休み、うだるような暑さの教室の中で俺は過去一番の強烈な便意に襲われていた。

 この教室に先ほどまでいた英語の担当教諭は彼氏からの電話を理由に外に出ていて今頃は電話越しで惚気ている最中だろう。ズキズキと腹の底から突き刺すような痛みと排便を促すような腸の蠕動運動を理由に退室しようと席を立った瞬間、後ろから声をかけられる。


「吉田、まだ全然課題できてないのに何処行こうとしてるワケ?」


 俺の後ろの席に座っていたギャル風の女子生徒、原口が最悪のタイミングで俺を引き留める。数少ない補修仲間の原口は後ろから俺の進捗を確認しては軽口を叩いてくる趣味の持ち主で今日も俺の補習の進捗具合に目を光らせていたのだろう。こんな奴に素直にトイレに行く旨を伝えたら学年中にバラされてウンコマンのレッテルを貼られながら後の学園生活を送らなければいけなくなるのは容易に想像できる。ここは適当な嘘をついて誤魔化す事にした。


「なに、気分転換に外の空気を吸いに行こうと思ってな? こんな狭い教室に二人だけカンヅメにされてたら進むものも進まないだろう。」


 外で部活動をしている運動部員達のルーティンを確認するとまだ時刻は午前10時程だろう。憶測で時間を計っているのは昨日の時点で俺と原口がふざけてロッカーの掃除用具で野球をしていたら教室の時計を壊してしまったからだ。そんな大暴投をかました原口が一人だけ外に出ようとする俺の肩を掴んで外に出るのを制止する。


「じゃあアタシにも外に出る権利はあるじゃん、一緒に気分転換しようよ。 せっかくだし廊下の自販機までダッシュで走って先に着いた方に遅れた方がジュース奢るのはどうよ?」


 いつものコンディションなら余裕で小娘一人ぶっちぎれる位の余裕はあるのだが生憎今日は腹の具合が悪過ぎて走れそうもない。承諾する間もなく早速原口がドアに手をかけ外に出ようとする―――が、ドアが開かない。不思議そうに原口が俺の顔を見上げる。


「なんかドア開かないんですけど!? どうなってんのマジ意味わかんない!」


 原口がドアを開けようとするも中々開かないので俺も試しにドアを開こうと手をかけるもビクともしない。このままドアが開かなければ俺は一番見られたくない相手に脱糞する様子を見られなければならない事になるがそれだけは避けたい。緊急手段として俺はとりあえず教室にあった机をドアに思い切りぶん投げた―――が、机はドアに跳ね返されて反対側の窓ガラスにぶち当たるも同じように跳ね返されて机と椅子の群れを巻き込んでドミノ倒しのように崩れていった。その様子にびっくりした原口が抗議の声を上げる。


「ちょっと! いきなり机投げるのはナシじゃん! 前もって声かけてよ!」


 流石の原口もいきなり机を投げられるのには堪えたようで少ししおらしくなっているがこれぐらいが丁度いい。しかし机を投げつけても窓ガラスすら割れないのは異常だ。俺はこの状況を解決するために何か手がかりになるものは無いかと教室内を探すことにした。原口にも手伝ってもらおうと思ったが先ほどから元気が無くなっているのか部屋の隅で大人しくしているので一人で探索する。


  痛む腹を抱えながら教室を探索していると段々と便意が高まってギュルギュルとした腹の音やキリキリとした痛みが隠しきれなくなって脂汗が額から滲み出てくる。流石に見た目で分かるぐらいの体調不良に原口も親身になって心配をしてくれるようになった。


「なんか体調悪いみたいだけどお腹とか痛い? アタシ整腸剤持ってるけど要る?」


 普段からは想像もつかない位に優しくしてくれる原口の好意を受け取ると整腸剤を受け取って少し横になろうとした瞬間、教室が傾き始め机や椅子が窓ガラスの方に向かって雪崩れていく。部屋の動きに連動して俺達も窓ガラスに叩きつけられるがそれでも窓ガラスはヒビ一つ入らずに俺達と机や椅子を支え続けている。現実ではあり得ない超常現象の連続に原口も泣きそうな表情で床になった窓ガラスの上で地団駄を踏む。


