2‐3 配送者の呟き③
カナタとウルィが再び落ち合ったのは夕方。
互いに配送物を届け終わった後であった。
そこは街の中央地区の外れにある酒場。
商人や労働者だけでなく外部から来る物流配送業者、果ては一部の物好きな騎士や貴族も通う酒場である。
言うなればこの街の情報が集積所の様なところであった。
店内では多くの人々は顔見知り同士でグループを作り飲み食いしている。
だいたいは近い年齢で集まっているため、カナタとウルィは否が応にも目立っていた。
「やっぱりもっと小さな店にしたほうがいいんじゃない?」
周囲の好奇な視線に居心が地悪そうにささやくカナタ。
対するウルィは別段気にした風でもなく目の前のカップに注がれた酒をあおる。
「気にしなさんな。 この国はあまり遠方から来る配送業者がいないんだ。」
だからどんな組み合わせでも同じ目で見られると言いながら、つまみの乾燥豆を口に放り込む。
訝しげな視線をウルィに向けつつカナタも自分の前にあるカップの中身を口にする。
その口当たりに妙な違和感。 ……これって!
「ちょっと、なに頼んだのよ!」
思わず声を荒げるカナタ。
そんな風に見られていたなんて心外だ!
一人前の配送業者だから隊商を組んだのではないのか?
「なんで、わたしのカップには果実水が入っているのよ!」
せっかくの仕事上がりの楽しみを台無しにされた怒りをカナタはこれでもかと吐き出す。
一方、怒鳴られたウルィはと言えば、鳩が豆鉄砲を食らったような表情でいた。
「えっ……おまえさん。 もしかして成人していたのか?」
恐る恐る聞いてくるウルィに、カナタはさらに噛みつく。
「当然でしょ! 何年配送業やっていると思っているのよ。」
「ああ、そうなのか? なら悪い事したなぁ。」
驚きつつもそれほど悪いと思っていない口調で返すウルィ。
その両手をあわせて頭をテーブルに擦り付ける様な謝罪スタイルは、バカにされているようではある。
しかしその姿はこれ以上は怒りづらい滑稽さがある。
「まぁ、いいわ。 成人してるって言わなかったわたしも悪いし。」
ふてくされながら椅子に座り直したカナタだが、顔だけはウルィにあわせないよう横を向いている。
「俺も成人だと知っていれば、無用な気遣いはしなかったんだが……。」
「だがなによ。」
「いや、止めておくわ。 これ以上怒らせてもなんの特にもならんし。」
「はいはい。 どーせわたしは背も低いしお子様体型の童顔ですよ。」
「俺はそこまで言ってないぞ!?」
暴走気味になっているカナタの自虐に思わずツッコミが入る。
「とりあえず、大人だと分かったらそれなりの扱いしてよね。」
言うだけ言って気が済んだのか、カナタはテーブルの上の料理を黙々と食べ始める。
「失礼ついでにい一つ聞いていいか。」
しばらくカナタの食べっぷりを見ていたウルィがポツリと問いかけた。
「えっ!? まあいいけど。」
既に空腹を満たす程度には食べていたカナタは突然の問いに驚きながら返事を返す。
「大したことじゃないんだが、なんで物流配送なんて始めようと思ったんだ? 最初から
ウルィが出会った頃から気になったことを口にした。
実際、女性の個人の物流配送業者は珍しい。
その理由は単純に重労働であるからだ。
だからこそ、カナタに事情があると踏んでの問いである。
「確かにキャリー君と出会ったのは仕事を始めてから。」
カナタも考えながら、まずは当たり障りのない部分に答える。
数日間隊商を組んだ中とは言え、どこまで話していいか考えていた。
「ん~、この程度までならいいか。」
小さくつぶやくとカナタは話しだした。
「わたしが物流配送を始めた理由はいくつかあるけど、その一つが世界を見て回りたいってとこ。 今どき冒険者ってご時世でもないし。」
両手を上げておどけたポーズで語るカナタ。
「それだけの理由って訳ではないみたいだな。」
じっとカナタを見つめながらウルィも独り言のようにつぶやく。
暗に言いたくなければ、それで良いという合図だった。
しかし、カナタはそこから話を続けた。
「後は人探し。 ちょっと事情があって会いたい人がいるんだけど、その人については名前くらいしか知らないのよ。」
見つからなくて困っていることを思い出したのか、最後は少し頬を膨らませながら言った。
「よく分からない相手を探しているのか? それは難儀だな。」
「この際だからウルィにも聞くけど、造影魔術師のオーギュストって人を知らない?」
オーギュストと言う名前を聞いた時、ウルィの右眉が少し跳ねる。
心当たりがあるようにウルィが無精ひげが生えた顎をさする。
「おまえさんの探している人物かは分からないが、少なくともオーギュストって名前の魔術師なら心当たりはあるぜ。」
「えっ、本当に知っているの!?」
予想外のウルィの回答に驚きながらも話をせがむカナタ。
「知っていると言うか、この国の宮廷魔術師がオーギュストって名前なんだよ。」
そこまで言うと、ウルィは自分のカップの中の酒を喉へ流し込んだ。
「でだ、明日に俺は次の依頼人のところに行くんだが……。」
もったいぶるように言葉をつむぐ。
「依頼人はこの国の王女様だ。」
「もしかして……」
「しなくても、打ち合わせの場に宮廷魔術師が出てくる。 何せ先王は先日に急逝してるから姫様の後見となっているからな。」
そこまで言うとニヤリと口を歪ませるウルィ。
「ならウルィが確かめてくれるの?」
おずおずと聞き返すカナタ。
「相手の姿は分からないんだろ? 俺じゃ確認しょうもない。」
ウルィはカナタの希望をにべもなく否定する。
「じゃあ、なんでこんな話したのよ!」
ウルィの意図が分からず語気が荒くなる。
「つまりだよ。 また俺と組まないかって話だ。」
想定外の提案にカナタは一瞬、言葉をつむげなかった。
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