第5話

「それにしても、さっきのは、なんだったんだ?」


 ルイスは、ネバールの二人が出て行った方に視線を向けながら首を傾げた。


「僕たちの偽物にせものかもって思ったのですが、彼らは僕たちのことは知らなかったように見えました。おそらく偶然名前が似ているだけなのでしょうね?」

「そうだよなぁ。でも、なんか疲れたな」


 ルイスはテーブルに突っ伏すと深いため息をついた。


「そうですね……」


 ティトも疲れたように頷いた。

 そして、二人で顔を見合わせると破顔はがんした。


「ぷっ。ははははは」

「あははははは」


 一度笑い出すと、我慢できなくなったのか腹をかかえて笑い始めた。


「そういえば。あいつら、予告状のことも盛大な勘違いをしていたようだが、大丈夫だろうか?」


 ルイスはルードの言葉を思い出す。完全に思い違いをしているようだった。


「そういえば、彼ら行くって言っていましたね」

「ああ、言ってたな……」




「やつら、どこへ行くって言っていた?」


 ルイスとティトは、はっとして目を見開く。


「「シュトラウスのことろか!?」」


 二人は同時に声をあげた。

 そして、慌てて立ち上がる。


「ティト、飯は後だ。俺達もいくぞ」


 そう言うと、テーブルに金貨を1枚置いて飛び出した。すぐ後をティトが続く。




 そして、二人が訪れたのはシュトラウス伯爵の屋敷ではなく、先ほどまでいた灯台だった。


 今、ルイスとティトは夕日を背に街を見下ろしている。遠見筒スコープを覗き込んで、ネバールの二人を探しているのだ。


「どうだ? やつらは見つかったか?」

「いえ、まだ伯爵の屋敷には現れていないようです。どこにも見当たりません」


 ルイスが聞くと、ティトはふるふると首を横に振った。


「うーん。こいつ、拡大して見えるのはいいんだが、範囲が狭いんだよな」


 ルイスはそう言うと、遠見筒スコープから目を離した。


 小さな街だ。

 遠見筒スコープ無しでも、街の隅々まで見渡せる。さすがに人々の顔までは判別できないが、不信な動きをしていれば分かるだろう。


「おっ」


 そのルイスの目が、ある一点で止まった。

 シュトラウス伯爵の屋敷に近い二階建ての屋根の上。そこに、赤っぽい髪をした二人の姿を見つけた。


「ティト、屋敷の右。二階建ての屋根の上だ」


 言われた方向にティトは遠見筒スコープを向ける。


「いました。先ほどの二人です」


 それは確かに傭兵ギルドの酒場にいたルードとテッドの二人だった。

 屋根の上からシュトラウス伯爵の屋敷をうかがっているように見える。


「あの二人、本当に伯爵家に入ろうとしているみたいですね」


 彼らがいる屋根から道を挟んで反対側、そこはもうシュトラウス伯爵家の敷地内だった。

 高いへいで囲まれた屋敷だが、そのへいは彼らがいる屋根よりは低い。


「まじか? あの屋根からだとけっこう距離があるぞ」


 道幅は10メートル以上はありそうで、ルイスなら飛び越えられるが、かなりの身体能力が必要だろう。

 ティトなら躊躇ちゅうちょしそうな距離だった。


 助走をつけようとしているのか、伯爵の屋敷から離れるように後ずさる二人。


「やっぱり跳ぶつもりみたいですね」

「ああ、こうなったら奴らのお手並み拝見といこうじゃないか」


 そう言うとルイスとティトは、もう一度、遠見筒スコープを覗き込んだ。

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