第9話 罵られるよりも慣れないコト

「あの、でも私は見初められるほど可愛くもないですし」

「そーかなぁ。髪の色も瞳の色も素敵だし、何より美味しそうだょ」

「美味しそう⁉ えええ、食べられちゃうんですか!」


 魔塔ってもしかして、そういうとこなの? 実験とか、いろんなことするために私がいいって言われてるとか?


 そういう褒め方なら、なんとなく分かるかもしれないけど嬉しくないわ。


「ああ、飴みたいに綺麗って意味で」

「あ、飴? 飴ってあのお菓子のですか?」

「そう。キラキラしてて、甘くて美味しいの」

「私美味しくないです」

「みたい~って意味だったんだけど」


 クスクスとドラゴンが笑い出しても、その声に嫌味は感じられない。むしろ純粋に楽しんでいるような声だ。


「からかったんですか?」

「あははは。そういうわけじゃないけど。でも君が魅力的なのはボクにも分かるよ。いろーんな意味で、ね」

「いろんな意味?」

「まぁ、求婚したのはボクじゃないし、ゆっくりザインから聞けばいいょ」


 ゆっくり聞くって説明ならいいけど、この流れだとそういう意味ではないことは鈍感な私でもなんとなく分かる。

 褒められられてないのもあって、こういう時にどんな顔をしていいのか分からないわ。


 聞いていたコトと今起きてることが真逆すぎて全然頭が追い付かない。罵られるよりも褒められたりさせることって、難しいのね。


「そうそうボクはフレイだょ。これからよろしくね」


 フレイはそう言うと、尻尾をちょこんと私の方に向ける。ドラゴンって握手を尻尾でするのね。


「マーガレットです。こちらこそよろしくお願いします」


 私はそっとフレイの尻尾に触れた。ドラゴンというより、その感触はぬいぐるみそのものであり、思わずフニフニしてしまう。


 あああ、感触が柔らかい。見た目そのものね。

 んと、これはどうなっているのかしら。ドラゴンなのにぬいぐるみって、変化の魔法とか何かなのかな。


 でもそれにしても本物のぬいぐるみそっくりだし。ああでも、変化を解いたら大きくなったりするのかな。

 その時触らせてもらったら、ちゃんとドラゴンっぽいのかしら。鱗とかもあるのかな。


 ちゃんとっていっても、触ったことはないからどうなのだろう。イメージとしては固くて冷たいって感じではあるけど。


「そんなにボクが気に入った?」

「あああ、すみません。あんまりふんわりしていたので、つい」


 何てことしたの私。ただの握手なのに、随分長い間、許可もなくフニフニしてしまうなんて。気が緩むにしても、これはあんまりだわ。


「マーガレットに触られるのは気持ちいからいいよ。でも、特別なんだからね」

「と、特別なのですね。すみません」

「そうそう謝らなくても大丈夫だって」

「あああ、すみません」

「ほらまた」


 そう言われても習慣づいていることは、中々やめられないのよね。でも普通の貴族令嬢としては、少しおかしいわよね。魔塔へ行っても笑われないように気を付けないと。


「魔塔のみんなも君を歓迎しているから、今からそんなに緊張しなくても大丈夫だよ」


 フレイに心の中を見透かされた気分だった。


 ドラゴンって不思議な生き物だから、そういう能力もあるのかしら。でもだとしたら、今まで考えてきたことが筒抜けてるって恥ずかしすぎるわ。


「マーガレット、君は楽しいね。本当にコロコロ変わるんだもの」

「えええ、そんなに表情変わってました?」


 基本的にそんなに顔になんて出ないはずなのに。心の中じゃなくて表情だったなんて。

 もーーーー。お嫁に行けない……、今からそこに向かってるのよね。あああ、もう。今日はびっくりするくらいボロボロだわ。


 自分でも初めて感じる感覚と、熱くなる顔を手で覆いながら叫びそうになる気持ちをぐっと押し込めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る