第2話 似ているのは姿だけ
「マーガレット! マーガレット‼」
屋敷中に響き渡るのではないかと思えるくらいの大きな母の声が、私の世界に入り込んできた。私はそのなんとも残念な声で、ふわふわとした夢の国から現実へと意識が引き戻される。
色鮮やかな草原も、天高い雲も全てが消えうせ、そこにあるのはただ木製の天蓋だった。
「はぁ。また、なのね」
私は深くため息をつくと持っていた本を置き、立ち上がる。幸せだったところから急激に引き戻された体は気怠く重い。
まるであの空の雲が色を変え、伸し掛かって来るかのように思えた。
「マーガレット! 呼んでいるでしょう! にいるならちゃんと返事をしなさい」
「ちゃんと聞こえています。どうされたのですか、お母様」
どんどんと近づく大きな足音に耐え兼ね、私はため息交じりに部屋を出た。
きつく結い上げた赤い髪に、同色の眼を吊り上げながら母が階段を上がってくる姿が見える。そして母の後ろには、ニタニタと面白いものを見に来たと言わんばかりの顔をした妹がいた。
妹は私の二つ下で、私とはまるで正反対だ。父に似たハニーブロンドのふわふわした髪に、まるで宝石のように蒼く輝く瞳。
天真爛漫で愛らしい妹はこの家では天使のような存在であり、ただただ愛され甘やかされ生きていた。それに引き換え私は――
「どうされたのですか、ではないでしょう! 何度呼んだと思っているの。またそうやって部屋にずっと引きこもって。まったく、あなたはいくつになってもそんなのでどうするの!」
「……どうすると言われましても。きちんとお父様より頼まれた仕事は朝のうちに終わらせましたし、今日はその後の予定は何もなかったはずですが?」
そう今日は何の予定もなかったから、朝一番で仕事を済ませて大好きな本を読んでいたというのに。
自分の自由な時間くらい、何をしていてもいいのではないかしら。
そんなことまでブツブツ文句を言われてしまったら、本当に私の時間がなくなってしまうわ。それに母の小言はいつも長女であるに私だけ。妹には何一つ言わないというのが常だった。
姉妹差別なんて言葉は使いたくないけど、でもどうしてもそんな言葉が頭をよぎる。
どうして母は私にだけこんなにキツイのかしら。母に言わせれば、こんなことを言わせる私が悪いのだといつも言うけれど。
本当にそうなのだろうか。そう思う日もあった。
「あなた、自分の母親に向かってそんな口ごたえする気なのね⁉」
「いえ、そういうわけでは」
「ではどういうわけだと言うの!」
「……」
下を向くと、薄いピンクの長い髪が肩から前にさらりと一房落ちてきた。ある意味、私は母に良く似ていた。
この髪の色も瞳の色も。だからこそ、母は自分とは正反対のような性格の私を毛嫌いしている。そう思えてなからなった。
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まず、お読みいただきまして大変ありがとぅございます。
この作品は中編コンテスト参加作品となっております。
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