0‐2 明け方の夢②

 彼は朽ち果てる運命さだめにあった。

 ただ一人、自らの乗り手と定めた相手から告げられた別れ。

 それは彼を機械仕掛けの人形ではなく、感情ある仲間として主人が下した選択。

 仲間として扱ってもらえるのはありがたかった。

 だが例えどの様な困難な任務であっても主人とともに有り、主人を助けてこそ存在意義がある。

 当然、別れの直前に彼が損傷した事は彼自身が十分認識していた。

 自動修復を待っていては、この先の戦いについていく事はかなわない。

 だからこそ、彼の主人は苦渋の選択をしたのだ。

 主人と分かれた彼はその場で動くのを止め、自動修復に専念した。

 修復完了後も休眠状態を維持した。

 わずかに残った意識もこのまま朽ち果てる事を是とした。

 それから長い時間が過ぎる。

 残念なことに彼はまだ朽ち果てられずにいた。

 そもそも、自身が朽ち果てていないことを認識しているということは、休眠状態が解除されているとうい事だ。

(誰かに起こされた?)

 覚醒しつつある意識が思考を始める。

 その事に気がついた彼は少し視界を回復させる。

 眼の前には褐色の肌を持つ見知らぬ少女が座っている。

 少女の瞳は物珍しそうに彼を見つめている。

 彼は発声機能を回復させ、主人と分かれて以来の言葉を発する。

アナタハダレデスカあなたは誰ですか?」

 何か変なイントネーションに聞こえたのか、少女は首をかしげる。

「スミマセン。 ナガイキカンネムッテイタノデ、フルイイイマワシニナッテイルカモシレマセン。」

 ようやく、理解できたのか少女は笑みを浮かべる。

「初めまして。 わたしは『カナタ』だよ。 あなたの名前は?」

 その少女、カナタは朗らかに答える。

「ワタシハきゃりー。」

 キャリーが返す。

「あなた、この場にいると朽ち果ててしまうわよ?」

 カナタはキャリーに語りかける。

 朽ち果てても構わないと考えていた彼であるが、そのまま伝えていいのか疑問が浮かんだ。

「アナタニオコサレルマデハ、ソレデカマワナイトオモッテイマシタ。」

 遠回しな言い方になったが、これで通じるだろうと考えるキャリー。

「なら、わたしに会って考えが変わったってことよね。」

 強引とも言えるカナタの言い分に困惑したが、その後二人で話しを続けた結果、キャリーはカナタについていくことにした。

 彼女が求めているものが、自分と同じかもしれないと思ったからだ。

 この時代において名もなき『英雄』として語られるかつての主人。

 彼と出会った時、カナタはどうするのだろうか。

 待機状態を解除した時はいつもその事がよぎる。

 だが、今はカナタと供に歩んでいこう。

 いつか答えが得られるその日まで。

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