第4話 可愛い娘と可愛げのない娘

「まったく、あなたのためを思って言ってあげているのになんて可愛げのない子なのかしら」

「お母さま、そんなこと言ったらお姉さまが可哀想ですよ」

「本当に優しいのねフリージアは。あんなひどいことを言った姉でも庇ってあげるなんて」

「ふふふ。だってお姉さまだってアレでも努力なさってるわけですしぃ」


 ひどいこと、ね。母はあれだけのことを私に言っているのに、ほんの少しもひどいとは思わないのよね。私には逆にそれが不思議に思えて仕方ない。


「努力の方法がおかしいのよ。気遣いも出来なければ、美しさもないなんて。ああ、なんでこうも姉妹で違うのかしら」

「誰に……似てしまったのですかねぇ」

「本当よ。コレがわたしの娘だなんて恥でしかないわ。とっとと、お父様には嫁ぎ先を決めてきてもらわないと」

「この国でそんな奇特な方がいるかしら」


 別に私が婚姻を望んでいるわけでもないのに、酷い言い様だ。二人はクスクスと口元を抑えて笑いながら、私を見下していた。


 ある意味こんなことが日課な気がする。別に母たちは何かがしたいわけでも、本当に用事があるわけでもない。

 だた私になにかを言いたいだけ。


「もしいなければ他国の方でも、商人でも、後妻でも考えないといけないわね」

「まぁ、そんなの恐ろしいですわ」


 フリージアはわざとらしく身震いすると、自分の体をその白く長い手で抱えた。


 そんな恐ろしいと思うことを私に平気で押し付けようとするなんて、その考えの方が私には恐ろしいわよ。


 ただそうは思っても、私はそれを口にすることはない。

 だってもしそんな反論を口にすれば、余計に大変なことになることなど分かっているから。面倒くさいことになるくらいなら、黙っていた方がマシ。


 それがこの家で生まれて生きていくうえで、一番に学んだことだった。


「まったくホントに妹とは大違いね。さぁ、とっとと屋敷を回ってきなさい」

「……はい、お母様」

「はぁ。そんな暗い顔をして。シャキッとしないさい、シャキッと。全部あなたのためなのだからね! 分かってるのマーガレット」

「……はい」


 私は母たちに頭を下げると、二人の脇をすり抜け階段を下りた。そしてそのままキッチンを抜けて、庭へと出る。


 外の日差しは強かったものの、屋敷の中の詰まるような空気と違い、すがすがしい。あの本の中のような高い空が心を軽くさせてくれた。


 そして私はお気に入りの大きな大木の後ろに座り込むと、その幹の下に隠した本を開いた。


 背表紙もボロボロになった、何度も読み返してきたお気に入りの冒険書。私は本に背をあずけ、ゆっくりと世界に入り込む。


 『あなたのため』そう繰り返されるトゲすら、私の心の中から全て消えて行った。

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