第3話

 翌日、ルイスとティトは、海に面した崖の上に、せり出すように建っている灯台にいた。

 この街で一番高い場所。

 ここからなら、ニーズベルクの街全体を見渡すことが出来る。


 彼らが見ているのは、この街の領主であるシュトラウス伯爵の屋敷だ。



 ここに来る前に、二人は伯爵の屋敷に予告状を置いてきた。



 予告状にはこう書いてある。

『今夜、貴殿が無理やり召し上げた氷の魔槍ジーリアスを頂きに参上する 怪盗ナバーロ』


 シュトラウス伯爵家の敷地内に忍び込み、その正面玄関に貼り付けて来たのだ。


「どうだ? 動きはあったか?」


 ルイスはシュトラウス伯爵の屋敷を見下ろしながら、隣で遠見筒スコープを覗き込むティトに聞く。


「あまり動きはありませんね。正面玄関に貼り付けた予告状はがされていますから、予告状には気づいているはずなんですけどね」


 ティトの身長ほどもある、異様に長い魔銃、長距離射撃用魔銃アキュラス。その照準をにな遠見筒スコープを覗き込んだままティトは答えた。


「普通はもうちょっと慌ててくれるんだけどな。シュトラウス伯爵は、他の貧弱貴族とは違うってことかな」


 ルイスは興味深そうに、細い目をさらに細めた。


「たしか、当主のニック・シュトラウスは、武勇ぶゆうで名をせた貴族だったな」

「そう言えば、そのシュトラウス伯爵はどこにいるのでしょう? 屋敷の中には見当たりませんが……あっ、あれかな?」



 ふらふらと探るように動いていたティトの遠見筒スコープが、ある一点をとらえて停止する。

 屋敷の中庭にある練兵場だ。

 そこに映ったのは、の部分に複雑な装飾を施された槍を持つ、壮年の男だった。

 金糸をふんだんに使った豪奢ごうしゃ戦闘位バトルクロスを身にまとっている。ひと目見ただけで、地位の高い人物だと分かった。


「何か見つけたか?」


 ルイスは、シュトラウス伯爵の屋敷から目を離して、隣のティトへと視線を向ける。


「はい。おそらく『氷の魔槍ジーリアス』と思われる武器を見つけました。それと、シュトラウス伯爵本人も」

「ほぅ。どこだ?」

「屋敷の前にある練兵場です」


 ルイスは、自分の遠見筒スコープを覗き込んだ。ティトの持つそれには性能面で遠く及ばないが、それなりに拡大して見ることが出来る。


 そこには、ひと目で価値のありそうだと分かる槍を肩に担いだ、シュトラウス伯爵らしき人物がいた。

 しかも周囲には、騎士や兵士が何人もが集まっている。


「なるほどな。伯爵自らが槍をもって、俺達を迎え撃つつもりだろう。おおかた、『俺の槍で返り討ちにしてやる』とか言ってるんじゃねぇか?」

「そうなのでしょうね。でも、そうなるとニック・シュトラウス本人から、あの槍を奪い取るしかないかもしれません」


 ティトは、遠見筒スコープを覗き込みながら眉根を寄せた。


「ふっ、おもしろいじゃねぇか。俺が直接行って奪い取ってやるよ。あの貴族、少しは骨がありそうだしな」


 そう言ってルイスは口の端をあげるとニヤリと笑った。


「じゃ、もう行きますか?」

「いや、まだ予告した夜までにはだいぶ時間があるし、飯でも食ってからにしようぜ」


 ルイスは空を見上げると、歯を見せて笑った。




 

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