第3話 あなたのためというトゲ

「あなたねぇ、朝一番に終わったのなら次は何かないのか。他には手伝うことはないのか。自分から声をかけるのが普通でしょう」

「……すみません」

「わたしはあなたのためを思って言っているのよ!」

「……はい」

「そんな気遣いが出来ずにどうするの! だから十八にもなって嫁ぎ先すら決まらないのよ」


 嫁ぎ先が決まらないのは、何も私だけのせいではない。確かに婚姻には積極的ではないけど、結婚は所詮家と家との繋がり。


 私一人が夜会などで躍起になったところで、何の意味もないことぐらい分かっているはずなのに。それでもその事実は、母が私を責める理由にはもってこいだった。


「それでなにか用事でもあったのですか?」

「それを自分の眼で見て見つけるのも仕事のうちでしょう。嫁ぎ先では甘やかしてなんてもらえないのよ?」


 つまり、特に何かあるわけでもないけど、部屋で私がグダグダしていたことが気に食わなかったというだけなのね。

 もちろんそんな気はしていたけど、こうやって面と向かってソレを言われると、私でもキツイものがある。


 私は使用人でもないのに、この屋敷中を練り歩いて仕事を探せということなのね。でもそんなことを毎日していたら、私の時間はどこにあるというのかしら。


 ちゃんと頼まれた仕事を終わらせた時点で、自分の時間を自由にしていたっていいと思うのに。母は私が自由に過ごすこと、特に本を読むことが嫌いみたい。


 昔からそうなのよね。そんなに本を読むのがいけないことなのかしら。貴族令嬢の趣味としては、別におかしくなんてないと思うのだけど。


「……はい、分かりました」

「分かればいいのよ、分かれば。これも全部全てあなたのためなのですからね。これからはキチンとしなさい」


「ではお母様、フリージアはどうなのです?」

「どうしてそこでこのフリージアが出てくるの?」

「だってそうでしょう? お母様は私の言って下さっているのだから、フリージアのためにも同じようにした方が良いのではないですか?」


 私の言葉に妹は一瞬目を大きく見開いたあと、クスリとほほ笑んだ。


「アタシは大丈夫ですよ、お姉さま。お姉さまよりも要領も器量も良いですし。それに、アタシは嫁ぐのではなくお婿さんを迎えるのですから」

「ええそうね。フリージアの言う通りだわ。マーガレット、あなたは妹の心配などせず、まずは一番に自分の心配をしなさい!」


 別に親切心から妹の心配をしたつもりもない。母たちの答えだって、分かっていたもの。だから今更なにを言われたって傷つきもしないわ。


 大丈夫。私はまだ大丈夫。

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