「もうヤダ!!! 何がどうなってるか分かんないしとにかくお家に帰りたい!!!」


 俺もこの状況が解決すれば今すぐトイレに駆け込みたい。真っ白な便座に腰かけて思いっきり腹の中に巣食う邪悪な排泄物を放出して楽になってしまいたい。トイレの事を考える度に腹の音や痛みが強まって便意が限界に到達しようとしていた。呻きながら寝返りを打てばその方向に教室が傾いて今度はドア側の壁が床になって身体が叩きつけられる。原口もとうとうメンタルの限界が来たのかワッと泣き出すかと思えば俺の方に向かってきてポカポカと両手で握りこぶしを作って殴り掛かる。


「なんで吉田と折角一緒の補習になったのに変な事に巻き込まれるん!? このまま吉田と一緒にいたいと思ったのがいけなかったの!?」


 え?コイツずっと俺にちょっかい出してきたりしてきたのは俺の事が好きだったって事なのか? こんな状況じゃなかったら嬉しい事実だが今はそんな事を言っている場合ではない。一刻も早くこの状況から抜け出して原口に告白しないと俺は一生彼女が出来ないかもしれない。そんな事を思っていると腹痛が我慢の限界を超える。


「原口、もう俺はダメかもしれない。 最後のお願いがある。」


 深刻な表情で原口に話を切り出すと俺は原口の目を見ながら続ける。


「今朝から滅茶苦茶腹の具合が悪くてもう限界だから俺はここで大きい方をする。」


 原口の顔が泣き顔から笑い顔になると馬鹿みたいな大声で爆笑する。


「学校でウンコ! しかも教室でウンコ漏らすとかウンコマンじゃん! ウケる!!!」


 コイツさっきまで泣いてたのにウンコで爆笑するとか小学生か? ともかくウンコマンの謗りを受けながらも限界が来ていた便意を開放するために尻を出すと全力で力む。限界を迎えていた為、スルスルと排泄物が出ると思っていたが力んでも途中で引っ掛かる感覚が肛門周りに激痛と共に走る。俺は原口に助けを求める。


「原口、俺のアナルから出てきたものを引き抜いてくれ!」


 一瞬何を言われたのか分からなかった原口が俺の尻を見るとどう見ても自力で排泄できなさそうな四角く角ばったモノを見て納得した。


「ウンコ引く抜くとかありえないんですけど! でもコレはヤバイっしょ、流石に引く抜くわ……… よいしょっと!」


 原口が両手で四角いモノを引っ張るとアナルに激痛が走るも腹痛の原因はどうやらソレのようで引っ張られて外に出る度に腹痛を伴う脱糞特有の解放感が満たされていくのが分かる。なるべく早く尻からひり出す為に俺も徐々に四つん這いの状態で這いつくばって前進する。ズルズルと全貌を現したそれは弁当箱位のサイズでどうやって俺の腹に収まっていたのか不思議な位の代物だった。全てを引き抜いた俺は原口からソレを受け取ると蓋を開けて中身を改める。


  箱の中身は精巧に作られた教室のミニチュアで中にいる俺達も作りこまれていた。ミニチュアを傾ければ中の机や椅子、俺達も傾いているのでどうやらこのミニチュアと教室の動きは連動しているらしい。もしやと思い、ミニチュアの教室のドアを開くとさっきまで開かなかったドアがガラガラと開いて俺達はようやく教室から脱出する事が出来た。


教室から出た俺達は廊下にある自販機に向かうと原口の分もジュースを買うと原口に手渡した。お互いに無言でジュースを一口二口飲むと俺の方からさっきの話の続きを切り出す。


「さっきの話だけど俺も原口と補習できてよかったって思ってたから俺達付き合わないか?」


 俺の言葉を聞いた原口はしばらくジュースを飲みながら顔を赤らめていたが急にローキックで俺の膝を的確に撃ちぬいた。


「バーカ! 誰がウンコマンなんかと付き合うかよ! 今日の事、学校の皆にバラされたくなかったら浮気すんなよウンコマン?」


 こうして俺ことウンコマンは無事に不思議な空間から抜け出して彼女も出来た。だが英語の補習はお盆まで続きそうだ。

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夏、便意、ギャル 楽々園ナタリー・ポートピア @natalie_raku2en

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