現代苛々
terurun
現代苛々
[ 不意に耳元でプゥンと音がしたのでその場所で拳をギュッと握ると、そこには自分の手に体を擦り潰された蚊が居た。
その蚊の死骸をティッシュで取り、水道でティッシュを濡らしてから捨て、その後手を入念に洗った。
その間に、いつも思う事がある。
血を吸う蚊は、雌の蚊だけなのは良く知られた話だ。
なので雄の蚊は血を吸わないし、雌の蚊程害は無い。
もし自分が殺した蚊が雄だったら、或いは無駄な殺生だったのかも知れない。
人で言うと、誤判冤罪で死刑になるのと同じで在る。
理不尽だ。
その上、雌の蚊だって、人間の血を吸いたくて吸っているのではなく、子を産み種を存続させる為に仕方無くしているのでは無いか。
そう考えれば、この殺生は無駄だったのでは無いか。
確かに、感染症の危険もあれば、どうしても腫れ、痒くなる。
害虫なのは間違い無く、実際人類を最も脅かした生物は蚊で在るとすら言われている。
ならこの殺生は正当防衛なのだ。
そうも考えられるが、蚊の事を考えれば、少し心が痛む。
「
母には良くそう言われた。
人では無いが、蚊の痛みを、解らないが分かった気になる。
それが唯一の贖罪なのだと思うから。
しかし今の若者はどうだろう。
大して面白くも無い記事で笑って、無駄な時間を永遠と過ごす。
特に他人を卑下したり作品を嘲笑した著作権もクソも無い動画が蔓延っていて、馬鹿な若者はそんなつまらないものばかり見て笑う。
努力してその作品を作ったクリエイターの人に申し訳ないと思わないのか?
いいや、思わないだろう。
抑も他人の痛みの解る人間に、その様な馬鹿は含まれない。
私は解る人間だ。
だからその様なつまらない動画の何が面白いのかは解らず、ただ憤慨するのみなのだ。
好きな作品を馬鹿にされているのだ。
憤慨せずには居られるか。
……いや、少し話がずれたか。
つまり私が言いたいのは、そんなネットなんか小さな世界だけを見て全てを知った気になっている憐れな馬鹿に成り下がる前に、一回その小さな画面から目を離して、現実を眺めろ。
途端に今までの自分の馬鹿さと憐れさに気付き、途轍もない恥辱に苛まれる事だろう。
現実を見る事。
それこそが、先ず人としてしなければならない事なのだ。]
投稿ボタンを特に文面の確認もせずに押した。
確認画面も特に確認せずに下へ下へスクロールし、確定ボタンを躊躇わず押した。
ちゃんと投稿されている事を確認し、前の投稿のコメントを読む。
読むが、その内容などは心底どうでもいい。
大体が批判コメントだが、批判コメントを書く奴は馬鹿で憐れな、所謂“若者”なのだから。
そんなつまらないコメントを読んでも、ただ時間の無駄になるだけなのだ。
記事のpv数を確認してみる。
日に日に数回ずつ上がっている。
半年前から始めて、最近総pv数が1000を超えた。
ああ、嬉しいな。
明日もまた投稿しよう。
次は何を書こうかな。
現代苛々 terurun @-terurun-
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます