2‐2 配送者の呟き②
カナタたちの行く先に見えるのは、かつての帝国の象徴である巨大建造物。
それらは一般的な住居であったと言う。
今となっては信じられないが、人々の多くはこの様な建造物の一部を住処としていたという。
むしろ低層だが広い敷地の館を持つことが上流階級の特権だったと言う。
これらの無数に立つ廃虚の合間を縫う形で道は作られており、その中央に都市国家、ケルンステンは存在していた。
そのケルンステンへカナタ達は入国する。
入国に審査は必要だが、物流運搬業者は専用の身分証明が有れば、手続きは簡略化される。
その入国審査所の窓口。
カナタの担当となったのは年若い騎士だった。
「身分証明証も正当ですね。 ようこそ我が王国へ。」
律義にひと通りチェックをした上で、平民であるカナタにも丁寧な口調と笑顔で対応した。
「ありがとう騎士様。 でも一人一人にそんな対応していたら疲れない?」
そんな騎士に親近感が湧いたカナタは少し雑談してみることにした。
ウルィはすでに審査が終わっており、他に審査待ちはいない。
騎士も同じ事を考えたのか、一瞬入口の方を見るとすぐにカナタへ視線を戻した。
「物流業者は人々の生活の生命線ですから、身分の貴賎関係なく丁重にもてなすべきものだと心得ております。」
「面と向かってそう言われるとなんだかんだむず痒いですが、素晴らしいお考えだと思います。」
改めてカナタは深々と頭をさげる。
礼をもって対応されたら、同じだけの礼を示せと、かつて言われた事を思い出した。
「ああ、そう言えばあなたは機装をお持ちでしたね。」
改めて騎士が持ち込み荷物のリストを見ながら付け加える。
「はい。 馬車などの駐車場に駐めておく予定です。」
「なら問題ないと思いますが、近衛騎士団にはあまり近づかない方が良いと思いますよ。」
騎士は奥歯に物の詰まったような遠回しな忠告をする。
「なぜです?」
カナタは思わず問いかける。
「彼らはプライドが高く、特に機装の扱いについては自信を持っていまして……。」
そこでカナタもなんとなく気が付いた。
要は騎士でもない者が機装を使うことが気に食わないのだろう。
その上、荷運び用などと知ったら……。
「なんとなく理解しました。 十分に注意するようにいたします。 それでは!」
あまり深追いしても面白いことにならなそうなので、カナタはあいさつを返しその場を後にした。
「ずいぶん遅かったじゃないか。」
先に審査所を出ていたウルィが待っていた。
街に着いたら隊商は解散なので、すぐにでも荷下ろしに行くと思っていたカナタは少し驚いた。
「そんな驚くなって。 俺もそれなりに義理堅いところを見せねえとなって。」
いけしゃあしゃあとそんなことを言うウルィ。
その態度に思わず固まるカナタとキャリー。
「……。 義理堅いとか自分で言うかな。」
「カナタ。 私は彼を信頼しない方が良いかと……。」
この数日、すっかりと打ち解けたらしくウルィがおやじギャグを飛ばし、カナタとキャリーから辛辣な言葉が返ってくるのが日常と化していた。
「キャリーもそんな機装だからって、
キャリーの肘の辺りをバシバシはたきながら笑うウルィ。
対応に困ったように視線をカナタに向けたが、すでにあさっての方向を見ている。
我関せずとばかりに面倒くさいことには関わるつもりはないらしい。
半ば諦めたようにキャリーの視覚センサーが明滅した。
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