第2章 配送者の呟き

2‐1 配送者の呟き①

 かつて人々は機械を操り世界を統べていた。

 一つの帝国のもと世界は統治されており、その支配は深海から空の果てまで手を伸ばさん勢いだった。

 しかし、そんな帝国にも終焉がやってくる。

 魔王と呼ばれる存在の出現。

 魔王の容姿については今日に至るまではっきりとしていない。

 しかし少なくとも魔物と呼ばれる存在を率いることができた。

 魔王はその魔物たちの軍を組織し人類に牙を向いたのだった。

 当初こそすぐに鎮圧されると思われた魔王軍の侵攻。

 しかし、魔物とは魔王の魔力を受けることで既存の生物が変化するこで誕生する存在だった。

 つまり、魔王が進軍を続ける限り魔物は増えていくことになった。

 それに気がついた時にはすでに無数の魔物が世にはびこり、世界の一部が魔王の所領と化していた。

 以降、魔王は自領内で魔物を増やし、それらを進軍させる方法へと方針を変えていく。

 圧倒的な魔物の前に既存の兵器では刃が立たず帝国は次第に縮小していき、ついには魔王による帝都襲撃時に、皇帝は討ち取られ帝国は消滅した。

 その後も魔王軍に対し、人類は散発的な抵抗をみせるも多勢に無勢と蹂躙される日々が続いた。


 ついに人類の領域も数える程度となった時、一人の英雄が現れた。

 魔王と同じくその姿も名も後世に伝えていない英雄は、魔王に対抗する技術として新たな体系の魔術を習得しており、それらを応用した武器兵器を用意していった。

 その中で開発された物が機装ゴーレムである。

 「大気中の魔素マナ」と「生物が有する魔力オド」により稼働する機装は、非力な人間に魔物と戦うに十分な力を与えた。

 特に優れた機装の性能は竜種ドラゴンに匹敵しており、魔王に対抗するために創られた新たな国家には、国を守護するべく強力な機装が用意され、王家に連なる者はこの機装を使い民を守ることで、支配者であることを示していた。

 そのため、いつしか最上級の機装はかつて帝国の守護の象徴である宝剣をも超えた、新たなる人類守護の存在として『聖剣』と呼ばれることになる。

 そして英雄も国家群から一振りいっきの聖剣を与えられ、信頼する仲間とともに魔王の居城へ進軍していった。

 結果、魔王討伐は達成した。

 しかし、魔王の元から帰還できた者はごくわずかであり、旅の途中で聖剣を失った英雄もまた帰らなかった。

 世界は平和を取り戻したと誰もが信じていた。

 しかし、その後も混乱は続く。

 魔王が討たれたとは言え、その配下の魔物たちは健在であり、それらとの戦いは続いた。

 そして、さらに別の問題も発生した。

 魔物が数を減らすと時を同じくして、別種の脅威が姿を表す。

 魔物と似て非なるもの怪物ケモノ

 魔物が魔力を糧に生きるのに対し、怪物は各種栄養を経口摂取する。

 つまり魔物はあくまで魔王が仕向けない限り人間を襲うことはなかったが、怪物は積極的に他の生物を狩りに来るのだ。

 各国は守りを固めるため騎士団を再編し、機装の配備を急がせた。

 また各町、国家間の交易は既存の旅商人ではなく、危険な荒野を渡り歩く専門の業者が現れた。

 彼らは世界の流通の担い手として、『物流運搬業者ロジスティクス』と呼ばれた。

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